第九章 その三
なぜっ! なんでこんな事にっ! 私はっ! 私は、ただ……普通に暮らせればよかった。あの人と……一緒に。それなのに、なんで、なんで、なんでなんでっ! なんで……私の身体は川に沈み、魂魄は刀に宿ったっ! これが……私が望んだ事なの? ねえ、誰か答えて…………誰かっ!
これは天命? それとも私の怨念? どちらでも良い。私の中から、いや、私が叫んでる。村を、村を……滅ぼせと。ならばやる事は一つだけ……村を滅ぼす、私の怨念を晴らすために、神が下さない断罪を……私の手でっ! なれば……解き放つ、我が力と怨念を。そして……村に断罪を下す。誰一人として生かしはしない、全ての村人に死を、惨劇の舞台を、そして……断罪を下すっ!
ふっふっふっ、随分と滑稽な姿達やのう。わらわを生贄に村を救えると思ったのかやえ。それこそ、勘違い甚だしいというものやのう。ほれ、急がんと村が水に沈んでしまうやえ。そう、沈んでしまうが良いやのう。わらわの身体と同様に……水に沈んでしまえばよいやっ!
……んっ? 誰や、あれは……あれは……そう……あの人は……。やめよっ! わらわの怨念が宿った刀を封じるなっ! 主達は自分達の罪すらも忘れ、己の咎さえも忘れるかっ!
……まあ、良いでやのう。今は封じられてやのう。だがっ! わらわは絶対に村に断罪を下す。神が下さなかった断罪をわらわの手で、いや、今では神となったわらわだからこそ、下してやる。咎に値する断罪をっ! それこそがわらわが解放できる唯一の手段っ! 惨劇の開幕こそ、終焉への始まり。ならば始めてやるとしようやのう。終焉を迎えるために、殺戮の宴を、惨劇の開幕を……そして……憎悪の終焉を。それこそがわらわの望みっ! わらわの悲願っ! わらわを解放する唯一の手段っ!
そのために千の生贄を、十の柱を、その二つが揃えば、全てが終わるっ! この憎悪さえも消え去ってしまうほどに……だから、下さなければいけない……この村に……断罪をっ!
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
悲しいのか、それとも苦しいのか、または憎いのか、玉虫はどれとも区別が付かない声を上げる。その声からはさまざまな感情がこもっているようであり、何も無いようにも聞こえてきた。そんな声を鈴音は聞きながら霊刀を構えて玉虫をしっかりと見据えると思考を巡らす。
これで玉虫は完全な怨念だけになったみたいだね~。う~ん、玉虫としても私達がここまで抵抗するとは思ってなかったんだろうね~。だからこそ、人間の部分を切り離して、今では怨念の塊、本当の意味で悪霊となったみたい。もう……玉虫は人間的な部分を出してこないだろうな~。まあ、それが分ってて、ここまで追い詰めたんだけど。後はここだけ、この局面さえ乗り越えれば私達にとっては最大で最後のチャンスがある。だから……なんとしても、この局面を乗り越えないと。
鈴音がそう考えたのはしっかりとした理由がある。鈴音達は何度も玉虫と接触している。その度に玉虫は鈴音達と話すというコミュニケーションをしっかりと取れた。これはつまり、玉虫の中に人間としての部分、人間としての意識が残っている証拠とも言えるだろう。だからこそ、鈴音達は玉虫を策にはめる事が出来たし、玉虫も余裕を見せるという行為を行ってきた。
それら全ては玉虫の中に人間としての意識が強い事を示していると鈴音は考えたのだ。なにしろ、今の状況、つまり断罪の根源となっているのは玉虫の怨念であり、その玉虫は怨念だけではなく、人間的な面を見せてきた。これは玉虫が、ただ怨念だけの悪霊ではないという事を示している。
つまり、今までの玉虫は怨念の意識よりも人間の意識が強かった状態と言えるだろう。だが、今の玉虫は全く違っていた。玉虫は人間の意識を奥に封じ込め、その身を怨念に委ねたと言えるだろう。つまり、今の玉虫に人間性を見せる事は無い。本能以上に強い怨念が玉虫を動かしているのだ。
その怨念こそ玉虫を存在し続けた根源であり、断罪の源でもある。だからこそ、玉虫の怨念は強大と言えるだろう。だが、今までの玉虫は人間の意識を前に出す事で、自然と怨念の力にリミッターを掛けていた。けれども、今の玉虫は、そのリミッターが外れた状態だ。だからこそ、鈴音は玉虫を見て、本当の意味で悪霊になったと考えたのだ。
そう、今の玉虫には人間性は無い。あるのは怨念だけ、だから言葉も通じないし、何を言っても玉虫の心には届かないだろう。それほどまでに玉虫は追い詰められたと感じたからこそ、玉虫は怨念に身を委ねる事にしたのだ。その怨念こそが本当の意味での玉虫であり、今まで玉虫を存在させ続けてきた力なのだから。
