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31:合格だ。三人とも。

 ミーアが死んだような顔をして呟いた。


「なんで、なんでまた試験なんですか……」


 ウィード団長付き補佐官のありがたいありがたい推薦状は一定の効力はあったらしい。

 が、それは『合格』ではなく、『再試験』というものであった。


 完全に学園の方は俺たちの入学をお断りしにかかっている。

 運がよかったのは、試験内容を騎士団の方で決めることになった点くらいだろう。


 そして、ミーアの試験は『騎士団との戦闘』であった。

 訓練場での試験、そして、相手はあのケインである。


「カミラ! 見ているか! お兄ちゃん頑張るぞ!!」


「お兄様、頑張ってくださいね! ミーアも頑張って!!」


 カミラは、錬金術の腕前を見るということで、魔石を使用した結界を作ったらしい。

 結果は合格者第一号ということで、訓練場の最上段で俺達を見下ろしていた。


「しかし、相手はエルフのガキとは」


 ケインはそういって、短い槍を二本構えた。

 どうやら、俺のマネらしい。


 俺は訓練場の外に視線を送る。

 ほとんどは、騎士の制服を着ているがその中に、その制服を着ていない文人的雰囲気を持った集団があった。

 恐らく、学園の者であろう。


 そして、中心に立っている鷲鼻の男は、油断なく俺達を見ている。

 その横には、ウィードの秘書とかいうホリーが立っていた。

 相変わらず、不愛想な様子であるが、恐らくお目付け役なのだろう。

 どうやら、あの鷲鼻の男こそがこの試験の責任者の様である。


「ケイン、ケガさせるなよ」


 そういって、騎士団の仲間らしい男が審判をするようである。

 審判は右手を大きく振り上げると下ろした。


「では、二人ともはじめ!」


「よしかかってこい、エルフ娘!」


 ミーアは死んだ顔のまま背の矢筒から矢を六本抜いた。


「ふ、複射だと!?」


【弓術スキル:上級】

《複射:六》


 風切り音と共に矢が放たれる。

 そして、その矢は頭の頭頂部、両耳すぐそば、脇の下、そして股下を射抜いた。


「次は、当てますか?」


 ミーアはもう一度矢を構えた。

 訓練場外にいた鷲鼻の男は、大きくため息を吐くと右手を上げる。

 ホリーが男に何やら耳打ちをした。


「もうよい。合格だ」


 ミーアはどっと疲れたように肩を落とした。


「もう、試験はこりごりですよ。早くお家で寝たい……」


「何言ってやがる。受験はほとんどお前のためなんだぞ」


 俺は立ち上がるとミーアの頭をぽんぽんと叩いた。


「さて、次はジャック君だな、相手はケイン、もっかい」


「まて、そいつとやらせてくれよ」


 俺は、訓練場の入り口に視線を送った。

 そこにいるのは黒い髪の女であった。

 すらりと長い脚の付け根まで髪が伸びている。


「ルバーニャ様! なぜこんなところに!!」


「うん? あのウィードの奴がなんか面白いことやってるって聞いたからな。その子供だろ? ウィードが推薦したとかいうのは」


 髪をなびかせながら俺の前に立った。

 とても強そうには見えない。

 俺は少し残念だった。

 まだ、ケインの方が楽しそうだったのに。


「得物は剣か?」


「そうだ。()物だと怖いってんなら、別のに変えてやってもいいぞ」


「くふふふふ、おい、ここまで言われたんだ。止めないよな?」


 審判は大きくため息をついた。

 ケインが不服そうに審判を見たが、あきらめたような表情で首を横に振る。


「ルバーニャ様。第九騎士団の副団長がわざわざやることじゃないでしょ。あなた、手加減とかできないんだから帰ってください」


「手加減? この子供には不要だろう。なぁ? それとも私では不満か?」


 手加減、そういった。

 確実にそういった。

 つまり、この女は強い。

 俺の両口角が思わずひん上がる。


「優しくお相手してやるよ。若さに任せてひぃひぃ言わせてやる」


 俺は鞘と剣を両手に構える。

 ルバーニャもまた、半身になり、細い剣、レイピアを構えた。


「あ~もう。団長に怒られても知りませんからね!」


 そういって審判の男は右手を振り下ろした。

 それと同時に、ルバーニャが突撃してきた。

 そして、その速度に乗せた刺突。


 俺は、それを剣で弾こうとしたが、それは読まれていた。

 ルバーニャは、突然その場で回転し剣先が消える。

 そして、足元に衝撃が走った。

 回転しながら、俺に足払いをかけてきたのだ。


 俺は、側転して着地を決める。

 と、その眼前には二度目の剣先。

 ブリッジの体勢でそれを避けるとバク転で距離を開ける。


「子供、やるな」


「うっせぇよ」


 次は俺の番である。

 ハの字に両手を構え、距離を縮める。

 まずは、右手の剣を逆袈裟の要領で切り上げる。


 ルバーニャは、それをレイピアで受け流す。

 細い剣で受けてしまえば、折れてしまうからだ。

 それを予想していた俺は、その回転を生かして、裏拳の要領で今度は鞘を叩き付ける。


 今度も、それはうまく流された。

 が、さらにさっきのお返しとばかりにその足元に足払いをかける。


「ちぃ」


 ルバーニャは軽く飛ぶとそれを避けた。

 敵は空中にいる。

 しかも、体勢を崩している。

 俺は姿勢を整えるのももどかしく、その身体に剣を叩きこむ。


 完璧なタイミングだった。

 が、しかし、ルバーニャは猫のように体を逸らせると、レイピアでそれを受け止めたのだ。


「レイピアの速度をなめるなよ」


 しかし、次の瞬間レイピアがひん曲がった。


「あ~折れた!! これ高かったのに」


 ルバーニャは突然、戦意を喪失したかのように頭を抱える。

 俺も思わず追撃の手を止めてしまった。


「だからやめとけって言ったんですよ。せめて、槍使えばいいのに」


「やだよ! 私は剣を上級にするんだい!!」


「おい、お前、剣上級じゃなかったのか?」


「中級だよ。上級なのは槍」


「まぁ、中級って言っても、槍のスキルの兼ね合いのせいか、上級とほとんど変わりませんけどね」


「うるさーい!! もういいよ!! この……、この…… えっと、君、名前なんて言うの?」


「ジャックだ」


「あ、ジャックね。わかった。ジャックのばかぁぁぁぁ!!!」


 そういって、ルバーニャは走り去っていった。


 なんとなく気まずい沈黙が流れる。

 審判の男が寄ってきた。


「悪かったな。変わった人だけど悪い人じゃないんだ。許してくれ」


「それは別にいいんですけどね……」


「それにだ。確かにルバーニャ様は剣術は中級だが、上級に匹敵するのは確かだ。あそこまで打ち合える奴なんて、騎士団の中にだってそうはいない」


「俺は打ち合いたいんじゃないんですけどね」


 しかし、俺の言葉は誤解されたようだ。


「大丈夫だよ。ホリー様だってそれはわかってる」


 俺が鷲鼻の男を見ると、ホリーと何かを言い争っている。

 が、しかし、鷲鼻にしわをくしゃくしゃに寄せた後でこう口にした。


「合格だ。三人とも」


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