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47:最低よ、バカ

「妬けるこというんじゃねぇよ」


 俺は、そういうと前進。

 フリジヤがそれに合わせるように体を震わせる。

 すると、身体中から触手が現れる。

 そして、それが槍のごとく俺に襲い掛かってきた。


 俺は、それらを躱し、叩き折り、切り払い、フリジヤの眼前に肉薄。

 しかし、フリジヤは動揺することはない。

 口を思いっきり開く。

 口腔内にずらりと並ぶ牙がギラリと光るのと同時に、炎が吐き出された。


 俺は、それを見越して跳躍。

 追うように突き込まれる触手槍を躱すとフリジヤの背を切り裂いた。


 ギャーと悲鳴とも雄たけびともとれる叫び声をあげるフリジヤ。

 切り裂いた部分を肉腫が盛り上がり傷口を閉じていく。

 が、俺はそれを無視すると、着地した瞬間に、目の前の足を斬り飛ばした。


 グラリと巨体が傾く。

 ――もう一本切り落としてやる。

 俺が動こうとした瞬間、斬り飛ばした部分から新たな脚が生える。

 そして、それが襲い掛かってきた。


 調子に乗った――反省は意味をなさない。

 刀の腹でそれを受けるが、威力を殺し切れない。


 重い一撃が腹部に叩き付けられた。

 あまりの衝撃に、眼前に星が瞬く。

 胃液が上がってきて、今朝ピクルスを大量に入れたサンドウィッチを食べたことを思い出させる。


 とっさに胸骨に鋭い痛みが走ったが、あえてそれを無視し、刀を振るう。

 バランスをとれなくなったフリジヤの巨体が俺に倒れ込んできたので、片足で飛び退いた。


「ぐおぉぉ! ガキが! ガキがぁぁぁぁ!!


 フリジヤが頭部をカミラに向ける。

 と、突如口内から舌が伸びてカミラをからめとった。


「く、苦しい……」


 自由な右手を必死に動かすが、身体を締め上げる舌が緩まる気配はない。

 カミラは俺に涙目で視線を送る。


「くふはははは! 刀をよこせ!! この娘を殺すぞ!」


 勝ち誇ったようにフリジヤが俺に声をかけてきた。

 俺は少し悩んだ。

 舌を口の外に出したままで一体どうやって声を出しているんだ?


「断る」


「は?」


 フリジヤの哄笑が止まる。


「当たり前だ。どうせ、お前の言うこと聞いても三人とも殺すじゃねぇか。それに……」


 カミラに視線を送った。

 カミラもまた、ぽかんと口を開けている。


「いやだったんだろ? 女扱いやら、お嬢様扱いが。ならここで死ね。騎士の本分だ」


 カミラの顔が悲痛にゆがむ。


「ジャック! それ以上は!!」


「黙ってろ、アンジュ。これはあいつの問題なんだよ。俺が助けるとか、あいつが死なないとかじゃあない。あいつはすでに生きてないんだ。何かあればすぐにあきらめるようならここで死んだほうがいい」


 カミラの頬を涙が流れる。


「何泣いてやがる」


「なんだ? 仲間割れか? それとも演技か? 笑わせる」


 フリジヤがさも愉快そうに笑っている。


「黙れ、そこのバカででかいブスな女。そいつを人質にとっても無駄だ。とっとと殺せぇ。そして、早く殺し合おうぜ。優しくしてやるからよ」


「本気か? 私はお前たちの命などに興味ないんだぞ? まぁ、いい。そこにもう一人いるし、こいつは見せしめに――」


「ジャックのくそったれぇぇぇぇぇぇ!!」


 カミラは右手を腰袋に伸ばすと中から小瓶を一つ抜き出した。

 そして、それを舌に叩き付ける。

 瓶が割れるのと同時に中から液体が零れ落ちた。

 それが付いたところが煙を上げながら黒く変色していく。


「あづぅぅい!! なんだこれは!!」


 痛みからかアンジュは反射的にカミラの拘束を緩めた。

 カミラは、即座に脱出。


 俺は、それと同時に走り出していた。

 カミラを空中でキャッチする。


「よう、生きてる気分はどうだ?」


「最低よ、バカ」


 カミラは、不服そうに唇を尖らせる。


「でも、ありがと」


「礼は今度魔剣を作る言うことで手を打ってやろう」


 俺は、カミラを下ろす。

 不満の声が聞こえた気がするが、それを無視すると息を大きく吸い込んだ。

 先ほど打たれた部分がチクリと痛む。


 ――折れてるな。これ

 俺は確信を肚の底に沈めるといまだにのたうち回るフリジヤに飛びかかった。

 数十本の槍が襲い掛かる。

 俺はそれらをすべてかわし切ると、今一度フリジヤの眼前に到達。


 斬る。


 たった一つの唯一の俺の意思。

 頭から顎の下まで刀を叩きとおす。

 顔面が左右ずれるが、肉腫が浮き上がり治癒を始める。

 が今度は、右側から左側に切り込んだ。

 通り道にあった眼球がパシャリと音を立てて弾ける。


 俺は、それを顔面がさいころ大になるまで続けた。


「もう、や()て……」


 顔面が崩れ落ちた時、その付け根、魔物の首のあたりにフリジヤがいた。

 変化というよりも、肉を着ていた、という方が近いようだ。

 が、ダメージは通っていたらしい。

 汗をびっしょりと書いて疲労困憊といった表情で俺を見ている。


 俺は、その女の髪の毛をひっつかむと引きずり出した。


「も……やめ……や……て……」


 地面に倒れ込むと俺の脚に縋り付く。

 俺は耳元に口を近づけた。


「いやだ」


 刀を振り上げる。

 と、その腕を背後から掴まれた。

 アンジュである。

 腰にもカミラが抱き着いていた。


「やめるんだ、ジャック」

「やめて、ジャック」


「なぜだ。ここの人間はすべて殺されたぞ。こいつにだ。お前達だって殺されかけたじゃないか。コケにされたじゃあないか。何をやめる必要がある」


「感情論を抜きにしてもやめてくれ。ここで何があったのか、魔族とは何か。聞かなきゃいけないことが山ほどある」


 もしも抜かなければ何があるのだろうか。


「なるほど。確かにそれは浅慮だったな」


 俺は、フリジヤに視線を戻した。

 安心したのか、頬が緩んでいる。


 そのフリジヤの太腿に刀を突き立てた。

 紫色の血が刀と傷口の隙間から噴水のように吹き上がる。

 一拍置いて地獄の扉が開くような叫び声をあげだした。


「また、余計なことをしてみろ。次はねぇからな」


「ジャック!」


 カミラが腕をつかんだので引き抜いてやる。

 フリジヤの太腿のあたりが紫色に染まり、座り込んでいた場所は別の何かで水たまりができていた。


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