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27:意外と過激

 森の中はうっそうと茂っていた。

 かなりデカいらしく、十分ほど歩いていた。


「おい、聞こえたか」


「はい、あっちの方ですね」


「よくわかるわね。あんたたち」


 そういって、カミラは呆れたような顔をしている。


「カミラもいつか、ミルウーダさんに会って訓練すればいいですよ。死ぬか強くなれますよ」


「え…… 遠慮させてもらうわ


「おしゃべりは後だ。行くぞ」


 そこにいたのは、青いサソリのような魔物であった。

 尾から頭までが四メートルほどある。

 そして、両脇には人ほどもある巨大なハサミが一本ずつついている。


「く、くるなぁ!!」


 その足元にいたのは、会場で俺たちに絡んできた貴族であった。

 腰を抜かしたのか座り込んだままずりずりと後ずさっている。

 が、その後退は木に阻まれた。

 青サソリのハサミが振りあがる。

 そして、貴族の身体を横から殴りつけた。


 ごおっという鈍い音がして、貴族は俺の方に飛んできた。

 仕方なく俺は、捕まえてやる。


「はぁはぁ、た、助けてくれ!」


「お前の仲間いたろ」


「あそこだ! そんなことより俺を連れて逃げろ!」


 俺は貴族をひょいっと投げ下ろすと、指さした方向を見る。

 顔を真っ青にした男が二人倒れていた。

 浅く速い呼吸をしていて、生きてはいるようである。

 どの程度もつのかは知らないが。


「神経系の毒みたいね」


 カミラは、そういって腰のポシェットからいくつかの瓶を取り出した。


「あいつを引き付けられる?」


「どうするんですか?」


「私、サソリ毒なら解毒薬を作れるわ」


「助けるのか?」


「え?」


 カミラは、不思議そうにこちらを見た。

 俺は、それを無視すると剣を抜き放つ。


「まぁ、勝手にしろ。ただ、俺たちの目的は人助けじゃない」


 俺は、鞘を握った左手で口角をなぞる。


「ミーア。カミラの補助を」


 俺の突撃と同時に青サソリは右側からハサミで殴りかかってきた。

 しゃがんでよけようかと思ったが、そのハサミは地面すれすれをこするように迫っていた。


 俺は、そちらに向き直ると剣を叩き付ける。

 ガキンと金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。

 その表皮は異常に硬いらしい。

 俺はしびれた手を握りなおすと、後ろに飛び距離を開ける。


 びゅっびゅっびゅっ


 俺を追撃するように尻尾から液体が噴射された。

 着地点からバク転でさらに後退。

 下草に液体がかかった瞬間、どす黒い色に変わって枯れ落ちた。


「ジャック!」


 ミーアが叫ぶ。


「問題ない!」


 即座に反転し、もう一度、青サソリに向かって走り出した。

 今度は左側からハサミが叩き付けられる。

 俺は、地面をけると空中に逃れた。


 と、それを待っていたかのように、尻尾の先端で突き刺してきた。

 俺は、剣を振るい、それを逸らす。

 そして、尻尾の付け根の関節部分に剣の刃を叩き付けた。

 ぶちんという音と共に尻尾を切り落とす。


 ぎぃぃぃと耳障りな叫び声。

 俺は、空中で体勢を整えると、そのまま左ハサミの関節部分に剣の切っ先を突き刺す。

 そして、鞘で思いっきり殴りつける。

 再度甲高い金属音が鳴り響いた。

 が、今度こそ、観念したかのように青サソリのハサミがボトリと落ちる。


 最後のハサミも同様に処理をする。

 青サソリは、吠えるように天空に頭部を向けた。

 そして、最後のあがきとばかりに、その頭の底部についている口で咬撃を仕掛けてくる。

 その両側には小さなハサミが付いていて、カチカチと鳴らしている。

 しかし、しょせん悪あがきだ。


 俺はその口内に剣を突き込む。

 サソリゆえんの生命力か、それでも噛みつこうと全体重をかけてきたので、俺は剣で頭の中をひっかきまわした。

 ぐちぃと嫌な音がして、青サソリの動きはやっと止まる。


 口内から剣を伝って液体が垂れてきたので、俺はその場から逃げると、ズンと青サソリは崩れ落ちた。


「ホントにやっつけちゃった」


 カミラは瓶を片手に立っていた。


「倒さねば、合格もくそもないからな」


 毒にやられていた二人は、カミラの治療の成果か、顔色がだいぶ良くなっている。


「お前もやるじゃないか」


「まぁ、錬金術師だからね。このくらいはできるわよ」


 カミラはそういって笑って見せた。

 と、そこへあの貴族がやってきた。


「なかなかやるな。そいつらの代わりに俺と来い」


 俺が二人をちらりと見やる。


「錬金術師やエルフのガキなど役に立つか。それよりも、いくらだ? そうだ、もし俺が騎士になったら――」


 ミーアが貴族の前に立った。


「それ以上、ジャックをバカにするな」


「だ、黙れ! エルフのメスガキなどに――」


「だりゃ!」


 ミーアの拳が貴族の鼻っ柱に突き刺さった。


「ジャック、こんなバカほっといて行きましょ」


 貴族が鼻血を流しながら立ち上がる。


「ぎざば!! こんなごどぢてただでずぶとおぼうな!!」


「うっさいわね。そっちこそエルフと錬金術師バカにしたんだから覚悟できてるんでしょうね」


 そういって、その口に何かを押し込んだ。

 貴族は目を白黒させながらそれを飲み込む。


「今飲み込んだのはアミノアッシドって薬品よ。早くお医者さんに診てもらってきなさいな。死にたくないならね」


「な! な!! おえ~~」


 貴族は、それを何とか吐き出そうとしたがあきらめたのか、どこかへ走っていってしまった。


「お前たち、意外と過激だな」


「わ、私もさすがに毒を飲ませるようなことはしませんよ!」


「あら、私が飲ませたのはただの栄養剤よ。ケガさせるよりましね」


 ミーアとカミラは目をあわせて笑いあっている。

 俺は、初めて「精神的疲労」というものについて考える必要性を感じていた。


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