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私はそこまで読むと目を閉じたー……。
あの日ー……。
今でも昨日のことのように思い出せる。
「はじめまして、ひかりです!!」
「こんにちは、ひかりちゃん。僕は“きょーいち”です。これからよろしくね」
柔らかく笑うその人こそがお兄ちゃんだった。
「彼は恭一くんよ? ひかりのお兄ちゃんになるの」
お母さんが紹介したのはまだ16歳のお兄ちゃん。
私はまだ12歳だった。
私は昔、そう、お兄ちゃんと出会う前まで「会沢《あいざわ》ひかり」だった。
血のつながりのあるお父さんの顔はぼんやりとしか覚えてない。……ひどい、娘だろうか。
物心ついたころにはすでにいなくて、遠くにいるのって聞かされていた。それに、私にはお母さんがいて、あのころの私は、お母さんさえいればあとはなんだっていい。そんな風に思っていた。
だから、別に、新しいお義父さんやお兄ちゃんに興味はなかった。
12歳の時、私は「相良《さがら》ひかり」になった。
お兄ちゃんの妹になった。血のつながりはなかったけど、お兄ちゃんの妹になった。
最初のうちはお兄ちゃんなんて、関係ないって思っていた。お母さんがいればいいって。
でも、お母さんは“みんなの”お母さんだった。そしてお義父さんの“奥さん”だった。
今までみたいに“私だけの”お母さんじゃなくなった。
さみしかった。なんだか、世界に一人になったような気分だった。
私にはお母さんしかいないって思っていたからかもしれない。
そんな時にそばにいてくれたのがお兄ちゃんだったんだ。
お兄ちゃんは優しかった。すごく優しかった。
私を一番にわかってくれていた。いつも助けてくれた。いつも支えてくれた。
何があっても私を見捨てないでくれた。
私は……。お兄ちゃんが居なければきっと生きることを諦めていた。
お兄ちゃんが居たから……今の私がいる。でも、私はお兄ちゃんのいい妹じゃなかったよ。
私はお兄ちゃんに「十字架」を背負わせてしまった……。
私のせいで……。お兄ちゃんは犯罪者になった。
13歳の時、お母さんがこの世界のどこからもいなくなった。そう、死んだのだ……。
事故だった。暴走した飲酒運転の車に巻き込まれた。
あの日はお兄ちゃんの誕生日だった。
お母さんは誕生日のケーキを持っていた。たぶん、予約していたケーキを取りに行ったんだと思う。
だって家族になってから初めてのお兄ちゃんの誕生日だったんだもん。
お母さんがいなくなった、その時からお義父さんは変わった。
私は首を振ってそのことを思い出すのを止めた。そして一枚目を他の手紙の下にして二枚目に目を向けた。
わずかに4年嗅いでいなかったお兄ちゃんの香りがした気がした。




