表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の日 ~咎~  作者: 葵 嵐雪
最終章 別れ
37/39

最終章 そのニ

 全てが終わり、桐生家へと帰ってきた鈴音と沙希。琴菜は沙希の背中で寝ている美咲の姿を見て一安心すると、すぐに美咲を抱えて美咲の部屋へと連れて行き、そのまま寝かせてやるのだった。

 そして、そんな美咲と同じように、鈴音も部屋に戻ると何も言わずに、そのまま布団の中へと潜り込むのだった。そんな鈴音に何も言わずに部屋を後にする沙希。それから琴菜に鈴音に噛まれた手の治療をしてもらうと沙希はもう一度、出かけていった。

 なにしろ鈴音はあんな別れをしたばかりだ。だから沙希は一人で出かけたのだ。そんな沙希が向かったのは駐在所だった。そこには避難してきた人が、ちらほらと帰って行く中で、沙希は吉田の姿を見つけると、すぐに人気が無い場所へと移動した。

 そこで沙希は今回の結末を話すのだった。



 それから三日後。鈴音達は未だに桐生家にお世話になっていた。沙希が電話で休学を一週間も伸ばしてくれたおかげで、鈴音達はすぐに帰る事無く、未だに桐生家に世話になっているというワケだ。

 そんな三日目の朝、沙希は眩しい光で目を覚ました。そんな沙希に鈴音の声が届く。

「ごめん、起こしちゃった?」

 そんな問い掛けを聞きながらも、沙希は時計に目を向けると、いつもの起床時間よりも三十分ほど早い時間を時計の針は指し示していた。だからだろう、沙希も上半身だけを起こすと鈴音に顔を向けた。その鈴音は窓の縁に腰を掛けながら沙希の方を見ていた。そんな鈴音の姿を見て、沙希はいつも通りの口調で話す。

「別に気にしなくて良いわよ、いつもより早く起きただけの事だから」

 そう言って鈴音の質問を軽く流す沙希、そんな沙希の答えを聞いて、鈴音も「そっか」と一言だけ返すと、今までそうしていたのだろう、顔を外に向けて、朝日に照らされている田畑に視線を向けた。

 沙希も、視線を鈴音から外すと、何事も無かったように着替えをしながら鈴音に話し掛ける。

「それで、鈴音……もう良いの?」

 そんな短い質問する沙希。けれども、言葉は短くても沙希が鈴音を心配する気持ちが沢山詰まっていた。そんな沙希の真意を鈴音も分っているのだろう。鈴音は顔を動かす事無く、微笑を浮かべると言葉を返してきた。

「うん、悲しい事は全部、涙と一緒に流したし、いつまでも泣いているワケには行かないからね。それに、そんな事をしてたら姉さんに叱られるよ。だから……もう大丈夫、私はもう歩ける、目の前にある道をしっかりと見詰めながら、しっかりと歩いて行ける。だから沙希、心配掛けて、ごめんね。もう平気だから」

 平気なわけ無いでしょ、でも、鈴音の心に整理が付いた事は確かみたいね。鈴音の言葉にそんな事を感じる沙希。沙希は人の悲しみが、そう簡単に消えない事を知ってる、特に……親しい人を失った時の悲しみを知っている。だからこそ、鈴音が口では平気と言っても、元気になったわけじゃない事は分っていた。だからこそ、沙希はいつもの口調で、いつも通りに話を続けるのだった。

「別に心配なんてしてないわよ。それと鈴音、前にも話したけど、確認の為にもう一度言っておくわね。私達の休学を一週間伸ばしたわ。だから、いつ帰るかは鈴音が決めて良いわよ」

 そんな事を言って来た沙希に、鈴音は涼しい風を感じて、風で髪を揺らしながら答えてきた。

「そういえば……そんな事を聞いた気がする。……なら、最後まで村に留まるよ。やらなきゃいけない事が……まだ、あるから」

 そんな鈴音の言葉に首を傾げる沙希。まあ、沙希にしてみれば玉虫の一件は全て終わった物だと思っていたが、どうやら鈴音には、まだやるべき事があるみたいだ。だから着替えを終えた沙希が鈴音に言うのだった。

