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37:やりたいことをやるんだよ

 扉を開けるとそこは長い廊下であった。

 床は土であるようだが、壁面や天井は金属のような石のようなよくわからない素材でできている。


 そこを、ドルダンが先頭、俺が最後尾の三人組で歩いていた。


「おい、デク。よかったな、俺達と組めて」


「なぜだ?」


「この装備はな、Aランクの魔物の一撃にも耐えうる性能を持っているのだ。つまり、俺たちに傷をつけられるものなどいない!!」


「ほう」


 前回、マジックアイテムに身を任せた結果を忘れてしまっているのだろうか。

 おめでたい脳みそである。


 それにしても、その装備については気になる。

 斬ってみたい、という欲望がふつふつと湧き上がってくるのを押さえていると、ピクリと背筋に感じるものがあった。


「止まれ」


 不穏な空気。

 俺が二人に声をかける。


 すぐ前を歩いていたネルモが立ち止まりこちらを向いた。


「なんだよ。デクが俺たちに指図するんじゃ――」


「いてっ!」


 金属がぶつかり合うような音がしてドルダンが叫んだ。


 視線を送るとドルダンが前方で倒れている。

 そして、その上を何かが飛来し、今度はネルモにぶち当たった。


「ぎゃぁ!」


 三発目。

 俺は、それを抜き放った剣で切り払った。

 澄んだ音がして真っ二つになったそれは両サイドの壁面にぶち当たる。


「種?」


 猫の頭ほどもあるヒマワリの種だ。

 そして、それが飛来してきた方を見て理解した。


 直線の廊下、おおよそ九十メートル先にヒマワリのようなでかく黄色の花弁らしきものを持った魔物が姿を現したのだ。


 黄色い頭部を持ったその化け物は、うねうねと体を揺らしている。


 そして、再度その黄色い頭部の中心から種弾を射出。

 俺は、ドルダンの鎧の陰に身を隠した。


 ゆらゆらヒマワリは俺のみが行動できていると認識しているのだろう。

 その俺の隠れたドルダンの鎧に種を大量に打ち込み始めた。


「すげぇな。ホントに耐えてるじゃねぇか、この鎧」


 俺が素直に感想を述べるが、中の人はそれどころではないらしい。

 痛いとかやめてとか、そういった類の言葉を並べている。


「おい、せっかくの鎧が試せる機会じゃないか。そのまま歩いて斬っちまえ」


「ITEっ! 無理だ!」


 どうやら、鎧は完璧に攻撃に耐えているようだが、衝撃はすべて中の人がうけおっているらしい。

 何とも無駄な防御力。

 これなら頭陀袋被って走り回ったほうが幾分いいのではないだろうか。


 ドルダンのお付きはいつの間にか逃げてしまっている。

 なんか本当にかわいそうになってきた。


「ったく、じっとしてろよ」


 俺は、剣を両手に立ち上がる。

 と、それを狙って大量に種弾が放たれる。


 俺はもう一度しゃがんでドルダン壁に隠れる。


「いででで! しゃがむな! 俺に隠れるな!」


「すまん。いきなりあんなに飛んでくるとは思わなかった」


 俺は立ち上がる。

 そして、狙いが定まる前に走り出した。


 手練れ十人による矢の連射のようにその正確な射撃。

 しかし、俺は速度を落とすことはしない。


 右剣で弾き、左鞘で砕き、捌きで躱し、右剣で斬る。

 近づけば近づくほどその種弾の速度は増していく。

 俺の快感もさらに増長される。


 斬り、砕き、避け、ちょうど五十歩目でゆらゆらヒマワリの射程圏内に入った。


 種弾の弾幕が薄くなる。

 それと同時に足元に違和感があった。


 俺の横っ飛びと同時に地面から触手が伸びた。

 ゆらゆらヒマワリの根であろうか。

 裂けそこなった服の先が布片を上げる。


 さらにそこへ巨大な葉が叩き付けられた。

 葉の側面はノコのようにギザギザとしているが、しょせんは、葉である。


 俺の刃が通った通りに葉の形が変わった。

 返す剣でその葉を茎から切り落とす。


 最後のあがきか、種弾の射出を準備しようとしたので、その中心に切っ先を突き込む。

 そして、そのまま下へ両断した。


◆◆◆


 俺は、ドルダンに寄ると手を差し出した。


