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14:オフェンスは頼みましたよ。二人とも 

「ミーアちゃん。あっちの人にお水を持って行って」

「わかりました」


 ミーアと母上が屋敷の中を走り回っている。

 それをしり目に俺は、ミルウーダに屋敷の外に連れ出されていた。


 始まりは唐突であった。

 秋の収穫祭が終わり、いつも通り酒宴が始まった。

 そこへ、二人の男が現れた。旅の楽師だというその男たちは、音楽を奏でだした。

 飲めや歌えの騒ぎになったところで、歌を歌っていた男がぴぃと指笛をふいた。

 俺の身体が瞬時に右腕に指令を出す。気が付くと、眼前に飛んできた矢を抜いた剣で切り払っていた。


 ミルウーダ、そして、父上もまた同様に剣を抜き放ち矢の飛んできた方向を向いていた。

 辺りでは何人かが矢により怪我をしているらしく、うめき声が響き渡る。


「みんな、屋敷に入れ! ウルフィルダ! 先に行って屋敷を開けろ! ジャック! けが人を連れていけ! ミルウーダはケツを持て」


 父上の怒号。瞬間、沈黙は叫び声となった。

 現在、父上が、屋敷の前で数十人の男たちと対峙している。

 そして、屋敷から連れ出されていた俺は、その屋敷の周りをぐるぐると連れまわされていた。


「坊ちゃん。そろそろイライラが頂点に来ました?」

「わかってるなら、早く父上の元へ行かせろ」


 俺は剣に手をかける。


「お父様なら大丈夫ですよ。知ってます? 剣術上級ですよ」

「何?」


 う~む、全くそんなそぶりなど見せたこともなかったが……

 ならば、俺の訓練を手伝ってくれればいいのに。


「あの人を剣で殺せる人間がいたらそれは人間とは言えないでしょうね」

「では、俺たちは何をしているのだ。犬のようにぐるぐると」


 と、けが人の手当てをしていたミーアが現れた。


「とりあえず、けが人はある程度落ち着きました。ウルフィルダ様は少し疲れたようでソファに横になってもらっています。他の人たちも落ち着いてきています」

「そっか。それはちょうどよかった」


 ミルウーダは父上の方を見た。


「二人に問題です。なぜあの賊どもはお父様へ一気呵成に攻めないのでしょうか。あちらには矢もあるのに」

「こんなときにクイズやってる暇ありませんよ!」


 めずらしくミーアが叫んだ。

 が、ミルウーダはどこ吹く風といった風にカウントダウンを始めた。

 答えなければ、先に進まない様である。


「まず、矢を打たないのは温存だろう。あと、あの力量差では攻めたところで、逆に瞬殺……」


 そうだ、逆だ。なぜ父上があいつらを攻め立てないのだ?


「気づきました?」

「伏兵がいるのか?」

「ピンポーン。お父様もそれがあるのでこの場所を離れられないんですね。あいつらは攻めあぐねているのではなくてお父様をもっと引きつけたくてあんな温い戦い方をしてるんでしたー」


 ミルウーダはパチパチと手を打った。


「こういう時の作戦は二つ。一つは囮の背後をつきます。囮はだいたい賢いのでいくらか減れば逃げていきます。もしくは伏兵の方に奇襲をかけます。伏兵はだいたいアホなので自分が奇襲かけられると思ってません。ある程度減ればびっくりして逃げます。特に今回の相手はお父様一人しか戦力に見ていません。本物のアホですね」


 俺はこいつの考えがよく理解できない。この状況で戦術の有用性を説きだしたのだ。

 前世そんなことに頓着したことはなかったな。突っ込んで殺す。それで終了だった。

 確かに、少しはそういうことを考えてもいいかもしれん。

 俺はそう思い森の方を見た。ミルウーダもそちらを見ている。


「さて、お二人に――」

「ミルウーダ!!」


 声のした方を見た。

 そこには扉を支えにしている母上がいた。必死の形相だ。


「二人を危険な目に合わせるのはやめて!」

「ダメです、ウルフィルダさん。ジャック様は領主の息子です。ここを守る責任がある。例え命に代えても」

「そ、そんなこと私が許しま――」

「母上!!」


 俺は言葉を遮った。


「母上は、屋敷の中へ。あなたがいれば、みんなも安心するでしょう。俺とミルウーダでは、おそらくここをうまく守れるのはミルウーダだ。それに……」


 俺は一度言葉を切った。今の言葉には一つ嘘がある。

 その理由を考えていると、親指が無意識にひん上がった右口角をなぞっていた。

 こんな面白そうなこと、人にやらせるか。


「なんでもありません。母上。必ず戻ります。信じてください」

「そうですよ~たぶん、いるのは少数ですから。あ、これ成功したらダンジョンの場所を教えましょう」

「まて、ミーアは……」


 その発言はまずい。俺はミーアを見た。

 ミーアの目には確かに恐怖が浮かんでいた。

 が、しかし、あの頑固な色も浮かんでいる。


「ジャック。学校に行きたいのは私も一緒です。だから置いていくなんて言わないで」


 この顔はダメだ。たぶん何を言っても、勝手についてくる。

 ミルウーダめ。これも狙いの内か。


「さて、さっきからぐるぐる回ってたのは、弓を射る奴らの意識を探ってたんですよ。伏兵がいる位置、ジャック様にはわかりました?」


 俺は森の方を指さした。

 ミルウーダは嬉しそうにパチパチと手を叩く。

 がそれを無視して、扉の前にいた母上の前に歩み寄った。


 母上はよほど衰弱しているのであろう。右腕を震わせながら俺の頬に手を置いた。

 俺はその手に自分の手を添わせた。


「ミーアちゃんも来て」


 母上に言われるまま、ミーアもまた俺の横に立った。

 母上は、そのまま俺たちを抱きしめた。


「あなた達は私の子供よ」

「あり…… ありがとうございます」


 ミーアが上ずった声で呟いた。


「さて、ディフェンスは私が務めますから、オフェンスは頼みましたよ。二人とも」


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