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___の終わりに__をする。  作者: 卯月木目丸
2/5

君と僕:僕

【しばらく忙しくなるために遅くなります】

「なんでもないよ」

 君は涙目をくしくしとこすりながら隣でどこかを眺めていた。

 何か哀しい事があったのか、そう聞いてみると君は数秒迷いながら口を開いてくれた。

「お爺ちゃんが…亡くなったんだ」

 君はお爺ちゃん子だったんだろう、機械化という波の中で大半の人は生活そのままで機械に身を移した、それを嫌がる人もいたけどいつしか心細くなって波に流されていく。

 きっとお爺ちゃんは君の大切なパーツだったんだろう。

「意味はないんだよ、機械化を嫌ってるのに」

 いつもと違い折れてしまいそうな君を見続けることは僕にはできなかった。だからその手を握り中古まで取り扱う店…適当な店まで二人で走って、あのカメラを買ったんだ。

 君のお爺さんと同い年のカメラを。


 僕は運動が得意、君は絵を書いたり写真を撮ったり…足りないものの埋め合わせみたいでずっと一緒だった気がする。僕にだって家族はいる、お爺さんはもういないけどね。

 そんなお爺さんがずぅと昔、僕がとても小さかった頃。夜中一人でトイレにもいけなかった頃に一つのおまじないを教えてくれた。

「12345678910…それを数える、それだけ…」

「ん? 何か言った?」

「ううん、何も」

 昔はおまじないをしたら怖いものも無くなった気分になれた。今は違う、まじないは昔みたいに勇気をくれない、思っている事を正直に言う勇気すら。

 その勇気を僕は今、求めている。







「それでは、モニュメントに電源をいれましょう!!」

 僕は今モニュメント完成式に来ている。母がこれに関係しているのを聞いたのは完成式に行く直前だった、「仲のいいあの娘も一緒に」って言われたけど彼女には用事があるらしいって言った、正直な所は一緒に居たかったけど。

 辺りには知らない人がひしめいている、久しぶりの一人だから何もすることがない。

 そろそろ君は隣街に行くバスに乗ったぐらいかな? そう思ってそのバスが通る方に顔を向けるが、人ごみに遮られ見えるのはビルや人の頭だけだった。

「今、このモニュメントに電源が入りました! 素晴らしい瞬間です」

 よそ見をしているうちにモニュメントと呼ばれるキノコだか傘だかわからない形の巨大建築物に電気が通った、電波塔や大きなコンピューターサーバーを内蔵した塔を僕は傘の下から見上げる。

 きっとここもこれからお祭り騒ぎでうるさくなるだろうから僕はさっさとこの場から去ることに決めた、両親もきっと察してくれるだろう。

 それからは行く宛もなくただ騒がしい方から離れていくだけ、気がつけばいつもいる空き地の土管に座り込んでモニュメントを眺めていた。当然隣に君はいない、ついつい独り言と知って口を開いてしまいそうになる。

 なんであんなに…傘だかキノコだか言われてしまうデザインにしているんだろう、遠くから見てしまえば逆さまのどデカイパラボナアンテナにも見える。なんでアンテナを逆さまにしているんだろうか。

 耳鳴りがした。

 機械化したこの体でも完璧なわけじゃない、たまに耳鳴りや軽い立ちくらみが起きることがある。

 ……僕はサイボーグってやつだ、両親はその関係者で優遇されて機械化を受けた。あの親には愛情があるのか機械化されたての僕はそんなこときにしてはいなかった、でも偶然出会った彼女が機械化の危険性を力説した時にふっとそう思った。

 僕は何故か彼女にその事を隠してしまった。

 もしかしたら希薄だった愛情を彼女に求めてしまっているのかもしれない、今考えればあの優遇は実験台も兼ねていたのかもしれない。一般化したのはあの後だったし、僕の体には問題が埋め込まれているのかもしれない。

 彼女に甘えてしまっているというのなら…愛されることを望むぐらい許して欲しい。きっとそんなこと言ったって彼女なら笑ってしまうだろう、それより僕がサイボーグだってことに驚いてしまうかな。

