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断罪の日 ~咎~  作者: 葵 嵐雪
第六章 嵐の前の静けさ
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第六章 その二

「まだ……あらがっているのですね」

「ふっふっふっ、さすがは羽入家を束ねていただけの事はあるようやのう」

「でしょうね。ですが……そろそろ膝を屈したらどうですか……お爺様」

 身支度を終えた七海と玉虫が向かった所、それは千坂が源三郎に別れを告げた場所。そして未だに源三郎が玉虫の呪いに抵抗している部屋だった。どうやら玉虫には羽入家の血筋がどのような行動をしているのかが分かるのだろう。だから源三郎が未だに呪いに負けて暴走する事無く、未だに抵抗して苦しんでいるのが玉虫には分かったようだ。その事を七海に告げると、七海はすぐに源三郎が居る部屋へと向かい。部屋に入るなり、そんな言葉を源三郎に向けるのであった。

 源三郎は七海達の姿を見て、苦しいのか、悔しいのか分からないが、着物の裾を力強く握り締める。そして源三郎は未だに苦しみを顔に出さないように隠したまま、七海と玉虫に向かって不適な笑みを向ける。

 そんな源三郎に七海は溜息を付くと、源三郎の前に立ってから静かに口を開くのだった。

「あの命令は……千坂に私ごと自爆するように命じたのはお爺様ですか?」

 そのような質問をする七海に対して源三郎は静かに目を閉じると、息を整えてからゆっくりと言葉を返すのだった。

「そうか……千坂は逝ったか。まさか儂より千坂の方が先に逝くとは思いもよらなかった」

「……質問に答えてください、お爺様」

 質問の答えを促す七海。源三郎はゆっくりと目を開けて、顔を上げると七海の顔を見る。そんな七海を見て源三郎ははっきりと告げるのだった。

「いや、あれは千坂の意思だ。儂が命令した事ではない」

「そう、ですか」

「七海よ、見当違いな答えで残念だったようだな」

 源三郎がそのような言葉を口にすると七海は思いっきり源三郎を睨み付けた。そんな七海の睨みも源三郎にはまったく効果がなかったのだろう。それどころか、返って源三郎に余裕を与える事になったようだ。

 源三郎は再び不適な笑みを浮かべると玉虫に向かって言葉を発した。

「玉虫か……こうしてはっきりとした姿を見るのは初めてだが。そう……以前に見た時、いや、感じた時と同じだな」

「ふっ、羽入家に掛かっておる呪いはわらわの呪い。わらわ自身が出向いている訳ではないのやえ。だから主がわらわの姿を始めてみてもおかしくのは無いのやえ。もっとも、この姿を見て昔の事を思い出して恐怖を思い出すのが関の山やのう」

 そんな玉虫の言葉に源三郎は座り直すと、未だに苦しいはずなのに、今ではその事をまったく顔に出す事無く、玉虫との会話を続ける。

「残念だが、そんな昔の事は忘れたよ。だが……あの時にお前さんの存在を掴んでいれば……こんな事にはならなかったのだろうな。そして千坂も……死ぬ事もなかっただろう」

「千坂が死んだのはお爺様の所為ですっ! お爺様が鈴音さんの護衛に付けなければ、鈴音さんに関わらせなければ、千坂は死なずに済んだんですよっ! それなのにお爺様はご自分の命令で千坂を殺しておいて、良くそんな平気な顔が出来ますねっ!」

 七海にしては珍しく興奮しているのだろう。口早にそんな文句を源三郎に叩き付けるのだった。そして、当の源三郎はというと七海の言葉を聞いて真剣な面持ちになると、珍しく七海に対して厳しい態度に出てきた。

「いや、千坂を殺したのは七海……お前だ。千坂はお前が玉虫と協力している事を知っていた。だがお前が言葉だけで玉虫に協力するのを止めさせる事が出来るとは思ってなかったのだろう。だからこそ、千坂はお前を止めるために……一緒に死のうとしたのではないのか。七海、お前は……そんな事も受け入れられずにお前は罪を重ねているのかっ! 千坂がなぜお前と一緒に死のうとしたのか考えてみたのかっ! お前には千坂の気持ちはまったく分っておらん、そんなお前が千坂の死について文句を言う権利は無いっ!」

