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63:爆発に巻き込まれる無辜の民

「やっぱりなの?」


 マイは、苦い虫でも噛み潰したような、はにかんだような微妙な笑顔を浮かべている。


「当たり前ですよ! 魔物のイロハを教えるとか訳のわからんことするのなんてジャックしかいません!」


「ひどい言い様ね……」


「ミーアは確か、ジャックの(がわ)の人間だったはずなの」


「誰の(がわ)とかじゃなくてただの事実です」


 ミーアは頭を抱えて叫ぶ。


「どうしよう! どうしよう! ヤバいですよ!!」


「大丈夫って言ってるでしょ。ジャックだったら勝手に帰ってくるわよ」


「そうですよ! きっと帰ってきます! 必ず帰ってきますよ! ジャックは!」


 そういってミーアは頭を抱えて振り回した。

 そして、止まる。


「どうやって帰ってくると思います?」


「そりゃ、腹に爆発鬼(ボム)抱え込むような(バカ)を皆殺しにしてでしょ」


爆発鬼(ボム)が周りに気を使って暴れますか?」


「まぁ……無理でしょうね……」


「見えるー!! 見えます!! 私には見えます!! 爆発に巻き込まれる無辜の民がー!!」


「もっとも近しい人にここまで言われて、それを否定する材料を探す気にならない辺り、やっぱ一番大概なのはあいつね」


「どうしましょう! 早く見つけないと!」


「マイ、あなた何か知ってる?」


「んー街外れの鉱山にいるらしいことはわかってるの。

 でも、坑道が入り組んでて、今調査中だから待って欲しいの」


「調査ってどれくらいかかるんですか!?」


「まぁ、2、3日くらいだと思うの。

 貴族の子弟もいるから、刺激しないようにしないといけないの」


「そんなに!? 私というかジャックのお腹が、そんなに待てません!」


 結局犬扱いね。ライムは心の裡で突っ込む。


「いい? 調査を待てって言ってるんじゃないのよ。解決を待てって言ってるの」


「でも! でも! 急がないといつ爆発するか」


「急ぐってあなた、どこの鉱山のどこにいるとか分かってるの?」


「マイも詳しくはまだ聞いてないから、教えたくても教えられないの」


「見つかるまで探すだけです!」


 ミーアはそう叫んで飛び出して行く。


「あの子、成績悪かったっけ?」


「別に目立って悪くないの」


「はぁ、ならジャックと同じで頭が悪いのね……で、ホントに知らないの?」


 ライムは頭を抱えながらマイに問う。


「ホントに分かってなかったら、何も言わなかったの」


「で、オト様のほうは?」


 オトは、ハンドブルグ家が支援し(唾をつけ)ている王位継承順位第4位の王女である。

 13歳ながら、見目も良く理知的な少女であり、現王の覚えもいい。

 継承順位が上がることだって考えられる、賭けるには中々いい馬だ。


 ハンドブルグ家とは、当主の妻、つまりライムの母親の親戚筋であり、

 実際、ライムの母親を叔母としたってよく遊びにきていた。

 今回も、母親の思いつきに付き合って遊びにきていたのだろう。


「恐らくジャックと同じだと思うの」


 はてさて、厄介なことをしてくれたものだ。

 この事が露見すれば、よくて国父八華族の地位の繰り下げ。

 いや、それでは済むまい。

 恐らく、当主以下何人かは死ぬ。

 その上で家は名前ごとなくなるだろう。

 ライムは頭を抱えた。

 時間をかけるべきか、否か。

 答えを待ってる暇はない。


「とりあえず、ミーアを追うわよ」


◆◆◆


 辺りからすすり泣く声。

 カビが意思でも持っているかのように紋様を描く岩肌とその腐った空気。

 そして、それを照らすのは、数メートル起きに配された蝋燭だ。

 ゆらゆらとわずかな光量が二つの影を移す。

 一つは知性も品性も捨て、代わりにソバカスと下劣な理性を顔に浮かべた男。

 もう一つは、知性も品性も歪な形の理性の中に押し込めた、むっつり顔の少年。


 (くだん)の坑道は虫の巣のように地下を張り巡らされている。

 連れてこられた少年少女は八人いたが、通りすがりの部屋に一人か、多くても二人押し込まれていき、ジャックは最後の一人になっていた。

 そして、それは部屋の前で止まる。


「お前の部屋だ」


 板を打ち付けただけの小汚ない扉はきしんだ音を立て開き、岩をくり貫いただけの貧相な胎中をさらけ出す。

 そして、背中を押されジャックはその部屋の中に誘導された。


「お前みたいな貴族のガキにゃあ少し贅沢かもしんねぇけどよぉ。

 泣くんじゃねぇぞ?」


 そういわれてジャックは首を大きく動かしながら部屋内を確認する。

 通路と同じく岩をくり貫いただけの部屋だ。

 通路側に明かり取り代わりの穴が明けられているが、元々の光量が少ないせいでかなり薄暗い。

 とはいえ、ジャックはその環境にすぐ目を慣らした。

 恐ろしく大雑把に開けられた穴蔵で、使い古された机と椅子があり休憩室にでも使われていたのだろう。


「なかなかにいいセンスじゃあないか。気に入った」


 ジャックは振り向き男にそう伝える。

 頭一つも二つも大きい男は、その言葉の意味を図りかねて眉をひそめたが、強がりだと思ったのか、ニヤリと笑ってフンと鼻から息を吐いて扉に手をかけた。


「暴れるなよ」


 ガションと錠の落ちる音。

 そして、男はその場を離れていく。

 離れていく足音と、いまだに続くすすり泣き。


「おい、そこの…… 出てこい」


 ジャックは壁のもっとも暗い場所に目を向ける。

 そこにいたのは金髪の少女であった。

 その髪と同じく金の眉をハの字に下げて泣いている。


「助けて……ください……」


 ジャックは首を少し傾げてから、得心したようにウンウンと何度もうなずいた。


「いい趣向だな」

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