パシリとトモダチ
この作品は過去に「」文庫さんで掲載させていただいた作品、「少年、理央の物語」のリメイクになります。いじめ描写や残酷な表現があるのでR-15となります。いじめ描写に関してですが、かなり胸くそ悪い展開もありますが私の実話が元になってる部分もあり、私はいじめをどうしたかったかを描いているとも言えます。もちろん一つの選択肢でしかないですし、この選択が正しいかは分かりません。私がこうしても良かったかも、と言うのと理央くんはこの選択肢を選んだと言う話です。
いじめで今正に苦しんでいる、と言う方は見ない方が良いかもしれません。
1、パシリとトモダチ
「じゃ、今日もよろしくたのんますよ」
「……」
僕は今、木島友紀夫に昼食を買ってくるように言われた。
ああそうだ、僕の名前は田村理央。高等部の三年生だ。
木島は同級生だが、同じクラスになったのは今回に限ったことではない。
初めて会った頃は気さくだったが、あることがきっかけで態度が百八十度変わり、必要以上に絡んできてはこうして昼食を買わされたり宿題を押しつけたりするようになった。
おかげでいろいろと困っている。
じゃあ関わらなければ良いって?
できれば僕もそうしたいんだけど、木島はクラスでなぜかいつも人気者になる。
この人気者を敵に回すと、クラス全員が敵に回るんだ。
あること――僕が初等部の時に宿題を自分でやるように注意した時だった。それがきっかけで彼は僕の敵になり、クラスが一緒になる度にいじめに遭っている。
今も、僕の味方をするクラスメイトは一人もいない。
僕は無言で教室から出て行き、購買でパンをいくつかとジュースを二つ買った。
「木島くん、買ってきたよ」
「ああ、ご苦労さん」
木島にパンを二つ、ジュースを一つ渡す。
ちなみに二つ渡しているのは、以前一つだけ渡したらもの凄く怒鳴られたことがあるからだ。
「じゃあ、僕はこれで……」
僕はさっさとこの場を立ち去ろうとする。
「おいおい、つれないなー。トモダチと会話を楽しもうぜー」
ちっ、と心の中で軽く舌打ちをする。
「……いいけど、僕と話しても楽しくないよ」
「それは俺が決めることだ」
「……そう」
僕は木島と向かい合うように座る。
「それでな、今日のバスケの時間でさ」
木島は僕になにやら話している。
一応聞いてはいるが、大抵は自分の自慢話か相手の悪口だから適当に相づちを打ってやり過ごしている。適当と言っても、驚くふりをしたり深く頷いたりしたりと、ちゃんと聞いてる風に装っている。
これも厄介で本当に適当に聞いていると、ちゃんと聞いてんのかと胸倉を掴んでくるので、どんなに興味のない話題でも僕の悪口でもある程度聞かなきゃいけない。
一通り喋って木島は満足したのか、
「じゃ、俺は体育館でバスケしてくるわ」
と言って立ち去っていった。
「……ふぅ」
僕は聞こえない程度の音量でため息をついた。
自分が興味のない話題を真剣に聞くのは疲れる。
いや、好きな友人や恋人なら興味のない話題でもちゃんと真剣に聞くだろう。
木島の話だから余計に疲れるのかもしれない。
そんな風に考えながら、僕は机に伏して寝始めた。
こうすると周りの雑音が聞こえなくなるからいつもこうしている。
狸寝入りでも少しはマシなんだ。
2、理央の通う学園
私立夢ヶ丘学園高等部。それが僕の通っているところだ。
初等部から学園生まで一貫教育を行っている学園で、きれいに整備された校舎、広くてメニューも豊富な学食、近くの市民が訪れるほどの大図書室。
いわゆるいいところの学園である。
僕はそんな学園の理事長をしている田村節子の子どもだ。
もっとも、実の子ではなく養子だが……。
僕の本当の家族は姉ただ一人である。
両親はとある事件ですでに亡くなっている。
『悪魔の襲撃』と呼ばれる十数年前に起きた事件だ。
平穏な暮らしを送っていた人々を突如襲った悲劇。
異形の魔物たちは手当たり次第に辺りの家々を破壊し、通り過ぎる人々を次々と無残に殺していき、地獄と化したその場所で高笑いをしていたと言われている。
僕の両親はこの事件の犠牲者らしい。
孤児となった僕と姉さんを母親の友人だった節子が引き取ったのだ。
気がつくと予鈴が鳴っていた。
僕は次の授業の準備をする。
途中、僕に対して汚い笑い声が聞こえたような気がするがあまり気にしないことにする。
五時間目の授業、現代史では、ちょうど『悪魔の襲撃』について先生が解説していた。
「……悪魔たちが現れた原因は未だに解明されていない。さらにこの悪魔たちは全滅した
わけではなくどこかに逃げていった奴がいて、そいつはまだ生きている。だから悪魔を
目撃した場合は速やかに警察か専用のダイヤルに連絡するんだ。後は見つからない
ようにその場を立ち去ることも重要だ。見つかったら命が無くなる、からな」
この現代史の先生は普段教える範囲を教えてくれないためあまり好評ではない。
が、先生は頑なにこのことを話している。
なぜなら、先生の奥さんもまた『悪魔の襲撃』の被害者なのだ。
僕の住む市は『悪魔の襲撃』による被害者がとても多い。
理由は言うまでもなくその事件がここで起きたからだ。
家族を亡くした者、友人、知人を亡くした者などがそこらじゅうに溢れている。
その影響か、悪魔に対しては徹底的に排除すべきという意見が台頭している。
悪魔を許すべきではないのは確かだ。
ただ、住民が異常なまでに執着しているのは少々気にかかる。
なにか、市全体が復讐鬼と化しているかのような……。
そんな不安を感じなくもない。