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第6話 体で覚える本場(異世界)修行

 

 そして時は流れて一ヶ月。





 正直なところ、俺自身修行はあまり長続きする事なく二、三日程で終わりを迎えるものだと思っていた、だがしかし俺の予想に反して修行は一月もの間継続されていた。



 その理由は、この世界は命の危機が身近にある危険な世界だと改めて思い知らされたからである。



 具体的には俺が修行に飽きてきた三日目に行われた修行によって命の危機に直面したからだ。


 その修行内容は、魔物との戦闘。


 いやそれ修行じゃなくて実戦だろという俺のツッコミは届く事なく、修行日数わずか2日の俺はこの世界における最弱レベルの魔物ホーンラビットと死闘を繰り広げた。




 死闘とは言っても結果は楽勝、だが俺はその戦闘で死の気配を身近に感じ、この世界での命の軽さと自衛手段の大切さを学ぶこととなり、それ以来俺は今まで以上に真剣に修行に取り組むようになった。


 ただ結果的に俺は身を守る手段を得る事が目的のはずの修行で度々死にかけると言う本末転倒な事態に陥っていた。




 俺の修行はあの死闘以降は基礎訓練を除きほぼ実戦、相手はエレインがどっかから連れてきた動物や魔法で創り出した魔物、の姿形をした精霊らしい。


 それを相手に俺は木剣一つで立ち向かう、当然命の危険を感じたことは一度や二度ではなく、その度にエレインが完璧な形で救出してくれるのだが、俺はそんなギリギリに迫った死の感覚に慣れるわけも恐怖心を克服できるわけもなく、最近本格的に修行を辞めたくなりつつあった。




 ♂♀




 湖の傍で相対する二つの人影、一見すれば遊んでいるように見えなくもないが片方が放つピリピリとした闘気がその言葉を否定する。


 その2人とは言うまでもなくレイヴィンとエレインの2人だ。


『それじゃあ今日も行っちゃいますよぉ〜、ほいっ!』


 エレインが呑気な声を出しながら魔法を行使する。

 エレインの目の前の空間が揺らぎそこに靄が集まるとそれは少しずつ異形の生物を形創っていく。


 現れたのは、オレンジ色の瞳と縦に割れた瞳孔が特徴的な全身を鱗に覆われた世にも奇妙な二足歩行のトゲトゲしいトカゲ。


 それはリザードマンと呼ばれる人型の魔物だった。


 本物の魔物ではなくただ形を似せただけの偽物、本質は精霊であり魔物であるリザードマンとは異なるが姿形は魔物に存在するそれと同一、そしてエレインが魔法で創り出された魔物はは本物の姿形だけでなくその戦闘能力までもが忠実に再現されている。


 つまり実際の魔物と同一の戦闘能力を備えたいくらでも作り出せる人形という訳だ。


「うん、なんて言うかつくづく理不尽(ファンタジー)


「キッ、シャァァァアア!」


 俺を視界に捉えたリザーマンは手に持っていた槍を構え俺に向けて咆哮を上げながら襲い掛かって来る、その様子は生きている本物の魔物にしか見えない。


「甘い」


 俺はリザードマンが繰り出した突きを余裕を持って回避した。


 修行が始まったばかりの俺だったなら間違いなく恐怖で固まり食らっていただろうが一ヶ月もの間、物理精神ともに地獄を垣間見る特訓によって俺の戦闘能力は向上し、戦闘の空気というものに慣れ、並以上には戦えるようになった。


 リザードマンこそ相手にしたことはないものの他の魔物型精霊を蹴散らしてきた今の俺にはこの程度の魔物相手にもならない。


 槍の攻撃を相手の懐に入る形でかわす、槍は間合いを保たれた状態でこそ厄介だが一度懐入ってしまえば剣の相手ではない。


 攻撃の後のバランスの悪い隙を晒した状態のリザードマンの急所、首の部分に剣での攻撃を加える。


「もらった!」


 威力、速度、共に完璧に乗った俺の一撃は文字どうり粉々に粉砕するという結果を導き出した、




 俺の木剣を




「ファ!」

「シャ?」


 奇しくも俺とリザードマンの驚愕の声が重なった。



 宙を舞う木屑を見ながら俺はこの一月のことを思い出した、最初の相手は角の生えたウサギ、強さこそなかったが未熟な自分は死を覚悟した、後の相手はエレインが連れてきたり魔法で造ったりした狼だの熊だのゴブリンだのだった、脅威こそそれほどでもなかったが木剣では攻撃力に欠け有効打になり得るのは全力の一撃か急所への一撃のみ、度重なる激戦は俺の想像以上に木剣(相棒)に無茶をさせていたらしい。