「というか、鈴音。そろそろ着替えたら、もう少しすれば、琴菜さんが私達を呼びに来ると思うわよ。今日は部屋じゃなく、ちゃんと居間で食べるんでしょ。だったら、早く着替えなさいよ」

「ん~、もうちょっと、このままで……」

「そう……」

 最後の一言で会話を終わらせた沙希は、そのままテレビのスイッチを入れるとニュース番組にチャンネルを合わせるのだった。もちろん、この村で起こった出来事なんて放送された事は無いのは当然だ。閉鎖された村で悪霊が暴れたという話を誰が信じるというのだろう。けど、多数の死者が出た事は確かだ。その事に対しては源三郎や吉田が東奔西走してくれているようだ。だから村での出来事が放送されるわけが無い。たぶん、最終的には何からの理由を付けて、事件の全てを終わらせる事になるだろう。

 それでも、沙希はテレビを見ながらも、時々視線を鈴音に移していた。窓辺に座り、手すりに腕と頭を預けている鈴音の姿、沙希はそんな鈴音の姿から悲しさを感じる事は無かった。それは鈴音の雰囲気が悲しみを出しておらず、自然のままに、初夏の風を感じるかのように行雲龍水のような雰囲気を出していたからだ。

 そんな鈴音が沙希に顔を向ける事無く、話し掛けてきた。

「そういえばさ、沙希」

「どうかした」

「美咲ちゃんは、どうしてるの?」

 そんな質問をしてくる鈴音に沙希は質問の意味をしっかりと理解していた。だからこそ、鈴音が聞きたい事をしっかりと答えるのだった。

「今のところは昨日の鈴音と同じよ。落ち込んで、食欲も無いみたいだし、琴菜さんが部屋に運んだ食事にも、ほとんど手を付けてないわよ。まあ、今日もあの調子だと思うけどね」

「そっか……」

 短い言葉だけで返してきた鈴音に対して沙希は初めて、テレビから完全に視線を外して鈴音の方に身体ごと向けてきた。そんな沙希が鈴音に尋ねる。

「鈴音、美咲ちゃんと話をするつもりなの? けど、今の美咲ちゃんは……とてもじゃないけど見ていられないほどよ。それなのに美咲ちゃんと話をするつもりなの?」

 少し早口でそんな質問をする沙希。そんな沙希とは対称的に鈴音は体を動かす事無く、しっかりと答えてきた。

「うん、そのつもり」

 あっさりと答えてきた鈴音に驚きを示す沙希。なにしろ、沙希も、ここ二日ほど、とてもではないが言葉を掛ける事が出来なかった鈴音の姿を目にしている。だから、美咲もそんな状態だろうという事はすぐに想像できた。沙希は鈴音に声を掛ける事が出来ないほどに落ち込んでいる人に掛ける言葉があるのか、分からないほどだ。だからこそ、沙希は鈴音とは、まったく正反対の言葉を口にする。

「私が言うのも、あれだけど。ここ数日の鈴音は見るに耐えられなかった。たぶん、美咲ちゃんも同じような状態だと思う。だから、どんな言葉も美咲ちゃんに届くとは思えない。そもそも、どんな言葉を掛けて良いのか分からないほど落ち込んでるのよ。そんな美咲ちゃんに」

「だからだよ」

 少し興奮気味で話していた沙希だが、自然体のような鈴音の言葉で制されると、それ以上は喋る事が出来なかった。だからこそ、沙希はテレビを消して、鈴音の言葉に耳を傾けるのだった。そんな鈴音が自然体のように、そしてゆっくりと話し始めた。

「だから話をしなくちゃいけない。確かに、今回の事件で死んだ人達は美咲ちゃんが切っ掛けとなったから死んだのかもしれない。でも、美咲ちゃんに罪がある訳じゃないけど自分を責め続けている。自分があんな気持ちを抱かなければ、こんな事件は起きなかったって。けど、美咲ちゃんに罪があるわけじゃない、美咲ちゃんは利用されたに過ぎない。だからだよ、美咲ちゃんと話して、しっかりと美咲ちゃんのガス抜きをしてあげないとなんだよ」

