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20:ライトブルー 

 カーサオの街の活気の理由の一つに露店で販売されている様々な食べ物があげられる。

 近場の漁港で獲れたタコを使ったタコヤキや、たくさんの野菜を混ぜ込んだお好み焼きなどだ。

 こういったものは、小麦粉を使用しているので粉もの、などと呼ばれている。

 それにソースをかけて食べる料理がカーサオの名物の一つだ。


 まぁ、個人的には我がヴェッティン領の純朴な料理が好きだ。

 ソースというものは、食材の微妙な風味を吹き飛ばしてしまう。


「ジャン、鼻の孔広がってるわよ。そんなにソースの匂いが気に入ったの?」


 俺は、ソースがもつ強制催眠のスキルについて議論しようとカミラの方を向くと一人の男が走ってきていた。

 後ろを気にしているのか、ぶつかりそうだったので、カミラの手を軽く引く。


「きゃ」


 俺の胸の中でカミラが軽く叫んだ。

 が、すぐに走り抜ける男に意識を戻す。

 俺は、その男に足を引っ掛けた。


「あえっ?」


 奇妙な声とともに男がすっ転んだ。

 そして、叫び声を引き連れながら壁際の果物売りの露天商に突っ込んだ。


「きゃー!!」


 露天商の店員だった少女が金切り声をあげる。

 あたりの喧騒は一瞬で静まり返る。

 そして、そこへ、男が三人追いかけてきた。


「てめぇ! 逃がさねぇぞ!!」


「なんだ? やかましくなってきたな」


 俺はポツリと呟いた。

 と、露天に突っ込んだ男は起き上がり、売り子の少女にナイフを突きつけた。

 もう一度悲鳴をあげようとしたが、失敗したらしく上ずった声がかすかに漏れた。

 そこで、胸の中で潰れていたカミラがジタバタとしだしたので解放してやる。


「祭りの余興かなんかか?」


「そんなわけないでしょ。一体どうしたのよ?」


 カミラが、追ってきた男の内、顔に傷のある男に声をかけた。


「強盗だ! 奴は裏道で老婆を殺して金奪いやがった!」


 と言って、カミラの顔を確認して、その男は顔色を変えた。


「お嬢様!? なんでこんな所に!??」


「そんなことどうでもいいわよ! それよりあの子をなんとかしなさい!」


 カミラの声に男達は再度強盗の方に視線を送る。


「こいつら知り合いか?」


「私の家の使用人よ。腕が立つのを集めてはいるんだけど……」


 三人共に油断なく強盗から三メートルほど離れた剣を構えた。

 が、やはり人質のせいか攻めあぐねているようである。

 少女の目に涙が溜まっていく。

 頭に思い浮かんだかつての嫌な記憶が、よみがえり俺は思わずかみしめていた顎をさする。


「おい、強盗。お前を引っ掛けたのは俺だ。悪かったな」


 取り囲んでいた男たちから一歩進み出たところに立つ。

 そして、強盗と相対した俺は口を開く。


「お前、その娘を人質に取ったつもりだろうけど、最悪その娘ごと殺されるぞ」


「ちょっと、ジャン何を――」


 俺は、寄ってきたカミラの腕をとった。


「いいこと教えてやる。この女はこいつらの雇い主だ。こいつなら人質ごと殺されるってことはない」


 俺はカミラを抱き上げた。

 以前、領内の結婚式でこの抱き方を見た時ミーアがうらやましいと言っていたな。

 お姫様抱っこだとかいうらしいものに、驚いたのか、カミラは顔を真っ赤にしている。


「え? 急に何?」


「受け身はきちんととれよ」


 俺は、腰を落としながらひねらせる。

 力を背の筋肉に溜め、反対にひねりながら解放。

 カミラを空中に向かって放り投げた。


「きゃーーーーー!!!」


 カミラの叫び声。

 辺り一帯の視線が空中にいるカミラに集まる。

 カミラもまた慌ててスカートを押さえたが、わずかに遅かった。

 まぶしいライトブルーに俺は目を細めながら剣を抜く。

