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44:ジャックに正論言われるなんて……

 襲われたと言われる村への道中現れた魔物は走りながら切り捨てていた。


 六頭目を切ったところで、自身が手に入れた“刀”の異常さに気が付いた。

 刃こぼれがないのだ。

 今までの剣はこの刀よりも肉厚で叩き切る、といった使い方であったため、刃こぼれなど気にしていなかった。

 しかし、それでもたまには手入れが必要であった。

 そうしなければ、文字通り鈍器としての扱いしかできなくなるからだ。


 ところがこの刀は、刃こぼれはおろかこびりついた脂によって切れ味が落ちるということもない。

 むしろ、斬るほどに切れ味が増していくのだ。


 これも魔剣の一種なのだろうか。


 俺は十頭目の魔物を斬ったところで件の村にたどり着いた。

 調理にでも使っていた火が移ったのか、いたる所で火の手が上がっている。


「ジャック……速いよ……」


 カミラは肩で息をしている。

 それに遅れてアンジュが到着した。


 こちらは、俺を先行させていたようで特に息は切らしていない。

 余裕をもって現れると辺りを確認する。


「ふーむ、ネノカタスの近辺でここまで魔物が大量に入り込むとは珍しいな」


 そういいながら、襲ってきたカエル型の魔物に炎を撃ち込む。


「たす……さ……」


「二人とも! ここに人がまだ埋まってます!!」


 カミラが大声で俺達を呼ぶ。

 家が崩れ落ちていて中に生き埋めになっているようだ。

 カミラが助けようと、柱を押し始める。

 がしかし、魔物たちはそれを阻止するかのように襲い掛かってきた。


 アンジュと俺はカミラとその家を守るように陣を組む。


「カミラ、その中の人たち助け出せそうかい?」


「私の力じゃ無理です! この石が邪魔で! 魔法で何とかなりませんか」


 カミラは蓋のようになっている大きな瓦礫を指さした。


「そうだね。わかった。家が吹き飛ぶか、中の人が家ごと吹き飛ぶか。一か八か賭けてみるかい?」


「ジャック、あなたしかいないわ!」


「瓦礫が叩き切れるか、瓦礫ごと中身を斬るか。試してみるか?」


 俺は、そういいながら魔物を両断する。


「もういいわよ、うまくいけばいいけど……」


 そういってカミラは腰袋から薬瓶を二つ取り出す。

 そして、それら二つをゆっくりと一つの瓶に注いだ。

 それは、見る間に橙色をした塊へと変じる。

 小指の爪程度の量のそれを瓦礫の中腹部にそっと置いた。


「中の人! 耳をふさいで口を開けてください! で、頑丈そうな柱のそばに行ってください!!」


「おい、そんなものでどうするんだ?」


 俺の問いかけを無視してカミラは手ごろの石を拾い上げる。

 そして、それを石に投げつけた。


 それらがぶつかった瞬間、ボンっと小規模な爆発音が響く。

 蓋のようになっていた瓦礫は粉々になっている。

 中の人は吹き飛ばずに済んだようで、その穴からなんとかはい出てきた。


「なんだい? カミラ! それは新しい魔術かい?」


「いえ、これはただの錬金術で作った薬です。硝酸やグリセリンを――」


「そんなことはいいから、いったんここから引くぞ。その人死なす気か」


「「あ……」」


 二人は、目を合わせた後で、がっくりと肩を落とす。


「なんだよ……」


「ジャックに正論言われるなんて……」


「まったくだ。ナチュラルボーンキラーに命の大事さを説かれるとは……」


 誰が生まれついての殺し屋だ。

 別に殺しが好きなわけじゃないぞ、まったく。


◆◆◆


「はい、突然でした。外が真っ暗になったな、と思ったら魔物たちが現れて……」


 俺達は村から程離れた森の中に身を隠していた。

 助け出した少女から話を聞くに、村に魔物たちが突然現れたというのだ。


 ということは、あの村が突如としてダンジョン化したということになる。


「そんなことありえるのか?」


「ありえない、とは言い切れないけど聞いたことはないわね」


 そういってカミラはアンジュを見た。

 この件に関してはアンジュが一番詳しいのだろう。


「私も聞いたことがないな。人間が多い場所だと魔力を使うやつが多くて魔素が充満しにくいからね」


 なるほど、魔力を使うほど魔素が減少する。

 魔素が満ちた時に出来上がるダンジョンとは相性が悪いのか。


 いや、一点例外があったはずだ。


「試験だ。俺達は試験で“人造”のダンジョンに入っている。あれは、学園のそばに展開していただろ」


「バカな、あれは学園と国が厳重に保管してある禁呪の一つだよ。造り方なんてそれこそ、国の最上位魔術師くらいしか知らないはずだ。それにおいそれとできるような魔術でもない」


「術式を知っているんですか?」


「知らないよ。でも、だいたいの予想は着くけどね」


 そういって、少しだけ不愉快そうに眉を上げた。

 そして、話を変えるように少女に話を振った。


「他に変わったところはなかった?」


「他に? えっと、私見ちゃったんです。体中に布巻き付けた人がずっとうろうろしてるのを。ちらっと見えた手首は真っ青で、入れ墨かなんかですかね」


「青?」


 ふむ、ただのダンジョン制圧ならあれだが、少しだけ興味がわいたぞ。


「とりあえず、ここで様子を見よう。もう少しすれば騎士が来るはずだ」


「ま、待ってください! まだあそこには村の人たちが!! お父さんが!! お母さんが!!」


 少女はアンジュに食って掛かった。

 少女の必死の形相にアンジュは困ったように眉をひそめる。

 どうして欲しいのか、どうしたいのか。

 それを痛いほど理解しているのだろう。

 歯を食いしばって言いたいことを耐えているようだ。


「仕方ないんだよ。あの数を相手にして生きてられる可能性は…… 君が生きてるだけでも奇跡なんだ」


「でも!」


 どうやら話は終わったらしい。

 俺は、立ち上がるとぐるぐると首を回す。


「そうだな、お前たちはここで休んでろ。俺がもう少し様子を見てきてやる」


「何を言ってるんだい? もう私たちのできることは終わっただろ」


 周囲を確認するが危険は感じられない。


「ジャック! 待ってよ、アンジュ様も言ってるじゃない! 無理よ」


「言っただろ。狩りもの競争は終わっちゃいねぇからな。そのついでだ」


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