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57:僕はアレテ

 巨大なゴーレムはそれ一つが災いの様である。

 一歩歩けば、地面は立つのが困難なほどに揺れ、大木ほどもある両腕を振るえば、周囲の家屋が吹き飛ぶ。

 そして、その結果巨大な熊ほどもある家の破片がミーアの方へ飛んでいった。


「ミーア!」


「私は大丈夫です!!」


 そういいつつ、瓦礫の隙間を器用に走り抜けると、屋根の上に飛び乗った。

 俺もそれに倣い弾かれた破片を足場に別の屋根に飛び移る。

 破壊された家々と、その隙を縫うように血飛沫が飛んでいる様子が見えた。

 魔物やヒトの死体は食われたか、ゴーレムの材料になったらしい。


「絶景だな」


「最悪の景色ですよ」


 視線を戻すと、ゴーレムはこちらに気が付いたらしい。

 その頭が縦に割れると、中からあの魔族の片割れが現れた。

 男の方の様である。


「見てよ、姉さん!! あの馬鹿ガキがいるよ!」


「誰ですか、あれ? ジャックの知り合いです?」


「おう、大親友だ。なぁ。遊ぼうぜ、グドンブス」


「グライユルだ! 姉さん! 今度は止めても必ず殺すからね!」


 どうやら、また間違えたらしい。

 どこかにあの女の方もいるようだが姿は見えない。

 グライユルは怒りに顔を真っ赤にしながらゴーレムの中に隠れると、手近の瓦礫を握り投げつけてきた。

 俺は横っ飛びで避ける。


「ミーア! こいつの弱点わかるか?」


「ゴーレムには呪文の書かれた部分がどこかにあるはずです。そこをつぶすか、もしくは魔力を供給してるコアを破壊すれば止まると思います」


「コアねぇ、あの頭の円盤が怪しいな」


 青みがかった頭部の円盤に注目する。

 それと同時に今度は、その巨拳が俺に向かって振るわれた。


「ジャック!!」


 ミーアの周囲に魔力の渦が積み上がり、拳を阻むように魔力の壁が練りあがる。

 拳がそれにぶち当たり止まったのを確認するのももどかしく、俺はその腕に飛び乗ると、その上を走り始めた。


「かかったな!」


 グオンと足元が揺れる。

 反射的に飛び退いた俺の足に砂岩によって作られた触手が巻き付いた。

 切り払うよりも先にミーアの放った矢が触手を吹き飛ばす。

 俺をさらに拘束しようと触手が掴みかかってくるがことごとく矢によって消し飛ばされた。


「ならこれはどうだ!!」


 今度は人の手が生えてきた。

 そこからもりもりと現れたのは、血まみれの人間である。


「たす……けて……」


 矢の攻撃が止まる。


「どうだ。ヒトはこんなことに弱いからなぁ」


 勝ち誇ったような声。

 血まみれのヒト達がぞろぞろと俺の周りに集まってくる。

 ゴーレムの動きは完全に止まっていて、俺の始末はこいつらに任せるようだ。


「こいつらは生きてるのか?」


「そうだ。術の発生に巻き込まれたのか、ゴーレムの素材になった魔物に食われてたのかは知らないけどな。生きてるぞ」


「そうか……」


 相も変わらず血まみれの人間たちがのろのろと俺を取り囲んでいる。

 それを見ながら愉快そうにグライユルは、笑い声をあげた。


「ひゃっはっはっ! 同族に殺されろ!!」


 と、次の瞬間、俺のそばのヒトの頭に矢が突き立った。


「なに?」


 矢の放たれた先でミーアは苦々しそうに立っていた。

 しかし、その手にはすでに二の矢が継がれている。


「こいつらはまだ生きているんだぞ!! お前たちの仲間だろ!!」


「仲間でもないし、こいつらは俺には無関係だ」


 俺は掴んでいた手を斬り飛ばした。

 ついで、回転するように周囲の人間を切り払う。


「何で笑ってやがる!! お前それでもヒトか!!」


「知るか、ばーか」


 辺りを一掃すると俺はまた走り出した。

 砂岩、人間、魔物様々な障害物を切り払うと頭部に到着。

 その勢いのまま脳天の円盤に刀を突き立てた。

 が、効果はないのか、頭を大きく振るったのでいったん近くの塔に飛び移る。


「あれじゃないのか?」


「ううん、弱点は円盤であってるよ。僕の父さんが言ってる」


「誰だ?」


