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45:パーティーの余興だ

 戻った村はいまだに火が残っている。

 俺は、辺りを警戒する。

 村の中の魔物はどうやらいなくなっているらしい。


「妙ね」


「何がだ?」


 ついてきていたカミラは鼻頭をこすりながら何かを考えている。


「村人がね、いないのよ」


「確かに……」


 小さな村ではあるが、それでも一人の人間も、その上死体もないというのは奇妙である。


「魔物に食われてんじゃないのか?」


 俺の言葉にカミラは、ウゲッと舌を出して奇妙な表情を浮かべる。


「嫌なこと言わないでくれ」


 振り返ると少女と一緒にアンジュが立っていた。


「この子がどうしてもついていくといって聞かなくてね。結局勝手にここまで追いかけてきてしまったよ」


 背中には少女が隠れている。

 びくびくと隠れるくらいならあの場所に居ればいいのに。

 面倒なものだ。


「危険だぞ」


「わかってます。でも、こうするしかなかったんです……」


するしか(・・・・)?」


「そうです。不死て歩け(アンチデッド)


 少女の言葉と同時に、全身が粟立つような感覚が襲い掛かる。

 足元がぐにゃりと揺れた。

 俺は、反射的にその場を飛び退く。


 俺のいた場所の地面から手が突き出した。


「なんだ? これは!!」


 目の端ではアンジュもまた飛び退いていた。

 次の瞬間、アンジュの肩口が弾け鮮血が噴き出す。


「アンジュ!」


「私はいい! それよりもこの娘!!」


 アンジュの後ろにいた少女の手にはいつのまにか刃物が握られていた。


「あら、惜しい。もうちょっとで、きれいな鉢植えが手に入ったのに」


 少女は自分の頭を指さしてくすくすと笑っている。

 その怪しい笑みを浮かべた顔からは、さきほどまでびくびくと震えていた少女の面影はない。


「さっきは助けてくれてありがと。でも三人とも少し早すぎよ。パーティーには準備が必要なの」


 少女の口元がさも愉快気に大きくひん曲がるのと同時に地面から何人もの人間が起き上がってきた。

 腕がぎりぎりくっついているものや、足が一本しかなく這いずりまわっているもの、さらには頭の上半分がそっくりそのまま消え去っているものもいる。

 どれもこれもが生きている人間とは思えなかった。


「なんだ? モグラのマネか?」


「違うわ! これは死霊術よ!!」


「死体に偽物の魂を結び付けてゾンビを作って強引に動かす術だよ! 禁術中の禁術! 行使しようとしただけで騎士が二ダース半はやってくるレベルの奴だ!」


 数は全部で四のゾンビたちは一塊に俺達と相対している。

 懐かしいな。

 俺の同僚たちにそっくりで、少しだけ温かい気持ちになる。


 ゾンビが俺の知っている同僚と一緒であれば、不死身だ。

 頭を吹き飛ばされても腕一本はじけ飛んでも死ぬことがないのだ。

 しかし、弱点がないわけではない。


「何でそんなに禁術なんだよ。細切れにすりゃいいだけだろ」


 腕一本落としても無駄なら腕を二本とも切り落とせばいい。

 足一本切り落としてダメなら両足揃えて切り捨てればいい。

 それで済む魔物である。


「二体、三体なら、ね……」


 アンジュが困ったように笑って見せた。

 ゾンビが遠くから集まってきている。

 つまり、今まで死したものすべてを使役できたとすれば、今いる軍が束になっても勝てないということか。

 数は力だからな。


 このゾンビの性質なのか、それともこの女の命令なのか、起き上がった魔物は一塊に集まってこちらを見ている。


「で? その禁術を扱える魔女様、てめぇの目的はなんだよ?」


「魔女でもてめぇでもないわよ。私は、フリジヤ。その刀持ってるってことは、あなたでしょ? グライユルの腕を斬り落とした子供ってのは」


「グライユル?」


「そう。見覚えない?」


 フリジヤと名乗った女は、口を動かした。

