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30:私達……合格……ですか? 

 体が横になっている。

 目を開けるのも億劫なほど体が重い。


 俺は、唇を引っぺがすように口を開いた。

 声を出そうとして、異常に喉が渇いていることに気が付いた。

 うまく声が出ない。


 いたしかたなく、目を開ける。

 知らない天上。

 そして、俺はベッドに横になっているようだ。

 窓からはわずかに光が入ってきていて早朝だとわかった。

 なんか、前にも似たようなことがあったな。


 視線を横にずらすと、銀と赤の丸が二つ並んでいる。

 少ししてから、ミーアとカミラの頭だと気が付いた。

 どうやら、二人とも座った姿勢のままベッドに頭を突っ伏して寝ているようだ。


 俺は銀の丸に手をのせ、そして、赤の丸に手をのせた。

 赤い丸が左右に揺れる。


「ジャック…… ジャック! 起きたの?」


「やかましいぞ。騒ぐな」


 と、その声にミーアもまた目を覚ました。

 寝起きゆえか、視線が定まっていない。


「ふぁ、じゃっく? 起きたんです?」


「当たり前だ。寝っぱなしでは身体がなまる」


 瞳孔が搾り上げられる。

 そして、俺を認識したとたんに、電気が流れたようにはねた。


「じゃっく~よかった! よかった!!」


「痛い! くっつくな! そこ痛いって! ホントに痛いんだって!! カミラ助けて!!」


「そんなことより、私お医者さん呼んでくる!」


 そんなことじゃない。

 俺は、ミーアのベアハッグ的抱擁から何とか抜け出す。


「どこだ、ここは」


「学園の医務室です」


「医務室だと? なぜだ」


「ジャック、ミミズ倒したの覚えてます?」


「おう、そのあと、炎球斬って…… あれ?」


「そのあと、落ちたんですよ! あの玉のせいで大火傷してたし、あんな高いところから落ちて。ミートソースになってもおかしくなかったんですよ!」


 と、部屋にカミラが戻ってきた。

 後ろにはやけにいかつい白衣を着た男と、見覚えのある二人の男がいた。

 あの隊長と通信術士である。


「起きたか。ジャック君」


「えぇ、お二人はお元気そうで何よりだ」


 俺が体を起こそうとすると二人はそれを止める。


「起きなくていい。それよりもありがとう。君のおかげで、俺たちは生きて帰れた」


「僕もフィアンセに会えるよ。実は、あの作戦が終わったら結婚するはずだったんだ。もう会えないと思ったけど会えたのは君のおかげでまた会える! 感謝してもしきれないよ!」


「あぁ、俺もこの仕事が終わったら騎士に取り立ててもらえるはずだったんだよ。嫁さんには苦労かけ通しだったからね。それに今度子供も生まれるんだ」


 おう、ミミズが出てきたのも魔法撃ち込まれたのもお前達のせいじゃねぇの?


「とりあえず、良かった。生きてくれてて」


「そういや、試験ってどうなったんだ?」


「あ~それは……」


「実は、魔石が全部ふっとんじゃいまして……」


 ミーアが申し訳なさそうに頬をかいた。

 俺は、ふぁあと大きくあくびをする。


「気にするな。カミラも悪かったな。巻き込んで」


「別にいいわよ。あんたたちが悪いわけじゃないし、どうせあんた達いなかったら無理だったんだし。来年頑張るわ」


 そういって微笑んだ。

 と、そのタイミングで扉がノックされた。

 立っているのは長身の男である。

 金のわずかにウェーブのかかった髪のせいか一見すると女性のような柔らかい雰囲気がある。


 そして、その横には女が一人。

 こちらは打って変わってショートヘアーである。

 口を真一文字にしており、柔らかな雰囲気など一切ない。


「今いいかな?」


「こちらは、今めんか――」


 隊長と白衣の男の背筋が伸びる。

 そして、その男に敬礼をした。


「いや、ほらあなた、私の紹介した仕事でケガしたっていうものだお見舞いに来たんですよ。そしたらここにいるっていうんでね」


 長身の男は隊長の肩に手を置いた。

 長身の男の肩には、グランと同じ勲章がついている。

 こいつも騎士の様だ。


「そして君が、うちの新団員を守ってくれた少年?」


 俺の顔にぐぐうっと顔を近づけてきた。

 息がかかるほどの至近距離。

 目をギリギリまで細めている。

 なんだ、これは。ケンカ売られてんのか?