「それで、美咲ちゃんが立ち直れるわけ?」

 そんな質問を返す沙希。まあ、沙希の気持ちも分からなくは無い。なにしろ、昨日までは鈴音も泥のように沈んでいたのだから。そんな鈴音がいきなり、そんな事を言い出したのだから、沙希が心配になって、そんな言葉を口にするのは当然というべきなのかもしれない。

 そして、そんな質問をしてきた沙希に、鈴音はやっと頭を上げて沙希と向き合うと、沙希が思っても見なかった事を口にする。

「立ち直れるわけが無いよ」

「って、それじゃあ意味が無いでしょっ!」

 鈴音の言葉に思わず、そんな突っ込みを入れてしまった沙希。そんな沙希を鈴音は軽く笑うと、ゆっくりと話し始めた。

「でも意味ならあるよ。美咲ちゃんも……そして……私もすぐに立ち直れるワケがないよ。でも……ゆっくりなら立ち直れる。少しずつ、いろいろな事を受け入れて行って、その度に泣くかもしれないけど、立ち直る切っ掛けなら作れる。それに、今の美咲ちゃんは自責の念で自分自身を押し潰そうとしてる。だから、私が話をして、美咲ちゃんの中に溜まっている物が抜けるように穴を空けないといけないんだよ。そうすれば……ゆっくりだけど……立ち直れるから」

 そんな言葉を聞いて思いっきり溜息を付く沙希。どうやら沙希にも鈴音がしたい事が分かったようだ。鈴音は美咲を元気付けたり、立ち直せるために話をするんじゃない。美咲の中にある罪悪感と自責の念をゆっくりでも抜いて、ゆっくりで良いから立ち直させようとしているのだ。けど、それは誰かさんも同じだと言わんばかりに、沙希は呆れた視線で鈴音を見詰めながら話す。

「まあ、確かに今の美咲ちゃんには、それが必要なのかもしれないわね。それで、私の目の前に居る人も、かなり落ち込んでると思うんだけど、それは、どうするつもりなのよ」

「それは沙希に任せるよ」

「他力本願っ!」

 鈴音の言葉を聞いて、思わず、そんな言葉を叫んでしまった沙希。鈴音は、そんな沙希を軽く笑いながら、次の言葉をしっかりと沙希に告げた。

「私には沙希が居る。だって、沙希はこんなところまで付いてきてくれただけじゃなくて、本当に最後まで私の傍に居てくれた。そんな沙希が居てくれれば、それだけで私は立ち直れるよ。時間を掛けて、ゆっくりとね」

「し、仕方ないわね」

 照れるように鈴音から顔を逸らして頬を掻く沙希。そんな沙希を鈴音は微笑を浮かべながら、少しだけ楽しいと感じながら、沙希を見ているのだった。



「美咲ちゃん、入るよ」

 そんな言葉を掛けてから美咲の部屋に続いている襖を開ける鈴音。あれから鈴音達は呼びに来た琴菜に朝食の準備が終わった事を告げられて、二人揃って居間に行った。それからゆっくりと朝食を食べきるとの同時に琴菜は暗い顔で美咲の部屋に持って行った朝食を下げてきた。そんな琴菜に鈴音は、これから美咲と話をする事を告げると琴菜はしっかりと頭を下げて「よろしくお願いします」と告げて、美咲の事を鈴音に任せる事にした。

 そんな琴菜に鈴音は微笑みながら、任されると、そのまま沙希と一緒に美咲の部屋へと向かったというワケである。そんな二人が部屋に入ると、部屋の中は暗く、カーテンが閉まっている状態だった。だからこそ、鈴音は真っ先にカーテンを開けて、更に窓を開けると初夏の風を部屋の中に招く。

 それから鈴音は未だに横になっている美咲の枕元に座ると、美咲の頭を軽く撫でながら話を始める。

「……悲しいよね。いっぱい……悲しい事があったよね。だから……どうして良いのか分からないんだよね。美咲ちゃん……それは私も同じだよ。美咲ちゃんが愛したお兄さん、静馬さんを失ったように、私も愛した姉さんを失った」