そう考えると、これから玉虫と戦わなければいけない鈴音達は気を引き締めるだけではなく、最悪な事態も考えないといけないだろう。けれども、鈴音には最後の最後で逆転の一手があるようだ。だからこそ、鈴音は諦める事無く、玉虫に抵抗する。そんな鈴音を支えるかのように、鈴音の横に立っている沙希も鈴音の為に命を捨てる覚悟があるのではないのかと思うほど、鈴音に寄り添い、いつでも鈴音と一緒に動けるようにしていた。
そんな二人が見ている前で、玉虫は大きく叫ぶ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そんな叫び声と同時に今まで玉虫から出ていた紫色のオーラが玉虫の背後に集ると、それは人の形になる。それは男なのか、女なのかも分からない。それに若いのか、老いているのかも分からないほど人という形はしているものの、どう区別して良いのかが分からないほどの容姿であり、沙希はそれに不気味なほどに、恐怖に近い物を感じていた。
だからこそ、沙希は隣に居る鈴音に声を掛ける。
「なんか、凄いのが出てきたんだけど、あれは一体何なのよ?」
そんな沙希の質問に鈴音は少しだけ、悲しげな顔をしてから答える。
「あれこそが……玉虫の怨念そのものだよ。あれが……玉虫が生み出した物であり、千年もの時間を玉虫に存在させてた物。それは玉虫の怨念そのものと言っても良い、それほどまでに玉虫は追い詰められて怨念に身を委ねるしかなかった。だからこそ、今まで御神刀に宿っていた怨念を自ら表に出し、その身を委ねたんだよ」
「つまり、私達が追い詰めたから、玉虫は最後の手段に出たって事?」
「うん、そう考えても良いかもしれない。玉虫にとって最大の力は怨念であり、その怨念が宿っている御神刀だから。だから、今は最大限の力を発揮するために怨念に身を委ねたんだよ」
「なるほどね。さすが、怨念というだけあって……一筋縄では行かないみたいね。私の防衛本能が逃げろと警鐘を鳴らしているようだわ」
「確かに……あれを見るとね」
そう言いながらも鈴音と沙希はしっかりとそれを直視する。その身が振るえ、冷たい汗を全身で感じながらも、鈴音達はしっかりとそれを見ていた。玉虫の背後に現れた……玉虫の怨念そのものを。
見ただけで、鈴音達にこれだけの畏怖と恐怖を与えてきたのだ。その力は恐ろしいとしか言えないだろう。けれども、鈴音達にも充分な覚悟があった。どんな恐怖にも、どんなに恐ろしい力にも立ち向かう覚悟が、だからこそ鈴音達はここまで来たのだ。だから今更になって逃げる事なんて二人はまったく考える事もしなかった。それどころか逆に沙希は鈴音に対抗策を聞いてくる。
「それで、鈴音。あんなのが出てきたんだけど、どうするつもり?」
「……沙希、とにかく、あの玉虫の後ろにある怨念にだけは触れないで、それで何とか玉虫だけを攻撃して行こう。それしか手は無い。それに……あの怨念は危険すぎる。触れただけでも、何かがあっても不思議じゃない。だから沙希は、怨念に気をつけながら玉虫を攻撃して、私は御神刀を防ぎながら、後ろの怨念に斬りかかってみるよ」
「了解、ここまで来たからには、もう鈴音の勘と考えを信じるしかないでしょ。だから鈴音、安心して私に任せなさい」
「うん、それだけで、沙希が傍に居るという事だけで心強いよ」
「なら、そろそろ行くわよ」
「そうだね、そろそろ限界が近いはずだから。ここは一気に攻め立てるよ」
鈴音がそういうと、二人はお互いの顔を見ると微笑を交わしてから、一度だけ頷き。それから玉虫に視線を戻すと、二人とも鋭い視線で玉虫を見据える。そして、鈴音が静かに口を動かすと、それを合図に二人は玉虫に向かって駆け出した。
御神刀を防ぐために前を鈴音が走り、鈴音の後ろを沙希が駆ける。前衛の鈴音に後衛の沙希、御神刀を警戒したなら無難な攻め方とも言えるだろう。けど、だからこその攻め方ともいえる。事がここに至ったからには奇襲や舌戦は意味を成さない。後はどちらかの力が尽きるまで戦うだけである。
だからこそ鈴音達は無難な攻め方を選んだと言えるだろう。だが、怨念に身を任せた玉虫の力は鈴音達の想像を超える物だった。
鈴音達がかなり玉虫に迫った時だった。もう少し駆ければ、鈴音は霊刀を振るう事が出来ただろう。だが、その前に玉虫の姿が消えたのだ。その事に鈴音はその場で急停止すると玉虫の姿を探すが、どこにも見当たらない。
そんな鈴音が沙希の方へ顔を向けると、沙希も首を横に振るばかりだ。どうやら玉虫は素早く移動したのではなく。本当に姿を消したのと、鈴音は考えていた。だからこそ鈴音は攻め方を変えるしかなかった。