 そうだっていいじゃないか、また耳鳴りがした。

 頭に何かの信号が入った、母さんが呼んでいる。機械化のおかげで遠くから呼ばれていてもわかる、でも普通信号なんて入電しないはずだ、何か緊急事態なのかもしれない。

 来た道を引き返していくと少しずつ足取りが重くなるのを感じた。

 僕の体に異常でもあったのだろうか、だとしたらこの信号も誤報かもしれないな。重い足を力強くモニュメントの方に向ける。

 モニュメントに近づくにつれて異常の原因は察しがついてきた。騒がしさが失くなっている、人々が頭を苦しそうに抑えて伏せている。

 必死に足を向けながらモニュメントの真下へたどり着くことができた、そこにはSFチックな白い宇宙服みたいなスーツを着込んだ母の姿があった。その近くには…きっと関係者だろう、同じようなスーツの集団が見える。

「母さん……これは……?」

 真下まで来ると耳鳴りも酷い具合になっていた。

「大丈夫? 良くここまで来れたわね…!」

 母さんは僕の前まで走ってくると事情を説明してくれた、僕はその間耳鳴りをこらえ続けた。

 どうやらモニュメントのせいらしい、電波だか電磁波が誤作動だか不具合だが……とにかくわからない事が発生したらしく機械化した人々に大きな被害を出してしまっているということ。

 全国規模で行われた機械化にとってこの巨大な建造物から発せられた毒電波は致命的なものであること、そして原因が不明であること。言ってしまえば手詰まり。

 こんなちゃちなもので全世界の機械化した人間が行動不能まで追い詰められているらしい、非常用のスーツも効果が続くかわからないし量もないという。だが僕はまだ動ける。

「僕は…? どうすればいいの…」

「こういう事は…対処されるの。 シェルターがあるから…ついてきなさい」

 対処…シェルター…?

 その時、僕の脳裏に嫌な想像がいくつか思いついてしまった。

 このモニュメントを破壊してしまえばこの騒動は収まる、だが精密な機械は使用できない…だから大雑把でもこれを消せてしまえるもの、そしてシェルターの存在。きっと何処かの人はこうなることも予想できていたのに違いない、その為の対処も用意されていたのだろう。

 そして次に浮かんだのが彼女の顔だった。

「待ちなさい! あの子を追いかけて!」

 気づけばもう動き出していた。

 バスはまだ峠に達していないが、運転手だって異常が迫っているハズだ。僕が走って追いつける確率なんてほとんどないが、僕は走ることしかできなかった。

 悶え苦しむ人々…それを見て困惑している純粋な人、僕はそれらをかき分けながら走り続けた。

 何処かわからないほど意識をすり減らして、我武者羅に遮二無二に、時には気づかずに悶える人を蹴り飛ばしていたかもしれない。とにかくバスに追いつくことしか僕は考えていなかった。

 要所要所ではあのスーツを来た人が苦しむ人をシェルターであろう場所に誘導しているのが見えた。どうやら各地に用意されていたらしい…間に合う保証もないがそれでも走り続けた、機械の体を駆使した二の足は人間の走りとは思えないほど速かっただろう。

 それでもバスは見えてこなかった。

 内心焦りながら目に入り込んだ自転車に跨り壊さんとばかりにペダルを踏みつける。持ち主は頭を抱えて突っ伏しているのが見えた、もう彼には必要ない。

 タイヤをガタガタ揺らしながら歩道を駆ける、峠まではもう少しなはずだ。バスはそろそろ峠に差し掛かるところだろう、間に合うきっと間に合う。

 体の所々から青い光が滲んでいるのを僕は見た、体が悲鳴をあげているのかもしれない。車道では操縦者を失った車たちが衝突や急停止を起こしていた、バスもこれじゃあ危険だろう。

