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26:今日は皆さんにちょっと魔物狩りをして貰います 

「おい、起きろ」


 ぺちぺちとミーアの頬を叩く。

 それにしても、あの男はいったい何者なんだ。

 俺がヴェッティン領の領主であることは知ってたようだが……


「ここはどこ。わたしはだれ……」


 ミーアがうつろ気味に目を開く


「くだらねぇことやってんじゃねぇよ」


 俺がズビシとミーアにチョップをかましたところで周囲がざわつきだした。

 壇上に、でっぷりとした男が上っている。

 そして、神経質そうな目つきで受験生を見渡した。

 大方静まったところで、魔導拡声器、通称マイクをぽんぽんと叩いて動作の確認をすると話し始める。


「受験生の皆さん、こんにちは。

 ネノカタス高等学校の教頭、フランツ・リューグライムです」


 受験生たちが、少しずつそちらの方に集まっていく。

 こいつら、全員貴族なのにこんなぞんざいな扱いでいいのだろうか。

 文句言わないということはいいのだろう。


「さて、まずはご存知かと思いますが、もう一度確認させていただきます。

 この試験は、大怪我、最悪死ぬ可能性もあります。

 そして、そのどちらにしてもこちらは責任を負うことはございません。

 それは困る、という方はどうか、お帰りください」


 そういって、フランツは受験生全体を見渡した。

 わずかにざわついたが、出口へ向かうものは誰一人いない。


「では、受験の説明をさせていただきます。

 現在、トクラドラムの森に疑似的にダンジョンを生成しました」


「そんなことできるのか?」


「いや、しらねぇけどよ」


 辺りがざわついている。


「すごいですね。ダンジョンを作るなんて。どうやったんでしょ?」


「ダンジョンを構成するのは、魔素と核だ。

 魔素の方はわからんが、核辺りを何とかすればできるんじゃないか?」


 俺は適当に返事をする。


「疑似ダンジョンは規模としてはAランクといったところでしょう。

 今日は皆さんにちょっと魔物狩りをして貰います」


 ざわつきが頂点に達した。

 余裕そうなのは、金があり、従者をたくさん従えた貴族ぐらいなものである。

 恐らく、試験内容も知っていたのだろう。

 ミルウーダがダンジョンに連れて行ったのもこういうことだったのか。


「静粛に。そこで一人五個の魔石を採取していただきます。

 集まったものから上がりぬけ。

 合格人数に達したところで終わりとします」


 さっきのバカ辺りは三人で五個集めて上がりぬけを狙っているのだろう。


「もう一点、これが唯一のルールですが、

 危険ですので最低三人でチームを組んでダンジョンに入るように。

 では開始です。

 トクラドラムの森はこの会場を出て右手の方向にありますので、

 準備ができ次第向かってください」


 ミルウーダの性格上、こんなルールがあったとしても黙ってはいるだろう。

 が、しかし、ノーヒントというのは考えにくい。

 今年から追加されたルールだろうか。

 あの教頭がちらちらとこちらを見ている気がするが、何かあるのだろうか。


「どうしましょ? 私達、二人ですよ?」


 ミーアはキョロキョロと辺りを見渡す。

 従者を引き連れた貴族たちは、意気揚々と出発していく。

 従者のいない者たちは、それはそれでチームを組み始めた。


「ちょっと、私一人の人に声かけてきます!」


 といい、ミーアは手当たり次第に声をかけていくが、こちらはデクのガキとエルフのガキだ。

 袖にされまくっている。

 と、ミーアの銀髪のそばに、赤い髪の少女が寄ってきた。


「私と組んでくれない?」


「え? あ、はい! ぜひおねが――」


 ミーアは赤髪の少女、カミラと目を合わせて止まる。


「えっと、もう一人はデクですけど……」


「別にいいわよ。知ってるし。信じてないけど」


「あの、私エルフですけど……」


「知ってるわ。いやなら最初から声かけないわよ。

 むしろ、この前助けてくれてありがとね」


「ホントに? 私エルフですよ?」


「だから、別にいいって言ってるじゃない。問題あるなら、仕方ないけど」


 ミーアの目がキラキラとしだした。

 そして、カミラの手をつかむとこちらに走り寄ってくる。


「ジャック! この人がいいです! この人はいい人です!!」


「痛いわよ、話しなさい。あなた見た目に寄らず、強引ね」


 カミラは手を振り払う。

 そして、俺を見て笑った。

 その顔は、笑顔というには脅迫的だ。


「よろしくね、ジャン(・・・)君」


「悪かった。俺はジャックだ。

 ジャック・ヴェッティン。

 ヴェッティン領領主の息子だ」


「はぁ、やっぱりね。おかしいと思ったのよ。

 デクも嘘なんでしょ?」


 会話の要点を知らないミーアはぽかんと首をかしげながら口を開いた。


「ジャックはホントにデクですよ。

 ジャックのお父様がよく言ってましたもん。

 剣なんてやめろって」


「嘘よ。剣じゃなくてもほら、体術とか」


「私が見てる限り体術も最初はめちゃくちゃ弱かったですよ。

 絶対才能ありませんって。

 てか、さっきの紙見せたらどうです?」


 ミーアの提案に俺は賛同する。

 腰袋からくしゃくしゃになった紙を差し出した。


「うそ……」


「やっと信じる気になったか?」


「伝説のスキル偽装のスキルとか?」


「わかった、もしそれだと思うならそう思ってくれ」


 俺は手を挙げて降参を表すと、飽きれてたように言い捨てる。


「で、どうする? チームは組む、でいいのか?」


 ミーアがカミラの手をまた握ってぶんぶんと振りまわした。


「私はね。

 でも、たぶん組むかどうかはそっちがこれ見てから決めてくれていいわ。

 私は、子供だからってだけで、チーム組めなかったわけじゃないの」


 そういって紙を差し出す。


――――――――――

カミラ・ルカリア

女 十二歳

【錬金術スキル:上級】

【魔 術スキル:初級】

【短剣術スキル:初級】

【      : 級】

備考:

――――――――――


「チーム制ならお父様の言う通り従者を連れてくるんだったわ。

 お兄様もそういってくれればいいのに……っていうか、完全に戦闘試験じゃない。

 どうすればいいのよ」


 カミラは頭を抱えている。

 しかし、ミーアはスキル以外の所を見て声を上げた。


「備考ってふつう何も書かれないんですね」


「まぁ、備考だしな」


「あなた達どこ見てるのよ」


「備考ですよ」


 そういって、ミーアは自分の紙の備考の部分をカミラに見せて笑っている。


「魔術上級!? エルフは魔術スキルが高いって聞いてたけど……」


 カミラはしょぼくれたように肩を落とした。

 そんなカミラの手をミーアは握る。


「とりあえず、ジャック様。いいですよね。早く行きましょ」


「待って! 私、錬金術師よ。ほとんど戦力にならないわ」


「大丈夫ですよ。私が守ります! ジャックも私が守ります!」


「俺の獲物横取りしたらアイアンクローな」


「ひぃ」


 ミーアが両手でこめかみを押さえた。


「ほんとにいいの?」


「構わん。その代わりいつか魔剣を作ってくれ」


「いいわよ! 任せなさい!」


 三人はそろって出口へ歩き出した。


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