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しましまがある

作者: 水門うなぎ

 しま子はいつも縞の服ばかり着ている。

 入学式典からそうだった。ボーダーのコートで一人、目立っていた。

 彼女と仲良くなるとは思わなかった。


 基礎科目の授業で隣に座った彼女は、白黒ボーダーのセーターを着ていた。

 次の日のオリエンテーションでは、ボーダーのジャージ。

 偶然かと思っていたら、次の日も、次の日も、結局夏休みまでずっとしま子はしましまだった。

 「なぜ?」と訊くと、「好きだから」と微笑んで答える。

 それに文句などつけようはない。ボーダー好きの子なんていくらでもいる。

 でも……


 100%なんだ。いつもしましま。

 学校以外でもしましまなのかどうかは、私は知らない。しかし私が見るしま子は必ず、しましまなのだ。


 しま子はいい奴だ。やはり好きだという柄に文句を言う必要はない。私も水玉の服、沢山持ってるし。


 私が気にし過ぎるだけなのかと、一度、誠にたずねてみた。

「よくわからないけど、いいんじゃない?」誠は答えた。

 まぁ、そうだろうな。一応きいてみただけだ。こいつは服なんか興味ないだろうし。


 誠とは高校が同じで、大学入学式が終わってすぐに告白された。そして未だにキスしかさせてない。

 キャバみたいな子もうろうろする校内で、私は地味な青春送ってます。そして大学で唯一出来た友達は、しましまのしま子なのだ。


 服装こそ派手なボーダーワンピース着てたりするけど、しま子も全然こっち寄り。おとなしい。

 というか地味なサラリーマン家庭の私と違って、しま子は結構お嬢様だったりする。実家は、どこかのお殿様の家系だそうだ。

 大学が終わったら結婚するんじゃないかな。田舎のお金持ちと。


 彼女のしましまは、なんかその辺の家庭の事情と関係あるのかもしれない。

 家柄のプレッシャーみたいなものが、彼女の心におかしな影響を与えて、過剰なしましまに走らせているのかも。


 しま子はサークルに入らない私に付き合って、自分もサークルに入らない。なんか悪い気がして、


「サークルにでも入りなよ、綺麗なんだし、チヤホヤされるよ~」


と言っても、


「じみ子ちゃんと一緒にいるだけで十分だよ」


 なんて返してくる。なんだかな。もう誠いらないかもって思っちゃうよ。しま子は、私、じみ子と同じ草食動物だ。



 夏休みに入った。しま子は九州、私は千葉の実家に引っ込むけど、しばらくのお別れが悲しかった。

 それだけしま子とそのしましまは私の生活の一部になっていた。

 でもま、連絡もするってことで、それぞれの世界に帰っていった。


 しま子と会わない日々が始まって2週間くらいした頃、レポート関係の急用で大学の町を訪れた私は、言いようの無い違和感をおぼえた。


 何かが気になる。そわそわする。


 しばらく大学から離れ実家でだらだらして、高校時代の気分に浸っていた為か、私はしま子が横にいる感覚を忘れかけていた。

 それがこの町に来て、強烈に戻ってきたのだ。しま子はいないはずなのに。

 私にとって、大学の有るこの町の風景の全ては、イコールしま子のしましまと共にあるのが当然のことだったのだろう。


 あらためて考えると、しま子ってやっぱり変だ。だってALWAYSしましまだよ? そんな事を考えながら歩く。やはり何か不安だ。

 あのしましま、何なんだろう。結局私は、しま子と仲良くなって気にしなくなったつもりでも本当のところは気になってたんだ、納得できていなかったんだ、あのしましまが。


 その時、ぼーっと歩いていた私の額に何かが当たった。歩道にまで伸びている公園の樹木の枝だった。

 うわっと思って手で払うと、また別の何かがバチバチと当たってくる。

 何? 

 

 それが一瞬目に映ると、考えるより先にもう、体が逃げ出していた。そして思考に電撃が走った。


「しま子だ」


 あのボーダー。目の前を横切った蜂のお尻の、黒と黄色のしましま、それは、しま子だった。

 理屈ではない。蜂の縞々は何のためにあるのか?

 警戒色だ。私は踵を返した。


 横断歩道を走り抜ける。閉まりそうな踏み切りの遮断機を潜る。理容店の赤青白の縞々看板の由来は、動脈、静脈、なんだっけ。汗で額に髪が張り付く。

 ついにアパートに辿り着いた。私のではない、誠のアパートだ。二階の彼の部屋、ブラインドが下ろされている。陽光は夕日に変わろうとしている。外付けの階段を駆け上がる。ドアを一気に開ける。 開いた。開いてしまった。


 薄暗い室内で、しま子は、誠と抱き合っていた。初めて見る、しま子のしましまじゃない姿、それは裸だった。

 いや……ブラインドから漏れ込む西日が、二人の裸に見事なボーダー柄を描いている。

「やっぱりしましまじゃん!」

 そう言って私は扉を閉めた。部屋に残された二人を、あのしましまが牢屋となって永久に出さないよう願いながら。



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