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21:いいぜ、試させてくれよ。騎士の力ってやつを 

 大きな長机に俺は座らされていた。

 そして、その対面に官憲の男が座っている。


「いや、やりすぎたかもしれんとは思うがな。こっちもとりあえず話数を稼ぐ必要が……」


「何を言ってるんだ。だいたい、露店を一戸半壊させて、強盗は……別にどうでもいいが、その上カミラお嬢様に傷をつけるとは」


「その中で一番不憫なのは強盗だと思うがな」


 露店はカミラが商品を全部買い取ったそうだ。

 さらに半壊とはいえ、素人目で見てもあれはあの娘が整理すれば戻る程度であってあの娘に大きな被害はない。

 カミラに関しても、ただたんこぶができただけだ。大騒ぎしすぎである。


 俺が文句の一つでも垂れようかと思っていると、俺を取り調べしていた官憲の後ろの扉が開いた。


「おい、ちょっといいか?」


 入ってきたのは黒のコートを身にまとった二人の男であった。


 一人は、二十歳を少し過ぎたくらいであろうか。

 赤い髪を短く切りそろえ手入れ、鋭い眼光を俺に向けている。

 そんな目を剥けられたらミーア辺りは泣き出してしまうのではないだろうか。


 もう一人は三十歳前後の大男である。

 目と耳の間から頬までに大きな傷が一本入っている。

 こんな顔を近づけられたらミーア辺りは失禁してしまうに違いない。間違いない。


 その傷男を見たとたん跳ねるように官憲が立ち上がった。

 そして、敬礼の姿勢をとったまま微動だにしなくなった。

 それを、しり目に傷の男は俺の前に座る。

 肩口についていた勲章がジャラジャラと音を立てる。


「君が、あの強盗を捕まえたとかいう、えっと、ジャン君?」


 俺は口を開こうとして気が付いた。

 今まで、どんなときよりも心が浮ついている。

 この男は強い。恐らく俺があったどの人間よりも。

 俺は自身を落ち着けるように引きあがった頬を一度なでる。


「そうだ、といって信じてくれるか?」


「あぁ、信じよう。ただの強盗相手ならスキルが中級もあれば、ガキだってあれくらいやってのけるんじゃないか?」


 と、隣の若い男が机をたたき叫んだ。


「貴様! 妹に手を出しただろ! あまつさえデクであると嘘をついて取り入ったそうではないか!!」


 妹、デク、取り入った。何の話だ?

 俺は、疑問を口にする代わりに傷の男に視線を送る。

 憐れむように俺の視線に返事をする。


「君が一緒にいたとかいう、カミラちゃん? こいつその子のお兄ちゃん」


「お前のせいで! あのかわいい顔に傷が!」


「ついてないからね? ジャン君、そこは安心していいよ」


 心配も特にしていない。


「で、何しにきやがった? 俺のファンならサインは遠慮してくれ」


「貴様! こちらの方は――」


「別にいいよ。ホント暑苦しいね? お前は」


 傷の男は、若い男を手で制する。


「私はグラン・バルバッツィ。第五騎士団ではグラン少佐と呼んでくれれば通じる。そして、こっちはケイン・アルマイン。私の護衛だ。とはいえ、私の方が強いからね? この街出身だから案内に連れてきただけ」


 案内、と言われて恥ずかしかったのか、ケインは顔をそむけた。

 傷の男はそんなことも気にせず官憲にちらっと眼を送る。

 そして、手でシッシッと追い払ってしまった。


「さて、本題に入ろうか。実はさ、その強盗なんだけど実は元騎士なんだよね。中級。なんであんな落ちぶれてたのかわかんないけどね? それを、子供が捕まえた。しかも、本人はデクだと言ってる。少し気になるだろ?」


「何が気になるんだ? それとも何か? 中級一人いりゃお前ら全員ビビッて引きこもっちまうのか?」


 口を開こうとしたケインをグランはにらむ。

 ケインはぐぅと喉の奥で唸った。


「そうだ、中級、上級は怖い怖い。だから、スキルは国も確認している。特にこの街はスキル鑑定を全員行っているからな。その中であれを倒せる、あまつさえ殺さずに無力化できるような人間はいないはず、だ。なのに、そんなことが起きた。だから気になる。おかしくないだろ?」


 俺は、両足を机の上にどんっと置いた。


「で、俺をどうするってんだ? またスキル鑑定でも受けさせるか? 時間の無駄だぜ」


「グラン少佐に向かってなんたる!」


「落ち着けよ、ケイン。こいつ子供のくせに俺たちを煽ってんだよ? それに乗ってどうするのよ。大人でしょ?」


 俺の目論見はバレていたらしい。


「ちょっとね、ジャン君の力を試したいわけ。わかる?」


 来た。

 俺は、机から即座に足を卸す。

 両口角がひん上がっているのもお構いなしにグランに顔を突きつけた。


「いいぜ、試させてくれよ。騎士の力ってやつを」


 と、横合いから何かの気配。

 首だけでそれを避ける。

 それは、ケインの拳であった。


「俺がやります。俺にやらせてください。妹の仇を取ってやる」


「いや、生きてたでしょ? カミラちゃん元気にしてたじゃないの」


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