「……ごめんなさい」

 美咲は閉じ籠るように布団を強く抱きしめると、そんな言葉を口にした。けれども、鈴音はそんな美咲に微笑みながら、優しく頭を撫でながら話を続ける。

「確かに玉虫を復活させる原因となったのは美咲ちゃんの心かもしれない。でも……美咲ちゃんはお兄さんや私の姉さんを殺すつもりは無かったんでしょ。どうして良いのか分からなかっただけだよね。だから、美咲ちゃんが謝る事は何も無いんだよ。誰だって大切な人が離れて行くと不安に思うのは当然の事だよ。今回はそんな美咲ちゃんの心に玉虫が入り込んで悪さをしただけなんだよ。だから美咲ちゃんが悪いのは玉虫を復活させた事だけ、姉さん達の事は仕方ないんだよ。だから美咲ちゃん、悲しい事だけど、美咲ちゃんは玉虫を復活させた責任を取らないといけない。それは、どんな形で責任を取れば良いのかは私には分からない。でも、それは美咲ちゃんが考えて、美咲ちゃんが答えを出さないといけない事なんだよ。だから考えよう、玉虫を復活させてしまった罪を償う方法を」

 鈴音がそう言うと、美咲はさっきまで強く抱きついていた布団を放すと、頭の上にある鈴音の手を取った。相変わらず美咲は布団を被ったままだが、鈴音の手を取る事で、鈴音の温もりを感じる事で、少しだけ安心できたのは確かかもしれない。

 言葉は掛けないものの、二人の様子を見ていた沙希はそう感じていた。沙希が黙ってみているのも、二人に掛ける言葉が見つからないから当然とも言えるだろう。けど、鈴音と美咲は違う。二人とも今回の出来事で大事な人を失ってる。だからこそ、分かり合える事がある。二人を見ていて、そんな事を思ったからこそ、沙希は余計な口出しはせずに事の成り行きを、そのまま見続けるのだった。

 鈴音の手を取った美咲は、布団から出ようとはしないが、鈴音の手を放そうとしないのも事実だった。だからこそ、鈴音は美咲の手を包み込むように両手で美咲の手を包むのだった。それから鈴音はゆっくりと話を続ける。

「でも、今だけはゆっくりと休むと良いよ。罪を犯して、悲しい事があったのなら、立ち止まっても良い、その場で泣いても良い。でも、いつまでも立ち止まってちゃダメ。いつかは立ち上がって進まないといけない。自分が犯した罪を償うために、そのために出来る事を考えないといけない。それをするために、今は立ち止まっても良いんだよ、泣いてても良いんだよ。必ず、立ち上がる事を決めているのなら。今回の事は悲しい事はいっぱいあった、ううん、いっぱいあり過ぎた。だから悲しんで良いんだよ、泣いてても構わないんだよ。悲しい事があって、人が立ち止まって泣くのは当然の事なんだから。だから美咲ちゃん、今は沢山悲しんで、沢山泣こうよ。次に立ち上がるために」

「…………」

 鈴音の言葉をずっと聞いていた美咲の手が震え始めた。まるで、耐え切れない物に耐えるかのように。それでも限界があるのだろう。美咲は鈴音の手を放すと、すぐに布団を投げ出し、泣き顔を鈴音に向ける。そんな美咲に対して鈴音は優しく微笑み、両手を美咲に差し出すのだった。

 そんな鈴音の仕草が、美咲の中に溜め込んでいた物の堰を切ったのだろう。美咲は鈴音の胸に飛び込むと思いっきり泣き出した。鈴音もそんな美咲を優しく抱きしめてやるのだった。そんな鈴音も、いつの間にか一筋の涙を流しながら美咲に告げる。

「辛かったんだよね、悲しかったんだよね、どうして良いのか……分からなかったんだよね。だから……今は思いっきり泣いてて良いんだよ。美咲ちゃんはお兄さんを、私は姉さんを失った。だから私には美咲ちゃんの悲しみが良く分かる。分かるからこそ、私は美咲ちゃんを許せるんだよ。大事な人を失ったのは……同じだから」

