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29:ジャック丸

 俺は、巨大な三つ首ミミズの真正面に立った。

 そして、ちょいちょいと指でミミズに合図を送る。

 挑発と受け取る脳みそがあるのか、先ほどまで餌と目していた冒険者たちから俺の方へ頭が向いた。


「腹ごなしに付き合ってやるよ」


 俺の言葉と同時に、ミミズは鎌首をもたげた。

 そして、俺に叩き付ける。

 巨大な質量に、空気がきしむ。


「おやつにはまだ早ぇよ」


 俺は、それを跳躍で躱した。

 地面が陥没する。

 と、空中にいた俺に、今度は尾が叩き付けられる。


 鞘と剣を十字にクロスさせてそれを防ぐ。

 が、空中故踏ん張りがきかない。

 俺はそのまま木の幹へと叩きつけられた。


 両足で木の幹に垂直方向に着地したものの、その恐るべき衝撃で思わず息のすべてを吐き出す。

 しかし、息を吸い込むよりも早く幹を駆け降りる。

 三つ首ミミズがこちらへ向かってくるのが見えたのだ。


 そして、再度、尾が叩き付けられる。


「それは、さっき見たんだよ!! ワンパターン野郎が!」


 叫ぶと同時に剣を振るった。

 ぶちんという感触がして、人間大のミミズの尾が宙を舞う。

 俺は、さらに剣を振るい、それを九個の肉片に変えた。


「寸刻みにして川に流してやる!」


 俺は、再度突進。

 頭三つを相手に剣を振るう。

 しかし、頭は尾よりも巨大でさらに回復能力が高いようだ。

 切り裂いた瞬間、そこに触手が生え傷口をふさいでしまう。


「うわぁぁぁ! ミミズが!!」


 先ほどの通信術士の叫び声だ。

 俺は、ミミズとの距離を開けるとそちらに目だけで視線を送る。


「ミミズが!! 復活した!!!」


 先ほど切り刻んだミミズの尾が、ミミズ形状に変化しているのだ。

 さらに、辺りの死体を食べ始めた。

 どんどんと大きくなっていき、人間大のサイズに成長する。


 そして、とうとうそのうちの一匹が隊長と通信術士に向かって移動し始めた。


「うわあああああ!!」


「裂けろ!」


 ヒュッと森の中から風切り音と共に矢が走った。

 そして、分裂ミミズの一匹に突き刺さると同時に、その場の空気が渦を巻いた。

 瞬間、ミミズが四分五裂になってしまった。


 その矢の飛んできた方向から二人の少女が走ってきた。


「あ、あんた達、足速すぎよ……」


「カミラが遅いんですよ! そんなことより、ジャック大丈夫ですか?」


 ミーアの肩にカミラが手を置いて息を整えている。


「なんなのよ、この変なの。気持ち悪いわね」


 カミラが、足で飛び散った肉片をグリグリと踏んだ。

 と、肉片がウニウニと動き出した。


「いや~、これまだ生きてる!!」


「そうだ、こいつら切り刻んでも死なねぇ! まだ、後ろに一匹――」


 二人の後ろに分裂ミミズの一匹が潜みよっていたのだ。

 そして、俺の忠告より早く、隊長と通信術士が二人をタックルするように弾き飛ばした。


「きゃ! って、あなた腕が!!」


「そんなことより、君たちも早く逃げろ!」


 男が叫ぶが、カミラはカバンをひっくり返し始めた。

 そして、男の腕に液体を振りかける。


 さらに、ミーアは寄ってきていたミミズたちを突風で吹き飛ばし距離を開けた。


「ジャック! こっちは任せてください!」


 そういうと、指を一本立てる。魔術語がその指の上で球体となった。

 それを投げつけると、その球はミミズに着弾。

 パンッと乾いた音の後でミミズの皮膚に炎が食らいついた。


「だとよ。俺達で楽しもうか!」


 三つ首ミミズの頭が降るように上空から襲ってくる。

 俺は、右の首の根元をそぐように斬りつける。

 首は一瞬吹き飛ぶが、その断面が伸びるように癒着し、元に戻ると俺の方へ襲い掛かってくる。

 今度は、真ん中の頭から背にかけて一閃。

 背筋の中ごろまで切り裂いた。

 が、それもすぐに元に戻ってしまった。


「きりがねぇな、これは」


「隊長…… 通信が来ました……」


「援軍か!!」


「いえ、今から五分後に魔法で飽和攻撃を仕掛けるようです…… ここ一帯を更地に変えてしまうようです!!」


