第1話 湖畔に浮かぶプロローグ
まるで夢の中にいる、そう感じてしまうような幻想的な風景が目の前に広がっていた。
宝石をちりばめたかのような夜空に浮かぶ満月と月明かりに照らされた湖の水面に波紋を作りながら佇む一人の少女
透けるような白い肌、青みがかった銀色の髪、人ならざる神々しさを放つ少女にいつの間にか魅入られていた
少女がこちらを振り向く、青白く輝く透明な瞳にすべてを見透かされているような気がした
『珍しいな異界の子供か、何ようだ?』
凛と染み込むような綺麗な声で問いを投げかけられる、目の前の存在に完全に呑まれ自分が何をしているのかも段々とわからなくなる
『ふむ、まあ良い。今宵の月をともに愛でたいと言うならば同じ席につくことを許すぞ』
彼女はこちらのことを観てからなんでもないことのように言った。
自分はと言えば状況に全くついていけず何がどうなっているのかすらわからない、そんな中でも彼女の誘いを断るという選択肢は自分の中に存在していなかった。
誘われるままに足を進め湖の水面を滑るように進み、いつの間にか彼女のそばまで来ていた。
『こちらが誘った身だ、それなりのもてなしはしよう』
彼女が手渡したのは黄金のゴブレット、中にはうっすらと光を放つ液体が入っていた
『酒だが、弱いし優しい。月見酒にはそれなりにふさわしい一品だ』
言われて忌避なくゴブレットに口をつける、その液体は水以上に飲みやすく澄んでおり、それでいて酒らしさがないわけではない、一口飲んだだけでわかる極上の一品だった。
口を付けるだけで世界が変わる、まさにそんな感想を抱いた、続けざまに二口目を飲んだところでまるで電源を落としたかのように視界は真っ暗に染まった。
第1話 湖畔に浮かぶプロローグ
まずは自己紹介から始めたいと思う。
俺の名前はレイヴィン・プロトリッター、プロトリッター伯爵という家系の係累らしく一応貴族の一員らしいが詳しい事は知ら無い、肉体年齢は5歳で精神年齢は推定23歳、二つの年齢にズレがあるのは俺に前世の記憶が有るからだからだ。
所謂、『転生者』や『憑依』などと物語に呼称される奴だ。
ありがちな神様や天使のような存在に会うことなくごく普通の高校生活を送っていたはずが、気がついたら体は縮んでおり知らない家庭の中で生まれたての赤ん坊としてお世話されていた。
そんなことをされれば最初、悪夢の類だと思うのもしょうがないことだと思う。
俺はその体験を経て見た目は子供、精神は大人とアンバランスで個性的な存在になった。
しかし俺は物語のような体験をしたにも関わらず神様や閻魔のような存在に会う事はなかったのでチートや特別な能力も貰えずかなりのショックを受けた。
それでも人間の適応力がすごいのか、こんな驚く体験をしたとしても次第には慣れて段々とごく普通に生活を送ることができることに驚いた。
精神が20を超えていても子供らしく振る舞える自分に驚いた。
後この世界がおもいっきり異世界だということに驚いた。
母親の金髪金目の容姿って珍しいなー、文化レベル低いのかなー、ここって中世ヨーロッパなのかな?みたいに思っていたが、場所も時代も世界観と物理法則レベルで違っていた。
魔法があって、魔物がいて、妖精がいて、神様がいる。
まるで小説の中のような世界、RPGのゲームにそのままありそうな世界、紛れもなく正真正銘俺が生まれたのは異世界だった。
と自分の半生のプロローグを軽く語り終えたところで現在の状況を説明しよう。
目を覚ましてまず視界に入るのはこの5年で見慣れた自室の天井、なぜかいつも以上にスッキリとしている体を疑問に思いながらベットから起き上がり、俺の行動は停止した。
なぜなら、俺と同じベットに一糸纏わぬ姿で眠りに就いている透けるような白い肌と青みがかった銀色の髪を持つ神秘的な力を放つ美少女が目に入ったからだ。
「…………いやいや、ねーよ」
自然と俺の口からはそんな言葉が漏れた。
とりあえず異世界の理不尽さを呪った