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42:確固たる個

 学園の正門はいつもよりも人通りが多い。

 その流れを俺は見つめていた。

 隣でカミラが驚いたように声を上げている。


「さすが、学園武闘祭ね。客まで入れるとは恐れ入ったわ」


「あぁ」


「知ってる? 入場料まで取ってるのよ。大人が七四〇〇リウで子供が四八〇〇リウよ。それで生徒戦わせてるだけなんだからこの学園……そうとう儲けてるわよ。ずるいわ~。うちの商店も噛まさせてもらえないかしら」


「あぁ」


「なんで、そんな死んだ目をしてるのよ」


 今日は、学園あげてのイベントの一つ、学園武闘祭の日なのだ。

 チーム戦ではなく個人戦で競われるこの大会は、成績に影響はしない。

 と、表向きにはなっているが、ランキング戦よりも影響があるらしくやる気のある生徒が多い。


 つまり、うまくいけば強い奴らともやりあえるのだ。


「いいじゃない、参加してケガするくらいなら、こうやって入場者監視してお金もらった方がお得よ」


「いやだ……」


「え?」


「いやだ! 俺は祭りに参加する! 戦わせろぉぉぉぉおおおお!!」


「落ち着きなさい! あなたそんなんだからこっちに回されたのよ!! だいたい運動会みたいなもんなんだから我慢しなさい!」


 俺の叫び声に周囲の人間どもが一斉にこちらを見て止まった。

 何見てやがる。全員なます切りにすっぞ。


「ミーアはどうした?」


「あの子は参加者だから会場にいるわよ。それに、なんか変なのが付いちゃったみたいだけど、やっぱり気になるの?」


 カミラはにんまりと笑う。


「変なの?」


「この前のピクニックであの子、貴族の男助けたでしょ? もう、その男がミーアに入れあげちゃってるのよ。親衛隊名乗ってるみたい。そしたら、隠れミーアファンが集まってきちゃって」


「そんなことあったのか?」


「あんたのそばでやったらぶっ殺し確定だから静かにしてるみたいだけどね。今頃蝶よ花よとなってんじゃないかしら? ほら、あの子悪意には対抗できるくせに、善意の押し売りには弱いみたいだからねぇ」


 カミラは、引き続きにやにやと笑いながら俺をつんつんとしてくる。

 今のどこに面白い話があったのか理解しかねる。

 だいたい、なぜそんな雑魚共をぶっ殺ししなければならないのか。

 まぁ、静かなことはいいことなので否定はしないでおこう。


「それにしてもなんでお前まで監視業務なのだ? 学祭実行委員の役目だろ」


 ちなみに俺は補助委員ということで、その役割に駆り出された。


「私は立候補よ。というか、ライムちゃんの代わり。ライムちゃんは武闘祭見たかったみたいだからね」


「お前、騎士になりたくてこの学園にいるんじゃないのか?」


「どうしてそう思ったの?」


「その、なんとなくだが。なんでこの学校にいるんだ?」


 カミラは微笑んだ。

 それは少しだけ悲しいものが混ざっている。


「私の家はさ、子爵で家格は一番下だけど、お店やったりしてて意外と大きいのよ。一番上のお兄様は貴族としていろいろと見識を深めたり、人脈を作ってる。他の兄も騎士やったり、自分でお店開いて成功させたり。でも私、女だから……」


「女だと何かあるのか?」


「ほら、結婚だったり子供産んだり。そういう扱いされちゃうのよ。それが嫌でこの学園に入ろうと思ったんだし」


「子孫繁栄はお前たちの専売特許だろ」


 魔物は勝手に増えるが、魔族や人間など動物はつがいが交尾をして子孫を増やしていく。

 いくら俺でもそれくらいの知識はある。


「それは…… わかるけど……」


 どうやら、“お前たち”の意味を“女”で取られたようだ。

 “人間”という意味で使ったつもりだが、現在“人間の男”である俺が使えばそう取られても仕方はないか。


「すまん、言葉の綾だ。俺達を一個の個人だとみれば、まぁお前の不服さも理解できる。俺だって、今ここで見回りなどさせられていることに不服以外の感情はないからな。ただし、家を一個の生命と見る場合には、お前は単なる手足だ。そういった扱いになるのは仕方ない。俺だって不服ながら突っ立っているのは、学園を一個の生命と見た時に有用だと感じたからだからな」


 恐らく、魔物が魔王様に強力に引き付けられ帰属する理由とはこれに近いのだろう。

 魔物に個という概念はない。

 俺には“最強への渇望”という確固たる個があったが、それは特異なことだ。


「う~ん、わかるような……わかんないような……」


「そうか。ところで、誰か暴れないかな。なぁ、あいつ挙動不審じゃない? 挙動不審だよな。声かけてみる? 斬ってみる?」


「おい、ジャック。君は相変わらず恐ろしいことを言うな。先ほどの集団を生命としてみるという話は蟻や蜂などの生態を包括していてなかなかに感心したものなのだが」


 背後の声に俺は振り返った。

 そこにはアンジュがいた。


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