人間コントローラー
怪しいお店だと思った。
最初に感じたのはそれだけ、そう、そうだけだった。
その時の私はきっと疲れていたんだと思う。意識もままならなかった私は、人通りの少ない路地に入り込んでいた。きっとその先は行き止まりで、壁にもたれこみそのまま眠ることが出来るだろうと思ったからだ。
しかしそこには小さな店がひとつ、ぽつんと寂しげにたっていた。
なんだこよこれ......
寒さからか緊張感からか、リスカのあとの残る手首をボロ衣のような服で隠す。
そのまま吸い込まれるように、私の足はひとりでに進み出していた。
***
時は流れ、見事なまでに高校生色に染まった私は根暗少女からは想像出来ないほどの輝きを放っていたことだろう。いつもなら下を向いて歩いていた廊下も、以前の私とは違い今では堂々とした足取りで歩く、いや踏みしめて歩くことが出来る。あぁなんて気持ちがいいんだろう
昔は持ってなかったお金も、彼氏も友達も......今じゃ全部持っている。全部これのおかげ......
長時間ポケットに入っていたためかソレは少し温かくなっている。
HC......人間コントローラー......
少し熱のこもったソレはあの時店で手に入れた得体の知れない機械だった。あの時の私はソレに頼るしかなくて使ってみただけだというのに、今ではこれがないと生きていけれない。一種の麻薬のようにも思えるソレは異様な存在感を放っていた。
私に勝てる人なんていないの
根拠のない自信が、容姿も精神も全てを黒く染め上げていく。
にやける口元を隠すように下を向くと不意に、誰かと肩が当たった。どちらかといえば小柄な私の体は少なからずよろめく。なんとか両足で踏みとどまるとすぐさま顔をあげにこやかな笑顔を貼り付けた。
「あっ...........すみません、ちょっとよそ見 ......を」
視線が重なり合った瞬間、私は妙な緊張感を覚えた。
私はこの人を知っている......?
汗が手の内にたまる。