「沙希、後ろは任せたよ」
「大丈夫よ、後ろはしっかりと守ってあげるから、鈴音も気を抜かないでよね」
そんな会話をしながらお互いの背中を合わせる鈴音と沙希。こうしておけば死角は無く、どこから姿を現しても、玉虫に対して対処が出来るというものだ。だからこそ、鈴音と沙希はお互いに背中を合わせて辺りを窺うが、一向に玉虫の姿は現れない。そのため、その場は不気味なほどの静寂に包まれる。
そんな時だった、突如として鈴音が叫ぶ。
「沙希、こっちっ!」
鈴音の声を聞いた時には鈴音は姿を現した玉虫に斬りかかっていた。そのため、沙希もすぐに鈴音の後を追って、玉虫に攻撃を仕掛ける。
鈴音も霊刀を振るおうとするが、玉虫はまるで人形のような動きで、鈴音よりも素早く御神刀を振ってきたために、鈴音はしかたなく霊刀で御神刀を受け止めるしかなった。だが、鈴音もただ御神刀を受け止めたワケではない。鈴音は御神刀の一撃を防いだ時に、なんとか御神刀の上を取り、今では霊刀を上から押し付ける感じで御神刀の動きを止めている状態だ。
そんな鈴音に有利な体勢に見えるが、鈴音は思いっきり不利に感じていた。くっ、この体勢でもここまでの力が出せるなんて卑怯だよ~、沙希~、早く~。そんな泣き言を思いながらも鈴音は御神刀を抑え込む。
その間に沙希は最短距離で玉虫に攻撃を加えようとしていた。つまり……御神刀と霊刀が刃を交じ合わせている場所を飛び越えて、そのまま玉虫に攻撃しようとしてるのだ。だからこそ、沙希は思いっきり短い距離で助走を付けると、一気に跳び上がり、そのまま二つの刀を飛び越えて、玉虫に向かって思いっきり蹴り付ける。
さすがの玉虫も沙希の蹴りを喰らって、無事とは言えなかった。なにしろ沙希は足の裏にも鎮魂の札を貼り付けているのだ。そのため、沙希の蹴りは通常以上に玉虫にダメージを与えたはずだ。
それを証明するかのように、沙希の蹴りをそのまま身体で受け止めた玉虫が人形を投げ付けたような格好で後ろに弾け跳ぶ。一方の沙希はかなり無茶な攻撃をしたために、無事に着地が出来ない体勢だったが、何とか鈴音が受け止めてくれたので、沙希は無事に足を地面に付ける事が出来た。
けれども、その時には弾き飛ばされた玉虫の反撃が始まっていた。玉虫は御神刀から右手だけを離すと、その場で大きく、まるで鈴音達を弾き飛ばすように腕を振るう。それと同時に玉虫の後ろにある怨念も同じ動きをする。
そんな玉虫の行動に気付かないままに、鈴音達は体勢を立て直している最中に、突然何かに弾き飛ばされたように二人の身体が宙に舞い上がり、そして地面に叩きつけられる。
「ぐっ」
「つぅ」
突然の事とはいえ、まさかこんな反撃をしてくるとは思っていなかった鈴音。どうやら玉虫の根底である怨念の力は鈴音の予想を遥かに上回っていたようだ。けれども、玉虫がこのような力を見せたからこそ、鈴音には次に来る攻撃の予想が出来た。
「沙希っ、そのまま横に転がって避けてっ!」
とっさに、そう叫ぶ鈴音。沙希は鈴音のほうを見ると既に行動に移っていた。だからこそ、沙希も返事をする事無く、鈴音と同じように、鈴音と離れる形で横に転がる。そして次の瞬間、突如として鈴音達が居た場所に轟音が響き渡る。それはまるで巨大なハンマーで地面を叩き付けたような音だ。
そのため、音は衝撃となり洞窟を揺るがし、鈴音達の上にも細かな砂と小さな石が降り注いだ。けれども、いつまでも寝ている体勢では不利だと感じた鈴音はすぐに立ち上がる。そして沙希の方を見ると、沙希も既に立ち上がっていた。さすがにこれだけの攻撃をしてきたからには沙希も、すぐに攻撃が出来る体勢を取ろうとしていた。
だが、玉虫はすでに次の行動に移っていた。玉虫は右手を上に上げており、いつの間にか川から、まるで蛇のように二つの水流を操っていたのだ。そして玉虫が右手を勢い良く振り下ろすのと同時に蛇のような動きをしながら、二つの水流は鈴音と沙希に向かって行く。
これにはさすがにどうしようもないと二人は一瞬で判断したのだろう。二人とも自分達に向かってくる水流から逃げるように駆け出す。けれども、二つの水流は玉虫によって完全に操作されているのだろう。だが鈴音達が逃げようとも、しっかりと追ってきた。
そんな中で鈴音と沙希はお互いに視線を交わすと、お互いに一度だけ頷き、二人は逃げる方向を変えてきた。そう、鈴音と沙希はまるで合流するかのように、お互いに向かって駆け出したのだ。もちろん、そんな事に構う事無く、二つの水流は二人を追い続ける。