 それに合わせ、女の姿が少女から青い肌をした女へ変化した。


 そして、フリルがやたらゴテゴテとついた黒いドレスのスカートをぱんぱんとはたいた。

 その姿にカミラは目を見開いている。


「それが、本当の姿……」


「そうよ、この青く美しい姿が本当の私。あなた達みたいな毛の抜けた猿とは違うのよ」


「お? あの亀のところに居た男の仲間か?」


「仲間? そうね、パパが作った魔族の一人よ。腕斬られたくらいでヒンヒン言ってたから、もう一本もちぎってやったけどね」


 くすくすと笑っている。

 それにしても気になることを言いやがったな。


「魔族? パパ?」


「そ、パパ。今はいなくなってしまった魔族を復活させるために私たちはいるの」


「魔族って…… そんなの神話じゃないの! 気でも狂ってるの?」


 カミラが声を上げた。

 それをうっとうしそうに見た後で指を一本カミラに向ける。


「うるさいわね。下等種のくせに。さ死貫け(ライトランス)


 指の先から光の線が走った。

 その射線にアンジュが割り込む。

 次の瞬間アンジュは即座に十三枚の魔法盾を作り上げた。


 が、フリジヤの魔法のすさまじい貫通力で、一瞬で十三枚を突破。

 しかし、その際わずかに角度がずれたのか、アンジュの右肩をかすめて抜けていった。


 アンジュは肩を抱えて倒れる。

 カミラが慌ててそれに走り寄った。


「何よ、今日はやけに肩が付いてないわね……」


「あら、なかなかやるじゃない。ま、いいわ。ゾンビ共にぐちゃぐちゃのねちょねちょにしてもらうから。ちょうど、全部がゾンビになっちゃったみたいだし」


 フリジヤはそういうと腕を振り上げた。

 そのフリジヤの合図を待つようにゾンビたちがぐしゅるるると不気味なうめき声を上げている。


「くそ!」


 カミラの手を払うとアンジュは立ち上がる。

 そして、魔法を打とうとしているのだろうが、うまくできない様だ。


「二人は逃げてくれ。ここは私がなんとかする」


「そんな!! アンジュ様、それなら私が!!」


「君じゃ無理だ。それに私には国父八華族としてのプライドが――」


「カミラ、さっきの爆発する石、ある?」


 俺は、カミラの肩に手を置いた。


「え? うん?」


 そういってポケットから紙に包まれたそれを取り出した。


「どうすりゃ爆発すんだ?」


「衝撃を…… 与えれば……」


「そうか」


 俺はそれを握りこむと、振りかぶった。


「え? うそでしょ!?」


 カミラが慌てたようにアンジュを地面に引き倒した。

 俺は、それを確認する間もなくゾンビの群れに投擲する。


 ゴオっとうなり群れの先頭にいたゾンビの頭に直撃。

 頭が爆ぜる。

 同時にまばゆい光、続いて轟音。


 大量の土煙が辺りを覆ったかと思うと、頭上から瓦礫が降り注いだ。

 それらがすべて収まると、ゾンビの群れのいた場所は大きな穴がぽっかりと開いているだけになっていた。


「四分五裂どころか霧消霧散しちまった。こうなっちまったら不死身の化け物も無関係だな」


 俺が振り返るとフリジヤは顔を真っ青にして、ぶるぶるとしている。

 あいつが俺の知っている魔族と同じ系統なら、恐ろしくて震えているわけじゃない。

 その逆。

 血の全てを戦闘へ費やすために全身に送っているせいだ。


 要はキレてる。


「糞餓鬼がぁ!!!」


 フリジヤの気が膨れ上がる。

 体中にいくつもの魔方陣が浮かび上がった。

 それと同時に肉が腫のように膨れ上がり形を変えていく。


「何…… これ……」


 フリジヤと名乗っていた女の魔族は、――竜のような犬のような豚のような――醜いケダモノに姿を変じた。


「なんなんだ……これは……」


 アンジュはそばにいたカミラの手をぎゅっと握っている。

 俺は刀を抜き放つ。


「パーティーの余興だ。主催者自ら出演たぁ気が利いてるじゃねぇか」

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