 終いには今まで酷使してきた木剣(相棒)を全身を鱗で覆われているリザードマンに叩きつけた、今まで共に修羅場をくぐってきた俺の木剣(相棒)は終に限界を迎えその命を儚く散らすこととなった。


 結果残されたのは、無手の俺と首に一撃を受けても未だ健在のリザードマン。

 一ヶ月の修行をしたと言ってもそれは剣術の修行のみ。


 剣を失った剣士などなんの役に立とうか?


 悲しい事に武器をなくした俺に残された手段はたった一つ、


 それは




「に、に、逃げるんだよぉぉぉおお!」


「キッ!キシャァァァアア!」



 逃走あるのみだった。





 ♂♀




『いやぁ、なかなか面白いものを見させてもらいました。どうでした今回の対戦は?』


「し、死ぬかと思った」


 あの後はひたすら追いかけっこだ、命懸けのリアル鬼ごっこなど二度とやりたくない。


『突発的なアクシデントに対応できなくては一流とは言えませんよ?』


「剣をなくした剣士にどうしろと」


 鱗に覆われたリザードマンには素手での攻撃は当然の如く効かなかったその時点で俺は涙目だ。


 最終的には相手の力を利用して湖の中に投げ飛ばすことで終了した。


 水生生物の癖に何故か湖に溺れたリザードマンには黙祷を捧げる。


『まあ、剣士に武器は必要ですよねぇ。そろそろ本格的なのも使っていきたいですし、なんか希望とかあります?』


「刀」


 男子たる者一度は刀に憧れを抱くものだよね。


 これでも剣士を志す者、侍に憧れる気持ちもある、そして溢れ出る俺の黒い歴史が俺に刀を振らせろと囁いて来るんだ。


『刀ですか、あれってあまり現存していないんですよねぇ』


「へぇ、そうなの?」


 ごめん欲望で言ったからそういったことは全く考えてなかったわ。


『昔はちゃんと作れる技術と職人がある国も有ったんですけど確か文明ごと滅んじゃったんであんまり数がないんですよ、それに実際に武器として使いこなせる人もいないんで廃れちゃって、今では歴史的価値と芸術的価値があるくらいのガラクタですかねぇ』


 この世界、日常の中に争いがあるため栄枯盛衰のごとく国が成立しては滅亡していく、そして滅亡の原因に魔王だの勇者だのが絡んでくると時には文明もろとも滅ぶ事があるので稀に技術がごっそり失われて文明がリセットされることがある、そんな事だからこの世界は歴史の深さと比べて文化の発達が未熟なんだと思う。


「てかこの世界どんな武器があるんだ?」


『剣だとバスターソードとかロングソードとかが主流ですね、ですけどこれらの武器は斬るというより剣自体の重みで叩き潰したりする感じの武器なのであまり戦闘スタイルに合いませんしオススメはできませんねぇ〜〜。オススメはレイピアとかサーベルですかね使いこなせるだけの技量はあると思うので武器さえちゃんとしてれば問題ないと思いますよ』


