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32:決闘しなくちゃ 

 試験から四日後。

 俺たちは、学園の講堂とかいうところに押し込められていた。


 入学式とかいう儀式らしい。

 わずらわしいことこの上ないが、出ろと言われれば出るしかない。


 俺だって、そういうタイプの常識はわきまえているつもりだ。


「いや~よかったです。ジャックなんてめんどくさいとか言って来ないんじゃないかとひやひやしましたよ」


「そうね、私も絶対朝起きないって思ってたわ。絶対そういうタイプだと思ってた」


「お前たちは俺をなんだと思ってるんだ?」


 ひそひそ声で離していてもマイクを持った男が式次は順序良く進めていく。


『続きまして、学園長よりあいさつです』


 立ち上がったのは、あの鷲鼻の男である。

 俺は、その男の話を聞きながら午睡の準備に入った。


◆◆◆


 式が終わって、俺たち新入生は、一学年特待生用のクラスに押し込まれていた。


 いろいろとオリエンテーリングがあったが、それも終わり今は放課となっている。


 それにしても、と俺は周囲を見渡した。

 生徒数は四十名程度であろうか。


 そのうち半数位は、実力があるとは思えなかった。

 恐らく、自身の護衛に魔石を集めさせた奴らであろう。

 そして、そういった自身のないやつらほど集まり、うわさ話に花を咲かせるようだ。


 俺たちはそんな教室の最奥部にいる。

 席順は好きでいいということなので、俺たちは固まって座っていた。


「おい、なんでクラスにエルフがいるんだよ」


 ひそひそ声。

 しかし、それはわざと聞こえるように言っている。


「ガキもいるぜ。一人は錬金術師だってよ」


「詐欺師の間違いだろ」


 クツクツと笑っている。

 このような輩など無視すればよいのだ。


 問題は無視ができない場合である。


「おいガキ。聞いたぞ。お前、デクだってな」


 トイレに行こうと立ち上がったところで、俺は四人ほどに取り囲まれていた。


「その顔でどっかの変態でもたらし込んだか?」


「もし、変態を垂らし込んだとしよう。そいつはここに俺をねじ込めるほどの実力者だぞ? お前らのケツに張型をねじ込まれても文句言うなよ? それともなんだ? それがお前たちの趣味か?」