 今まで七海に説教をした事が無い源三郎だった。この時だけは、玉虫が付いているとはいえ七海には源三郎の言葉に返答する事が出来なかった。だからこそ、七海は顔を俯かせて、御神刀を強く握り締めるのだった。

 そんな七海を見て、源三郎は思いっきり溜息を付くと、再び顔を七海の後ろで漂っている玉虫に向けてきた。

「お前さんが掛けた呪いも大分楽になってきた。どうやら事態はお前さん達には不利な方向にむかっているよだな。それでも……お前さん達は今の状態を続けるのか?」

 そんな事を玉虫に問い掛ける源三郎。そして玉虫は源三郎の質問に対して口元に笑みを浮かべるとはっきりと答えてきた。

「確かに村を囲む外壁柱が壊されて私の力は弱まったといえるやのう。だからと言って私が消えたわけでも、倒された訳でもない。ただ状況が変わったというだけやえ。それが何を意味しているのか、主には分かるじゃろ」

 そんな言葉を返して来た玉虫に対して源三郎はすぐに言葉を返してきた。だからこそ、二人の会話は止まる事無く、続けられた。

「つまりお前さんには、鈴音さん達には絶対に不可能な事があると思っている訳だな」

「ふっふっふっ、その通りやえ。いくら足掻こうとも、あの小娘達は絶対にわらわの依り代には辿り着けないやのう。確かに状況は変わった、だが……結末は未だに変わらないのやのう」

「なるほどな、どうやらお前さんには最後の切り札があり、鈴音さん達には、その切り札に辿り着く事が出来ないと思っているようだな」

「その通りやえ、なにしろ鍵はこちらが握っておるのやからのう。あの小娘達は絶対に聖地へは入れないようにしてあるのやえ」

「かっかっかっ、それはどうかな」

 源三郎は笑って、そんな言葉を発すると手にしている扇子で玉虫の左肩を指し示した。そこには傷が完全に治癒しているものの、鈴音に傷つけられた後が着物の切れ目として、しっかりと残っていた。源三郎はその傷跡を指し示して、はっきりと断言した。

「絶対に敵わないと思っていたお前さんに、鈴音さんははっきりとした傷を残したようだな。なら、あの刀が有している、もう一つの理由にも気付くはずだよ。鈴音さんなら、絶対にお前さんを倒すだろうな」

「ふっふっふっ、どうやら主はあの小娘に随分と期待しているようやのう。確かに、あの小娘があのような武器をもっておるとは予想外やったやえ。だが、死んでしまっては、そのもう一つの理由も意味を成さなくなるやのう」

「確かに……鈴音さんが死んだら、そうだろうな。だがな、鈴音さんなら、必ずお前さんを倒してくれると儂は確信しておる」

「まったく、その自信はどこから出ているのやら。そこがさっぱり分からんやのう」

「なに、鈴音さんが……あの静音さんの妹であり、静音さんにも劣らない器量を持っているからだよ。いや、鈴音さんには誰かに好かれる、不思議な魅力を持っておる。だから、ある面においては静音さん以上の力を出してくれるだろう」

 どうやら源三郎には鈴音が玉虫を倒すだけの力があると確信しているようだ。そして、そんな言葉を聞いた玉虫は鈴音がそこまでの力を持っているとは思っていない。だからだろう、玉虫が次の言葉を口にしたのは。