「鈴音お姉ちゃん、鈴音お姉ちゃんっ!」

 美咲は泣きながらも鈴音を呼ぶ、それは美咲なりに鈴音と同じ思いだという事を言いたいのだろう。離れて見ていた沙希は、鈴音の胸で泣き叫ぶ美咲の姿を見て、そんな事を感じていた。そして鈴音も美咲と想いは同じと言わんばかりに、美咲を優しく抱きしめてやるのだった。美咲の想いを……受け入れるかのように……。



「それにしても、ちょっと意外だったわね」

 美咲が泣き疲れて、久しぶりに安心する事が出来たのだろう。美咲は安堵の表情を浮かべながらも、涙を流しながら眠りへと陥った。鈴音の言葉を聞いて、鈴音に受け入れられる事で美咲も少しは安心が出来たのだろう。だから美咲の寝顔は安からなものだった。

 そんな美咲を寝かしつけて、再び窓とカーテンを閉じて、部屋に戻って来た二人は、沙希が入れてくれたお茶をすすりながらも、テーブルで対面状態の沙希が窓の外を見ながら、そんな言葉を口にした。

「何が?」

 今ではすっかり調子を取り戻し、お茶菓子に手を伸ばしながら、お茶をすすろうとしていた鈴音が、そんな言葉を返した。そんな鈴音の言葉を聞いて、沙希は視線を鈴音に向けてから話し始めた。

「てっきり、私は美咲ちゃんは悪くないって言うのかと思ったけど。あそこまで、はっきりと美咲ちゃんが悪いって言うとは思わなかった事よ。鈴音なら絶対に、そういう事を言うと思ったんだけど」

 そんな言葉を発してきた沙希に、鈴音はお茶をすすると、手にした湯飲みを見詰めながら答えてきた。

「自責の念を持ってる人に、その人は悪く無いと言っても本人は納得できないものだよ。むしろ、逆に罪があると言って、それを償おうって言った方が、本人は納得できるものだよ。そういう事なら、沙希の方が良く分かってると姉さんから聞いたけど」

「まあ、そうかもね」

 それ以上は追求されたくは無かったのだろう。沙希は視線を再び窓の外に向けて、話を終わらせようとするが、やっぱり気になるのだろう。美咲についての会話を続けてきた。

「これで……美咲ちゃんも立ち直れるのかな?」

 そんな沙希からの質問に鈴音は呑気にお茶をすすってから答えてきた。

「時間は掛かると思うよ。でも……美咲ちゃんは、まだ幼い。だから、これから考える時間はいっぱいあるから、その中で美咲ちゃんは自分なりに考え、答えを見つけて行くはずだよ。私がやったのは、そういう道があるという事を教えただけ。後は美咲ちゃんが自分自身の力で歩いていかないとだよ」

「けどさ、鈴音が言ったとおりに美咲ちゃんは、まだ幼いじゃない。そんな小さい子に、そんな難問を突き付けるのは、どうかとも思ったのよね」

 そんな沙希の言葉に鈴音は昔を思い出しながら答える。

「幼いからといって弱いわけじゃない、小さいからといって何も出来ないわけじゃない。むしろ、小さい時に、そうした経験をする事で、これから大きく成長できるものだよ。だから、今は何も出来なくても、いつかは見つけるはずだよ。美咲ちゃんが自分で進むべき道を」

 鈴音にとっては今の美咲は昔の自分と重なる部分があったのだろう。鈴音は幼い頃に両親を亡くし、その後は静音の後を付いて行くように生きてきた。だからこそ、鈴音は知っているのだ。幼くとも、小さくとも、強くなる事が出来る。今の鈴音みたいに、そして……静音のように。

 それが分っている鈴音だからこそ、美咲に向かって慰めの言葉は掛けなかったのだ。むしろ、逆に美咲が自分自身で思い込んでる罪をさらけ出す事で、美咲に罪の意識をしっかりと持たせて、これから歩むべき道を示したに過ぎない。

