嘘も方便
◇◇◇
「つまり、ミリアナがずっと気になっていた方というのが、、」
「はい。カイン・エルドリアンと申します。このシルヴァド国の騎士団長を務めています。ミリアナさんとは、ずっと手紙を通して、連絡を取り合っていました」
「なんと…!」
向かいに座るミリアナの両親は、信じられないとでもいうように顔を見合わせている。
このやり取りは、もう3回は行われていた。カインの登場は、それほどまでにミリアナの両親に衝撃を与えたようだった。
あの後、2人は先生に適当な理由を付けてアカデミーを出てきた。カインも、報告書は明日でいいらしく、馬車に乗って共にミリアナの家に向かった。
ミリアナの両親もちょうど家にいたため、彼女が来客室に両親を呼んだことが全ての始まりだった。
元々、城のパーティーでご縁があったこと。その後、文通を通して、何度もやり取りをしていたこと。次第に惹かれていたため、両親からの縁談を断り続けていたこと。今日、アカデミーに偶然来たカインと改めて直接言葉を交わし、その中で婚約を申し込まれたこと。
全て帰りの馬車の中で組み立てた作り話だが、一応筋は通っている。出会いから現在に至るまでの話を、両親は一切疑わず、信じたのだった。
「ミリアナが縁談を断り続けていた理由が、まさか、」
「ごめんなさい、お母様。恥ずかしくて、言えなかったのです」
ぽっと顔を赤らめるフリをしながら、ミリアナは生娘を演じる。両親にさえ、この振る舞い。いかにしてミリアナが演じてきたかが伺えた。
対して、カインもニコニコと人の良い笑みを浮かべている。しかし、どこか張り付けたような印象がある。笑うのが苦手なんだろうな、とミリアナは感じていた。
「城勤めの騎士団長様が、まさかうちの子と婚約を結びたいだなんて。何度聞いても信じられませんな」
「ありがとうございます。でも僕は、アカデミーで優秀な成績を修めていながら努力を欠かさないミリアナさんのことを素直に尊敬しているのです。話を聞く度に、僕も仕事を頑張ろうと思えています」
これ以上ない満点の回答に、ミリアナの両親は深く頷いた。そして、
「うちの子を、よろしく頼みます」
「ミリアナ。幸せになるのよ」
婚約承諾の返事に、2人は嬉しそうに顔を綻ばせた。
そして、元気よく返事をしたのだった。
◇◇◇
「お疲れさま」
「ん。君もお疲れさま」
屋敷の一室。星空を眺めているカインに、ミリアナは静かに声をかけた。
婚約が認められてから、カインは夕食を勧められ、そして終いには泊まっていくように勧められた。さすがに婚約を申し込みに行った日でもあるため、断ることはできず、今に至る。
「悪かったな。両親が相当はしゃいだ」
「素敵な親御さんじゃないか」
「ありがたいことにな」
そう言いながら、ミリアナはソファーに腰を下ろす。向かいに座るカインは、ミリアナをじっと見つめた。
「どうした」
「いや…」
「なんだ。何でも聞いてくれて構わないぞ」
「……君は、両親の前でも繕っているのか?」
「そうだな。しかし、今更だよ。慣れてしまえば、苦労も感じない。勝手に切り替わるんだ」
頭を軽く振るミリアナに、先ほどの令嬢の面影はない。すっかり大人びた目で、ちらりとカインのことを見上げた。
「カイン、君のご両親にも挨拶に行くだろう?日程はどうする?」
「あー…いや、俺の両親はいい。他国に住んでいるし、あんまり気を使うような仲でもないから」
そう言って、カインは眉を下げて笑った。どこか寂しそうな横顔に、ミリアナはそれ以上踏み込めなかった。よく分からないが、訳ありなのかもしれない。本人が嫌がっている話を、根掘り葉掘り聞くのも野暮だろう。
婚約者という間柄ではあるが、全てを打ち明ける必要はないとミリアナは考えている。誰にだって秘密の1つや2つある。本人が言いたくなるまで待つのみ。
「分かった。ならば、これで正式に婚約者になろうではないか」
「ああ、もちろん。よろしく」
「こちらこそ。ではまた明日。私はアカデミーがあるから、もう自室に戻らせてもらうよ。慣れない部屋だとは思うが、ゆっくり体を休めてくれ」
そう言って立ち上がるミリアナに、カインは改めて声をかけた。
「ミリアナ」
「なんだ?」
「今日はありがとう。おかげで気が楽になった。もう1人で抱え込まなくてもいいんだな」
カインの言葉に、ミリアナは一瞬驚いたように目を見開いた。そして、
「私もだよ。最初こそ警戒してしまったが、君と話せて本当に良かった。きっかけを作ってくれてありがとう」
2人は見つめ合い、微笑んだ。
数百年の時を超え、再び出会った勇者と魔王。敵としてではなく、互いを理解し、支え合うパートナーとして、新たな1歩を踏み出したのだった。
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