「何するんですか、離れてください!! 近づくなです!」


 ミーアが男の肩をゆする。

 その横でカミラが顔を真っ赤にした。


「あ~ごめんなさいね。私、目が悪いんだよ。眼鏡どっかいっちゃってあんま見えなくてさ」


 男は俺から離れると、ミーアに顔を寄せたので、ミーアは飛び上がって俺のベッドの横に隠れる。


「驚かせるつもりも、嫌がらせのつもりもないから。落ち着いて。あ、君たちの部屋にはあとで行くから」


 そういうと、男は室内に添えつけられていた椅子に座った。

 そして、隊長と通信術士、そして白衣の男まで部屋から追い出す。


 女はそれを見送ると、男のそばに立った。


「三人とも受験生だったんだって? 運が悪かったね。あんなのと鉢合わせるなんて」


「騎士の奴らは名乗ることを教えられてないんですかね?」


 俺は大きくため息をついた。


「おっと、失礼した。私は第九騎士団、団長付き補佐官。ウィード・ウリックロームだ。こっちはホリーだ。私の秘書。ほら、あいさつしなよ」


 ホリーと言われた女は、ウィードを見た後で、わずかに、ホントわずかに頭を下げた。


 それにしてもまた、騎士団が出てきやがった。


「グラン少佐? とはどっちが上なんですかね」


「グラン少佐を知っているのか? 権限は私の方が上だが、もしお会いしたら私は彼に敬礼する立場だよ」


 権限が上なのに階級は下なのか。

 複雑怪奇である。


「えっと、そのウィードさんが何の御用でしょうか?」


「あ~そんなかしこまらないでいいよ。ほら、君たちも座って座って」


 そういって、二人を椅子に座らせた。

 この部屋の名主の俺の許可を得る気はないらしい。


「さっきの、彼。子供がどうこう言ってたの。元々冒険者だったんだけどね。彼、なかなか腕が立つから騎士としてこの前推薦してたんだよ。で、見事に試験に合格したわけだ」


「へぇ、良かったわね。お子さんが生まれたとか言ってたし」


「あぁ、でだ。その彼から推薦があった。君たちの腕は確かなものだと。学校に入れないからと言って捨てるのは惜しいってね」


「え?」


 俺は思わず顔をしかめた。


「なんで今の話の流れで嫌そうな顔をするんだい、彼は」


「たぶん、騎士なんかなったらケンカ吹っ掛けられないからだと思います」


 ミーアよ、お前の俺に対する評価を脳内ほじくり出して聞いてやろうか。

 合ってるけど。


「騎士とか関係なくケンカはダメだよ。それに、さすがに子供を騎士に取り立てるわけにはいかない。そこは安心していいよ」


 そういってウィードは笑った。


「代わりに学園の方に私の名前で推薦状を書いておいた。彼らは私たちに尻拭いをさせる気だからね。それくらいは飲んでくれるはずさ」


 そういって、柔和な笑顔を浮かべた。

 が、言っていることは、つまり脅迫である。


「ホントに? よかったですね! ジャック!! お母様も喜びますよ!」


「ホントね。来年は私の先輩になるんだからちゃんと勉強しててよね」


「いや、君たちもだよ?」


「「え?」」


 ミーアとカミラは同時に顔を向けた。


「一人は、大量の魔物を相手に弓と魔法で完璧に対処した魔術師。もう一人は、戦場での治癒役を完璧にこなし、その上短時間で魔剣を錬成してしまう錬金術師。どちらかと言えば、剣士の彼より必要な人材だからね。あの試験は筋肉バカと金持ってるやつしか選別できないから」


「なんだこれ。俺バカにされてんのか?」


「してない、してない。超A級を倒した君はぜひ欲しい人材さ」


 ウィードはそういってクツクツと笑うと立ち上がった。

 ホリーは、音もなく扉の前に立つと押し開ける。


「さて、夜が明ける。朝が来る。そしたら、たぶん君たちの元に結果が来るはずだよ」


 俺はパタパタと手を振って出ていった男を見送ると、二人を見やった。


「私達……合格……ですか?」


「私達……合格よ!!」


 きゃーと二人は抱き合って喜んでいる。

 推薦がうまくいくかどうかなんてわからんだろ。


 が、流石にそれを言うのは野暮なので、俺はゆっくりと目を閉じた。


「てめぇらも出ていけ。俺は寝る」


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