 それは鈴音が歩んできた道と同じ部分があるからだ。幼い静音と鈴音は自分達なりに頑張って、いっぱい考えて、いっぱい辛い思いをしながらも、しっかりと自分達の道を進む事が出来た。そして……今の鈴音は、その道の中に本当の幸せがあるのだという事を、最後に静音から教えてもらった。

 だから、その事を美咲に伝えたくて、鈴音はあえて、そんな言い方をしたのだ。美咲がこれから歩んで行く道は辛いものかもしれない。でも、辛いだけじゃない。その中には本当の幸せがある、本当の幸せを作る事が出来る。その事に気がつければ、美咲もしっかりと歩いていけるはずだと、そう思ったからこそ、鈴音は道を指し示しただけで、明確な答えは言わなかった。

 その答えは美咲が自分の力で見つけないといけないものだし、自分の力で見つけた物だからこそ、大切だと分かる、幸せだと分かる。だからこそ、美咲は歩いていかなければいけないのだ。自分で見つけた道を自分自身の力で。

 鈴音の言葉を聞いて、沙希も鈴音達がどうやって生きて来たかは少しだけ知ってる。だからこそ、鈴音の言葉に納得が出来る物を見付けたのだろう。だからこそ、沙希は窓の外を見ながらも希望的な言葉を口にする。

「そうね、いつかは……そうなると良いわね」

 そんな沙希の言葉に対して、鈴音は確信があるかのような言葉を口にする。

「そうなるよ、絶対に」

 鈴音にも絶対的な自信があって出た言葉では無い。ただ、今回の事で美咲は玉虫ではなく、自分自身に責任を感じていた。自分自身を責める事が出来るのなら、その想いは他人を恨むよりも自分を成長させてくれる力に代わる。その事を鈴音は知っていたからこそ、そんな言葉を口にしたのだ。

 話が一区切りして、鈴音と沙希もお茶をおかわりすると今度は鈴音から口を開いてきた。

「そういえば、村長さんの葬式って終わってるよね。なら、せめて墓参りに行かないと」

「えぇ、鈴音が不貞寝している間に終わってるわよ。お墓の場所は琴菜さんに聞けば分かるでしょね」

「う~、沙希がまた意地悪になった~」

「私は真実を言葉にしただけよ」

「それが意地悪だ~っ!」

 会話がいつもの調子に戻ると、沙希がテレビを付けて、二人は昼時までの時間をゆっくりと過ごして行った。



「ここね」

 午後の日差しが照りつけてくる中、鈴音達は教えてもらった村長の墓を前にして立っていた。

「……思ってたのより普通だね」

「どんなのを想像してたのよ?」

「いや、村長さんの家系だから、それなりに威厳があるお墓なのかな~って、なんか凄く立派で、狛犬が番犬をしているような」

「お墓に威厳を持たせてどうするのよ。それに、そこまで行くとお墓じゃなくて神社でしょ」

「でもでも、村長さんのお墓なら、それぐらい凄くても良いと思わない?」

「思うわけが無いでしょ」

 鈴音の言葉を一言で一刀両断した沙希は、傍にあった水汲み場で汲んできた水をお墓にかけて綺麗にする。その間にも鈴音は、琴菜が持たせてくれた花を供えると、沙希が花活けに水を注いできた。それから線香をあげると、二人合わせて目を閉じて両手を合わせる。

 そして、鈴音は村長に報告するかのように思いをお墓に届ける。

 村長さん、村長さんから託された想い、それを叶えられたかは分からないですけど、私なりに精一杯、託された想いを叶えたつもりです。それは、村長さんがいろいろと私達に残し、託してくれたからこそ、玉虫を倒せたんだと思います。でも、私が出来るのは、ここまで、後は村長さんの想いを受け継いだ人に託したいと思います。村の事を、この村が……ずっと平穏でいられるようにと。だから村長さん、安心してください……とは言えませんが、私は大丈夫だと思います。今回の事で死んで逝った人達、その人達が残してくれた想いも、しっかりと村の人達に残ってると思いますから。だから大丈夫だと思います。そして……村長さんが私に託してくれた役目も、これで終わりですね。だから……ありがとうございました。村長さんの力なくしては、私達は玉虫を倒す事が出来なかったはずですから。そして……安らかに眠ってください。

