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16:助けてジャック! 守るって言ったじゃないですか! 

 ダンジョンへ行く。

 そう、俺たちはダンジョンに向かうはずであった。

 がしかし、俺の行く先にあるのはダンジョンではない。

 俺がこの世で最も嫌いな建物である。


「ジャック、早くいきましょうよ~」


 先を行くミルウーダの後ろについていたミーアが振り返り俺の方に声をかけた。

 俺は、笑って役に立たなくなってしまった膝の代わりに剣を杖代わりにして歩いていた。


「おい、ダンジョンに行くのだろう。なぜ、教会に行く必要があるのだ」


「そりゃ、ダンジョンに行くためですよ」


 そういってミルウーダは教会の扉をくぐる。

 ミーアもそれに続いた。

 俺は、一度立ち止まり、長く息を吐く。そして、意を決して教会に入った。

 七歳祝いで訪れた教会よりも少し小さい教会だ。

 何とも静謐な空気が流れている。吐き気がする。


「あ、ジャック様、こっちこっち」


 俺は、ミルウーダに言われるまま教会内のさらに奥まった部屋に入った。

 そこは、でかいテーブルが置かれていた。

 そして、その上には大きな地図が乗っている。

 おそらくこの辺りの地図だろう。


「冒険者カードは持ってるか?」


 俺たちが入ってきたのとは別の扉が開き、それと同時に女が入ってきた。

 はっきりと性格がきついことがわかる眼鏡をかけている。

 胸はミルウーダに負けず劣らずといったところだ。

 白衣にセーターとタイトなミニスカートという風体のせいか出る所は出る、引っ込むところは引っ込むといった具合がよくわかる。



「久しぶりね、リッカ。元気にしてた?」


 そういうと、ミルウーダはその女、リッカとやらに手を上げた。


「お知合いですか?」


「うん、高等学校の同級生のリッカ・モヤンスキー。

 公勇堂教会のシスターだよ」


 しかし、二人の会話など気にもせずリッカは口を開いた。


「カード」


「いいじゃない、リッカと私の間――」


「カード」


「……はいはい。相変わらず融通が利かないわね。どうぞ」


 ミルウーダは、背負っていたカバンをごそごそと探る。

 いい加減整理整頓ぐらい覚えろ、とぎりぎり言われないタイミングでリッカにカードを差し出した。


「おい、そのカードは何だ?」


「教会で依頼を受けるための身分証明書ですね。

 カードの隅に穴が開いてるでしょ?

 あそこから覗くことで本人かどうか証明できるんだそうですよ。

 魔導工学の方は専門外なので細かいところはよくわかりませんけどね」


 確かに、リッカは受け取ったカードの隅からミルウーダを覗き見ている。

 確認が取れたのか、ふんと鼻から息を吐き出し、カードを突き返した。


「あなたにちょうどいい話があるわよ」


 リッカは、地図の前に立つと、呪文を唱え始めた。

 すると、地図の左上部が明るく光りだした。


「ちょうどここにダンジョンが発生したの。

 広さからいってAランクよ。

 本当にちょうどいいところに来てくれたわね」


「ランク?」


 今度はミーアが疑問を呈す。


「ダンジョンのサイズはそこにいる魔物の強さに比例するんだよ。

 弱いのだったら別にいいけど強いところに弱い人たち送り出して変な魔物になっても困るでしょ?

 そのためのランク付け。

 Aランクってことは発生してるダンジョンがでかいってことだね」


「そういうこと。後から後詰がいくかどうかはあんたの運次第ね。

 とりあえず行ってもらうわよ」


「頼まれるってことは、ミルウーダさんAランクってことですか? すごーい!」


「まぁねぇ~でもなぁ」


 ミルウーダは、少し首をひねった。

 困った……ふりだな、これは。


「危険なのに一人で突っ込めとか酷いなぁ~」


 明らかな棒読み。リッカは長く息を吐いた。


「あなたには、公勇堂教会の信徒としての自覚はないの?」


「私は、神を信じてるのであって、教会に仕えてるわけではないのですわよ」


 ミルウーダは親指と人差し指を輪にしている。


「仕方ない。一番槍として魔石の買取金額を上乗せしてあげるわ。

 あと、依頼料を出すわよ」


「アリガトー、大好キー」


 なんで片言なんだよ。


「ついでにですね。

 この二人を連れていきたいんで登録しちゃってちょうだい」


 リッカは値踏みするように俺たちを交互に見た。


「今回は相当に危険よ。やめといたほうがいいわ」


 どうやらお眼鏡には適わなかったようだ。

 がミルウーダは指をちっちっと振って否定する。


「一か月前、ヴェッティン領であった騒ぎ、知ってる?」


「ええ。こっちでも騒ぎになったわ。

 なんせここ数十年、百人規模で盗賊が反乱を起こしたことなんて聞いたことないもの。

 さすがは、ヴェッティン公って噂になったわ」


「あれね、半分くらい切ったのこの二人」


「……」


 リッカの視線にミーアが恥ずかしそうに頭をかいた。


「うそでしょ?」


「本当よ」


 リッカは少し顔を険しくした後でミーアの前に立ってペタペタと至る所を触りだした。

 何をしているのだ。


「く、くすぐったいです! やめて! やめてぇぇぇぇ!!」


「えっと……」


 ひとしきり弄り終えるとリッカはミーアを解放した。

 ミーアは、顔を真っ赤にしながらリッカの足元に崩れ落ちる。


「弓の才ね。大胸筋が発達してるわ。

 あと、身体さばきに関しても才がありそう。

 まぁ、この二つはエルフだし予想通りね」


 なるほど、つまりリッカとかいうこの女は簡易的にスキルを確認しているのか。

 ミーアに関して俺の予想と差はあまりない。

 なんとも便利な能力だな。

 スキルではないのだろうが。


 と、リッカが俺の前に立った。

 手をワキワキとさせている。

 え? マジ……?


「う~ん、剣の才…… 槍の才…… あとは体術も才がある?

 何、この子。騎士団にもこのレベルはそうそういないわよ。

 騎士団長殺しでもするの?」


「いや、何恐ろしいこと言ってんのよ」


 俺は、くずおれた身体を何とか立ち上がらせる。

 がんばれ、俺。


「お、俺はデクだ。残念ながらあんたの見立ては間違いだ」


「……嘘?」


 リッカはミルウーダに視線を送った。


「ホント。その子、正真正銘のデクよ。

 なんだったら国に保管されてるスキル鑑定の報告書を確認するといいわ」


「もう一回確認させて」


 リッカがワキワキとするので俺は、両手を掲げ威嚇した。

 近寄らば斬る、ならぬ折る。または揉む。


「何よ、別にいいじゃない、減るもんじゃなし。

 もういいわよ、こっちの子で」


「え? こっちって誰ですか? いやです!

 やめてください! 助けてジャック!

 守るって言ったじゃないですか!

 じゃっくぅぅぅぅぅ!!!」


 ミーアはリッカという腐海に飲まれていった。

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