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59:内緒

 要塞内の食堂に通された俺達は、常識範囲内で子供が食うであろう量を出されていた。

 最初にお替りしたのは俺だ。全く足りない。

 次いでお替りしたのはほぼ同時でミーアとアレテである。

 そこへちょうどルバーニャが来た。

 腰まである長く黒い髪を軽く書き上げると声をかけてきた。


「やぁ、久しぶりだな。元気にしてた?」


 そして、俺達のテーブルにどかりと座った。


「普通、こういう場合は一言断るもんじゃないのか?」


「失礼で(もぐもぐ)すよ。

 さっきここに入るときに血を(もぐもぐ)

 見なくて済んだのはルバーニャさんの(ごくん)

 おかげ(もぐもぐ)

 なんですから(ごくん)」


「うん。とりあえず、食べるか話すかどちらかにしてくれ。

 まぁ、でもこの子の言う通りだ。

 お前のせいで、見てみろ」


 そういって、ルバーニャは隣に立つ男を示す。


「私の副官の眉間の皺がさらに深くなっちゃった。

 彼のお嫁さんは気が弱いのにこんな強面(こわもて)を、

 さらに強面にしちゃはかわいそうじゃん。ね、ルイス」


「別に私の嫁は、私の顔を恐れていません。

 私が気にしているのは、このような分別のない子供に

 ルバーニャ(副団長)が便宜を図ったということです。

 部下に示しがつかないではないですか」


「意味はあるよ。この二人を第九に入れようと思ってさ」


「はぁぁぁぁぁ?? まだ学生ですよ!!