それでも鈴音と沙希は駆け続け、お互いの顔がしっかりと確認できる距離にまで近づくと、お互いに口元に笑みを浮かべた。どうやら二人には何かしらの考えがあるようだ。そんな二人の思惑に気付かないままに、二つの水流は二人を追って行く。そして、とうとう二人は合流、それからお互いの横を一気に駆け抜けた。
そうなると、鈴音の目の前には沙希を、沙希の目の前には鈴音を追ってきた水流が現れるというワケだ。もちろん、これも鈴音達がお互いに一瞬で閃いた事だし、お互いに考えが一致していると考えたからこそ、お互いに信じて行動に出たのだ。
鈴音は霊刀を一気に振り上げると、今まで沙希を追っていた水流を一刀両断する。さすがに霊刀の力が働いているのだろう。沙希を追ってきた水流は見事に二つに切り裂かれ、そして霧散して行った。
沙希は駆けながらも拳を腰の位置にまで引くと、タイミングを見て一気に拳を繰り出した。もちろん、手の平には鎮魂の札が張られている。そのためだろう、鈴音を追ってきた水流は沙希の一撃を受けて、衝撃を受け止める事が出来ずに、沙希の拳によって水流の先頭から弾け飛んで行った。
これでお互いに気にする物も無くなり、攻撃に集中できるだろうと思っていた。それに、先程の行動もお互いにとっては都合が良かったのだ。なにしろ後ろから追撃してくるのだから、そこから振り向いての攻撃では、力が充分に発揮出来ない。
けど、先程のように目の前から来る物なら、充分に力を溜めて渾身の一撃を打ち込める。だからこそ、鈴音と沙希はお互いの視線が交わった時に、この作戦を同時に頭の中に閃いたのだ。そして見事に作戦は成功、これから玉虫に向かって反撃に移ろうとしている時だった。
突如として先程よりも大きな水流が二人を飲み込み、弾き飛ばした。そのため、二人は水流から抜け出ると、そのまま地面に叩きつけられてしまった。二人とも、攻撃をした直後で気が緩んでいたのだろう。だからこそ、いつの間にか玉虫が作り出してた、もう一つの大きな水流に気付く事が出来なかった。
いや、正確には気付かせなかったと言うべきだろう。玉虫は二つの水流で完全に鈴音達をほんろうしていた。それに、後を追わせるという事で、鈴音と沙希は追われているという状況が周りの視野を狭くする要因となったのだ。もちろん、玉虫はそれを狙って二つの水流を操っていた訳だ。だからこそ、囮として使った二つの水流が撃破されるのと同時に玉虫は三つ目の水流を二人に向かって放ったのだ。
さすがにここまで早い動きされるとは思っていなかった鈴音達は未だに地面に転がっている。そんな鈴音達に玉虫はゆっくりと近づき……そして姿を消した。その事に沙希は苦い顔で鈴音の安否を気遣いながら、玉虫の事を口にする。
「大丈夫、鈴音。どこか、大きなダメージは無い?」
「うん、何とか大丈夫だけど、さすがにあれは痛かったよ」
「それで、その玉虫さんが、また姿を消したんだけど、ここまで来て姿を消すなんて、随分と念の入用で卑怯じゃない」
「沙希、今の玉虫に卑怯なんて言葉は通じないよ。なにしろ、最初っから玉虫は、この力を持っていたんだから。だから今は、本気になって全力を出してきただけだよ。まあ、この力自体が卑怯ともいけるけどね」
「まったく、おかげでびしょ濡れになるし、玉虫の姿は見えないし、どうしたら良い事やら」
「文句は後だよ。今は何としても玉虫に攻撃されないようにしないと」
「分っているわよ」
そう言うと二人はよろけながらも立ち上がり、先程のように背中を合わせる。さすがに、先程のダメージが大きかったのだろう。二人ともお互いに寄り掛かるように立ち、玉虫を迎え撃とうと構えている。
玉虫が姿を消したからには、どこから攻撃が来るかは分からない。だからこそ、二人とも充分に周りに気を配り、警戒を更に強める。再び静寂が支配するが、それも一瞬の事だった。突如として沙希が声を上げる。
「鈴音っ!」
その声に鈴音は沙希を中心に回るように一気に振り返ると、そこには玉虫が既に姿を現し、今にでも御神刀を振るえる状態だった。だからこそ、鈴音は一気に玉虫との距離を詰めると玉虫が横から振るってきた御神刀を鈴音は霊刀に身体を重ねて何とか受け止めようとするが、今度は玉虫も渾身の力を込めたのだろう、鈴音は玉虫の攻撃を受け止めきれずに、そのまま玉虫が御神刀を振り抜き、鈴音はその軌道に沿って弾き飛ばされてしまった。
そんな鈴音を心配する暇も無く、沙希は玉虫に対して対処をしなくてはいけない。なにしろ、鈴音が弾き飛ばされて御神刀は振り抜かれた状態であり、沙希が反撃を入れるには絶好の機会と言えるだろう。だからこそ、沙希は鈴音の心配をするよりも玉虫への攻撃を優先させたのだ。
