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___の終わりに__をする。  作者: 卯月木目丸
3/5

私と貴方

 プレゼントされた、何かというのはわからないけど。でもなんとなく大事なものだっていうことはわかった、わかっているはずなんだ。

 喜べはしない、何をもらったわからないんだから。むしろちょっと寂しい。

 私はまた今日も誰かに与えられていた学生服を着込んでここを歩き続ける、目覚めた時から。

 サビもない磨かれた鏡のような鉄扉が勝手に開く。どれぐらい経ったかわからないけどまだまだこの施設は機能している。

 薄ら光る円柱の中で静かに眠る人々の顔を横目に暗い通路を靴音を鳴らしながら歩く。

 誰もいない、いるかもしれないけど見たことがない。

 今日はどこにいこうかな。誰かに頼まれたわけでもなければ目立った目標もないので適当に飽きが来るまでココを徘徊し続けているだけなのだ、私は。

 何処まで行っても殺風景だと鉄板を取ってつけたような壁をなぞる。どこかに公園でもあればいいのにと思う、資料でしか見たことはないけど。

 そこで私は新しい方向へ足を進めてみようと考え、中央なのかもしれない場所へと赴き地図を見つめる。この地図も壁に埋め込まれている電光掲示板に写っている物、紙媒体や情報として持ち出せればいいのに。

 今日は奥のこの大きい部屋まで行ってみようとその付きあたりにある部屋をとんとんと叩く。

 雨音もなければ風音もない、太陽の光じゃなくて蛍光灯の灯りが点々と照らしていて土も草木も何もない場所。

 それが今の人々が選んだ場所。

 といっても私が初めて目覚めた時には誰も彼もが眠りについていたけど。

 さてさて、私は一体誰なのやら。



 他愛もなく目的の部屋についてしまった、太陽は見えるはずもないので時計で時刻を知ることになるが暇つぶしにもなっておらずどうやらこの中に入ってみるしかないようだ。やることもないし。

 ドアに手をかけて引っ張る押す持ち上げるもう一度引っ張る……全然開く気配のない扉だ、成功法で応えてくれないのなら今度は無理やり開けてみるのも仕方がないな。

 金属の扉に靴底を向け蹴りを入れ込む、ドアはガァンと鈍い音を上げたがひしゃげもしなければ派手に倒れもしなかった。

 もう一発蹴りを入れてみるが、結果は変わらない。どうやら無駄に時間を食ったようだ、つまらないなぁ。

「誰だよ、人のところのドア蹴ってんの」

 ドアの奥からやさぐれた声が響いた。

「誰だって聴いてるんだが」

 驚きに圧されながらもドアを軽くノックすると、声の主はゆっくりとドアを横に開かせた。どうやら奥から鍵をかけていたらしい。そりゃ人が住んでいるなら施錠もするだろう。

「誰?」

 がらりとドアを開けた彼は眠たそうな顔をして私に問いかけた。とうの私はというと目覚めてこの方独り言しか喋ったことはあらず、口をパクパクさせながらまるで魚みたいに息をしているのだった。

 彼は光の当たり用によっては黒にも見えなくもない髪の毛をくしゃくしゃとかき乱すと一つ大きなあくびをした。私はというとまだあたふたと口を開け閉めしているのだ。

 そう、私には私が誰かはわからない。

「………今っていつ?」

 それを察したのかはわからないが彼は質問を変えた、ぽつりと記憶に残っていた情報を教えると彼は天井に目をやりぼつりと言葉を吐いた。

「随分経ったな、外には出れるのか?」

 出れない、そう言おうと思って息を吐くが思うように言葉が出ずに結果ただ小さく喘いだだけということになった。こんなにも上手く喋れないなんてなんだか嫌になるなぁ。

「喋ってくれないと困るんだが……君以外には誰もいないのかな」

 頷いて肯定を示す。彼は後頭部をかくとゆっくり歩き始めた。開いたドアの奥を覗き込むとそこには他の人々が入っているよりも一層大きな施設があり、よくわからない部品や物体が転がっていたりしている。

