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10:俺が必ずお前を守ってやる

 ミーアが来て三カ月ほど経っていた。

 ミーアの母君は、我が家に移るのはめんどくさいということで結局あの廃屋に住んでいる。

 なんでも最近は寝ている時間が長く、ミーアにいられてもめんどうなのだそうだ。

 娘が出ていくことに反対どころかもろ手を挙げて賛成していた。

 ミルウーダ曰く、いつまでも子供が親元にいるべきではない、という考えがエルフにはあるそうだ。

 今回、ミーアをほとんど追い出した形になったのはそれも関係しているのだろう。


 ちなみに、ミーアが来るまでは、暗黙の了解でエルフの話は禁じられていたらしい。

 今では、そんなこともなく、ミルウーダからミーアと一緒にエルフや歴史のことを学んでいる。


 そんなわけで、俺たちは毎朝学校へ行く前に、こうやってその廃屋に来ていた。

 ミーアが母上に水をやり、俺はその間、この廃屋をいかに美しく荒らすかを考えるのが日課であった。


母様(ははさま)はまだ寝てましたよ。そろそろなのかな……」

「そろそろ?」


 俺たちは学校へ向かい歩き出した。


「はい、母様が言ってたんですが、エルフはいつか完全に植物になるんだそうです。母様はまだ意識がありますが、それもいつまでもつか……」

「それは…… 悪かったな。引き離してしまって。それなら、ここで寝泊まりしてもいいぞ。俺が」


 ミーアが少しきょとんとした。そして、くすくすと笑いだした。


「大丈夫ですよ。母様が出て行けって言って私が決めたんですし。それに普通は、ここから通ってもいいぞ。とか言うじゃないんですか?」

「それはダメだ。時間がもったいない。あと、お前ひとりここにいて、何かあったら助けられん」

「えっ?」


 そうだ、これだけの人材だ。ゴミカス辺りが青田刈りと称して暗殺など企てかねんからな。

 この世界にいるのかどうかは知らんが。


 などと、考えていると、ミーアが赤くなってもじもじとしだした。


「あの、えっと、あ……ありがとうございます……」

「うん?」

「守ってくれるって」


 雇用主としては最低限のことだとは思うが…… いや被差別民だからこそ、そのような態度なのかもしれんな。

 ここは安全と安心を与えるべきであろう。


「気にするな。俺が必ずお前を守ってやる」


 代わりに、魔法をもっと教えろ。


「はい!」


 俺の心の内でも読んだのかミーアは元気よく返事をした。


◆◆◆


 学校という場所で俺はだいぶこの世界というものを学んだ。

 それは、学問。という意味ではない。

 というか、そのくくりで行くならば、家でミルウーダの話を聞いていた方がよっぽど役に立つ。

 なんとも、心の底からの驚きだが。


 では、何を学んだのか。単純だ。人間社会というものを学んだ。


「相変わらず仲がいいなぁ。デクとエルフでちょうどいいカップルだぜ」


 教室に入るといつも通り、デブが俺に突っかかってきた。

 ヒルクスの取り巻きがくすくすと笑いだす。


 これがいつもの日常だ。

 別に俺が何かやったわけではないし、ミーアもエルフというだけだ。

 にもかかわらず、こいつは俺たちを貶め辱めようとしてくる。人間とは本当に愚かしい。


 無視を決め込んだ俺の脇を、緑の服を着た取り巻きの男が一人すり抜けていった。

 そして、ミーアの手をつかんだ。


「お前、このデクの家に住み込んでるらしいな」


 別に隠したつもりはない。ただ、言って回る必要がなかっただけだ。


「おい、その手を離せ」


 俺の言葉に緑の服の男が口を歪める。


「お優しいねぇ。エルフも自分の体の使い道ってやつをよくわかってるんだな」

「俺たちにもこのエルフ使わせてくれよ」


 デブはそういうとニヤニヤと下品に笑う。

 俺はそれを見てふと何かを思い出した。デブの名はヒルク……あ。


「お前、ヒルクスだったか?」

「何だよ、俺の名前を忘れたのか? デク。スキルどころか脳みそもゼロなのか?」


 ゲラゲラと仲間数名と笑いだしたが、それを意にかけずヒルクスの前に進み出た。

 そして、俺は頭を下げた。


「あの時はすまんかった」


 ぽかんと周りがしたのが分かった。


「なぜおまえがこんなにまで俺に突っかかってくるのか不思議だったんだが、今理解したよ」

「ジャック様、何かヒルクス様と会ったのですか?」


 ミーアは俺の顔を見つめて聞いてきた。


「あぁ、昔、七歳祝いの時にあったことがあってな。挨拶しようと思ったら、ヒルクスの顔に思いっきり頭突きをしてしまったことがある」


 俺は、ヒルクスの顔を指す。


「見ろ、その時の後遺症だ。鼻がこんな形にひん曲がっちまってる。それに贅肉だらけのこの身体……」


 ヒルクスの顔に青筋が浮かんだ。そして思わず息を吸い込んだのか、豚のようにフゴッと鼻を鳴らす。

 隣にいたヒルクスの取り巻きが笑いをこらえている。


「本当に悪かったな。今度、どすふぁ…… じゃなくてなんだったかな。猪の脂の軟膏でも――」

「てめぇいい加減にしやがれ!」


 ヒルクスが掴みかかってきた。俺はそれに逆らうことはしない。

 ヒルクスは胸倉をつかむと、息がかかるほど顔を近づけてきた。


「鍛錬場に来い。けりをつけてやる」

「え~ でもまた頭突きしたら悪いし~」


 ヒルクスがそこで手を放したので俺は自由になった。


「なんだ? びびってんのか?」


 ヒルクスの作ったようなあざけりの表情を見てから俺はあたりを見渡す。


「全員で来るならいいぜ?」


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