そんな沙希が数歩だけ駆けると、腰を落とすのと同時に左足を思いっきり踏み込む。そして右足で蹴りを出す時に身体全体を伸ばす事により、蹴りの威力を上げて玉虫に攻撃した。それに沙希には鎮魂の札がある。だから最悪な場合でも玉虫が避けるだけだと考えてた。
だが、玉虫が取った行動は沙希の予想を遥かに超えていた。なにしろ、沙希の蹴りは、そのまま玉虫の腹に命中、そこに鎮魂の札が更にダメージを与える。と沙希には見えていた。
だが、実際には沙希の蹴りは玉虫の手によって防がれており、鎮魂の札によって玉虫の手に火傷のような傷が広がるが、玉虫はそれをまったく気にする事無く、とんでもない反撃に出る。なんと、手で防いだ沙希の右足をそのまま掴むと、力任せに大きく振り上げてきたのだ。
さすがに人、一人を片手で持ち上げるなんて事は沙希には想像出来なかった事だ。けれども、玉虫は沙希の想像を超えた事をやすやすとやってのけたのだ。
それから玉虫は振り上げた沙希を力任せに前に投げ出す。まさか、ここまで人間離れをした反撃をしてくるなんて沙希も予想外だ。だからこそ、沙希は受身すら取れずに地面に叩きつけられ、一瞬だけだが意識が遠のく。
さすがの沙希も、こんな人間離れした攻撃を受けたのだから、意識を失わなかっただけでも、儲け物と言えるだろう。それだけ玉虫の攻撃は苛烈を極めていた。それでも沙希は、何とか保った意識を無理矢理引っ張り上げると、地面に這いつくばり、そのまま咳を連発する。
あれだけの攻撃だ、沙希の身体だけにではなく、呼吸器官にもダメージを受けていても不思議ではない。そのため、沙希は何とか呼吸を整えると顔を上げる。すると沙希の瞳には玉虫の怨念を切り裂いている鈴音の姿が目に映った。
そう、鈴音は弾き飛ばされたとはいえ、沙希ほど意外性がある攻撃は無かったために、鈴音は弾き飛ばされながらも、空中でバランスを取り、何とか足から着地して、地面には鈴音の足が残した着陸跡が残った。そんな鈴音の目に映ったのは玉虫が片手で沙希を持ち上げている光景だった。
さすがに距離を開けさせられただけに、今から沙希の救援に行っても意味は無いだろうと鈴音は一瞬で判断すると、一気に目標を定めて駆け出す。沙希には悪いと思ったけど、鈴音は沙希に攻撃をした直後を狙うしかなかった。
なにしろ今の玉虫は、はっきり言って鈴音達、二人掛りでも対抗出来るとは思えないほどの力を発揮しているのだ。だからこそ、鈴音は玉虫の怨念に攻撃を仕掛けたのだ。沙希に攻撃をした直後で隙が出来ると判断して、玉虫の怨念に奇襲を掛けるために一気に攻撃を仕掛けたのだ。
そんな鈴音の判断が正しかった証明に、斬りかかった玉虫の怨念は右肩から脇腹まで一気に鈴音の霊刀は斬り落としたのだ。そして玉虫も鈴音がそんな奇襲を掛けてくるとは思っていなかったのだろう。だからこそ、まんまと鈴音の霊刀を喰らう事になってしまったのだ。そして鈴音も奇襲が成功した事に確信に近い物を得ていた。
よしっ、このまま一気にっ! 鈴音としては怨念とはいえ玉虫の一部を斬り落としたのと同じだ。だからこそ、玉虫は完全に怯んで、動きを止めると考えたのだ。なにしろ、鈴音が斬り落とした玉虫の怨念は玉虫の力、その物と言っても良いだろう。それを斬り落とされたのだから玉虫の動きが止まるなり、悲鳴を上げるなり、どちらにしても、このまま攻勢に出られると鈴音は判断したのだ。
まあ、玉虫の怨念と身体の関連性を考えれば鈴音の判断は間違っていないと思えるだろう。けれども、玉虫の怨念はその程度の事では、まったく怯むどころか、逆に怒りを猛らせるだけだった。
だからこそ、玉虫の行動に驚きを示す事になった鈴音。なにしろ、玉虫は怨念の一部が斬り落とされたというのに、まるで何事も無かったように鈴音の追撃に対応してきたのだ。鈴音は玉虫の動きが鈍ると思ったからこそ、一気に攻勢に出たのだ。だがら、実際には玉虫の動きは鈍るどころか、逆に鋭さが増しているようだった。
再び玉虫の後ろから、更に玉虫の怨念に斬りかかる鈴音。けれども、そんな鈴音の攻撃は玉虫が持っていた御神刀によって完璧に防がれてしまった。さすがに、これには鈴音も驚きを隠せなかった。なにしろ怨念の一部を、玉虫にとっては身体の一部を斬り落とされたのと同じだ。その直後だというのに玉虫はすでに振り返り、鈴音の攻撃を右腕一本で握り締めている御神刀で防いだのだ。
そこから更に玉虫は驚くべき行動に出る。鈴音の攻撃を右腕一本で握り締めた御神刀で防いでいるのだ。つまり……左手は空いているのだ。ここで玉虫が空いている左手を遊ばせておくわけがない。玉虫は左手で鈴音が握っている霊刀を、鈴音の右手の上から更に握ると、そのまま力任せに、鈴音を引き剥がすように左手を左に振るったのだ。
