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40:酒くさっ!!

 俺は、片刃の剣を片手に肌の青い男と対峙していた。

 距離にして五十メートル。


 しかし、いま俺の脳内を占めるのは、この片刃の剣のことだけだ。

 そのあまりの美しさに心のすべてが奪われていた。


「あなた、誰ですか?」


 何かを言っている。

 それは理解できるが、脳内がそれより重要な事項を身体へ送り続けているせいで言葉がうまく理解できない。


「えっと、その刀なんですけど、返してもらえませんかね? 大事なものなんですよ」


 刀、そうか、この片刃の剣は“刀”というのか。

 それだけ何とか理解する。


「聞こえてます? 聞こえてないのか? これだから下級種と話すのは嫌なんだよ。おい、ゴミ、それ返せって言ってんだよ。ったく」


「ため……ためし……」


 うまくしゃべれない。


「あん? 何言ってんだ? こいつ」


「ためしぎ……ぎら……」


「おい、下等種。それ返せって言ってんだよ」


「……しぎ……せろ」


「おい、返せっつってんだよ、カス下等種!」


 俺は両手に刀を持つと肩に担いだ。


「試シ斬ラセロ!!」


 やっと発生した言葉と同時に地面を蹴った。


「なんだよ、こいつ危ない奴?」


 魔族はふわりと飛ぶように距離をとると右手を前に突き出した。


「もう、うざいわ。灼き消えろ(ブラスト)!」


 肌がぴりつく。空気が張り詰める。

 眼前に何かができつつある。

 俺は眼前にある何かにその刀を振るった。


「バカな!! 魔素が練り上がる前に散らしたのか? そんなことができるのか!?」


 魔族の男が両目と口を大きく開いた。

 俺はそれに向かって刀を振り下ろす。


飛び上がる(スカイドッヂ)


 魔族の男は声を裏返しながら詠唱。

 男の身体が勢いよく上昇する。

 が、俺の刀の刃はその右腕をとらえていた。


「あぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁああああ!!」


 音もなく肘より上で腕が切り落とされる。

 そして、思い出したかのように紫の血がシャワーのように降り注ぐ。


「貴様! 許さねぇぞ! 絶対必ず殺してやるぅぅぅぅ!!!」


 魔族の男の背後が出てきた時と同様に揺らぐ。

 そして、その揺らぎに飲み込まれるように消えてしまった。


「斬らせろ! 腕もう一本くらい斬らせろよ!!!」


◆◆◆


「おい、ミーア起きろ」


 俺はミーアの身体をゆすった。

 最近、どんどんと成長してきているのでミーアを背負っていくのは無理だ。

 特に胸のあたりなどに駄肉が付いてきている。

 こいつ、ちゃんとトレーニングしてるのか?

 だいたい、もう一人けが人がいるので起きてもらわないとどうにもこうにもできない。


「う、う~ん……ジャック……」


「おう、ジャックさんだぞ。起きろ」


 ミーアはガバッと起き上がるとその勢いのまま抱きついた。

 そして、俺の頬に自分の頬をこすりつける。


「ジャックだぁ」


「おい、どうし……酒くさっ!!」


 思わずのけぞる。

 カミラの薬瓶は三本の内二本が空になってしまっていた。


「飲みすぎだ! 酒入ってるってのに……」


「ジャックも飲んだ方がいいですよ~痛いところないですかぁ?」


「ない、健康体だ」


「う~私の薬が飲めないんですか!?」


「お前のじゃない。カミラのだ」


「うるしゃいでし!」


 最後の一本に口をつけると煽るように流し込む。

 そして、その瓶を放り投げると、今度は俺の顔を両手で固定すると、ミーアもまた目をつむる。


「おい? 何する気なんだ? おい!」


 不意打ちであった。

 ミーアが俺の口に直接口移しで酒を流し込み始めた。

 ミントのような薬品の匂いと、つんとするアルコール臭が鼻を抜ける。

 その流れゆく奇妙な液体の中を、別個の生物のようにミーアの舌がうねうねと動き回る。

 歯という歯のサイズを確かめるように嘗め回され、俺の舌の味でも気に入ったのか何度も絡められた後でやっと解放された。


「へ~へっへ~ジャックも飲んだ~これでぇあんしんっ!!」


 そういって、ミーアは仰向けに倒れ込んだ。


「あら、ジャック。あなたたちそういう関係だったの」


 声のした方向にはライムがいた。


「上があらかた片付いたからあたくしだけ降りた来たのよ。それにしても、なによ、この状況」


 ライムと一緒に俺はあたりを見渡した。

 巨大な亀が鎮座した中央。その周囲には切り刻まれた蛇の肉片と血液が散っている。

 そして、一部は紫色の血だまりができていた。

 俺の服もまた、赤に紫とセンス抜群の衣装に変じていた。


「矢を持ったミーアが蛇入りの亀と対峙してたんで殺した。ミーアは酒飲みすぎた」


「矢に蛇に女に酒? 神話かなんかかしら、あほらし」


「それより、この腕、わかるか?」


 俺は、ライムに先ほど切り落とした魔族の腕を拾って見せる。

 俺の知る限り“この世界” に魔族はいない。

 魔王がいたそうだが、それも神話の話のはずだ。


 そして、その魔族は俺の世界の魔族にそっくりであった。

 単なる奇妙な男であったのだろうか……


「青い……腕? 魔物かしら?」


「それが知りたい」


「ごめんなさい。それはあたくしにはわからないわねぇ」


「それにしても、この巨大な亀……これゲンブなんじゃないの?」


「ゲンブ? 初耳だ」


「そうよ、かつて勇者様が使役した神獣の一柱。水を介して様々な奇跡を起こすとかなんとか……」


「こうなっちまったら奇跡もくそもねぇな」


 俺は、刀の切っ先でそのゲンブの甲羅をつんつんする。


「罰当たりね、ホントあなたって」


「こいつは何かに操られてた。たぶんその腕の持ち主にな。この剣をそいつの中で作ってたみたいだ」


「なにそれ、そんなことできるの?」


「知らん。こいつの体の中から抜き取った。その腕の持ち主は返せと言ってきた」


「で?」


「とりあえず、切れ味試したいからな。斬ってやった。その結果がその腕だ」


「あなたって、狂ってるわよ」


 ライムはひきつったような笑顔を浮かべている。

 試したくなって何が悪い。


「とりあえず、ここを脱出しましょう。上でみんなが待ってるわ」


「試験は?」


「こうなったら生きてりゃ合格でしょ」


「そうか……」


 それにしても、あの男。

 あれは魔族なのだろうか。

 魔族はいるのか?

 魔王様もいるのだろうか……


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