 しかも、まだ本当ならば中等部にいるべき年代ですよ!」


「いいじゃん、学校出てなくても冒険者を引き抜いたりしてんだし」


「ダメです。というか、無理です。団長が許可しません」


「あの人、頭硬いもんなぁ。

 んじゃ、卒業するまでに唾つけとくってことで……」


「さっき同じようなことをグランに言われたぞ」


「うぇ、ルイスより強面が出てきた」


 ルバーニャははぁ、と頭をポリポリとかいて、その長い髪を漉くように触る。

 そのしぐさを見て、髪が長くて見たものを石にするババアの魔族を思い出した。

 骨の俺を見るたびに、肉をつけろといってお菓子を渡そうとしてくるのには辟易したものである。


「ところでさ、こっちの子ははじめましてだね。誰?」


 四杯目のお替りを抱えたアレテは少し不思議そうに俺を見た後でルバーニャを見た。


「僕はアレテ。ジャックのお嫁さん」


 ぼふっとミーアが飲んでいたお茶を吹き出す。


「なんだ、こっちの女の子がお嫁さんかと思ってたのに違ったの?」


 今度はミーアの顔が赤くなる。

 お茶を吹きかけられたルイスの方が赤さで言えば勝っているかもしれないが。


「わわ私はジャックの従者です! この子は……この子は……えっと」


 ミーアの視線が空を泳ぐ。


「僕のママはジャックに殺されたの。

 お父さんも死んだからジャックに責任取ってもらうの」


「殺し?」


 ルバーニャは相も変わらずへらへらとしているが食堂の気温が一瞬で下がった。

 ルイスの腕が腰の剣にかかっている。


「こいつが目の前で親を殺されておかしくなったんでな。

 そういうことにしておいた」


「それでお嫁さんになるなんて言うかな? 普通」


「ねじが飛んでるんだろ」


 俺は自分のこめかみをぐりぐりといじる。

 目を細めていたルバーニャであったが、ニカッと笑いを浮かべると、ルイスに手で合図をした。


「まぁ、本人たちがそういってるんだからどうでもいいじゃん。

 それよりライバル出現だね」


「ライバルだなんて……」


 ミーアがもじもじとし始めると、アレテがお替りを所望しながらミーアを見た。


「ミーアと僕の二人でお嫁さんになればいい」


「いや~もてもてだねぇ」


「副団長、あなた大人でしょう。やめなさいな。子供相手に」


 ルイスが顔をひきつらせている。

 そこで俺は、ふと気になった。


「嫁とは、つがいになる契約だよな」


「つがいって……ジャック。君は情緒がないな。あってるけど」


「ならば、先に契約を交わしたのはミーアだ」


「え?」


「一生守るといっただろ」


「え? あれってそういう?」


「なら僕”も”お嫁さんになる」


「ダメです!」


「だそうだ。あきらめろ」


「んっふっふ、面白いもの見れたね。

 行こうか、ルイス。ジャックまたね。

 今度はおいしいものでも食べながら未来の話をしよう」


「少年、女には気を付けろよ……」


 ルイスは遠い目をしながら、ルバーニャの後についていった。


「さて、俺も風呂行くかな。アレテを頼んだ」


「え? あ、はい」


 俺は、適当に机を整理すると風呂に向かった。


◆◆◆


 夜になり俺はミーア達と別れていた。

 女2人は、保護対象とその警護者、並びに情報提供者ということでどこぞの貴賓室が割り当てられたらしい。

 男の俺はというと、貧相な空き部屋のベッドの上で横になっていた。

 俺はふと思い立って部屋を出る。

 向かったのは少し小高い丘であった。

 そこには先客がいた。


「ジャックも来たんですか?」


「お前こそ何してる。とっとと寝ろよ」


「それはお互い様のはずです」


 ミーアはクスクスと笑う。


「何しに来たんだ?」


「この丘、どこかに似てるなぁって思ったんですが……」


「お前の母上がいるところだ」


「……」


「どうした?」


「いや、ジャックはそういうのにあまり興味ないと思ってましたから」


「興味とかそういう問題か?」


「ジャックって意外と私のこと覚えてくれてるんですね」


 ミーアが腰を下ろしたので、俺はそれに習うようにその横に座る。


「私のこと一生守るってのも……」


「忘れたと思ってたのか?」


 失敬な奴だ。


「何で私のことを守るって言ってくれたんですか?」


「なんで……」


 なんで、もう数年も前のことでよく覚えていない。

 俺はぐぐっと首をひねる。


「思わず言っちゃったんですか? 私が哀れに見えたから?」


「哀れに見えた。それもあるな。後は罪悪感もあったかもしれん」


 俺のせいで学校を退学になったその日に親が物言わぬものに成り果てた。

 そこに同情しなかったと言えばうそになる。

 ミーアの顔が少しだけ暗くなった。


「こういう時は嘘ついてくれてもいいんですよ」


「嘘? ()く必要のない相手に吐く必要のない嘘を吐くのは時間と労力の無駄だろう」


 ミーアがあたかも不満です、といった表情を作る。

 が、本当だから仕方ない。


「ただ、それらのことは全て後付けだな。

 理由などわからん。

 本当にそれらが理由なら俺はめんどくさいから約束を破る。

 同情や後ろめたさがあったとしても俺には不要なものだ」


「破るって、言い切られても……」


「つまりわからん。

 守ろうと思って守りたいと思ったからそういった。

 今もそうだ。そこに大した理由などない」


「理由……ないんですか?」


 少しだけ唇を尖らせた後でミーアは笑い出した。


「でもなんか重大な理由があるよりそっちのほうがらしいですね」


「バカにしてないか?」


「してませんよ。まったく」


 ミーアは身体をぐぐいっと伸ばす。

 そして、口を動かした。

 その声は風に乗ってどこかに飛ばされる。


「なんて言ったんだ?」


「内緒です」


 立ち上がるとウインクをする。

 戻っていくミーアは妙に嬉しそうだ。

 何かもやもやとするものを胸に納めると俺は、要塞の訓練場からくすねてきた鍛錬用の重い木剣を振り始めた。

一部はこぼれ話かいたら終わりです!

ブクマ、評価、感想ありがとうございます!

まだまだ受け付けておりますので、お時間ある方は是非。


もしよろしければ、こちらもどうぞ

転移した先ではステ値最低……以下略

http://ncode.syosetu.com/n0180ee/

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