木島という男
1、木島と遭遇
今日は午前中で受ける講義が終わりなので、午後は姉さんと一緒に買い物に行くことにした。
「うふふ、りおクンとで・え・と」
「違うよ!? ただの買い物だよ。実際に行くのはスーパーなんだし」
「あら、新婚さんみたいね。お姉さん、嬉しい」
「……」
どう足掻いてもデートになってしまうらしい。
だが、はたから見れば確かにそう見えるかもしれない。
なぜかというと、姉さんが僕の腕に自分の腕を組んで歩いているからだ。
僕は呆れと諦めの境地で流されるままその状態でいる。
「りおクン、私と手を繋ぐの、嫌?」
「ううん、嫌じゃないよ。でも、ちょっと恥ずかしいかな」
「もう、りおクンは恥ずかしがり屋さんね。大丈夫よ、仲の良い姉弟にしか見えないから」
やっぱりどう足掻いても解放してくれないんだな……。
そんな嬉し恥ずかし体験をしていたからか、前方から近づいてくる人があいつだったことに気が付かなかった。
「な、てめえ、田村!?」
そう声をかけられ相手の顔を見て、僕は一気に血の気が引いた。
「き、木島……くん」
姉さんはその名前を聞いて組んでいた腕をほどき僕の前に躍り出る。
「君が木島ね」
「ちっ。田村のくせして昼間から女とデートかよ」
木島が悪態をつく。
「私はりおクンの姉よ」
姉さんも木島を鋭く睨む。
「そうか、てめえがあの田村の姉か」
木島の声がいっそう低くなる。
しばしのにらみ合い。
均衡を崩したのは木島の方だった。
「お前らのせいでな。俺は無期限停学になっちまったんだよ。どうしてくれるんだ、
ええ!?」
「自業自得でしょ。りおクンにあれだけのことをしておいて、停学で済んだんだから
感謝こそすれ恨まれる覚えはないわよ」
「んだとコラア!?」
「あら、女性に手をあげるのかしら? ここは学園の外だから、その時は暴行罪ね」
「てめえら……」
流石の木島も姉さんの前ではたじたじだ。
姉さんの正論によって木島の言い掛かりは完全に封殺している。
だが、木島はこの程度で諦める奴ではなかった。
「……覚えてろよ」
「私もあなたの顔を覚えたわ」
「てめえらいつか地獄に叩き落としてやる! 絶対にだ!」
「負け犬の遠吠えね。弱い犬ほどよく吠える」
「……ちっ」
木島は舌打ちを残した後、僕らの前から去って行った。
「全く……。せっかくのデート気分が台無しだわ。早く買い物済ませちゃいましょ」
「うん、そうだね。あと姉さん」
「ん、なに?」
姉さんは木島と対面していた時とは真逆の笑顔で聞き返す。
だから僕は精一杯の感謝を言葉にする。
「ありがとう。僕一人だったら、きっと大変なことになってた」
「弟を守るのは姉として当然のことよ。でも、ありがとう。その気持ち、確かに
受け取ったわ」
姉さんは誇らしげに、そして嬉しさを噛みしめるようにそう言った。
EX、逆恨みと嘘と罠
俺は一緒に停学になったダチを呼んでコンビニで議論してた。
「なあ、田村のことなんだけどよ」
「あー、あいつ権力行使してきやがったな。理事長権限ってやつ?」
「担任もなんか理事長に呼び出されてたよな」
「それだけじゃねえ。この前道でばったり田村とその姉に出会ったんだけどよ」
「げ、マジで?」
「あいつら俺の停学を鼻で笑いやがった」
「ちょっとそれ許せなくない?」
「トモダチが停学なってんのに喜ぶとか神経疑うわ」
「だからよ、俺はこれからある噂を流そうと思ってんだ」
「お、どんな噂よ?」
「あいつらは悪魔の手先だ、てな」
「お、おい。それちょっと洒落にならないんじゃね?」
「警察とか専門の自衛隊が動いちゃうレベルっしょ」
「ああ? びびってんのかお前ら?」
「流石にちょっとびびったわ。でもやるなら付き合うぜ」
「でもただ流しても怪しまれるだけで広まらねんじゃね?」
「そこであいつを利用すんだよ」
「あいつって誰?」
「十文字だ。あいつ、田村が飛び級したことを知ってかなり荒れてたからな」
「なるほど、あいつが情報を仕入れたていでいけば」
「俺らがただ流すより信憑性が増す、てわけだ」
「ああ。あとは十文字をどう説得するかだな」
「田村を蹴落とすことができる、て言えばホイホイついてくるっしょ?」
「それな。それに俺、実は十文字の連絡先知ってんだわ」
「マジかよそれ先に言えよ」
よし、材料は揃った。
あとはじわじわと引きずり落としてやる。