 生者すら珍しいこの生き地獄の塔のてっぺんに人がいるとは思わなかった。

 それは、短い緑色の髪をした十歳程度の少女であった。

 その瞳は、深い青をしている。


「僕はアレテ。さっき君に殺されたサンティの娘。父さんが自分とママの血と肉を使って僕を錬成したの」


「ほう、敵討ちか? それなら先約がいるんだ。後にしてくれ」


 ゴーレムに飛びかかろうとする俺の手をアレテが掴んだ。


「違う。お礼に来た。ママはもう喋れなかったけど、ありがとうって言ってたから」


「そうか。それも後にしてくれ。今別件でお礼参りを受けている最中でな」


「あなたは人気者?」


「人気…… ないだろ。もう長いこと好き勝手にやってるからな。とりあえず、あの魔物を退治するんだ。邪魔するな」


「なら、僕が手伝う」


「はあ?」


 俺の怒りにも似た疑問をよそにアレテが俺の手を握った。

 それと同時にその身体が刀へ変じる。


「おいおい、ホントにお前は何者(なにもん)だよ」


「僕はアレテ。ママと父さんが身命を尽くして作り上げたホムンクルス。あなたの持つ剣に姿を似せてみた」


「さようか。で、その父さんはあいつの弱点について他に言ってたか?」


「わかんない。でも私は能力がある。もしかしたらそれでいけるかも」


「能力?」


 そこでグライユルが焦れたのか、ゴーレムはどこかの家の壁を投げつけてきた。

 空中で砕けたそれを避けながら、逆に足場としてゴーレムに取り付く。

 と、着地と同時に魔物が襲いかかってきた。

 俺はアレテの方の刀を突き立てる。

 その瞬間、バチンという激しい音が響いた。

 刀の突きたった部分から黒い煙が上がっている。


「あなたが変なやり方でママを殺したせいで、僕は『雷』の能力を手に入れた」


「便利じゃねぇか」


 俺はもう一度頭まで走り抜けると円盤にアレテの刀を突き立てた。

 ぐいっとひねると、バチバチと刀が音を立てる。

 それと同時に円盤から火花が上がった。


「ぎゃーーーーー」


 痛みから逃れるようにゴーレムが身体を揺らす。

 俺は、崩れる身体に巻き込まれないように飛んで近くの屋根に飛び移る。

 そこへミーアが寄ってきた。


「大丈夫ですか?」


「問題ない」

「誰デスカ!! その子!!」


 俺の言葉を聞き終わる前にミーアが叫んだ。

 その視線の先にはいつの間にか、ヒト型に戻ったアレテが、なぜか俺の手を握りしめて立っていた。


「僕はアレテ。この人のお嫁さん」


「そうだったのか」


「はぁ?? 何言ってるデスカ!!」


「この人に父さんとママを殺されたせいで、僕は天涯孤独になっちゃった。だから責任を取って貰わないと」


「責任!?」


 うるせぇ二人だ。

 と、もう一人、いや二人うるさいのがいた。


「クソガキがぁぁぁぁあぁあぁ!!」


 崩れゆくゴーレムの中にグライユルとフリジヤがいた。


「ミーア」


 俺が目配せするまでもなく、ミーアは魔術の準備は完了していた。

 俺はアレテを見る。

 アレテは、少しキョトンとしたが、その視線の意味に気がついたのかうなずくと刀へと変じた。


 その間も痛みか怒りか、もしくはそれ以外の感情からやたらめったら吠えていたグライユルだったが、歯をむいて俺に向かって何か呪い(のろい)の言葉を吐いていた。

 その間、俺の横でミーアもまた、呪い(まじない)の言葉を紡ぐ。

 天空が煌めき、フリジヤの身体が爆ぜた。


「があぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ」


 今度は間違いなく怒りの感情を込めてグライユルが吠える。

 それに向かって俺は跳ねた。

 最初にたたき込んだのは、右手に掴んだ刀。

 音もなく両断し、グライユルの上半身と下半身が分かれる。

 ついで、アレテの刀を縦に振るう。

 左右に両断。

 その切り口は炙られたかのようにブスブスと煙を上げた。

 そのまま、心臓の辺りを一突き。

 グライユルは奇妙な表情を浮べ沈黙した。


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