「なぜ……なにゆえ、主はそこまであの小娘に期待が持てるのやえ?」

 そんな質問をしてくる玉虫に対して源三郎は何かを思いだすかのように静かに目をつぶると一言だけはっきりと発言した。

「恐怖だ」

「……なに?」

 思いもよらなかった言葉に対して玉虫は初めて訝しげな顔を見せるが、源三郎はゆっくりと瞳を開けると言葉の意味を玉虫に向かって宣言してきた。

「そう、恐怖だ。初めて静音さんと対面した時、儂はそれほど静音さんを恐れてはいなかった。だが、二回、三回と対面を繰り返していく内に段々と静音さんに対して自分が恐怖を抱いている事に気付いた。それほどまでに……静音さんは儂が恐怖するほどの器量を持っていた。そして……その器量を儂は鈴音さんにも見た。静音さんが得た器量は鈴音さんがしっかりと受け継いでいる。だからこそ、儂も鈴音さんに賭ける事にした。ただ、それだけだ」

 そんな源三郎の言葉を聞いて、玉虫も千年ぶりに真剣な面持ちになると鈴音に対して何かを考えているのだろう。そして源三郎に確かめるように言葉を発してきた。

「確かに……あの小娘には何かがある。だがやのう、わらわには恐怖するほどの者とは思えんやのう。それとも、あのような小娘に恐怖するほど羽入家は落ちぶれたのやえ」

 少し挑発的な態度を見せてきた玉虫に対して源三郎は鼻で笑ってから話を続ける。

「ふっ、儂も最初はそう思っておったよ。だがな、あの人の、いや、あの人達の器量はお前さんが思っている以上に大きい。それを知った時にはすでに遅いだろ。儂もそれを知ったからこそ、静音さんに協力する事にしたんだがな。まったくもって残念だった」

 そんな言葉で最後を締めくくると源三郎は力強い瞳で玉虫を見詰める。一方の玉虫は源三郎の言葉を全て理解する事は出来なかった。だが源三郎にそこまで言わせたとなると、玉虫も鈴音に対する認識を改める必要が有るのではないのかと思い直した。

 なにしろ玉虫は七海と契約を交わしてからというもの、自由に羽入家を出入りしている。しかも誰にも気付かれずにだ。だからこそ、玉虫は源三郎の事も千坂程に理解しているつもりだった。だから源三郎が羽入家を率いるに充分な器を持っている事は知っているし、厳格な人物である事も知っていた。

 そんな源三郎が鈴音と静音には恐怖を感じたと言ったのである。確かに玉虫も鈴音とは接触したし、鈴音の事も影で見ていたが、鈴音がそこまでの人物とは思えなかった。だが源三郎がここまで言うからには鈴音には何かがあるのだろうと玉虫も思い始めるようにした。

 だから玉虫も鈴音の事を始めて真面目に考える事にしたようであり、すっかりと黙り込んでしまった。そんな玉虫を見て源三郎は不適な笑みを浮かべると七海が口を挟んできた。

「玉虫、そんなのは、どうせお爺様の作り話。そんなに気にする事は無いわよ。それに……その鈴音さんをこれから殺しに行くのだから。鈴音さんがどんなに大きな器を持っていても関係無い。お爺様、結果はすでに決まっているのですよ」

 そんな事を言って来た七海に対して源三郎も真面目な態度で返してきた。

「七海よ、お前は静音さんや鈴音さんと敵対した事が無いから、そのような事が言えるんだ。だが今のお前は鈴音さんの敵となっている。だから知る事になるだろう、鈴音さんの恐ろしさを。そして……七海……お前に必要な物を」

 最後は少しだけ言葉を優しくして話を締めくくる源三郎。そんな源三郎の言葉を聞いても七海の心も考えも揺らぎはしなかった。それどころか逆に鈴音に対する怒りが込み上げてきた。正確には八つ当たりと言っても良いだろう。なにしろ、千坂が鈴音に付かなければ死ぬ事はなかったのだから。だから七海が鈴音に対して、そんな敵対心を抱いても不思議では無いのだろう。

 だからこそ七海は火が付いたように心を燃やすと、御神刀を源三郎の顔先に切っ先を付きつける。それでも源三郎は眉一つ動かす事無く、しっかりと七海を見詰めてきた。そんな源三郎に七海は宣言する。

「なら、これから鈴音さんを殺して、その首をお爺様の前に捧げて上げます。精々、その首に向かって謝る事ですね。お爺様達が鈴音さんを焚き付けたりしなければ、鈴音さんは死なずに済んだのにと」

