作戦会議
1、作戦会議
「さて、と」
数十分ほど経った頃、僕を含めみんな落ち着いてきたところで姉さんが切り出す。
「このまま放っておいたら、私たちの大事なりおクンが殺されちゃうわ。ここは最悪の
事態を避けるために、私たち学園生で庇うべきだと思うわ」
「さりげなく私たちと言ってるジェイ。まあ、否定はしないけどジェイ」
「そこ、ちゃちゃ入れないの。今大事な話をしているんだから。そのためには、やっぱり
義母さんに直接交渉するしかないわね」
「どうするつもりなの?」
姉さんは少し思案顔になった後、
「りおクン、成績は優秀なんだよね?」
と尋ねる。
僕は不思議に思いながらも
「うん、一応は」
と答える。
「じゃあ、学園生として移っちゃえばいいのよ。りおクンなら試験合格できるわ。ただ、
普通のやり方じゃ駄目だから、義母さんを説得して明日試験を受けさせるように
するわ。それで、試験に合格したら私たちと同級生になれるわ」
「明日!? 流石に合格できる自信ないよ。もうちょっと勉強する日数が欲しい」
すると姉さんは少し怖い顔をして、
「駄目よ、そんなこと言ってる間に、その、木島だっけ? その子がりおクンを殺しに
やってくるかもしれないじゃない。いかに早く私たちの目の届くところにいさせるかが
今回の最も大事なポイントなの」
とまくし立てた。
「とはいえ、そんな前例のないこと、理事長さんが認めるかジェイ?」
明子さんがもっともな疑問を投げかける。
「認める認めないじゃないの、認めさせるの! 義母さんだって、息子が殺されそうに
なってる、てことを知れば多少の無理は通してくれるはずよ。それでも駄目なら、私が
りおクンを守るために家を、学園を出るわ」
「姉さん?!」
「だって、そうでもしなきゃ大事なりおクンが殺されちゃうのよ! そんなの、
そんなの! 黙って見てられないよ……」
姉さんがまた涙を流す。
「とりあえず落ち着くジェイ。ほら、ハンカチジェイ」
「……うん、ありがとう」
ハンカチを受け取ると涙を拭いながら、
「私はりおクンを守るためならなんだってするわ。例えそれが、悪の道だとしても」
「……姉さん」
姉さんは、正直ブラコン気味なところがある。
でも、どんなにだだ甘でも、どんなにブラコンでも、それは僕のことを思って言ってくれることばかりだ。
だから、僕は……。
「……分かった。僕も姉さんと一緒に説得しに行ってみる。それで、試験に合格
できなかったら、僕も学園を出るよ」
「りおクン……」
姉さんが切なそうに、でもどこか嬉しそうに僕の名を呟く。
「それじゃあもしもの時はアタシも学園出ちゃおうかなジェイ」
「明子さんは学園にいてもいいんじゃないですか?」
「美香と理央クンのいない学園なんてつまらないだけだジェイ。まあ、絵里あたりは
悲しむだろうけどねジェイ」
絵里、というのは姉さんと明子さんの友人の一人で本名は十文字絵里。
学園で過ごす時はいつも姉さん、明子さん、絵里さんの三人でいることが多いらしい。
絵里さんは実家から通っていて学園まで遠いため、僕のところに来たことは一度もない。
だから話に聞いているだけで実際に会ったことはない。
それにしても、明子さんはなぜ僕たちのことをそんなに気にしてくれるのだろう?
「明子、自分の生活は大事にするものよ?」
「なに、考えあってのことジェイ。それに……」
言葉を区切って、目を伏せながら、じっと考え込むように黙る。
「いや、なんでもないジェイ」
「なによ、気になるわね」
姉さんが少し不満顔になる。
「それより、話を戻そうジェイ。とりあえず、理事長説得、成功時試験、成功時一緒に
学園、どれも失敗時は家を出ていく、でいいジェイ?」
「うん、合ってる」
「試験は理央クンに頑張ってもらうとして、理事長説得はどうするジェイ? 今だとまだ
仕事中のはずジェイ」
「あ、もしもし」
「聞いてないジェイ!」
と、いつの間にか姉さんは誰かと電話をしていた。
「はい、でも、急な用事なのでお繋ぎして欲しいんです」
どうやら学園の職員と会話をしているようだ。
一、二分ほど経った頃、
「あ、義母さん? 急用があるから今すぐりおクンの部屋に来て。そう、今すぐ」
そんな声が聞こえてきた。
姉さん、いくらなんでも強引過ぎないか?
「りおクンが殺されそうなのよ! 早く来て!」
「美香、周りが見えてるのか見えてないのか分からないジェイ」
「確かに。でも、半分事実なのが嫌なんだけどね」
「気にするなジェイ」
僕たちが姉さんの会話を聞きながら小声で話していると、
「りおクン、これから義母さんが来てくれるわよ。そこで交渉しましょう」
と、なにかに挑むかのような鋭い目で話しかけてきた。
「う、うん、分かった」
僕はその勢いに少し飲まれながら返事をした。
「明子は、どうする?」
「付き合うジェイ。第三者視点が必要な時に口出しするジェイ」
「ありがとう、助かるわ」
そうして僕たちは、理事長であり僕と姉さんの義母、田村節子を待った。