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34:ちょうどどんな人なのか会ってみたかったんだよね

 授業が始まって一週間ほど経っていた。

 魔導技術概論や、魔法代数学、魔物性力学など非常に興味深い授業が目白押しで俺は、睡眠時間を削って教科書を読みふけっていた。


 その足りなくなった睡眠時間を『ホームルーム』などというくだらない時間で補うのが早くも日課になっていた。


 そして、ただいまそのホームルームの真っただ中。

 本日の議題は委員会決め、だそうだ。

 教室の大黒板の前にはライムが立っている。

 いかにも偉そうだ。


「何であいつはいつもエラそうなんだ」


 俺がつぶやくとカミラが口を開いた。


「えらいのよ。国父八華族ってのは初代王と一緒にこの国を興した人たちの末裔なんだから」


「別にあのオカマが作ったわけではあるまい」


「まぁ、そういう家格があるんだから仕方ないでしょ。そういう序列は国を運営するうえで便利なんだから」


「家格って大事なんですね」


 ミーアがなるほどね~と首をひねる。


「まぁ、貴族同士がけんかにならないようにしてるってだけよ。国父八華族が一番上。その下に政治的役職に就ける公爵、公的機関の長を務めたりする侯爵、領地を与えられ税を納める伯爵、あとは、特にないけど貴族な子爵よ」


「ジャックのお父様は伯爵だったんですね」


「だな。カミラは?」


「うちは子爵よ。貴族の爵位を金で買ったの。大おじいさまはそれで身持ちを崩しそうになったらしいわ」


 なるほどな、俺はライムに視線を戻した。

 ライムは教師より与えられた、『委員会之即いいんかいこれすなわち』とかいう文章をめんどくさそうに読んでいる。

 なんでも学園の運営を生徒自身が行うことで将来、自発的うんぬんかんぬん。

 睡魔が…… 睡魔が……


「ジャック、起きなさい」


 頭蓋骨が剥がれるかのような刺激に俺は目を覚ました。


「いだだだだ!! ライム、手を離せ」


「ちゃん」


「手を!!」


「ちゃん」


「ライムちゃん! 手! 手を放して!!」


 俺は、ライムの拘束から逃れた。

 恨みがましく、左右のミーアとカミラを見たが、どちらも怯えた表情でこめかみを押さえている。


「あなた、もう残った委員会はあと一つなのよ」


 ライムが黒板を指さした。

 さまざまな委員会と、その担当者であろう。

 ミーアは美化委員、カミラは魔術科委員の所に名前を連ねている。


 そして、補助委員という場所が空欄になっている。


「まて、最後の一個が何で俺だと決まってるんだ? まだ、半分くらい埋まってない奴がいるだろ。それともなんだ? めんどくさいのは寄付組はやらなくていいってそのたいそうな文書に書いてあんのか?」


 言外に委員会なんていやでござんすと付け加える。


「逆よ、その逆!」


「逆?」


 ミーアは頭を傾げた。

 そして、ぽんっと手を叩いた。


「そうか、寄付組の人たちはいつクラスをいなくなるかわからないからやりたくてもできないんですね?」


 寄付組、と呼ばれる人間の視線がミーアに突き刺さる。

 が、ミーアはなるほどなるほどと、頷いて満足そうだ。


「そうよ。委員をいついなくなるかわからない人間に任せられないから、あたくし達で割り振ってるのよ。じゃなかったらあたくしだってクラス委員長なんてやらないわよ」


「委員長は家格が上の人間が付くのが通例だから、いくら嫌がってもライムちゃんは仕方ないの」


 副委員長ことマイはその小さな身体を大きく伸ばしてライムの背中を叩いて慰める。


「補助委員ってのは何やるんだ?」


「何でもやるわよ。他の委員が困ってたら手伝うの」


「マイが聞いたのだと、図書委員の人で本の回収の手が足りないとかいうのを手伝ってるって聞いたの」


「いやだ、めんどい」


「補助委員について学園全体に奉仕しないなら、あたくし専属の補助委員を務めてもらってもいいのよ」


 どっちもお断りだ。

 俺が立ち上がる。

 すると、ミーアと何かこそこそと話していたマイが口を開いた。


「他にも、五年前だったかな、祭りでモンスターが出た時の討伐に駆り出されたって聞いたの」


 俺は、椅子に座りなおす。


「よし、俺が補助委員とかいうのになってやろう」


 ミーアがマイに親指を立てているが、何があったのだろうか。


◆◆◆


 補助委員会の集会所は学園内でもかなり端に位置していた。

 そして、その集会所は掘っ立て小屋より、もう少しだけ見栄えがいいものであった。


 俺は、一度ノックをすると返事を聞かずに扉を開けた。

 中は長い机が二列に並べられている。

 そして、その机の一つに本を読んでいる女がいた。

 髪を頭の高い位置で一つに束ねた女は、こちらに振り返る。


「えっと、誰なんだろうね? 補助の依頼なら相応の手順を追ってほしいんだけどね~ 迷子?」


 そういって首をかしげる。

 両腕を組んだせいで押しつぶされた胸が苦しそうに出口を求めた。


「いや、今年の特待クラスで補助委員をやることになったジャックです」


「お~ 君ね。マイから話を聞いているんだよね。そこに座ってね」


 俺は促されるままに椅子に座った。


「私は、補助委員の委員長、レイ・クロシードていうのね。そして、マイの姉。」


 そういって、レイは頭を下げたので俺も下げる。


「ご丁寧にどうも。で、委員ってのは二人だけなんですかい?」


「あ、敬語はいいよ。他のみんなにもそう言ってるし、みんなにもそうしてあげて」


「みんな、ねぇ」


「今は、ちょっと出払っちゃってるから二人だけど、会ったらちゃんと紹介するから許してね。ま、これからよろしくね」


 そういってレイは手を差し出した。

 差し出された手を俺は握り返す。


「うん、不思議な手をしてるね。確かに剣を握りなれてる手だね。デクなのにね」


 レイはグニグニと俺の手を握りこむ。


「君が倒した彼、まぁ、寄付組だから大した強さじゃないんだけどね。問題はあの靴のこと」


「靴?」


「そう、あの靴は、私の師匠が作ったものでね。もう少し時代が下がれば、国宝になってもおかしくない代物なんだよね」


「さようか」


「それに追いつく、人がいるとは思ってなくてね。ちょうどどんな人なのか会ってみたかったんだよね」


 そういって、俺の前にしゃがみ込んだ。

 そして、両手をワキワキとさせた。


「足、ちょっとだけ触らせて」


◆◆◆


「いや~すごいな。父上の脚をマッサージしたことがあったけどそれと変わらないくらいだ」


 俺は、テーブルを支えに立ち上がると椅子に何とか座りこんだ。


「いや~ごめんごめん。途中から君の反応が楽しくて、遊んじゃったかもね」


「殺すぞ」


「ごめんって。でさ、君にさっそく手伝ってほしいことがあるんだけどね。いいよね?」


 レイがまたワキワキと手をしたので俺は力強くうなずいた。


次回より二日に一回更新になります!

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