 そんな部屋の中を興味深そうに覗く私を見た彼は呆れたようにまた声をかけた。

「案内とかしてくれたら嬉しいんだけど」


 強引というか断りきれずに私は彼を案内した。

 口はひらけど言葉は出ず、指差しや身振り手振りで色々な事を伝えた。彼はそれを理解してここの構造をすぐに理解していった。

「じゃあ、さっきの資料とかがある場所に連れてってくれないかな」

 私はすぐに言われた通りの場所に手を引いて案内した。

 彼はそこで黙々と資料を読み、時折ため息を吐いたりしていた。何かを探すように素早く瞳を動かして背中を一切動かさない彼を私は一切動かずに眺めていた。

 あらかたの資料を読み終えた彼は鋭くドアに蹴りを入れてとぼとぼと何処かへ歩き始めた、私はまた彼の後ろを静かについていった。


「君の名前は?」

「…………」

「わからないの?」

 否定。

「じゃあ、思いつくのはあるんだ」

 肯定。そしてその名前をぽつりと呟くと、彼は足を止めた。

 何があったと彼の顔に目をやると、まるで絞められた人形のようにこちらを見つめる瞳と目が合ってしまった。私は何があったのかがわからずただ震えて動かない自分の体を抱きしめていた。

 口さえ開かずに舐めまわすように…いや今にも噛み付きそうな目で私を見た彼は、すぐに顔を元の向きへ戻して再び歩き始めた。ただただ響く足音が私の不安感を煽った。

「行き先は、こっちだ」

 彼は明確な目標を得たようで、それを分けて欲しいとちょっと思った私には付いていくことしかできない。まるで私を影のように扱う彼は軽く走りながら目的地へと駆けていった。

 何もない無機質な廊下を駆けると、目的地らしい部屋にはすぐにたどり着いた。らしい。

 ドアを蹴るなり殴るなりして無理矢理にこじ開けた彼は中で眠る人の顔をさっきと同じような顔で見回した。

 どうやらここもたくさんの人が眠っている場所のようだ。

 彼はその内一つに目をつけて、その女性を目覚めさせた。


「母さん、聞きたいことがあるんだ」

「……あの娘なら、死んだわ」

「………っ。そうじゃなくて、なんで僕だけを助けたの」

「あの娘は生身だった、助からないってわかってたでしょ? だからせめて」

 二人の会話は私には一切わからないことだった。それも当然だろう。二人の名前すら私は知らないんだ。

「じゃあ…彼女は…?」

「『あの娘』よ。別人なんでしょうけど」

「助けようと…したんでしょ」

「………」

 私にはすることがないし、するべきじゃない。それじゃぁ私はどうしようか、そんな目的は何もないけど、彼と一緒に何かしていればきっとそれがみつかるかもしれない、私の中でそんな思考がずっと付き纏っていた。

「彼女は……別人…なんだよね」

「そう、でも私たちと一緒。外見が変わってるのは…仕方ないことだと思って」

「いいよ、もう。僕は好きにする」

 彼はそういうと女性から踵を返して部屋を出ようとする、女性は素っ気なく眠っていた詳細不明の機械の中へ戻っていった。私は話が終わったのを察すると彼の後をまた追いかけることにした。

 だが彼は部屋を出てすぐに私の方へ向き直った。

「何か…したいこととか、ある?」

 突然に投げかけられた言葉に私は必死に答えようとしたがなにも返す言葉は出てこない、それに気づいた私は非常に悲しくなり瞳が熱くなっていくのを感じた。

 うずくまり小さく震える私の頭に彼は手を当ててさっきとはまるで違う優しい言葉を投げかけた。

「いいんだ、もう。何かふっと思いつくようなことでもいいから、何かないかな」

 することじゃなくて、思いついたこと。

 バス…夕焼け…良くわからない広がる水たまり…ぼやけた何か…いっぱいある、断片的なそれを彼に話すと、彼はまた目標を得た目をして天井を、上を見た。

「それを…その目で見たいと思わない?」

 この目で、それを見る?

