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「この事件はどういった事件だったのでしょうか?」
「この事件はですねぇ……」
スタジオにいるであろう人たちの会話が、無情に響く。
その言葉が、あたしをひどくイライラさせた。
何も……。そう、何も、知らないくせに……。
奥歯をギリギリと噛んだ。
相変わらず、そこにお兄ちゃんは映っている。たとえ、犯罪者と呼ばれるようなレッテルを張られていたとしても。
私にとって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだ。
なんの変りもなかった。
そこから視線をそらすことはなく、ひたすらにお兄ちゃんを画面ごしに指で触れた。
膝立ちになり、夢中でお兄ちゃんに触れた。
膝と割れたコップの破片が接触し、痛い、と感じることすらもったいなく思えた。
今は、そんな些細なことなんかどうでもよかった。
今は、お兄ちゃんのことだけを、考えていたかった。
「四年前、相良恭一氏は父親を殺して逃亡したと思われた事件ですね。妹さんが目撃しているか、と疑われたそうなんですが、当時の妹さんは震えた体で知らないと答えるだけだった、と」
「それがいきなりの自首ですか。犯罪心理に詳しい瀬川さんにお話しをうかがいたいと思います。瀬川さん」
「はい。今回の事件では……」
画面がスタジオに戻ってもあたしはお兄ちゃんの影をひたすらに探した……。お兄ちゃん……。