 そんな宣言をすると七海は御神刀を鞘に収めて玉虫に声を掛ける。

「玉虫、そろそろ行きましょう。全ての憎悪に終焉を迎えるために」

「そうやのう、では、そろそろ行こうとするやのう」

「では、お爺様。鈴音さんの首を持って来るまで、精々そうやって足掻いていてくださいね」

 そんな言葉を残して部屋を後にする七海と玉虫。そんな二人を見送ると源三郎は後ろにおいてあった酒と杯を手に取ると、再び杯に酒を満たして、杯の上で揺らぐ酒を見詰める。

「……すまない」

 その言葉は誰に言ったものかは源三郎本人にしか分からないだろう。千坂かもしれないし、鈴音、あるいは静音に対してかもしれない。誰に対してでも今では何も出来ない自分自身に源三郎は少しだけ悔しかった。こんな非常事態だからこそ、源三郎は羽入家を率いて鈴音の力になりたかった。

 けれども、その肝心な羽入家が今では動乱の元になっている。源三郎も自分自身の自我を保つのに精一杯だ。だからこそ、千坂に全てを任せ、鈴音に全てを託したのだ。何も出来ない自分の代わりに。さすがの源三郎も老いには勝てないという事だろう。だからこそ、今は若い鈴音達に頼るしかないとばかりに、祈りを込めて杯の酒を一気に飲み干すのであった。



 その頃、鈴音はというと……今ではすっかり森を抜けて村の中に入っている。それでも羽入家の血筋と出会わないために、生い茂っている草むらや田んぼの中を進みながら表柱を目指して歩いている。

 そんな鈴音の耳に銃声と悲鳴が遠くから聞こえてくる。どうやら羽入家の血筋に見付かった者が殺されたのだろう。鈴音はそんな悲鳴を聞きながらも、あえて無視しなければいけない状況に歯を強く噛み締めていた。

 なにしろ羽入家の血筋を一人一人潰して行っては犠牲者を増やすだけだ。それほどまでに時間が掛かるし、根本的な解決にはなってはいない。だから今は犠牲者が出たとしても、無視して柱を破壊して羽入家の暴走を止めた方が犠牲者が少なくて済む。それが分っているだけに、鈴音は悔しい思いをしながら、ゆっくりと歩みを進めるのだった。

 そんな鈴音が草むらをなるべく音を消して進んでいる時だった。前方の道からゆっくりとこちらに歩いてくる人影を発見した。そのため、鈴音はすぐに邪魔になるハンマーを下ろすと、霊刀をゆっくりと抜き、万が一の事態に備える。

 その人影はまるで動きの悪い人形のように左右に揺れながら、ゆっくりと鈴音が隠れている草むらの横にある道を進んでくる。そして人影がしっかりと見える場所まで近づいてくると鈴音は息を殺し、気配すらも殺すように心を静めるながら確認して考える。

 あの人は確か……うん、確かに見覚えがある。間違いなく、一番最初に羽入家に行った時に紹介された人だ。名前は……う~ん、さすがに忘れたけど、羽入家の血筋なのは間違いないよね。なら……どうしよう? そんなためらいが生まれた鈴音。

 それは鈴音にしては珍しいためらいと言えるだろう。村の現状を知る前の鈴音なら、すぐにそのまま気配を消して、このままやり過ごすだろう。だが村の現状を知ると、鈴音には少しでも犠牲者が少なくなって欲しいという思いが生まれてきた。

 なにしろ、ここに来るまでに全滅したであろう一家の血で染まった家を幾つか見てきたのである。それに、道のところどころには死体すら転がっていた状態だ。そんなものを見てしまったからには鈴音は黙ってやり過ごして良いのかというとまどいが生まれたのだ。

 けれども相手は羽入家の血筋、玉虫の力によって、どんな力を発揮してくるか分かったものではない。それでも鈴音は様子を窺いながら、未だに決めかねているようだ。

 鈴音がそんなためらいに葛藤されている間にも、羽入家の血筋はゆっくりと道を進んで行き、そしていよいよ、鈴音が隠れている草むらに近づいて来たのである。そんな時に鈴音はふと同じようなシチュエーションで七海と出会った事を思い出した。