「ふざけるな! まだ俺達も受験者もいるんだぞ!」


「知りませんよ! 逃げましょうよ!」


「間に合うわけあるか! せめてアイツが死ねば……」


「ジャック! 二分稼いで!!」


 カミラは、手近にあった剣を拾い上げると魔力を注入し始めた。

 さらに、俺が渡した袋から魔石を取り出す。


 三体目の分裂ミミズを焼き殺したミーアがカミラのそばによる。


「カミラ、どうするんですか?」


「斬ったら戻る奴はだいたい、切り刻んで流すか、傷口焼きつぶすのよ!」


「できた! これ使いなさい!!」


 ちょうど俺の剣に三つ首ミミズがかみついたところであった。

 俺は、剣をくわえさせたままその頭を蹴り飛ばす。

 そして、カミラが放り投げた剣をつかみ取った。


 その剣は燃えていないにもかかわらず、熱を持っていた。

 熱が周囲の空気を焦がしている。


「ジャック! 後ろです!!!」


 俺は、振り向きざまに剣を振るった。

 熱を持った軌跡が首元に吸い込まれる。

 辺りに、香ばしい匂いが漂った。

 そして、次の瞬間真ん中の首が吹き飛ぶ。


 傷口からは再生のための触手が生えてこない。

 熱のせいか、再生できないからか、三つ首ミミズがのたうち回る。


「二本目だ!」


 真ん中の頭が、吹き飛んだ。

 返す剣で最後の頭を斬り飛ばす。


 が、恐ろしいほどの生命力でミミズは暴れ出した。


 しかし、感覚器官をなくした化け物に脅威などない。

 俺は跳躍すると、ミミズを唐竹わりに身体を割いた。


「た、隊長! あの子供…… 超A級をやっちまいましたよ……」


「あ、ああ……」


 と、隊長は傍らの少女を見て思い出したように叫んだ。


「止めろ! ここに魔法を撃ち込む必要などない!!」


「あ! こちら現場! 対象は沈黙した! 戦闘終了! もう援護いらない! 繰り返す、戦闘終了! 援護不要!」


 俺は、剣を鞘に納める。

 と、鞘が燃え上がり、そして溶け落ちた。


「あっつ!!」


「あんた、その剣千度超えてるのよ。耐火の鞘じゃないと」


「先言えよ」


 と、その魔剣もまた限界が来たらしい。

 薄氷にひびが入るような澄んだ音がして魔剣にひびが入る。


「やっぱり突貫過ぎたわね。あと一振りもしたら砕けてたわよ」


「そうですね。よくわかりませんけど。とりあえず、魔石とって戻りましょ」


「そうね。さっきの魔剣で魔石使っちゃったから、あと一個探さないといけないし」


 ミーアが通信術士のそばを通り抜けようとしたとき、通信術士は膝から崩れ落ちた。


「もう遅い?」


「どうしたんだ」


「魔法はもう発動したそうです。中止は不可能だと……」


「な! あと何分だ!!」


「あと……三十秒……」


 隊長が空を見上げた。

 赤い炎球がそこにはあった。

 最初は太陽ほどの大きさだったものが、みるみるでかくなってくる。

 周囲の熱量もまた上がりだした。


「終わりだ……」


 通信術士がそれを見上げて涙を流した。

 隊長が通信術士の肩を抱いた。


「じゃっく~ やばいです! あれはやばいですって! 何とかしてくださいよ!!」


「無理よ! えっと、そうだ! タイムマシンよ、こんな時こそどらえ――」


「お前らもあの二人くらい静かにできんのか」


 俺は、魔剣を構えた。


「カミラ、この魔剣に名前を付けろ」


「名前? そんなの今はどうでもいいでしょ!」


「そうか、ならミーアはなんかいいのあるか?」


「えっと、ジャック丸」


 俺はジャック丸を下向きに構える。

 そして、先ほどの戦闘で傾いた木に向かって走り出した。

 その木の上を駆け抜けると、炎球に向かって飛びかかる。


【我流二刀流剣術:初級】

《ぶった斬り:中級魔術》


 炎球に刃が食い込んだ。

 空中故に踏ん張りがきかない。

 わずかにかかる抵抗を、腕力で推し進める。

 そして、炎球は真っ二つになった。


 形の変わった魔術はわずかな熱を残して消えてしまう。


「ミーアに名前を付けさせるのは金輪際やめるよ。ジャック丸」


 落下しながら考えたことは、砕けたジャック丸への心底の謝罪であった。


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