俺と友人と夏の夜の約束
ここまで読んでくれた方々ありがとうございます!白黒ゆきちです。今回で5話目の投稿になります。今回から少し1話分が長くなります。投稿に多少の時間はかかるとは思いますがご了承頂けると幸いです。それでは本編にどうぞ↓
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孝幸「よーし、着いたぞ。場所はここで合ってるはずだ」
さとり「………何故にこのような場所にしたのだ?」
孝幸「俺に聞くなよ。あいつがここにしようって言ってきたんだからな」
孝幸「…間違えてなければ…な」
眼前に広がる光景はどう考えても待ち合わせに適しているとは言えない場所だった
見渡す限りの廃ビル、廃家。
それと一応所有者がいる(らしい)空き地、おまけに少し離れた位置にはこの街の有名な心霊スポットと言われている廃病院も見える
さとり「…良くない思念が見えるのだが」
孝幸「…やっぱり場所間違えたかね。なんか寒気がするぞ」
後ろを振り返ればこことは対象的に賑やかな中心街が見える
家の近所に住んでいる老夫婦に聞いた話によると、この場所は一昔前までは遥か後方にある中心街のように賑わっていたらしい
しかし長らく続いている不況の波の影響で倒産する会社が相次いだり、新市街設立計画(現在の中心街にあたる)の話が立ち上げられた事によって当時ここに住んでいた住人のほぼ全員が向こうに移り住んでいくようになったという話だった
今俺たちが居るこの場所はさしずめ“旧市街”といったところだろうか
孝幸「あの野郎、“街”ってこっちの街の事かよ。何考えてんだ一体…」
さとり「これはなんというか…凄まじいな。孝幸、あの病院に行った事はあるのか?」
孝幸「昔、一度だけな。つってもガキの頃の事だけど。確か小学生の時の肝試しだったか」
さとり「……………」
孝幸「おいなんか喋ってくれ、ここは静か過ぎて不気味なんだよ。正直呼び出しを拒否したかった位だ」
さとり「…まぁ何か起こった際に助言くらいはできよう」ボソッ
孝幸「やめろ!聞こえてんだよ!!冗談抜きで怖ぇよ!!」
さとり「喋ってくれと言ったであろう?」
孝幸「そうだけど、せめて話題を逸らしてくれよ...」
さとり「何、案ずるな。あの病院に行く訳ではあるまいに」
孝幸「フラグ建てるのやめてくれないか?」
「おーーーい」
…やっと来やがったか。もしもくだらない用事だったら張り倒してやろうかね
さとり「む、孝幸。あれが主の言う友人か?」
孝幸「さっき言った和弥って奴だ。ちゃんと猫らしく振る舞ってくれよな?」
さとり「ナァーオ」
よし、それでいい。
ついでに万が一に備えてウォーミングアップもしておこう
和弥「悪い悪い、待たせたな、孝幸……何やってんだ?」
孝幸「………シャドーボクシング」シュッシュッ
和弥「そうかよ、ところでお前猫なんて飼ってたのか?」
孝幸「この間拾ってきたんだよ、捨て猫みたいだ」シュッシュッシュッ
和弥「あぁ、最近無責任な飼い主が多いみたいだしな。いや、今に始まった事でもないか」
孝幸「そうかもな。んで?こんな所にまで呼び出して何の用事なんだ?」シュバババババ
和弥「それなんだがなぁ、いや待てとりあえずお前は落ち着いてくれ」
孝幸 「 be cool be cool. 」
さとり「ナァー」
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和弥「…って事なんだが、お前も来るか?」
孝幸「…………お前マジで言ってんのか?」
和弥「マジも何も既に決行予定だ」
孝幸「…ハァ」
和弥「心配すんなって。なんとかなると思うぜ」
孝幸「ならなかったらどうすんだよ、っていうか何であんな場所に?」
和弥「さぁな、若気の至りって奴じゃないか?」
孝幸「和弥、昔から思ってたけどお前やっぱりただの馬鹿だろ」
和弥「それはお前の価値観の中での話だろ?“普通はこうあるべき”なんて固定観念を持ってるとその他大勢の中に埋もれるだけだぜ?」
孝幸「 出る杭は打たれるっていうだろ」
和弥「打たれるどころか今回の話に乗ってきた奴は結構居るぜ。面白そうだってな」
さとり「……………」
孝幸「どうかしてんなお前ら…。それでいつやるんだよ?」
和弥「あさっての22時ちょうどにこの場所に集まる予定だ。俺たちの他に浅倉と西澤、それと梨本もくるみたいだな」
孝幸「…へぇ」
ナチュラルに俺も参加って事になってるのはもう諦めよう
長々と聞いてはいたがここで少し話をまとめようと思う
その昔俺たちがまだ中学生にあがる前の話だ
和弥は兄貴とその友人数人に連れられて例の廃病院に肝試しにいったらしい
これだけならどこにでもあるような話で済むのだが、和弥の兄貴達はどうやらその廃病院のどこかに何かを入れた錠付きの箱を隠したという
当時の和弥はまだ精神的にも幼く、とにかく怖かった事くらいしか覚えてないみたいだ
その時の道中で兄貴達が箱を大事そうに抱えていた事、しかし帰り道でその箱を誰も持っていない事には気づいたようだ
和弥自身はその箱の中身を知らないらしく、当の兄貴とその友人達は既にそれぞれが別の県に引っ越してしまっていて連絡先も分からないという状況らしい
そこでその箱の中に何が入っているのかを調べる、という名目の肝試しを思いつき俺を含む友人達に話を持ちかけてきたって事だ
孝幸「なぁ、何で兄貴に連絡して聞かないんだ?」
和弥「それだと面白みがなくなるだろ?それに兄貴は俺が高校に入る前に勘当されてるんだよ。それ以来会ってもないし、連絡先も分からんからな」
孝幸「ふーん……」
和弥「まぁそんなとこだな。役に立ちそうな装備は揃えておいてくれよ。あさっての夜中の22時にまたここで会おう、じゃあな」
孝幸「あー、分かったよ、またな」
…やれやれ、仕方ないから付き合ってやろう。あさっての夜中ならまだまだ時間はあるし、必要になりそうな物は鞄にでも詰めておくか
先月買ったばかりの腕時計に目を配ると既に19時を過ぎていた
思ったよりも長居してしまったみたいだ
そろそろ帰らなくては…
孝幸「…和弥はもう見えねぇな。
さとり、待たせたな。帰ろうぜ…」
孝幸「…さとり?」
……………居ない
カゴに乗っていたはずのさとりがどこにも。
孝幸「あいつどこ行ったんだ?まさか、ほったらかしにしてたから怒って先に帰っちまったのか?」
何とも都合のいい予想である
孝幸「…まぁ、一応は猫だしな。その内戻ってくるだろ」
《ブイイーンブイイーン》
…着信?かあちゃんからだ。これはヤバい…
孝幸「…もしもし、俺だけど」
母【あんたどこまで行ってんの!?連絡もしないで!!遅くなるなら先に言いなさい!!】
孝幸「ご、ゴメン!ちょっと友達と話しこんじゃって…。すぐに帰るよ!」プチッ ツー..ツー....──────────