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初の学園生

1、初の学園生


 翌日。

 僕は姉さんに連れられて学園へと向かっていた。

 いろいろと不安なこともある。

 予習で高等部三年の範囲は全て終わっているとはいえ、授業を途中までしか聞いていない僕に学園生の講義を理解することができるのだろうか。

 そもそも講義というものをよく理解していない。

 交友も心配だ。

 いつも一人でいることになれている僕は、果たしてちゃんとした友人関係を築くことができるのだろうか?

 また、いじめに遭うのではないだろうか。

「大丈夫よ。お姉さんがついているから」

 不安が顔に出てしまったのだろうか、姉さんが僕を励ましてくれる。

「うん。ありがとう」

「いいのよ。もっともっとお姉さんを頼りなさい」

 自慢げに胸を張る姉さん。

 一つ目の講義である日本史学概論の講義が行われている教室に入る。

「おはよう美香。誰、隣にいる子?」

 一人の女性が姉さんに近づいて気さくに話しかける。

「おはよう、絵里。この子は私の弟よ」

「え? てことは、この子が噂の可愛い弟君?」

「ええ、そうよ」

 一体どんな噂になっているのだろう。

「こんにちは、たしかー、りおくん、だったよね。私は十文字絵里。絵里って呼んでね」

「初めまして、絵里さん。田村理央です。よろしくお願いします」

「うん、よろしく。それにしても美香、この子可愛いねえ」

「ダメよ、私のりおクンなんだから」

「朝からだだ甘やかしだジェイ」

 後ろから明子さんがやってくる。

「「おはよう、明子」」「おはよう、明子さん」

「おはようジェイ」

「とりあえず席に着きましょう。あ、りおクンは私の隣にいてね」

「うん、分かった」

「なんか理央クンが甘やかされ慣れてるジェイ」

 ジト目で見つめてくる明子さん。

「えっと、ほら、僕はこっちのことはなにも知らないから」

「ふーーんジェイ」

「美香ー、明子ー、りおくーん、こっち空いてるよー」

「まだ始まるまで時間あるからどこでも空いてるジェイ」

「そう言わずに来なさいよ」

「分かったジェイ」

 明子さんはけだるそうに席に着く。

「明子さん、なにかあったんですか?」

「昨日はちょっと飲み過ぎたジェイ」

「え、でも明子さんって未成年――」

「あー、大丈夫ジェイ。ただのコーラの飲み過ぎなだけだジェイ」

「明子ぉ、ホントにただのコーラなの?」

「ただのコーラだジェイ」

「ふーーん」

 疑いの眼差しを向ける絵里さん。

 そんな会話をしているうちに、

「ほら、そろそろ始まるわよ」

姉さんがそう言った。

 するとすぐに先生が来て講義が始まる。




2、お姉さんウキウキ!


 僕の心配は、結論から言うと杞憂で済んだ。

 二コマ目の講義では明子さんと絵里さんがいなかったが姉さんがつきっきりで分からないところを教えてくれた。

 学園生は高等部の頃と違ってクラス分けというものがない。どうやら自分に必要な講義を選択して受けているようで、全く同じ講義を受けている人はごくわずかで人の入れ替わりが激しい。

 また、僕が入った時期が少し遅かったせいか、すでに仲の良いグループ分けが終わっていたらしく、積極的にこちらに話しかけてくる人はいなかった。グループでいうなら、僕は姉さん、明子さん、絵里さんの三人のグループに加わった感じだ。

「あ、りおクン、お弁当作ってきたんだけど、一緒に食べる?」

「え、あ、うん、そうだね」

 学食に行くことを考えたが、万が一木島に会うかもしれないことに思い至り、姉さんの提案を受け入れる。

「なんでそんなにどもったの?」

「ちょっと、ね……」

「あれ、美香たちはお弁当なんだ」

 一緒に昼ご飯を食べようと思ったのか、絵里さんがわざわざ僕らのところまで来ていた。

「しょうがないなあ。私たちは食堂行ってくるね。あんまりべたべたひっつくなよ~?」

「別に弟とスキンシップをとるだけだから大丈夫よ」

「それが良くないジェイ! というか学園中にブラコンなのがばれるジェイよ?」

 どうやら明子さんも絵里さんと一緒でわざわざ僕らのところまで来ていたようだ。

「私はブラコンじゃないわよ! ただ弟を可愛がってるだけよ!」

 それをブラコンと言うんだと思う、と姉さん以外の三人が同じことを考える。

「それじゃ、また後でね」

 絵里さんは聞き流すことを選択したようだ。

 二人を見送ると、姉さんは弁当の具を一つ掴んで、

「はい、りおクン、あーん」

とか言ってきた。

 いくらなんでも姉弟ですることじゃないよね!?

「いや、流石に一人で食べられるよ」

「ほらー、そう言わずに、あーん」

「……」

 どうしたものか。

 ここで従うとなにか大切なものを失うような気がする。

 うん。とても大切ななにかを。

「もー、りおクン、冷たいぞ」

「ごめんね。でも、恥ずかしいし……」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。ほら、周りもやってるよ」

 え、と思い周りを見ると、僕たちの方を見ていた人たちが一斉に目をそらす。

 絶対周りの人たちやってないよね!?

「ほら、注目されちゃっているから、止めてほしいな」

「あ、あ、ごめんね。りおクンが嫌がってるのに、私だけ舞い上がっちゃって。こっちが

 りおクンのだから、ちゃんと食べてね」

 だだ甘やかしてる、と周りの心の声が聞こえたような気がした。


 

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