 ……そっか、七海ちゃんは、はっきりと言ったよね。自分には、どこに誰が隠れているのかが察知できる。そして、その人が村人かどうかも分かるって。それって……もしかしたら羽入家の血筋が有している力かもしれないよね。

 そんな結論を出す鈴音。その結論に至ったには、しっかりと鈴音なりの理由がある。第一に羽入家の血筋が正確に村人を殺して行っている事だ。確かに村の人口は少ないけど、村の面積から言っては決して狭いとは言えない。むしろ隠れようと思えば隠れられる場所はいくらでもありそうだ。それなのに羽入家の血筋は正確に村人達を殺して行ってる。それは先程の悲鳴や、見付からないような裏道を通ってきた鈴音でも、道端に死体を発見するほどだ。それだけ羽入家の血筋が有している人を察知する能力が高いのだ。

 第二に七海が言った言葉で印象的な物があったからだ。七海ははっきりと断言している『村人以外は殺さないと』そうなると村人ではない鈴音や沙希、そして吉田など来界村の住人ではない者は殺されないと言っているようなものだ。最も鈴音が挑発した所為で、今では鈴音達は七海に狙われている事になってしまったが、他の羽入家の血筋まで、その意思が伝わっているかというと疑問を覚えるのも確かだった。

 だから鈴音はもしかしたら、ここでは目の前を通る羽入家の血筋には殺されないという可能性を見出していた。だからだろう、鈴音は自分の推理を信じて意を決すると草むらに隠れながらも静かに霊刀を逆刃に構えて、羽入家の血筋が近づいて来るのを見守る。

 そして……いよいよ羽入家の血筋が鈴音が隠れている草むらの前を通る。さすがにこの瞬間だけは鈴音は緊張したが、決して気配を出す事はしなかった。必死になって息と気配を殺していたのだ。

 なにしろ相手は玉虫の力が宿った羽入家の血筋、それに玉虫の力が宿っているから、どれだけ強靭な力を持っているかは分からない。それに両手には銃を持っているのである。そんな物を一気にこちらに向けられて発砲されれば、いくら鈴音でも避けようが無い。それでも鈴音はその場を動く事無く、息と気配を殺しながら羽入家の血筋が通り過ぎる時を計る。

 どうやら鈴音には勝算があるようだ。確かに鈴音は水夏霞を傀儡とした玉虫と一度だけ戦っている。だからこそ玉虫の力がどれだけの物かは分かっているつもりだった。それに沙希の話を総合すれば行けると思ったのだろう。

 だからこそ、鈴音は羽入家の血筋が鈴音に気付く事無く、通り過ぎて行くと鈴音は一気に草むらから飛び出した。

 さすがに大きな物音を立てて飛び出したのである。いくら自我が無い羽入家の血筋とは言っても振り向かずにはいられないだろう。けれども鈴音の行動は、そんな羽入家の血筋よりも早くて正確だった。

 振り向いてきた羽入家の血筋の腹に一撃を入れると、鈴音は一気に後ろに周って再び首の後ろを狙って霊刀を振り下ろす。鈍い音が聞こえると羽入家の血筋は膝を屈する。そして、そのまま羽入家の血筋は倒れて、気を失ったかのようにまったく動かなかった。

 鈴音は念のために両手に持っている銃を霊刀で弾き飛ばすと倒れた羽入家の血筋に近づき、確認する。もちろん、しっかりと気を失っているかである。確かに鈴音は霊刀で羽入家の血筋に攻撃を入れたが、二回とも峰打ちである。

 それでも鉄で出来た霊刀で思いっきり打ち込んだのだ。だから下手をしたら羽入家の血筋は死んでもおかしくは無いのだが、鈴音は玉虫の力によって身体能力が強化されている事を千坂の話を聞いて知っていたからこそ、思いっきり打ち込んだのだ。