まさか、ここまで力任せ、しかも人間離れした力で振るったのだ。その結果として鈴音は霊刀を離す事も出来ずに、そのまま玉虫の思い通りに左のほうへと身体ごと振るわれたのだ。つまり玉虫は左腕一本で鈴音を引き剥がすだけでなく、左の方へと力任せに、鈴音の身体も一緒に振るってきたのだ。
ここまで人間離れしてきた玉虫に対して鈴音は霊刀を握り締める事だけで精一杯であり、玉虫が腕を振るった遠心力で身体が浮き上がってしまった。それでも、玉虫は腕を横に振るっただけである。振るった瞬間はかなりの力が掛かり、遠心力が付加されて鈴音の足が地面から離れても不思議では無い。けれども、今の玉虫は身体を持っているのと同じ、いくら腕を振るったとしても関節が止めるまでしか腕を振るう事が出来ない。
そのため、鈴音は玉虫の力に驚かされながらも、足が地面に付いた時の対処策を考える。なにしろ、今の霊刀は鈴音だけではなく、鈴音が握り締めている手の上から玉虫が更に左手だけで握っている状態だ。鈴音としては、地面に足が付いたら、まずは霊刀から玉虫の左手を離す事を考えなければ行けないと思考をそっちに持っていこうとする。
けれども、玉虫の力は鈴音が思っているよりも更に強大だった。玉虫は鈴音の足が地面に付く前に、更に左手を上に振り上げたのだ。いくら鈴音が女性だからと言っても、人、一人を軽々と、しかも左手一本だけで振り上げるのは人間離れした怪力としか言えないだろう。
けれども玉虫は確かに鈴音と一緒に霊刀と左手を上に振り上げたのだ。そこから更に玉虫は身体を捻ると川の方へと鈴音を力任せに投げ付けたのだ。ジェットコースターよりも強い重力が掛かる中で鈴音は霊刀を離さないように握り締めているだけで精一杯だった。
だから鈴音は河原に身体を叩きつけられると、その反動で浮き上がると今度は川の水に叩きつけられて鈴音の身体は川の水と浅い川底に身体を叩きつけられる事になってしまった。
鈴音の身体に強い衝撃が走るのと同時に川の水が鈴音の呼吸を邪魔する。さすがに沙希の時と同様に力任せに投げられて叩き付けられたのだ。鈴音とて、すぐに動ける状態では無いのだが、川の水が鈴音に呼吸をさせてくれないのだ。だから鈴音は痛みよりも苦しさが先に来て、すぐに川から上半身だけを河原の上にはい出す。
おかげで何とか呼吸は出来るが、さすがに川の水を少しは飲んだのだろう。鈴音は苦しそうに何度が咳をすると、吐き出すように口から少量の水を出す。そのおかげで鈴音は呼吸が楽になるのを感じたが、今度は身体中に痛みが走った。さすがにあれだけの攻撃を受けたのだ。鈴音のダメージはかなり大きいと言っても良いだろう。
だが、こうなってしまっては二人に打つ手は無かった。沙希も先程の攻撃がかなり効いているのだろう。未だに立ち上がるどころか四つん這いになって呼吸を整えるだけで精一杯だ。そして鈴音も川に叩き付けられた事が、相当効いたのだろう。鈴音は下半身を川の水に浸し、上半身を河原に這わせているだけで精一杯だった。
そんな光景に玉虫はまったく表情は変えないもの、後ろにある怨念は嬉しそうに歓喜の声を上げる仕草を見せる。さすがに怨念だけでは声も出ないのだろう。けれども怨念は嬉しそうでも玉虫自身は無表情だった。その事が何を意味しているのかは鈴音にはしっかりと分かっていた。
怨念は嬉しそうでも玉虫の身体を得た顔を無表情。これは玉虫の中に二つの意識、いや、玉虫自身さえも気付かなかった、もう一つの感情があった事を示していると鈴音は判断しているのだ。そして、その二つの感情はお互いに受け入れる事が出来ず、相反する事しか出来ない事も鈴音には分っていた……分ってはいるのだが。鈴音は泣きそうな表情で玉虫を見詰めながら心に思う。
ここまで……やっとここまで来たのに……私達は、私は……ここまでなの? もう玉虫に抗う力も残って無いの?
さすがに先程の攻撃が鈴音達を驚かせるだけでなく、身体にも相当なダメージを与えたのだろう。沙希ですらも未だに立ち上がる事が出来ないし、鈴音も未だに這いつくばったままだ。そんな状況が鈴音の心を弱気にさせる。
玉虫の強さは計算に入れてたけど、さすがにここまでの力を持ってるなんて……もう分からないよ。どうやって、これから私達はどうやって玉虫と対抗すれば良いなんて……まったく分からない。あんな怨念、ううん、化け物みたいな存在とどうやって戦えば良いって言うの? 確かに私達に勝機は残されてるけど……私達は……私はそこまで行けるの?