 俺は、一人の男に顔を近づけてきた。


「ガキが調子乗ってんじゃねぇぞ!」


 金髪の男に胸倉をつかまれた。

 恐らくこの男がこの一団のリーダーであろう。


 よし、ここまでくればぶん殴っても文句はあるまい。


 俺がこぶしを握った瞬間、その男と俺の間に手のひらが差し込まれた。


「ストップ、ストップ。そこまでよ」


 俺はその手の主を見た。

 てかてかと何かを塗りたくった唇をした…… 男。

 男だよな、こいつ。


「ケツだとか、張型だとかねじ込むとか素敵ワード聞こえたけどどうしちゃったの?」


「誰だ? お前?」


「あたくし? あたくしはレイモンド・ハンドブルグよ。ライムって呼んでちょうだい。敬称は“ちゃん”で、よろろ~」


 俺を握っていた男は、その恰好のまま硬直している。

 理由がわからないので、カミラに視線を送った。


「ハンドブルグ家は国父八華族の三席よ。国王様の信頼も厚い、武勇に優れた貴族ね。その人はそこの末子」


「おい、レイモンドとやら。その手をどけろ」


「いや」


「どけろと――」


「レイモンドじゃいや。ちゃんと“ライムちゃん”って呼んで」


 俺は、目をシパシパとさせた後で、眉間を揉み込んだ。

 ぐるぐると回る脳内を液化する前に停止させる。


「ら…… ライムちゃん? 手を…… どけて」


 俺は、もう一度声をかけなおした。

 一語一語が歯ぐきから血が出るほどかみしめなければ発語できない。

 それに対して、レイモンド、もといライムは答えた。


「いや」


「てめぇ、殺す! ミーア、俺の剣もってこい! カミラ! 魔剣の準備しろぃ!!」


「ジャック! おつちくです!! 暴れないで!!」


「うそよ、う・そ。血の気の多い子供は嫌いじゃないわ。でも、あたくしのタイプは四十路超えた渋めのおじさまなのよね」


 羽交い絞めにしているミーアの拘束を何とか解こうとしていると、ライムは、そういって手をひらひらとはためかせてどけた。

 金髪の男は、催眠魔法が解けたかのように俺から手を放した。

 それを返すかのように、ライムは金髪の男の胸倉をつかむ。


「子供相手に、貴族がダっサい真似してんじゃないわよ。美しくないわね。しょせん、寄付組ってところかしら」


「寄付組ってなんですか?」


「あら、エルフ娘なんて久しぶりに見たわね。何そのきれいな銀髪。忌々しいわね。寄付組は寄付組よ。受験をまともに受けないで学園に寄付して合格した奴らのことよ」


「え~ずるいです!」


 ミーアが周囲を見渡す。

 こいつの煽り方はホントに天然なのだろうか。

 狙ってやってるならばなかなかのものである。


 ライムもまた周囲を侮蔑を含んだ視線でにらみつけた。


「安心なさい、エルフ娘。一カ月もすれば、この教室の半分は自主的にクラスを降りるわ。どうせあなた(・・・)もでしょ」


 息がかかるほどの近さで罵倒するが、金髪の男は動かない。

 が、怒りからか歯を食いしばっている。


「ここまで言われて、あんたホントに男? 金玉ついてんの?」


「な! バカにするなよ! このオカマ野郎が!!」


「あらあら、ひどい言い草ね。でも、きちんとついてるみたいじゃない、ポコチン。なら、やるんでしょ? 学内ランキング」


「やってやる! おい! デク! 決闘を受けろ!」


 そういって、俺に指差した。


「いいぞ! ただ、学内ランキングってなんだ!!」


 俺は指を差し返した。

 カミラが頭を抱えている。


「入学式で説明してもらったじゃない。学内の武術、魔術、知識をそれぞれ体・心・技にわけてランキングを作成するって」


「武術は……決闘で決めるのか?」


「そうよ。魔術も、決闘時の戦闘手段が魔法を使ったかどうかね。あと、ちょっと筆記の成績も関係あるわ。知識は筆記試験だそうよ。ま、どれも、基本的には、だけどね」


 なるほど、何のためにそんなことやるのかはわからない。

 が、俺の役には立ちそうである。


「どこでやるのだ? すぐにやるぞ!」


「ジャックは、学校に行ったら決闘しなくちゃいけない呪いか何かにかかってるんですかね……」


 俺の言葉にライムが後ろを振り向いた。

 そして、ちょこちょこと動き回る人物の頭に手を置く。

 頭部にお団子を二つ付けた、十歳くらいの少女だ。


「マイ。止まりなさい。すぐに闘技場手配して。デクと寄付組の決闘が初戦なんて前代未聞でしょうね。一世一代の塩試合。ワクワクするわ~」


「そうかも。でも、あのちっちゃい子かわいそうなの。何とかなんないの?」


「男の子がいったんヤるって言ったのよ。男は一度出した汁は引っ込められないのよ!」


「おい、そのガキなんだ?」


「ガキじゃないの! これでも、マイは十五歳だよ!」


 マイはう~んと背伸びをする。

 ミーアが温かい目で見ている。


「うむ、十五歳か。ならばよし。さて、決闘だ! 決闘!!」


「ところで、デクで血の気の多いお子様。あんた名前なんていうの?」


「あん? ジャックだ。ジャック・ヴェッティン」


「ヴェ……ヴェッティン! ラズバンド様の!?」


「お、おう。ラズバンドは父上だが……」


「いや~ ラズバンド様の息子よ~!!」


 そういって、受け身すら取らず後ろ向きに倒れた。


「昔っから、ライムちゃんは君のお父様の大ファンなの。一回あったことあるらしいんだけど一目ぼれしたらしいの」


「そ、そうか……」


「すぐに起きるから気にしなくていいの。さ、闘技場に行くの」


 俺は、ライムの満足そうな顔を一目見てからマイの後について出ていった。

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