 私に目標をくれるなら。私はそれで良いと思った、必死に思い出したものを、私自身が見る。

 よくわからない目標だけど、なんでもいい。

 今まで何も自分で手に入れたことはない、そう考えればやっと私が手に入れれる。

 こくりと肯定の意を示す。

「じゃあ、ここを出よう」





 ここ。

 こことは、数十年前に起こった未曾有の事件、大規模な電波障害により全世界に対し障害が発生、機械類に大きな被害がおき大変が破損か暴走してしまった事件。それにより機械化していた人類は半発狂、それによって生じた混乱により生身の人類は大半が死滅。残った人類と機械化人類は地下に避難し地上で責務を全うする人類よってあの事件の原因になった『モニュメント』を攻撃、接近や誘導はできない為、長距離からの核兵器による広範囲破壊がなされた。全世界に数箇所同時に作成発動された『モニュメント』を同時に破壊、しかし残った影響は大きく地上に残った人類文明は消失したといってもいいだろう。そして残された地下人類は影響が収まるまで機械化のスリープで眠り続ける、ここはその『眠るための施設』である。

 言ってしまえばシェルター。

 残された人類が生き残るために作った蟻の巣。そしてどこかに人のいなくなった地上へと続く通路があるはずの檻。

 私たちはここから出る。

 ただその出口を探して出る、それだけ。上がどれほど遠くても、登って出る。

 誰もいないはずの大地へと。

 あの絵本みたいな大地へと。

「どっちにあるだろうな、この施設が大きすぎるんだ」

 彼はまず案内板を眺めどこに出口があるのかを探し始めた。目的の出口はすぐに見つかったのだが、すぐに出られるわけでなく、扉は重くロックされていた。

 今私たちはそのロックを管理する場所を探している。

 案内板を見てもそれらしき部屋が点在しているせいで迷ってしまう。迷いに迷う間、彼はぽつりぽつりと私にいろいろな事を話してくれた。


 私が誰かということ。これはちょっと曖昧だったけど。

「私は……誰なんでしょう」

「………君は、ここで生まれた僕らと同じ機械化した人間だよ。それ以上でも、それ以下でもない」

 次に私の夢のこと。質問するたびに変わる彼の表情が楽しかったのかもしれない。

「夢を見ます。明るく広がる空だったり、ぼんやりとした魚や黒い誰かさん」

「それは君に刷り込まれた記憶なんだろ。空か……、見に行こうか」

 彼は私を大切にしている、そう思えた。ぶっきらぼうだけど、守ろうとはしている。

 なんの危険もないはずのこの檻の中で必死に出る術を探しているのに。

「なんでそんなに、外に出たいんですか?」

「約束だ。君……とある人の、僕はもう一度………俺はもう一度会いに行かなきゃいけない」

 いくつ目かの扉を開け中にある端末らしきものにコードを打ち込む。湿ったような音を出すとどこか高い場所の扉が開いたというメッセージが流れる。

 このシェルターの中では閉められた扉なんて数えれる程にしかない、しかも高い場所ときたらそれはきっと出口の扉なのだろう。

 その開いた扉はものすごく高いところだと示されていた。エレベーターで直通しているが、相当な時間がかかるらしい。

「やったな」

 彼がこちらを横目で見ながらそう言った。

 それで気づいたが、私はそれらが映し出された画面を見て笑っていたらしい。気づいたときにはハッとした驚きの表情に変わってしまっていたが、私はなんだか嬉しくなって…でもその嬉しさをもう一度表現することはできなかった。

 機械化…それのおかげなのかすぐに場所は覚えられた。ただ彼はすぐに出口であろう場所には向かわずにもう一度端末らしきものに何かを打ち込み始めた。

「なにを…してるの?」

 手を止めずに彼は呟く。

「終わらせる」

 再びうすぼんやりとした液晶に地図が映し出され、指し示されたポイントはここからそう遠くない部屋だった。その部屋の扉にかけられたロックを解き、彼は「すまないけど、着いて来てくれ」と言ってそこへと向かう。

 私はそれをただ追った。


 部屋の扉を開き、彼はまた見知らぬ端末に何かを打ち込み始める。

 そして画面に現れた一つの選択肢をただただぼぅと眺め続けていた。彼があまりにもその小さな窓を眺め続けるものだから、私も一緒になってその窓をまじまじと見つめた。

 Y/N.