「あ゛あ゛あ゛ぁ ぁ ぁ ぁ ッ !」

 意識が朦朧とする中、叫んでなんとかぼやけていく意識を繋ぐ。意識と自転車が軋み音をたてる。限界だ限界だ、焼け焦げた意識が回路を唸らせる。

 排熱によって泡立った循環液が不可視なほど細い管を溶かそうとする、視界すら安定しなくなった。まるで黒い羊のようなノイズが目玉…カメラなのかもしれない…視界にぶつっと入っては消えていく。

 焦げた臭いを放っていたタイヤがついに峠に乗り、遠目にバスの後ろ姿を捉える。

 切羽詰った脳内がたちまち湧き上がる、どうやらまだ無事のようだ。いつまで持つかはわからないがバスはまだ無事に走っている。体は限界を迎えているがどうやらモニュメントの影響はまだ届ききってはいないようだ。

 運転手は少なからず影響を受けているのだろう、バスの速度は緩やかに遅くなっていた。それが追いつけた主な原因だろう、少なくとも今はそれに感謝しなければいけない。

 僕はバスの背で揺られる君の黒髪を見た。

 バスにはすぐに追いつけた、だが影響を受けて苦しんでいる運転手がふいにドアを開ける事はないだろう。その時自転車の軋みが歪な金属音に変わった。

 タイヤを本体と繋いでいた部分が弾け飛んだ。

 僕と残された本体は車に等しい速度そのままに前傾姿勢に飛ばされ、何の金具にも縛られなくなった前輪は峠の緩やかな坂へと駆けていった。次の瞬間見たのは凄まじい速度で通り過ぎていくアスファルトだった。

 勢いそのままに頭部を高速で打ち付け首が先ほどの自転車のような軋みをあげる、そのまま半身で回転しながら僕の脇腹に自転車のフレームが食い込みさらに打ち上げられる。

 見たこともない量の赤い液体をバスにばら撒きながら僕はバスの屋根に叩きつけられた。ある意味幸運だったのかもしれない。

 頭部の状態はわからない、続いて道路に打ち付けた右腕はまともに動いていない、脇腹はそんなに損傷していないようだが口と頭から血とよくわからない溶液が混じった赤いものが流れている。脚部も先程までの運動のせいで震えているし、右目はもはや物の輪郭を捉えきれていない。

 がたがたと震える足を必死に動かしてバスの屋根を這う、目標は運転手だ。運転手に接触さえできればバスを止めて助けを待つことができる、確か母が僕を負わせた人達がいるはずだ……。

 ………赤い線を屋根に描きながらなんとか僕は運転手の隣へ身を落とす、がたがたな体でサイドミラーにしがみつく。運転手は予想通り頭を抑えていたがまだ運転は続けているようだ。

「止メて、今スぐバスをトめてクレ!」

 自由に動かせる左腕でサイドミラーを掴んでいるので、残った頭でガラスを打ち運転手の気を引く。メッセージは届かなかったようだが彼は気づいてくれたようだ。よろよろと彼は窓を開けて僕の顔を見た。

「バスヲ止めテくれ!」

 彼は僕の顔から目線を戻しブレーキをかけた。

 反動で僕はサイドミラーから離れ少し先の道路に転がった、峠から落なかったのは幸運だ。すぐさま這いながら起き上がりバスに近づく。

 運転手もよろよろとしながらバスから降りてくる。

「大丈夫ですか…酷い怪我だ……これは一体…」

 お互いぶつぶつと情報を交わし合う、運転手の様子は少しずつ悪化していき話し終えることにはバスの側面に寄りかかって膝から崩れ落ちた。

 頭からの出血は少なくなった、機械化をしていなければとっくに死んでいる。運転手が出てきたドアから膝で歩きながらバスの中に入り込む。右腕が動かないだけでこんなにも不便だなんて気づきもしなかったな。

 頭から赤い雫をぽたぽたと垂らしている僕を見つけて君は目を見開く。中の乗客は皆眠っているかのようだったが、おそらく全員影響を受けているのだろう。本当にこの影響はなんなのだろうか、機械化している人間にだけとてつもない悪影響を全国的に及ぼす…まるでテロじゃないか。

