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交渉

この辺りから実体験より夢で見たフィクションが増えてきます。

1、交渉


「……遅い、遅いわ」

「落ち着くジェイ。もう何回も同じこと言ってるジェイ」

「でも早く来てもらわないと、りおクンが……」

「だから落ち着くジェイ。話し合いができれば結果は見えてくるジェイ」

 姉さんが義母さんに電話をかけてから約一時間が経とうとしている。

 姉さんの中ではすぐにやってくると思っていたのだろう。

 さっきからずっと遅いと言っている。

 その度に明子さんがなだめている。

 実際理事長なんて仕事をしていたら、簡単に仕事を抜け出すことなんてできないだろう。

 ただ、僕も将来がかかっているので、何時間でも待つつもりでいる。

 たとえ来なかったとしても、僕はむざむざ死にに行くようなことはしたくない。

 ピンポーン――

「来たっ!?」

「僕が出るよ」

 僕は玄関へと向かう。

 そして、ドアを開けると、

「こんにちは、理央」

義母さんが僕の部屋へとやってきた。

「とりあえず上がってください」

「ええ、では、遠慮なく」

 僕と義母さんは居間へと向かう。

「遅いわ、義母さん」

「でも、仕事があるからこれ以上は無理よ」

「理事長さん、こんにちはジェイ」

「あら、古瀬さん、こんにちは」

「お茶用意してくるね」

「分かった。僕はちょっと準備してくる」

「あ、理事長さん、そこ、そこに座るジェイ」

 明子さんは、僕と姉さんが座る予定の場所の反対側を指さして、義母さんが座る位置を誘導した。

「ここね」

「お茶、持ってきたわ」

「あら、ありがとう」

「どうもジェイ」

「りおクンは、まだ戻ってきてない?」

「今取りに行ったばかりだジェイ。焦るなジェイ」

「うん」

「ところで古瀬さん、なぜ語尾にジェイと付けているのですか?」

「かっこいいからだジェイ」

「そ、そう」

「お待たせ。義母さん、なんでそんな戸惑った顔をしているんですか?」

「い、いえ、なんでもないわよ?」

「そうよ、なんでもないわ、りおクン」

「なんでもないジェイ、理央クン」

「あ、うん、分かった」

 僕がいろいろと作業している間になにがあったんだろう。

 まあいいや。

 本題に入ろう。

「義母さん、今日は突然呼び出してすみません。でも、どうしても話さなきゃいけない

 ことがあるんです」

「なに?」

「実は――」

「りおクン、学園でいじめに遭ってるの。それで、明日百万持ってこなかったら

 りおクンが殺されちゃうの!」

 姉さんが我慢しきれずに会話に割り込む。

「百万? お金のこと?」

「そう! もうりおクンを殺そうとしてるとしか思えないわ!」

「姉さん、落ち着いて。それと、この紙を、見せようと思って」

 僕はくしゃくしゃになった紙を見せた。

 そこには、僕に対しての罵詈雑言がたくさん書かれていた。

「僕は毎週、この張り紙を貼られていました。気にしてない、と言うと嘘になりますが、

 気にしないようにして過ごしてきました」

「あらあら、これはひどいわね」

「義母さん! なに呑気なこと言ってるの!」

「美香、落ち着くジェイ。はい、深呼吸ジェイ」

 姉さんが深呼吸をする。

「それで、義母さんにお願いがあるわ」

「お願い?」

「りおクンを守るために、私と同じ学園生としてりおクンを通わせてほしいの」

「え、なんで?」

「なんでって……。りおクンを守るために決まってるでしょ!」

「だって、私が注意すればそれで済むのではないの?」

「なにを言ってるの! 今までりおクンを散々いじめてきた子よ! 注意だけなんて、

 逆恨みされてりおクンが殺されちゃうわ!」

「でも――」

「でもじゃないです! 義母さんはりおクンを守りたくないんですか!?」

「私も、理央を守りたいわ」

「だったら――」

「姉さん、落ち着いて」

「りおクン、でもっ」

「大丈夫、僕に任せて」

 僕は心を落ち着かせるために一度深呼吸をする。

 そして、意を決して話し始めた。

「義母さん、姉さんが言ったことは、多分本当に起きると思います。本当なら高等部で

 そのまま過ごすのが良いのですが、僕はほぼ間違いなく木島に殺されます。百万を仮に

 用意できたとしても、木島は次の百万、いや、百万では済まない額を要求してくるかも

 しれません。いくら義母さんがお金を持っているからって、軽々しく扱って良い

 お金ではありません。でも、僕は、まだ生きたいです。だから、学園生として通う

 ことを許してほしいです」

 僕は頭を下げる。

「理央……」

「私からも、お願いします」

 姉さんも頭を下げる。

「私も、お願いしますジェイ」

 明子さんも頭を下げる。

 義母さんが思案していたのはほんの数秒だが、僕にとってとても長く感じた。

 そして、

「まったく、しょうがないわね。こうまでされては私も動かないわけにはいかないじゃ

 ないですか」

確かに、そう言った。

 みんな一斉に顔を上げる。

「「「それじゃあ(ジェイ)!」」」

「理央、明日から美香の同級生として、一緒に学園に通いなさい。事務手続きは私が

 済ませておくわ」

「義母さん……! ありがとう」

「良かったね、りおクン」

「うん」

「いいのよ、大事な息子のためですから」

「あ、理事長さん、質問があるジェイ」

「あら、なに?」

「試験とか受けなくても大丈夫なのかジェイ?」

「その辺も含めて、私が済ませておくわ」

「流石理事長ジェイ」

「いえいえ」

「それと、私とりおクンを一緒の部屋で過ごすようにしてほしいわ」

「「え(ジェイ)?」」

 姉さん、それは僕も初耳だよ。

「もしかしたらその木島とかいう奴がここに来て殺しにくるかもしれないじゃない。

 そんな時に、私がいたら守ってあげることができるわ」

「姉さん、流石にそこまでしなくても――」

「りおクン、自分の命を粗末にしちゃ駄目よ。ちゃんと私が守ってあげるからね」

「いいわよ、それくらい」

「ちょっと義母さん!?」

「学園生なんて無茶をするのですから、ちょっとぐらいの無茶ならついでに通しちゃうわ」

「流石義母さん、話が分かる~」

「いえいえ」

 こうなった時の姉さんは多分止められないだろうな……。

 ここは諦めて一緒に住むことにしよう。

 ……絶対に間違いを起こさないようにしなきゃ。

「さて、話はこれで終わりかしら? すぐに手続きをしなきゃいけないから」

「あ、うん、終わりでいいわ」

「じゃあ、またね」

「うん。ありがとう、義母さん」

「いいのよ」

 そう言って、義母さんは帰っていった。

「りおクン、スムーズに学園生になれて良かったわね」

「うん、僕もちょっと驚いているよ」

「あ、明子、私の荷物運ぶの手伝ってもらってもいい?」

「本当に一緒に住むのかジェイ……」

「当たり前じゃない。りおクンを守るためよ」

「でも私も一緒に出ちゃうと理央クン、一人になっちゃうジェイ?」

「はっ! 確かに。明子、ゴメン! やっぱり留守番してもらってもいい?」

「留守番任されたジェイ」

「じゃあ、行ってくるわね」

 姉さんは自分の荷物を取りに家に帰っていった。

 かくして、僕は高等部から学園生へと変わった。



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