 そんな想いを鈴音はお墓に向かって告げると、ゆっくりと瞳を開いた。そんな鈴音の隣では沙希が穏やかな顔で聞いてきた。

「何を伝えたの?」

 そんな沙希の質問に鈴音も穏やかな顔で答える。

「とりあえずはお礼かな、今回の事では、村長さんがいろいろと残してくれたからこそ、私達は全ての謎を解いて、玉虫を倒す事が出来た。だから、そのお礼。それから、もう村は大丈夫だと思うって。千年に渡って続いてきた玉虫の呪いから解放された村だもの、だから、もう大丈夫だって言えた。そういう沙希は?」

 質問を返されてしまった沙希は、照れるように頬を掻きながら答えてきた。

「私はお詫びかな。村長さんは私達の事を思って、いろいろな事をしてくれたのに、私は何も出来なかったから。むしろ邪険に思った事をお詫びしてからのお礼かな。結局は村長さんの力が無いと、私達は何も出来なかったわけだし、私達を気遣ってくれてた事も確かだし。だから、そのお詫びとお礼」

「そっか、そうだよね」

 沙希の言葉を聞いて納得する鈴音。やっぱり二人して思った事は似て寄っているのだろう。だからこそ、鈴音も沙希の想いがすぐに理解できたし、沙希にも鈴音の想いが理解できた。だからだろう、二人して視線を合わせると、お互いに微笑み。それから、もう一度、村長のお墓に向いて、二人は大きく頭を下げたのだった。



 村長の墓参りを終えた二人。沙希は右手を大きく上げて、体を伸ばしながら聞いてくる。

「それで、これからどうしようか? ここなら神社も近いし、水夏霞さんのところに挨拶に行く?」

 そんな沙希の提案に鈴音は首を横に振ってから答えてきた。

「水夏霞さんの所は、私達が村を出る時で構わないよ。それに……今の水夏霞さんは自分の手で自分の両親を殺した事に戸惑ってる。だから……水夏霞さんも立ち直る時間が必要なはずだよ。だから今は押し掛ける必要は無いよ」

「それじゃあ、羽入家?」

 そんな沙希の提案にも鈴音は首を横に振る。

「羽入家も最後の日で良いよ、今は今回の出来事で後始末が大変そうだから。だから、私達が村を発つ日に挨拶に行くよ。まあ、後で電話で、その事を羽入家の人に言っとくけどね」

「なら、どこから行く?」

 そんな沙希の質問に鈴音は微笑みながら答える。

「まずは駐在所かな、金井さんにも、いろいろと協力してもらった訳だし、吉田さんは後始末で居ないと思うけど、お世話になった事には変わりないから。まずは、そこに挨拶に行って、それから村の状況を見ながら、近所の人に挨拶周りかな~。あ~、でも、先に村長さんのところには顔を出さないとかな。葬式には出なかったわけだし、せめて香村さんにだけは挨拶をしておかないとだよね」

「そっか、なら駐在所と村長さんのところ、ご近所は明日にでも周りましょうか」

「うん、そうだね」

 これで二人の行き先は決まった。まずは駐在所に顔を出した鈴音達。

 そんな鈴音達を金井は快く、駐在所に招き入れ、歓迎してくれた。なにしろ金井も玉虫の事に間接的には関わっているわけだし、村が異変に襲われたのを、しっかりと目にしている。だからこそ、そんな村を救ってくれた二人を歓迎してくれたのだろう。

 金井は終始、二人の活躍を褒め称えるものだから、二人とも照れるのを通り越して、最終的には呆れる羽目になってしまった。それほどまでに、今回の事件で活躍した鈴音達が金井から見れば英雄のように見えたのだろう。そんな金井の話が一区切り付いたところで、沙希が瞬時にお礼を言ったので、金井は話を中断して、立ち上がると鈴音達に敬礼して、逆にお礼を言うのだった。それを切っ掛けに沙希は、今回の件で金井の補佐に充分なお礼を言うと、さっさと駐在所を後にするために、話をとっとと切り上げたのだ。

