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24:錬金術のスキル 

 爪二十本でかなりの金額になった。

 本当は毛皮などもはぎ取りたかったが、残念ながらそれを待っている暇はない。

 俺たちをきちんと送り届けてくれた上で戻ってきてまだあったらやる、と言い含めるとあの軽かった口が嘘のように重くなった。


 そして、俺が軽い睡眠をしているうちに目的地、首都ネノカタスに到着した。


「旦那、ホントのホントにあれもらっていいんですね」


 いつの間にか、坊ちゃんから旦那呼びになっていた。


「いいよ。悪かったな。代わりに爪を買い取らせるような真似して」


「いいんですよ。あれ、もらえるなら安いくらいだ。っと、誰かに取られる前に戻りますんで。では、またクライバル運送をよろしくお願いしますよ」


 馬車は、あっという間に引き返してしまった。

 俺は、視線を先ほどからうろうろとしまくるエルフ娘に送る。


「見てください! ジャック! なんですか! この魚! こっちには変な野菜がある! 白い! トマトなのに白い!!」


「おちつけ。恥ずかしい」


 俺は、ミーアを引きずるように歩き出した。


「ちょっと、なんでこれが五十八万リウもするのよ!」


「うん? どっかで聞いた声ですね」


 ミーアが声の方を指さした。

 俺もまたそちらに視線を送る。


「粗悪品も粗悪品! こんなの売ってるから錬金術師が詐欺師のレッテル張られるのよ!」


 そこにいたのは髪の赤い少女であった。

 名前は、確かカミラだ。

 どうやら、そこの露店に飾られている件について問題があるのだろう。

 店頭には「魔剣」と書かれている。


「うるせぇ! ガキが!」


「きゃあ!」


 店主らしい男が大きく手を振り上げた。

 その気配を察していた俺は、即座にカミラの後ろに立つと、その首根っこをつかみ猫の要領でひょいとその場から引きはがす。

 カミラの鼻先を男の平手が通過。男は、そのままバランスを崩してたたらを踏んだ。


「おい、カミラ。こんなところで何してんだ?」


「あら? ジャン。ありがと」


 俺が離すとカミラは、スカートをぱんぱんとはたいて男に向かってズビシと指さした。


「これ、耐火属性付きって書いてあるけど嘘よ! 書かれてる魔導語がでたらめだもん」


「ガキに何がわかるってんだ! これは俺が独自に研究した魔導語なんだよ。それとも、嘘だって証拠はあるのか?」


 店主の男が腕を組んでカミラを見下ろす。

 その脇に、二メートルを超える巨漢の男が添うように立った。

 用心棒か何かだろう。


「カミラ、あきらめろ。こいつらはあれだ。至る所で商品高値で売り切って逃げるタイプの詐欺師だ」


「何? ガキが」


 巨漢が俺の前にずいっと出てきた。


「ただまぁ、魔剣、というものは気になる。ほれ金はあるから試させろ」


 俺は腰の革袋から爪を打った金を差し出した。

 店主の顔が一瞬でほころぶ。そして、俺から金をひったくろうとしたのでひょいとそれをひっこめた。


「試させろと言ったんだ」


 俺は耐火と書かれた剣をつかむとミーアに差し出した。


「おい、燃やせ」


「え~、その子助けるんですか? まぁ、ジャックがそういうならやりますけど」


 不服そうにその剣をひっつかむと、軽く目を閉じた。

 そして、きっと見開く。


【炎縛】


 剣にずるずると奇妙な文字がまとわりつく。そして、それが一気に燃え上がった。

 焦げた匂いがした後で、剣は氷であったかのように溶け落ちていく。


「おい、どういうこった?」


 俺は、店主と巨漢をにらみつける。


「てめぇ! 余計なことを!」


 店主が叫んだ。

 それに合わせるように巨漢が俺をつかみかかってくる。


 が、俺はそれと同時に耐衝撃と書かれた剣を店頭から掴んでいた。


「これはホントに耐えられんのか?」


 剣の腹を巨漢の頭に叩き付ける。

 鈍い音が響いて、巨漢は後ろに倒れ込んだ。


「おお、耐衝撃は本物かもしれねぇな」


 俺は今度は石畳に叩き付けた。

 パキンと甲高い音がして剣は砕け散る。


「なんだよ、これも嘘か。なら買えねぇな」


 俺は、店主に向かって歩き出した。

 店主は、二、三歩後ずさった後で巨漢を引きずりどこかへ行ってしまった。


「ジャン、ありがと。私のために」


「いや、お前のためというよりも、あの魔剣とかいうものが本当にあるのか気になっただけだ」


 そういって視線を店舗に移した。

 店主がいなくなった今、あれを二、三本持って行ってもよいのではないだろうか。

 と、俺の視線の意味するところを勘違いしたのかカミラは口を開く。


「あれは全部偽物だけど、ちゃんとあるよ。私錬金術のスキルあるから作れるし。でも、ああいって嘘つくやつらのせいで錬金術師は詐欺師みたいな扱いされてるんだけどね」


 カミラは寂しそうに笑った。


「ところでさ、あのエルフの子、ジャンのことジャックって言ってなかった? どういうこと?」


 そういえば、そんなめんどくさいことになっていたな。


「うむ、それはだな――」


 と、ピーッと甲高い警笛が鳴り響いた。

 そして、そちらの方から青い制服をした男たちが走ってきていた。


「そこ! なにをしている!!」


 つい先日捕まった記憶がよみがえる。

 俺は、ミーアの腕をあわててひっつかんだ。


「すまん、また逢えたら詳しく説明する。ミーア! 逃げるぞ!」


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