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第5話 義務と権利

 物事には権利と義務が存在する。


 対価を得るには代償という物がどの様な事であろうと必要不可欠なのである。


 貴族という者が特権階級に所属し、その恩恵を受けてるのも様々な義務を果たしているからである。


 領地を守り領民の暮らしを保証する、その義務を果たしているからこそ貴族という特権階級に立ち、様々な利益や恩恵を受ける事ができているのである。


 まあ、中世や物語の中では義務をしっかり果たせている方が少数ではあるが。




 結局何が言いたいかというと、貴族には領地を守るため最低限武力というものが必要という事だ、将来貴族になる予定の存在しない引きこもり予備軍の俺に武芸など必要ないのだが、争いごとがあり魔物と呼ばれる生物が存在し命が軽石の様に飛んでいくこの世界、自衛手段というのは少なからず必要になる。


 という訳で渡されたのがこの木剣、リーナの手作りで重さもちょうど良くちゃんと角が削られていて危険も少ない、これを使えば俺でも有名RPGの中に一番最初に出てくる最弱の液体生物にギリギリでなんとか勝てるかもしれない。


 ちなみに木剣を渡されて放置である。


『若様、この木剣は私の手作りです、私は剣など振った事はございませんが天才の若様なら何一つ問題などありませんよね』


 そう言ってリーナは湖に洗濯に向かった。


 問題ない訳がない、むしろ問題しかない。


 先生もなしに木の棒をただ渡されて俺にどうしろと?


 これを一日中振り続ければ良いのか?


 良いわけないだろ、剣術舐めんな!


 こちとら竹刀も木刀も握ったことすららないんだぞ。


 最初こそテンション上がって黒歴史が垣間見得て抜刀術(笑)とか無の構え(笑)とかやってたけど、そんなん客観的にはただ木剣もらってはしゃいでいた子供にしか見えないだろ。


 リーナとユールフィアに温かい目で見られたんだぞ!


 泣きたい。


 こうなったら最終手段だ、木剣を渡しただけで放置なんてかました連中を見返してやるにはこれしかない。


 そう経験のかけらもないこの俺に唯一残された、たったひとつの冴えたやり方。



「弟子にして下さい!」


『急にどうしたんですか?』


 エレインを頼る。


 自称最強の精霊にして星霊さんなら剣術の一つや二つ教授できないことはないだろう。


 俺にはこれしか道は残されていないんだ!


「つまりそういう訳で、剣術の師匠が欲しいんだよ」


『ふむふむ、よーしわかりました!私に掛かれば剣の一つや二つ教える程度造作もないことです。但し、修行の間は私のことは師匠と呼ぶように』


「はい、師匠!」


 エレインは俺の修行の申し込みを快く了承してくれた。


『これが俗に言う修行パートってやつですね。つまり私がやるべき事は空想の技術を現実に映し出す事、萌えてきますね!』


 エレインのつぶやきは聞き取れなかったが何故か不穏な気配を感じて背筋が寒くなった、もしかしたら俺は選択を間違えたのかもしれない。


 やっぱりエレインにOHANASIの時にサブカルチャー、漫画やアニメの事を教えたのはまずかっただろうか、最近悪影響が見られるようになった気がする。


『ではさっそく修行を始めて行きますよ?』


「ハーイ、ワカリマシタ師匠」


 こうして方向性を誤った修行が開始された。




 ♂♀




 完全初心者の俺がまず行なうのは基本の素振り、エレインに教えられた通りに木剣を振るだけの簡単な作業、と思いきやこれが以外と難しい。


 エレインの指導は思っていた以上にしっかりしていて、指導内容は剣の持ち方や振り方、力の入れ方や重心移動と本格的なものだった。



 俺は自分が想像していたファンタジー要素満載なぶっ飛んだ修行内容じゃなくて心の底から安心した。


 エレインに見本として一通り見せてもらったが彼女の剣の技量は技の美しさに見とれ動きのキレに絶句するほどのものだった。


 俺はエレインの剣技を目標に定め剣を振った。



「えい!やぁ!」



 剣を振るに連れて釣られて声も強くなる、かなりの時間を続けたからか汗も出て来た、疲労が腕に溜まり剣筋がブレ注意される事が多くなってきた。


『はい、そこまでです』


「ふぅ」


 素振りを終えて座り込みエレインに渡された飲み物に口を付ける、運動した後の疲れた体に補給された水分が全身を巡っていく。


「師匠、どうでした?」


『なかなかに素晴らしいものですね』


 エレインに感想を聞くと予想外の高評価が出てきた事に驚いた。


『歪みがほとんどなく、重心もきちんとしていて下手な癖もありません、本当に素晴らしいお手本のような剣ですね。練習用にはちょうど良い物です』


 と思ったら、剣の方の評価だった。


「いやいやいや、剣の腕前の評価が聞きたいんですけど」


『えーっと、たった一日の素振りで評価と言われてもですね、まぁ筋は悪く無いと思いますよ、このまま生涯続けていけば歴史に名を残すこともできなくも無いはずですね』


 これは高評価なのだろうか?


 多分悪くは無いということだろう、かなり飽きやすい俺が一生涯にわたって剣を振り続けられるかどうかはともかくとして。


『ただ……、ちょっとだけ気になることがありましてねぇ、まあでも今指摘して変に意識させるとおかしな癖がつきそうなんでやめときますけど。最後に聞いておきますけど武術関連の経験ってありますか?』


「いや、平凡な5歳児だからそんなのはないな」


 平凡な5歳児で半引きこもりの俺に武術の経験などあるはずもない、因みに前世においても武術に関わりなどなく運動神経も並み、部活は中学では奇跡的にバスケを三年間続けたものの、高校では二年生の頃に気がついたら帰宅部になっていた。


 ちなみに高校生活三年目には気がついたら赤ん坊になってた、高校って怖い。


 結局エレインからは最後に少し歯切れの悪い言葉をもらったが、まあ才能がないわけではないらしいので剣術に関してはこれから頑張って続けていきたいと思う。




 因みに俺は筋金入りの三日坊主だ。

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