「起きろ。立てるか?」


 ドルダンはその手を見た後で、ぱんっと払った。


「デクが……デクのくせに」


 俺は払った手をじっと見てからドルダンの兜をぶんどる。

 その顔は悔しそうにゆがんでいる。

 その歪みを俺はさらにゆがませるように掴んだ。


「いでででで」


「男が泣き言をいうな。しちめんどくさい。お前も帰るか?」


 ドルダンは、俺の手を振り払うと、大声で叫びながら立ち上がる。


「帰るか! 帰るものか!!」


 ガシャガシャと必死にもがいて何とか立ち上がった。


「認めてやる! お前の方が強いことは認めてやる! でもな意地でもみとめん! お前のことは絶対に認めない!!」


「そうか、俺もお前までギブアップされたら構わんからな」


 俺達はそのまま二階に降りた。

 二階層以降もそれほど強い魔物はいなかった。

 俺は、ドルダンとうまく連携をとって――主に文字通り壁役として――第九階層まで来た。


「おい、今叫び声聞こえなかったか?」


「確かに…… なんだ、魔物でも出たのか? 斬りに行くぞ」


「デクのくせに何で好戦的なんだよ、くそ」


 と、三叉路に突き当たった。

 現れたのは、カミラ一行である。

 ライムを先頭にカミラ、マイといった順だ。

 というか、恐らくカミラは引率されているだけだろう。


 こちらに気づいたのかライムが手を上げた。


「あら、ジャック。さっきの悲鳴聞こえたかしら?」


「あぁ、そっちはまだ三人いるな」


 マイは俺たちの方を見て顔をしかめた。


「そっちはって、そっちこそ二人しかいないじゃないの。うざくて切り刻んだの?」


「意味もなく斬り刻まん。逃げ帰っただけだ」


 失敬な話だ。


「ジャックの方が無関係なら、こっち?」


 カミラの言葉に俺達はそちらの方へ視線を移した。


 そこには、十階層へ続く階段へと続く廊下があった。

 そして、ちょうどそこから何人かが走りあがってきていた。

 そのうちの一人の男はミーアと組んでいた男である。


 俺のそばを走り抜けようとしたのでその腕をつかんで止めた。


「おい、ミーアはどうした」


「知るか! 離――」


 俺は、男の喉元に剣を突きつけた。


「言え」


「ゆ、床が崩れたんだ! 相棒が落ちて、そしたらあのエルフのガキが助けるって降りて行っちまいやがった! そしたら、その穴から魔物が出てきやがったんだよ!」


「置いてきたのか?」


「う、うるせぇよ!!」


 俺は、この男と一緒に上がってきた男女を見た。

 女が、腹から血を流して息も絶え絶えといった表情だ。


「カミラ、手当てできるか?」


「うん、大丈夫」


 俺の言葉にカミラは、びくりと震えたがすぐに腰袋に手を伸ばし、薬剤を調合し始めた。


「班員がここに残るってんなら、あたくしたちもここに残ろうかしらね。カミラちゃん、これは貸しよ。今度、アタクシ用に化粧水調合なさい」


「おかまでツンデレぶるとキャラが渋滞するからやめた方がいいの」


「あらそう。でも、ツンデレじゃなくて化粧水はマジよ。それにしても、この数を守るのはあたくし達二人じゃきついわよ」


「安心しろ。こいつがいる。いい壁になるぞ」


 俺はドルダンを指さした。


「ふざけ……」


 ドルダンは歯を食いしばった。

 そして、その次の言葉を飲み込む。


「お前は貴族だろ? ならできることをするべきだ」


 ドルダンはごくりとつばを飲み込んだ。


「お前はどうするってんだよ」


「俺か? 俺は……」


 そういって、ふと首を傾げた。

 俺は、確かに何の理由もなく先へ進もうとしていた。

 なぜ降りるのだろうか。


 いや、その考えなど無駄だ。

 何せ身体が動いたのだから。


「やりたいことをやるんだよ」


「ジャック、行くならこれもっていきなさい」


 そう言って、カミラは小瓶を差し出した。


「痛み止め。鎮静効果もあるわ。ただ、アルコール成分が多いから一気に飲ませちゃだめよ」


「助かる」


 俺は階段に向かって歩き出した。


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