 そして、構えるのではなく、柄の方から一直線に強盗に向かって投擲した。


 ゴッという鈍い音が響いた。

 剣の柄は狙い通り強盗の鼻っ柱に突き立っている。

 そして、鼻血の尾を引きながら後ろに倒れた。


「こっちだ」


 強盗の拘束から逃れた少女の腕をとる。

 わずかに少女の服に強盗の指がかかっていた。

 即座にその指をつかみ反対に折り曲げる。

 白い物体が突き出た後で、赤がそれを追いかけていった。


「終いだ」


 俺は、強盗の首を軽く踏みつける。

 動けば即骨が折れる体勢だ。

 さすがに強盗もそれはわかったらしく、痛みからか、口から泡を流しながら歯を食いしばっている。


「あ、ありがとうございました」


「気にするな。むかつくことを思い出させられただけだ」


 少女がぺこりとお辞儀をしたので俺はボリボリと頭をかいた。

 そこへちょうど官憲たちが集まってきたのでカミラの使用人たちに強盗を引き渡して後を任せる。


「おい、あんたすげぇな!!」


 と、隣の露店をやっていた親父が声をかけてきた。


「あれスキルか? 剣投げたやつ」

「いや、単なる投擲だ。練習すれば誰でもできる」

「いやいや、できねぇよ。あれだな。兄ちゃんは末の騎士団長様だな。ほれ、これもってけ」


 親父はそういって箸にお好み焼きを巻き付けたものを差し出してきた。


「なんだこれは?」


「はしまきだ。知らねぇのか? うまいから食ってみろよ」


 俺は、ソースが口の周りにつかないように大きく口を開けるとそれの三分の一までツッコミ噛み切る。

 ソースの香りが鼻を抜ける。

 そして、生地がシャキシャキとしたキャベツの甘みと紅ショウガの辛みを取り込み口内に味を行きわたらせる。


 俺が、そのはしまきをすべて食い終わるころにカミラがやってきた。


「お尻と頭打っちゃったじゃない」


「すまんかったな。ああするしかなかった」


「嘘つき! あんたなら他に方法あったでしょ!」


 俺は、箸をくわえたまま視線を宙にめぐらす。


「他の手段は四つくらいしかなかったよ」


「あるじゃないのよ!」


「そんなことよりも、俺におごるって言ってたよな」


 俺はくわえた箸をピコピコと揺らした。


「言ったけど……」


「この娘の屋台の果物、買ってやってくれよ。俺は今手持ちがない」


 俺はつぶれた果物を指さした。

 娘はそれを聞いて首をぶんぶんと振りまわした。


「結構ですよ! 助けてもらったのに!」


「気にするな、こうなった原因が俺にも一割くらいあるんだ。しかもこの親父がおごってくれたから飯代はタダだ。気にするな」


「わかったわよ。ちょっと待ってなさい」


 カミラは使用人のところへ金の話をしに行くようだ。

 それと入れ替わりに官憲が強盗を連れてこちらへ来た。

 その横の強盗は手にひもを結び付けられている。


「すいません、今話を聞いているんですがちょっとよろしいですか?」


 俺と娘は同時にうなずいた。


「強盗が、この露店に突っ込んだ理由はわかりますか?」


 誰も答えない。と、強盗の無事な方の指が俺の方を向いていた。

 俺を見る官憲の男の目に疑惑の色が浮んでいる。


「えっと、強盗の指がすごい勢いで折れてるんですけど、理由わかりますか?」


 あ、といって娘が俺を指さした。

 官憲の男の目が鋭くなる。

 おいおい、どうなっているのだ、この状況。

 そこへ、カミラが戻ってきた。

 官憲が声をかける。


「カミラお嬢様、お怪我はありませんか?」


「あるわよ。ぶん投げられて頭打っちゃった」


「なんと! それは誰に?」


「ん? ジャンよ」


 カミラが俺を指さした。


「えっと、ちょっと詳しく話を聞かせてもらうよ」


「おい、まて、待つんだ! おい」


 俺の声はあたりにむなしく響いた。


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