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65:嫌みな女

 ミーア達は三叉路の突き当たっていた。


「ここまで誰もいませんでしたね」


「ええ。でもまだ奥にいるわね」


 ライムの言葉に頷いてマイが、奥に続く二本の道の地面を見比べる。

 それに倣うようにミーアも同じく地面を見比べた。


「どっち、でしょうか?」


 先ほど尋問した男は大したことを話さなかったせいで、情報はないに等しい。

 分かっていることと言えば、金によって集められた行きずりの誘拐団ということくらいだ。

 しかし、マイは自信を持って一方の道を指差した。


「右なの」


「なんでわかるんですか?」


 足跡があるのだが、どちらも同じ程度の量で格段右への道が多いわけではない。


「出てくる足跡の量が右の方が少ないの。多分子供たちの分なの」


 ミーアはそう言われてもう一度確認したが、わからなかったので諦めた。

 ライムがマイに目で合図、3人はマイを先頭に歩き始める。


「ねえ、ミーア。ジャックとは長いの?」


 マイは振り返らず疑問を呈した。


「長い……まあ、人生の半分くらいは一緒にいますね」


 ミーアの応えに、ライムは皮肉げな笑顔を浮かべ口を開く。


「大変ね」


「大変? 何がですか?」


 ミーアが首を傾げた。


「いや、あれについていくことよ」


「あれ?」


「ジャックのことなの」


「スキルが一切無いにも関わらず、剣を抜き、槍を振り回し、拳足を武器の如く扱い、

 スキル(もど)きを使い、あまつさえ、戦闘系スキル中級程度なら余裕であしらってしまう。

 異常、怪奇、不可解、キモい」


他人(ひと)主人(あるじ)を捕まえてキモいって酷くないですか?」


 ミーアはブーと口を尖らせ、不満を表す。


「ジャックは普通ですよ。ただ、人より努力しただけです」


「努力ではいかんともし難いからスキルなのよ。あなたが、あなたこそがそれの顕現者でしょ?」


 弓術、魔術、共に上級。

 ライムの見立てでは、今、騎士に取り立てられたとしてもおかしくはない。

 いや、この美貌であれば王宮直属の精鋭部隊でも務められるかもしれない。

 例え、エルフだとしても、だ。


 ――嫌みな女。


 そして、その超越者がその他大勢へ、歪んだ優越を感じている節はない。

 排斥され、拒絶され、追いたてられ、それでもなお。

 なぜか。

 完全な無能者(デク)を尊敬し、付き従い、恐らくは愛しているからだろう。

 奇異なことだ。

 ライムの思考はそこで打ち切られる。


「声が聞こえるの」


 低い声でマイは後ろに伝える。

 男の声。

 三人。


「どうするの?」


「しめてやるです」


 ミーアが鼻息荒く歩き始めたのをライムが止めた。


「騒ぎを起こすのはまずいわ」


「でも、でも急がないと」


「騒ぎが起きれば寝た子も起こすわよ?」


 寝た子。

 ジャックのことだ――ミーアは正確に理解すると、ぐぬぬと口を歪める。


「ならどうするんですか?」


「何もしないわよ。黙ってジャック探――」


 ライムの言葉を遮るように、子供のカン高い叫び声。

 しかし、止めた理由はそれではない。

 熱を感じたのだ。

 物理的ではないその熱は、すぐに霧散する。

 その残滓は傍らの少女、ミーアに残っていた。


「どうしますか?」


 先ほどまでいた、危機感に焦るようなあどけない少女の余韻はもうない。

 身の真に矢のように真っ直ぐな芯が通っている。


 ライムは得心した。

 そうか、この娘は自身を兵器として変えたのだ。

 こうなって、あのジャック(化物)についてきたのだ。

 だからこそ、あの怪物(ジャック)についてこれてしまったのだ。


 そこにいるのは、少女の形をした無機物。引き絞られた矢。

 自身の主人(あるじ)のピンチにはそうならず、全くの無関係な誰かのために少女はそうなってしまっていた。


「急いでください。30秒なら、待てますから」


 冷静で冷徹な声で淡々と言葉を継ぐ。

 確認ではない。単なる脅しだ。

 待ってやる。最大限、お前に譲歩してやる。

 これは、ただの脅迫だ。


 ――嫌な女。


 ライムは何度目かの感想を噛み締めた奥歯の隙間から絞り出す。

 自身で自身をギリギリと引き絞り、判断を射手に任せながら、「さぁ放て」と射手を脅す恐ろしい兵器。


 この女は騎士に向いている――ライムは、その判断が間違いであったという事実を脳外に追いやり、思考を回す。

 しかし、いくら回そうとも爆発鬼(ボム)が身内に2体もいるという絶望的状況をひっくり返す案は出てこない。

 ライムがいくら理性でそれを否定しようとも、それをいかに利用するか、という方向に思考がシフトしてしまう。

 そう、どう考えても爆発させた方がうまくいってしまうのだ。


 ――仕方ない。


 ライムは、まだ制御可能な爆発鬼の方を爆発させることにした。


「マイ、あなたはオトを探しながらとにかく奥へ進みなさい」


「私は?」


「あなたは大変よぉ」


 ミーアの問いにライムは意地の悪い表情を浮かべる。


「ここから真っ直ぐ、できるだけゆっくりと脇目もふらず見えるもの殲滅しながら突き進みなさい」

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