 まあ、あのまま金井の話を聞き続けていたら夕方になっていただろう。そんな駐在所を後にして、二人は村長宅へとおもむいた。顔を出してきた香村は、少し暗い顔で二人を招き入れた。どうやら、村長に関しては吉田から事情を聞いたようだ。だから香村としては複雑な心境だったのだろう。

 それでも、鈴音は香村を励まし、今度は学を支えて、次の村長選挙では頑張れるように支援すれば良いと、助言を与えると、香村も元気を取り戻したかのように顔が少しだけ明るくなった香村を見て、鈴音は良かったと改めて思うのだった。

 なにしろ、こうやって、亡くなった村長さんの願いを、そして望みを次の世代である学さんに託す事が出来たしね。それだけでも、上々でしょ、香村さんも、これから次の村長になるであろう学さんをしっかりと支援する事を決めたようだし。そんな事を思った鈴音は、こうして託された想いを返せたと思い、やっと一安心したように大きく息を吐くのだった。

 それから村長宅で雑談をした鈴音達が村長宅を後にしたは、空が赤くなり始めた頃だった。だから、その日は挨拶回りを終わりにして、桐生家に帰宅する鈴音と沙希。二人が桐生家に着くと丁度、琴菜が夕食を作り終えたところだった。

 相変わらず美咲は姿を見せないが、その日の夕食を美咲がしっかりと食べてくれた事で琴菜も少しは元気が出たようだ。それならば丁度良いとばかりに、鈴音達は夕食後に琴菜との会話する場を設けると、全ての事を説明した。

 さすがに静馬の事はショックだったのだろう、その時ばかりは琴菜も涙を流した。それでも、琴菜には、まだ美咲が居る。だからこそ、琴菜は美咲をしっかりと育てていかないといけないと鈴音が説得すると、琴菜もすぐに気分を切り替えて、笑顔を見せた。

 たぶん、琴菜にも何となく分っていたのだろう。既に静馬が死んでるという事に……。



 その次の日から鈴音達は近所の人達に挨拶回りをして、自分達の荷物を整理する。その間にも美咲は一度も鈴音達のところへは来なかったが、鈴音は心配していなかった。すでに美咲には道を示した。後は美咲が自分で歩き出すのを待ってれば良いだけ、という事を分っていたからだ。



 そして……遂に鈴音達が村を後にする日が来た。






 はい、そんな訳で美咲がメインの話でしたね~。まあ、美咲に関しては予定通りかな~、とも思ってますけどね。

 何にしても……既にここに書くネタが無いっ!!!! ぐおっ――――っ!! どうすれば良いんだっ!!!! よしっ!! こうなったら、あの人を呼ぼう。助けて、ドラ〇もんっ!!

 ドラ〇もんは作者、上空を通り過ぎて行った。

 ……えっ、完全に無視ですかっ!!!! いや、まあ、確かに、私はそこまで、ドラ〇もんのファンではないですからね~。助けを求める方が間違ってたのかな……てへっ(微笑)

 しかし……ドラ〇もんに助けてもらえないとなると……ゴ〇ラしかないか。いや、だが、Gウィルスは危険すぎるっ!! それは、もうバイオハザードを引き起こすぐらいにっ!!

 ……なんか、いろいろと混ざってきて、ワケがわかんなくなったな。こうなったら最後の手段か……行くぞ……。

 プリ〇ュアレインボージュエルソリューションっ!!!!

 って、何で私に向かって攻撃するのっ!! つーか無理、これを耐えるのは無理っしょっ!! というか、十七人は反則だろうっ!!!! って、ぐああああぁぁぁぁっ!!!!

 はい、最後は悪役っぽくやられたところで、そろそろ戯言は終わりにしますか。というか、既にカオスってるからね~。そろそろ締めないと、もっと意味不明になってしまいますね。そんな訳で。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に、評価感想もお待ちしております。

 以上、なんか、幅広い後書きになったな~、とか思ってしまった、葵夢幻でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