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22:我流二刀流剣術

 俺が通されたのは、広い闘技場であった。

 どうやら、カーサオに駐在する騎士団の訓練場らしい。


「おい、貴様は獲物は何を使う」


 ケインは俺に声をかけながら自身は、コートを脱いだ。

 均整の取れた体系をしている。

 そして、両腕を伸ばしたのよりもう少し長い槍を手にしていた。


「槍か」


 通常であれば、同じ間合いの槍の方がいいだろう。

 しかし、できればあの傷の男まで引っ張り出したい。


 俺はあえて、不利な剣を選択した。

 槍は木製であったが、剣の方は刃のひいてい金属製だ。

 ただし、中空にでもしているのやけに軽い。

 そして、なぜか鞘まであったので、一応俺はそれを腰に差した。


「剣か。槍の餌食だな」


「ケイン、あんまり剣をバカにすると団長に殺されるぞ?」


「いえ! 団長の剣の腕前のことではなくてですね、一般論としての話を――」


「おい、その無駄な会話にいつまで付き合えばいいんだ? それともその団長とやらはそうやって戦意をそぐやり方を推奨してんのか?」


 俺は侮蔑を思いっきり込めて発する。


「貴様ぁぁぁぁぁ!!」


 開始の合図などなかった。

 ケインは、二歩で俺を槍の間合いにとらえる。


「終わりだ!!!」


 掛け声とともに俺の顔面に槍が付きこまれる。

 例え、木製であっても軽く致命傷になる一撃だ。

 わずかに身体を横にずらした。


 即座に引かれた槍が俺の足元を狙ってくる。

 剣で槍の進路を逸らす。

 が、即座に引きさらに俺の腹、頭、足、肩と狙ってくる。

 俺はじりじりと追い詰められていく。

 ケインは勝利を確信しているのか、満面の笑みを浮かべている。


 ケインの槍は恐ろしいほど正確で速いものであった。

 わずかに右脚を動かせな、左脚に突き込まれ、前進しようと重心を移動させれば、即座に腹を狙われる。


「どうだ! 貴様の様なガキに騎士が取れると思うな!」


 確かに防ぐのが精いっぱいだ。

 いつの間にか壁際まで押し込まれていた。

 剣一本では防ぐだけで精いっぱいである。


 足りない。速さが。

 足りない。手数が。

 足りない。剣が。


 俺は、その状況から脱出するべく右前に前転で逃れる。


 そして、剣を左手一本で持った。

 さらに、右手で剣の鞘を握った。


【 我流二刀流剣術:初級 】


「おい、なんだよ、それ? 剣術スキルでそんな奴見たことねぇぞ」


 ケインの動きが止まった。目を見開いている。

 が、それは一瞬であった。

 即座に顔面に槍が突きこまれる。

 俺は、左手の剣でそれを払った。


 今度は腹への一撃。

 それを鞘でそらす。


 そして、今度は槍が引かれるよりも早く前進。

 二歩目で槍が横合いに殴りつけてきたので、それよりも低く、這うように走り抜ける。


「てめぇ!」


 ケインの顔に焦燥が浮かぶ。

 そして、慌てたかのように上空から槍を打ち込んできた。

 が、それよりも早くケインの足元に到達。

 左手の剣で胴を打ち払う。

 ケインは、歯を食いしばりながらそれをギリギリ柄で弾いた。

 俺の残ったのは、右手の鞘。ケインに残ったのはがら空きの土手っ腹。

 俺はみぞおちに向かって鞘を突き込んだ。


◆◆◆


 俺はケインの吐しゃ物の匂いにふるえていた。

 気を抜くとすぐにもらいゲロしてしまいそうだ。


「ジャン君、二本武器使ってたけどなんてスキル? 初めて見たよ」


「デクに聞くな」


 ケインが汚物に砂をかけ隠滅したおかげで少し空気がうまくなったように感じる。


「貴様、なにをした! 俺が負けるなど!」


「おいおい、ケイン。俺がなんか見逃したとでもいうの?」


「あ、いえ。しかし!」


「お前の負けだ。さて、ではここいらでお暇しようかな?」


「なに!? 俺はお前と戦うために――」


 俺が言い終わる前にグランは俺の脚を指さした。震えている。


「まて! これはゲロの匂いでだな!」


「別に、今日じゃなくてもいいでしょ? またいつか会うよ。必ずね。ジャック君」


 グランはニヤリと笑ってからその場を後にした。

 ケインも、それについていくように入っていってしまった。


 最後の最後。グランという男が俺の名を呼んだような気がした。

 ただの聞き間違いだろうか。


◆◆◆


 俺が、官憲の建物から出られたのは、翌朝であった。

 身元引受人はミルウーダは、大あくびをしながら俺を迎えてくれた。

 俺は馬車に乗り込むと、ミルウーダの横に座った。


「良く俺の場所が分かったな」


「えぇ、ホントですよ。カミラさんって知ってます?」


「カミラ? あぁ、その女を助けたせいでこうなった」


 俺は赤髪の女を思い出す。


「そうですか。まぁ、その人が、ほらリッカのいる協会に連絡とってくれたんですよ。ジャンって子が捕まったって。エルフの女の子が心配してるんじゃないかって話でしたんで、リッカもピンときたみたいですよ。すぐに馬でウチに来てくれました」


 俺は、感謝よりもあの格好で馬に乗れるのかどうかということが気になっていた。


「ミーアは?」


「もうね、ここについてくるって言って大変だったんですから。今は疲れて家で寝てます」


「そうか、悪いことをしたな」


「まったくですね。あ、きちんとカミラって子のこと話しといたほうがいいですよ」


 俺は、首をかしげる。


「心配させたんですからそのくらいしなさい。教師命令です」


「何が教師命令だ、バ家庭教師。……まぁ、そのくらいのことはしてやるか」


「あと、おんぶがどうこうとか言ってたんですけど何のことですかね?」


「おんぶ? 知らん」


 俺は大きく伸びをすると、馬車の揺れに身を任せた。


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