 武器のラインナップが思いっきり中世だった件、いやまあ、ファンタジーな世界だから仕方ないんだけど。


「知識では知ってるけど、実物を見ない事にはなんとも言えないかなぁ」


『あー、なるほど。それもそうですね、それじゃあ次回からは真剣での訓練と武器無しでの戦闘の修行にしましょうか』


「……oh」


 ハードルが上がった修行に泣きそうな自分と、真剣という浪漫溢れる言葉にテンションが上がって喜ぶ自分が同居してどうしたらいいのか自分でもわからなくなった。



『ちょっといいですか、実はずっと気になってた事があるんですけど、レイヴィンってなんか特別な意識をしながら動いてたりなんかします?』


 エレインは改まって今までにないほど真剣な声色で話を切り出してきた。


「そんなことないけど、急にどうしたんですか師匠?」


『いやぁ前々からレイヴィンの動きに違和感があったんですけど、それの正体はわかったんですけど原因がとにかくさっぱりなんですよね』


「あー、確か師匠前にも似たようなこと言ってましたよね?」


 確か一ヶ月くらい前、修行が始まったばっかりの頃に。


『そうでしたね、その時はまだ修行をする前だったので指摘して変な癖を付けたくなかったからそのままにしていたんですよーー』


「そもそも違和感の正体って何だったんですか?」


 そんな風に言われても思い当たる節が全くない俺はそもそもの原因についてを聞いてみた。


『なんて言うか、レイヴィンの動きが独特?というか無駄が極限まで省かれた動き?見たいなかなり特殊な動きをしてましてねぇ』


 そんなおかしな動きをしていたつもりは微塵もないんだが。


「それってすごいんですか?」


『凄いといえば凄いですよ、動きに無駄がないので実際の動きが知覚の認識よりも一瞬速いですからねぇ。その動きって色々な武術とか武道においての一種の奥義だったりするんですよ。そんな物を最初の段階から完全に習得して常日頃から使っているとか何者ですかっ、て感じです。前にも聞きましたけど武術に関わりありませんよね?』


「いやいやいや、俺には思い当たる節は無いし、俺にそんなおかしな能力があるなんて知らなかったし、なんでそんな事になってるのかなんて微塵も心当たりなんてないですよ」


 奥義の一種を既に使いこなせていると言われてちょっと嬉しかったけどいきなり心当たりもない技能ができてるなどと言われても困惑しか出ない。


 べ、別に特別な能力があって嬉しいとかそういう気持ちがあるわけじゃないんだからね!


 ていうか動きに無駄がないってなんだよ。


 奥義とか言われてもさっぱりだし実感ないからあんまり嬉しくないんだけど、あと地味、そんなんだったらスッゲーパワーとか超魔力とかもっとチートな能力とかが欲しかったわ。


『いえいえ、そんなに卑下するものじゃありませんよ。仮にも奥義ですからね十分凄いものですよ、動きに無駄がないって事は体力の消費が少ないって事ですし、力の伝達率が高いので他の人より加えられる力が大きかったり、疲れにくくなったり、動きが速くなったりといい事ずくめじゃないですか!』


 何それ、凄い地味。


 特別な力があると期待させておいてのこの仕打ちである、俺の期待を返せ。


 なんだよこのゲーム的に表記すると常時発動される弱補正、嬉しくないわけじゃないけどチートには程遠いじゃないか。


『まあ、あって困るものではないのでいいじゃないですか』


「でも何であるのかわからないものとか使いにくくないか?俺チートとか特典貰ってないから怖いんだけど、こちとら前世の記憶があるだけの平凡な一般市民なんだよぉ……」


『平凡な一般市民に前世の記憶はありませんけどね。こういう事は考えすぎちゃダメなんですよ原因は案外簡単だったりしますからね、それこそ生まれ持っての才能だったり、前世の記憶があったから幼い頃に無理に体を動かそうとした結果として身についた技能だったりとか。うん?どうしたんですか「そんな考えもあったのか!」みたいな顔して?』


 うん、心当たりが凄いあるわエレインの説明に思わず納得しちゃったよ。


『まあ、納得してもらえたのならそれでいいです。次からはその動きも取り入れた修行に取り組んでいきましょう、いやぁ萌えてきますねぇ〜〜』


 修行の予定に新たなプログラムが加わった、そろそろ俺は燃え尽きそうなんだけど。




 取り上げず今の俺が考える事はお亡くなりになった木剣(相棒)をどうするかだ。


 リーナの説教って理論武装で押しつぶしてくるから精神的に来るんだよな。


 土下座したら許してくれないだろうか……






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