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11:まだ唱えてる途中でショウガぁ 

 鍛錬場とは麦畑より一回り暗い小さな広場である。

 広場と違うところと言えば、周囲を腰の高さ程度の柵で囲っており、入口には木剣や模造槍などの訓練用武具が置かれている点である。


 ちなみに、現在、いや、正確にはいまだかつてだが、この学校に武術系スキルを持った教師が来たことはないらしい。

 一応作っただけでいつもは、生徒たちが走り回るくらいにしか使われていない。


 だからこそ、俺たちの騒ぎを聞きつけた教師たちは慌てて俺たちを制止した。

 なにせ、ヒルクスはスキルをいくつか持っているらしく、本気になったら教師たちでは止められないからだ。


「これは貴族同士の決闘だ! 文句があるならば相応の理由を言ってみろ!」


 ヒルクスは教師たちを恫喝した。そして、入口で肘から手首程度の長さをした短木剣を手に入っていった。

 いたしかたなしに教師たちは俺の方へ寄ってくる。


「ジャック君。やめなさい、こんなことは。君では勝ち目がない。今なら私からも口添え――」

「邪魔だ。どいてくれ」


 俺が木剣か槍かで悩んでいるとミーアがそばに寄ってきた。


「ジャック、何考えてるんですか。らしくないですよ」

「らしくない、か」


 なるほど。確かにいつもの俺ならば、ヒルクスなどという豚にケンカの安売りなどしないだろう。

 なぜだろう、妙にいらいらする。


 がしかし、それだけが原因ではない。俺の本当の目的を思い出す。

 俺はいつの間にか上がった口角を親指でなぞった。

 そして、木剣を片手に入口から入る。早く閉めろというヒルクスに対して口を開いた。


「おい、ヒルクス。さっき言っただろ。取り巻きを全員入れろ」

「何?」

「何が貴族の決闘だ。これはただのケンカだ。ケンカはケンカらしく派手にやろうじゃねぇの」


 ヒルクスはガァッと叫んだ。そして、取り巻きの三人を鍛錬場に入れる。

 取り巻き達は思い思いの武器を手に俺を取り囲んだ。


「ジャック! 今から何を言っても終わらねぇぞ。出られるのは死んだ時だ」

「そういうな。腕の二、三本で勘弁してやるからよ」


 俺は木剣を肩に担いだ姿勢でヒルクスを指で挑発した。

 そして、それが合図となった。


 最初に突っかかってきたのは、俺と同じく長剣を持った男であった。

 右手の方向から走り込んでくる。


【剣術:初級】


 俺は、それを軽くいなすと、男の背に回り込む。そして、その背を軽く押す。

 左手方向から来ていた槍の男ともつれ合い、二人は倒れた。


 次いで、正面から来ていたツーハンドソードの男と相対する。


【剣術:初級】


 男は振りかぶると、重さに任せて振り下ろした。

 木製とはいえ、そのサイズのせいで結構な質量がある。受けるより回避を選択。


【短剣術:初級】《瞬歩》《陽炎》


 と、そこへ突如ヒルクスが眼前に現れた。低い姿勢から伸びあがってくるように短剣が俺の喉元につきあがってくる。

 俺は、身体を逸らせて避けると、そのままバク転で距離を開ける。


「あの時とは違うね、ヒルクス君」

「このガキぃぃぃぃ!!」


 同い年だろ、と心の内で呟きながら俺は、左手を胸に置いた。

 そして、最近練習中の物、魔術の詠唱を試す。

 そう、いいだけケンカを売ったのは多数を相手に魔法をぶちこんでみたかったのだ。


「我が深淵なる神の使いよ。我が願い――ぐへぇ」


 魔術の詠唱中の俺の頬に槍が叩きこまれた。

 俺は、空中で一回転しながら吹っ飛び、地面に着く瞬間に手をついて側転し、衝撃を殺す。

 その勢いで体制を整えると俺は叫んだ。


「何しやがる! まだ唱えてる途中でショウガぁ!」

「デクが魔法なんか使えるか!」


 長剣の男がさらに追撃の一撃を振り下ろしてきた。

 俺は、それを剣で受けると腹に一撃蹴りをくれる。


 にしても、と俺は思った。俺の魔法はまだ実践の域にはなかったか。

 うむ、予想通りだな。

 完全に叩きのめしてから練習すればよかったか。


「よし、次は誰だ」


 俺の一言に取り巻き達は色めき立つ、と思ったのだがそうはいかなかった。

 どうやらデクごときにやられるとは思っていなかったのだろう。

 腹に蹴りをくれた男が嘔吐しているのを見て意気地を失ったらしい。


 ここまでか、と思った瞬間背後に気配。


【我流剣術:初級乙】《我流見切り:初級乙》


 俺は、振り向きざまにその気配に踵を叩きこんだ。

 が、それをヒルクスはギリギリで躱していた。


「てめぇら! ここでやめたら、全員覚えとけよ」


 ヒルクスの目には怒りがあった。

 そして、その目に取り巻き達は飲まれたようにもう一度武器を構える。

 俺の中で意思に再度火が灯った。


 槍を構えた男が低い姿勢で構えている。突撃の姿勢だ。

 身体に向かってくる直線の動きを受け止めるのは難しい。

 俺は、サイドステップで右に避ける。

 と、今度はそこへツーハンドソードが叩き込まれた。

 連携を使ってくるとは思っていなかった俺は、わずかに驚いた。


 心が歓喜している。これこそ一対多の戦闘だ。


 俺は、ツーハンドソードを剣でいなす。が、その重さで身体の体勢がわずかにずれる。

 そこへ、ヒルクスが短剣を突き込んできた。

 俺はヒルクスに向かって持っていた剣を投げつけた。


「投げるだと?」


 ヒルクスが攻撃を中断する。俺は、瞬時に体を屈める。そして、しゃがんだ体勢から溜めた足を瞬時に解放。

 ツーハンドソードの胸元に飛び込んだ。そこは拳の間合い。

 俺は、脇腹に一発掌底を撃ち込む。そして、右手をつかむとツーハンドソードを奪い取った。

 あ、という元ツーハンドソード使いの男を場外へ投げ飛ばす。


 そして、今度は俺の頭上に槍が叩きつけられた。

 それを大剣で受け止める。ギシリとツーハンドソードがきしむ。

 俺は、それを聞きながら、受け止めた槍を滑るように走った。


「なにぃ?」


 槍の男の元に三歩目で到達。そして、四歩目の踏み込みを利用して顎を柄で殴りぬける。

 俺は体験を放ると、今度は槍を奪い取った。

 そして、目の端にとらえていたヒルクスに即座に突き付ける。


「終わっていいか?」


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