一度弱気になった心は覚悟すらも折る事になる。そのため、今まで鈴音を支えていた覚悟と決意は一気に折れて崩れ去り、今は強大な力を持つ玉虫を見詰めるしかなかった。それしか自分に出来る事は無いと鈴音の心はすっかり弱っていた。そして、それは沙希も同じだった。なにしろ鈴音が戦えるなら、沙希も心を弱くさせる事無く、未だに戦いに応じる事が出来ただろう。
だが、完全に心が折れてしまった鈴音の姿を目にしたのだ。沙希も諦めに似た心を持っていた。
鈴音と一緒に……鈴音を信じて、ここまで来たけど。私達……ここで終わりなのかな、もう……何も出来ないのかな。ねえ……鈴音、どうなの? もう私達は終わりなの? それなら鈴音……一緒に死んであげるよ。でも鈴音、まだ……まだ戦えるのなら……私はっ!
そんな決意をした沙希は鈴音を見詰める。けれども肝心な鈴音はすっかり弱気になった目で玉虫を見詰めるしかなかった。玉虫も二人から闘志が消えた事を感じ取ったのだろう。すでに勝負は付いたとばかりに玉虫は鈴音を遠くから見下すのだった。
そして鈴音も……強大な力で目の前に立ちはだかった玉虫を見詰める。鈴音の心は既に折れているのだ。だから、今の鈴音には、それしか出来る事は無かった。そんな鈴音が弱った心で思いを走らせる。
もう……ダメ……だよね。村長さんに源三郎さんに吉田さん、そして千坂さんに……皆に……村を、そして未来を救うために、いろいろと託されたのに……私は……ここで終わりなのかな? だって、もう……私には今の玉虫に対抗する手段が思い浮かばない。あんな……強大な力に抗う事なんて出来ない。だから……もう……私に出来る事は無いよね。それなら……もう……私は。
『立ちなさい、鈴音っ!』
突如として鈴音の頭に直接叱るような叱咤の声が鈴音の頭に響き渡る。そして鈴音も、聞き覚えがある、その声に驚きながらも顔を上げる。そして、その声は更に鈴音の頭に響き渡る。
『鈴音、あなたの考えた事は間違いでは無いわ。けど、まだ諦める時じゃないっ! その事は鈴音も分ってるでしょ。まだ鈴音には鈴音が考えた作戦が残っている。まだやれる事があるっ! それなのに鈴音、こんな中途半端なところで終わるつもりっ! 立ちなさい、鈴音っ! あなたが受け継いだ想いは、そんなに軽くは無いはずよっ! あなたを支えている人達は、そこまで弱くはないはずよっ! だから立ちなさい、鈴音っ! あなたに想いを託した人達、そしてあなたを支えている人達はあなたを信じてるのよっ! その人達が居る限り、あなたは負けてはいけない。そして……一緒に戦ってくれる人が居るなら、一緒に立てるでしょっ! さあ、立ちなさい、鈴音っ!』
鈴音は自然と笑みをこぼしていた。ここまで来て、折れた心なのに叱ってくれた。ここまで来たのだから優しくしてくれても良いと思ったけど、それをしない事は鈴音が一番良く分かっている。だからこそ、その声が叱ってくれた事に鈴音は自然と笑みをこぼしていた。そんな鈴音が叱られた事を思う。
まったく、こんな時ばかりに厳しいんだから。けど……そうやって背中を押してくれたからこそ、いつも、いつも叱ってくれたからこそ、私は……その度に前に進めた。だから……今も進めるはずっ! こうやって……姉さんが背中を押してくれる限り。
鈴音は激痛が走る身体を無理矢理起こし、這いつくばって呼吸を整えると、霊刀を地面に突き刺し、その霊刀に寄り掛かるように何とか立ち上がった。そんな鈴音の姿を見て、沙希も激痛が走る身体を、まるで痛みを無視したかのように、無理を顔をに出しながら、何とか立ち上がったが、さすがに無理があるのだろう、少しだけよろけるが、それでもしっかりと沙希は立ち上がった。
そんな二人が同時に鋭く、再び闘志がみなぎった瞳で玉虫を見詰める。その事に玉虫は、いや、正確には玉虫の怨念は驚きを隠せないといった顔をしている。あそこまで追い詰めた状況の中で鈴音と沙希の二人は、再び闘志をみなぎらせて立ち上がってきたのだ。まるで……誰かに、いや、何か強大な力に後押しされるように。
何とか立ち上がった鈴音が沙希に向かって叫ぶ。
「沙希、まだ動けるっ!」
そんな鈴音の問い掛けに沙希は笑みを浮かべながら返事をする。
「当然でしょ! この程度でくたばってられないって~のっ!」
そんな返事を返してきた沙希に鈴音は笑みを向ける。そんな鈴音の視線に気付いたか、沙希も鈴音に向かって笑みを向けた。それから二人は一度だけ頷くと、今度は玉虫に向かって鋭い眼差しで叫ぶ。
「玉虫、確かに今のあなたは強大な力を持ってるけどっ! 私達は絶対に負けないっ!」
「沙希の言うとおりだよっ! 私達は沢山の人から村を、村の未来を託されてきたっ! それに今も私達を信じて待ってくれてる人が居る。だから、私達は負ける訳にはいかないっ!」