 それだけ。

 たったそれだけ。

 それだけの選択肢を彼は眺めていた。

「私が…おそうか?」

 自分なりに気を利かせた言葉を言ったつもりだった。

「いや、いいよ」

 それは彼なりに気を遣った言葉に聞こえた。

 そして彼は、彼が思い描いていた通りの答えを選び、この部屋、そしてこの大きな大きな小さい世界を抜け出し始めた。

 鉄骨が目立つただただ堅牢にされた壁。錆びてぎぃぎぃなるおんぼろの階段。かつては人が住んで少しは賑わっていたのかもしれないスペース、そこに潰れて萎み生気を無くしたアドバルーン。倒れて入れられていた商品をぶちまけているショッピングカート。

 そんなものを横目に私たちは進んだ。

 寂しさにまとわりつかれながらも恐らくは何年も前には商店街であったろう区画を抜け、また同じような螺旋階段を上がっていく。

 今度の層はだらりと暖簾のように垂れ下がったケーブル、砂嵐を移しながらヒビを映す液晶、おそらくもう飲めないだろう水たまり、完全に人の気配が消えたこの場所でも、とびきりに乾涸びた場所だった。

「大丈夫?」

 彼はケーブルをかき分けながら私の安否を気遣う。階段は思った以上に傾いたり腐っていたりして一つ間違えばそのまま下の段へ落ちてしまいそうだった。

 何時間も二人は登り続けた。

 どれほどの深さにこの施設があったのかは誰も知らない。知る人ももういない。

 あまつさえ目覚めたばかりの若い二人は知ることもないだろう。

 彼らは昔から共に居て、つい先ほど新しく出会った。そしてまたあの時のようにどこかへ向かって、何かを仕出かそうとしている。

 そして彼は自らの手で自らの文明に止めを刺した。

 もうこの階段を上がってくる者は何処にもいないだろう。もしかしたら世界は二人だけのものかもしれない。

 今が夜明けなのかそれとも昼間なのか、それさえも知る術のない二人だ。

 でももうそんなことは二人にとって重要なことではなかった。




 僕は扉の前に立っていた。

 疲れも迷いも虚ろいも、何もかもがなくなってしまった。

 僕はずっとあの棺の中で生きてきた。

 君との街も君との景色も、何処にも見当たらなくたって…。

 僕は必死にそれを取り戻そうとした。

 彼女が君じゃなくたって、もしくは君であったって。

 ここに来るまでで色々な事を思い出してしまった。

 二人で何もせずに青い空を眺めていた事、たった二人で凶暴なものを相手にした事、ちょっと遠くまで大切な物を買いに出かけた事、そしてあの広くて暖かな海を見に行ったこと。

 そういえば君のカメラは何処にいったんだろう。あの時に君と一緒に無くなってしまったのだろうか。

 あの絵本……二匹の……なんだっけ、カリブーかな? もう覚えてないや。その二匹がとっても広い草原で遊ぶんだ、それから先は読ませてもらえなかったな。あの時にちょっぴりだけど約束したんだ…覚えてないけど、きっとその絵本の通りに。

 僕はドアのノブを握り、勢いよくドアを開いた。


 吹き込む風が君と僕の髪を揺らして、今まで一度も流れることのなかった風をシェルターへ送り込んだ。

 流れるように書いていた文を読み直してみると、まるで妙な歌の歌詞みたいになっていて面白いですね。そういうのを見つけてしまうとあんまり直したくない気質なのでどうしようか悩んでしまいます。

 5thの方はもうしばらくお待ちください、時期が時期で立て込んでいるので。それではまたお会いしましょう、卯月木目丸でした。

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