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嘘と言い掛かり

1、追突事故?


 僕はいつものように学園に向かっていると、

「うわっ!?」

 突然、背後からなにかがぶつかって派手に転んだ。

 何事かと後ろを振り向くと、自転車に乗った木島が嬉しそうな顔をしていた。

「あ、わりぃわりぃ、チャリの調子が悪くてな」

「……そう」

「あ、なんだ、不満そうだな」

「……別に」

「文句があるなら言えぁいいだろうが、ああ!?」

 木島は自転車に乗りながら僕の胸倉を掴んでくる。

 まったく、朝っぱらから面倒なことに……。

「別になんとも思ってないよ」

「ホントかあ?」

「本当だよ」

「……ちっ」

 木島は舌打ちした後、何事もなかったかのように駐輪場の方へ去って行った。

「……ふぅ」

 朝から災難だった。

 まさか木島と登校時間が被るとは……。

 あいつはいつも決まった時間に来るわけじゃないからこればかりは運だ。

 以前、登校時に会った時はぶつかってくることはなかったんだけどな。

 さて、教室についたら木島に絡まれるのか。

「……ふぅ」

 憂鬱だ。




2、今日は友人の分も


 四時間目の授業の終わりのチャイムが鳴る。

 今朝は幸い、木島が宿題を写させてくれ、と頼んできたぐらいで済んだ。

「よ、田村」

 さて、昼休みの恒例行事だ。

「なに?」

「今日も頼んだよ」

「……分かった」

「あ、今日は三つな。腹減ってるからよ」

「……分かった」

 もちろん増えた分だけ僕の財布からお金が消えていく。

 ちなみに僕は()()さんのおかげか、金銭面で困ったことはない。

 これだけたかられているにも関わらず、だ。

 まあ直接お金を要求してこない分だけマシなのかな。

 僕は購買へ行ってパンとジュースを買いに行く。


 教室に戻ると、木島の友人が二人、木島と一緒にいた。

「おい、奢ってくれるってホントか?」

「いやー、助かるねえ。じゃ、俺焼きそばパン」

「あ、じゃあ俺はコロッケパンとツナサンドで」

「……木島くん、これはどういうこと?」

 僕は嫌な予感がしながらも木島に尋ねた。

「いやなに、いつも奢ってくれることを話しただけだよ」

「……そう。後、この時間だと焼きそばパンはもうないと思うよ」

「あ、そう。じゃあテキトーなのでいいや」

「おい田村、こいつらにもジュース買ってきてやれよ」

「……分かった」

 ここで分かったと言っておかないと、どうなるか分かったもんじゃない。

 それこそ直接お金を要求してきそうだ。

 僕はもう一度購買へ行って、目当てのパンと二人分のジュースを買いに行く。


「はい」

「お、サンキュー、助かるよ」

「ありがとな」

「……いえ」

 一応感謝の言葉は言うんだな。勝手に奢らせてきたというのに。

「お前ら、感謝しろよな? 俺がいなきゃこいつから奢ってもらえねえからな」

「……」

 木島にとって僕からたかるのは当然のことなんだな。

 確かに毎日のように買っているし。

 さて、渡すものは渡したし、特に声をかけられたわけでもないからせっかくだし屋上で食べてこようかな。

 僕は(きびす)を返して屋上へ向かおうとする。

「おい」

「なに?」

「どこ行くんだ?」

「トイレだよ」

「そっか」

 そう言うと木島は友人と会話を再開した。

 僕は心の中で安堵のため息を吐きながら屋上へ向かった。




3、つかの間の平穏


キーンコーンカーンコーン――

「……ん」

 もう予鈴か。

 屋上にはカップルが数組いただけで、変に絡んでくる奴がいないから救いだ。

 僕だけ独り身だったから冷やかす声は聞こえたけれど、自分たちの幸せを邪魔するわけではないと分かったらそれ以上なにかをしてくることはなかった。

 おかげで久しぶりに学園の中にいながらゆっくりと過ごすことができた。

 カップルの皆さんに感謝。

 さて、教室に戻るとするか。




4、嘘と言い掛かり


「お、随分となげえトイレだったな」

「まあ、ね」

教室に帰ってきて早々に木島に絡まれる。

「さて、と。ホントはどこ行ってたんだ?」

「……」

 結局こうなるのか。

「言えやコラァ!」

 木島に胸倉を掴まれる。

「……屋上だよ」

「へぇ~、一人で屋上にぃ~、へぇ~」

「……そうだよ」

 木島が僕の胸倉を掴んでいた手を離す。

「お~いみんな~、こいつ独り身のくせして屋上行ったんだってよ~! しかもカップル

 の邪魔をしになあ~!」

「ちょっ!?」

 なにを言い出しやがるんだ、あいつは!

「聞いた? 田村の奴サイテーだよね」

「ホント、なに考えてんだか分からないわよね」

 女生徒たちが好き放題会話している。

 流石に僕も木島に反論せざるを得ない。

「木島くん、嘘は言わないでよ」

「あぁ? なに言ってんのてめえ、俺は真実しか言わないっての」

「僕は屋上で寝てただけだよ」

「お~い聞いたか! こいつ邪魔したこと隠してやがるぞ!」

「違うって言ってるでしょ!」

「おいてめえ誰に口きいてんだ、あぁ!?」

 木島は再度胸倉を掴む。その力は前回より強かった。

「ぐっ」

「おい、そろそろ先公が来るぞ」

「抑えろ、木島」

「……ちっ」

「……」

 木島の友人たちが木島を止める。

「おい田村、あんま調子に乗んじゃねーぞ」

「木島はヤサシイから許してくれたが、次はどうなるかわかってんだろうな?」

「……」

 木島の友人たちが好き勝手なことを言う。

 そっちがテキトーなことを言うからじゃないか。

 なぜ他の人も木島の言葉なら疑いもせずに信じるんだ。

 しかし、厄介なことになった。

 これから木島は加減抜きで接してくるぞ。

 反論したのは少し軽率だったかもしれない。

 それを象徴するかのように、ほら、周りの反応。

「田村の奴、木島クンに謝りもしないわよ」

「すごいわね、サイテーをどんどん更新してく」

「あいつ、ここんところ調子に乗りすぎじゃないか」

「大丈夫だよ、木島君があいつの天狗の鼻を折ってくれるさ」

「……」

 でも、さ。

 あんな人を陥れるようなことを言われて、僕は黙っていられない。

 謝った方が周りの空気的には良いのかもしれないけど、それでは僕が木島の嘘を認めることになる。

 カップルたちの邪魔をした、というのを僕自身が認めることになる。

 少しでも平穏の時間をくれた人たちを邪魔したなどと、僕は認めたくない。

 だから、僕は謝ることもせず、ただひたすら黙り込んだ。



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