「だからこそっ! 私達はここまで来た、全ての決着を付けるためにっ!」
「そして……断罪の日を終わらせるためにっ!」
「信じてくれている人達が居るからっ!」
「託してくれた人達が居るからっ!」
『絶対に負けないっ!』
最後の言葉は鈴音と沙希だけではなく、まるで何人もの声が重なっているように玉虫には聞こえた。その声が何なのかは玉虫には分からない。けれども、一つだけ確かな事がある。それは……今、ここで鈴音と沙希を殺す事だ。そうする事で玉虫の悲願である、断罪の日は完成を迎えるのだ。
けど、今正に、そんな玉虫を阻もうとする敵が玉虫の前に立ちはだかる。鈴音と沙希も激痛が走る身体を無理矢理、精神力で抑え込み、今では痛みすら感じないほどの力を出して玉虫の前に立ちはだかる。
そして、鈴音は霊刀を構え、沙希も拳を構える。先程まで心が折れそうだった二人が、ここまでの再起をしてくるとは玉虫には予想外だった。けれども玉虫の予定が狂ったワケではない。ここで二人を殺してしまえば良いだけなのだから。
けれども、玉虫にとって予想外な事は、ここから始まった。洞窟の中から、そして川の中から、そこから幾つもの光り輝く玉が浮かび上がると鈴音と沙希の中に入って行く。鈴音と沙希は気付いていないようだが、玉虫にはしっかりとその光景が見えていた。
そして鈴音と沙希は、まるで誰かが本当に後押ししてくれてるように感じていた。その後押しが、まるで力に変わるかのように鈴音と沙希はあふれて来る力を感じていた。その力を感じながらも沙希は思う。
これは……そうか、そういう事ですよね。分かりました、なら……私は私に出来る事をやるだけです。
同じように力を感じていた鈴音も思う。
分かる、この人達が……玉虫に。だったら、もう恐れる者は無い、それが玉虫でも。これが……玉虫が犯してきた咎の結末でも、私達はこの人達が、そして託してくれた人達が居る限りは絶対に負けない。もう弱音も吐かない。後は……玉虫を倒すだけだから。
再び戦闘体勢に入った二人に玉虫の怨念は、悔しそうな顔をしていた。先程の事で力の差を見せ付けて自分に抗えないようにしたのだが、鈴音と沙希はそれすらも乗り越えて、今ここに再び戦いの幕を開けようとしている。さまざまな人達に後押しされながら。
まさかこのような展開になるとは玉虫も、玉虫の怨念も思ってはいなかった。それは鈴音と沙希も同じだ。自分達は一度だけ負ける事を確信した。でも、戦っているのは自分たちだけでは無いと知ったからこそ、再び立ち上がる事が出来た。だからこそ、まだ戦える。
そんな状況の中で鈴音が思う。
戦いは終盤、もう少し削れば、玉虫は必ず。その時こそ……私達に最大の勝機がある。だからこそ、お願い、姉さん、もう少しだけ力を貸して、ずっと見守ってるだけで良いから、私の傍にいて、それなら……私はどんな状況からでも立ち上がってみせるから。どんな状況でもっ! 何度でもっ! 私は立ち上がってみせるっ! だから……最後まで見守ってて、この戦いは、そろそろ終わりを迎えるから……だから……ずっと……。
鈴音は最後の言葉を思いはしなかった。いや、正確には思いたくは無いのだろう。それでも、今の鈴音は玉虫に負ける気がしなかった。
なにしろ……これだけの人が二人の後押しをしているのだから。
さあ、玉虫様のスーパータイムが発動したっ!!!! そのために鈴音も沙希もすっかりやられてましたね。凄いぞ玉虫様、さすがは玉虫様、伊達に千歳以上じゃないぞ玉虫様っ!!!!
……作者御仕置中……
はい、すいませんでした玉虫様、つい調子に乗りすぎました。まあ、そんな訳で、玉虫様から何度も殺されましたが、復活した来たところで最後あたりに触れてみましょうか。
それはもちろんっ!!!! 鈴音を励ました声っ!! これっきゃないっしょっ!! まあ、誰の声かは分かると思いますが、そうです、あの人です。縁では何度か出てきましたけどね~、咎だとここが始めてかな? まあ、何にしても影が薄くなってしまったけど、キャラが強烈な人ですから、そのうち凄い事になるでしょう。
それから、最後に二人が言ったセリフ。これも、かなりインパクトがあったと思いますね~。……まあ、ぶっちゃけ、ここでは言えない物の影響を受けたんですけどね~。良いよね~、ああいうセリフも。私としては大好きなセリフですね~。思わず、頑張れ、プリ、って!!!! あやうく言うところだった。そんな訳で、今の事は聞かなかった事にしておいてくださいな。
まあ、これ以上無駄話をしてもあれなので、そろそろ締めますね。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。
以上、七作目の挿入歌に使われた曲は名曲だよね~、と思っている葵夢幻でした。