「……え?」

 うまく言葉が出ないようだ、やっと手すりに捕まって僕は立ち上がるがすぐに膝に力が入らなくなってしまう。彼女はすぐに立ち上がり僕の肩を支えてくれた。

「こんなになって、何があったの…?」

 必死に何があったかを説明しようとするが口がパクパクするだけで声は出てこない。

 左目で彼女の顔を捉え無理を承知でバスの外へと誘導するがほとんど力が出ない、彼女の体どころか僕の体すら動くことはなかった。

 どうやら相当丈夫なこの体でも限界を超えたらしい、そりゃぁあんな無理を続けたら動けなくなるさ。

 また左目を彼女の方に動かす。せめて意識が消えるギリギリまで彼女の顔を見ていたい一心だった。

「…………」

 彼女はじっとフロントガラスの奥を見つめていた。そして突然僕の肩を背負って出口へと歩き始めた。しかしその動きは僕のせいで非常に鈍く、彼女の顔を見つめ続けていた僕は何をしているのか理解できていなかった。

 引きづられているせいかバスの床がコトコトと揺れている、もし歩けるだけの力が残っていたならすぐに二人でバスを降りて安全な場所に逃げれたのに。

 ………逃げる?

 そうだ、彼女は逃げている。何かから逃げているような動きだ。

 僕は首をゼンマイのような音をたててフロントガラスの方へと左目を向ける。口から溢れた液が垂れる。

 見えたのは車だった、そりゃ隣街に行くための峠道だ。バスしか走っていないなんて幸運な事は起きないさ、あの運転手のように影響をあまり受けずよろよろになりながら運転していたのだろう、そしてその道の先に無理やり止まっているバスがいたんだ、よけられるはずがない。

 相手の運転手はすでにハンドルに突っ伏しておりどうやらアクセルを踏みっぱなしになっているらしい、速度は僕がこいでいた自転車よりもはるかに速い……当然か。

 目の前が暗くなった。

 体が何もかもから開放されて軽くなる。

 青空が視界に入り、そこに微かに笑う君の顔が写りこんだ。

 君はバスの中にいた、僕は道路に再び頭を打った。

 何をされたのかわからなかった。打ち付けたショックで聴覚すらほとんど失われ残ったのは左目の視界だけだったが、そこで君は口を動かし僕へ何かを伝えていた。

 左端に全速力でせまる車の影を捉える、彼女はそれすら気にせず僕に言葉を伝え終えにっこりと微笑む。

 僕の何かがブツリと音をたてて目だけではなく意識を暗闇が包んだ。








 もし僕がたどり着かなければ、バスは止まらず無事に隣街へと到着できたもしれない。

 もし僕がバスへ乗り込まなかったなら、君は後部座席で揺られ続け衝突の勢いを最小限にできただろう。

 僕は君を助けたかった。僕にはもう君が何を言いたかったのか、君が今無事なのかはわからない。

 だが自分がまだ道路に寝ていることはわかる。外との世界とは遮断されているのだけれど、それじゃあ何もかもわからない。

 自分が何かに触れているのか、それとも風にさらされているのかすらわかりはしないくせに。

 もしも世界に神様だとかそういう存在がいるなら、僕を赦してくれるだろうか。余計なことをして大事な人を喪ってしまったかもしれない僕を。

 きっと彼女は間に合わないと知って僕をバスから落としたのだ。僕が助けたかった彼女を差し置いて。

 なんとも情けない僕を、無様な姿をしてどこかをたゆたっている僕を、赦してくれる人はいるのだろうか、いっそ居ないで欲しいと祈ってしまう。

 だけど、助けたかった彼女に望まれて生きる事を赦して欲しい。

 まえがきにある通りしばらく遅くなります。

 あんまり読んでくれている人はいないと思いますが言っておきます。

 計画している作品は必ず完遂しますので、それまで長く待って読んでいただけたら幸いです。

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