 そして鈴音が思ったとおりに、倒れた羽入家の血筋は、これと言った重症をおってはおらず、ただ攻撃の衝撃によって気を失っただけのようだ。それを確認して一安心する鈴音。それから、すぐに鈴音は元居た草むらに再び身を隠すと、霊刀を鞘に収めて、再びハンマーを背負うのであった。

 それから鈴音は表柱を目指して再び歩き始める。鈴音はこの事をあえて沙希と吉田に伝えなかった。もし伝えれば二人とも文句にも似た説教をしてくるのは目に見えているからだ。それでも、鈴音がそんな行動に出たのは、こうする事で少しでも犠牲者が少なくなれば良いと思ったからだ。

 確かに羽入家の血筋が一人でも気絶していれば、その間に出る犠牲者は助かるかもしれない。だから一人でも潰しておく事で、ほんの少しだけ犠牲者を少なくしようと鈴音は思ったからこそ、こんな大胆な行動に出たのだ。

 もちろん、鈴音も少しだけ無茶をしたと思っている。それでも、そのような行動に出なければやりきれなかったのだろう。こんな状況で誰かを助ける事無く、村を助けるために犠牲者を見殺しにする事に。

 そんなやりきれない気持ちを少しでも晴らすために、鈴音はあえて無茶かもしれない、確証の無い可能性に掛けて、先程の行動に出たのだ。そうしなければ、自分の心がやりきれない気持ちで一杯になり、次に待っている戦いで支障を来たすと思ったからだ。

 だから、これで犠牲者が少しだけ少なくなる、そんな自己満足を得る為に、先程の行動に出たのだ。

 そして、鈴音がそんな行動を取ったからこそ、今まで見たものや、聞いたものを一時的に忘れて思考を次の戦いについて持って行く事が出来たのだ。

 だから鈴音は草むらで身を少しだけ屈めながら歩みを進める。そして歩きながらでも、次なる手段を考えているのであった。

 罰は罪を犯した瞬間から始まる。姉さんが残してくれた言葉、今、この言葉こそが私にとっての武器になる。それに千坂さん、千坂さんは無駄死にでは無いですよ。千坂さんが死んだからこそ、自覚せざるえなかったんだから。だから千坂さんの死は……無駄じゃない……けど、やっぱり悲しいですよ。

 鈴音は立ち止まると少しだけ溢れ出た涙を拭い、すぐにまた歩みを進めだした。

 私の役目は千坂さんの意思を受け継いで七海ちゃんを止める事。たぶん……あそこでは玉虫との決着は付けられないと思うから。それに……玉虫も切り札があると宣言してる。その切り札こそが七海ちゃん。確かに七海ちゃんは羽入家の血筋であるからには玉虫の力を最大限に引き出す事が出来る。それは今まで相手にした傀儡とはまったく別次元の強さを出してくるかもしれない。

 そんな推測を立てる鈴音。やはり鈴音がそんな推測を立てたのは七海が特別だと認識しているからだろう。なにしろ七海は玉虫の共犯者であり、玉虫との契約で更なる力を出せる事は千坂との会話とあの大爆発でも七海が生きているという推論から成り立っているようだ。

 もし……七海ちゃん以外の人なら死んでいたでしょうね。だから、あの大爆発は七海ちゃんだから生き残る事が出来た。それだけ玉虫の力は七海ちゃんに大きな力を与えてる。そして相手が千坂さんだったからこそ、七海ちゃんの力は少しだけ鈍ったのかもしれない。だから千坂さんの自爆を許す事になった。やっぱり……そこに勝機を見出すしかないよね~。

 そんな事を鈴音が考えていると突如として無線機から声が聞こえてきた。

『こちら吉田。現在、指定された位置に到着しました。そして残念というべきか、喜ぶべきかは分かりませんが……こちらから表柱の傍に立っている、羽入家のお嬢さんを確認しました』

 そんな報告を聞いて鈴音はやっぱり、という感想を抱いた。そして鈴音はすぐに無線機を手にすると吉田に向かって言葉を送る。

「吉田さん、それなら作戦通りに吉田さんはそこからお願いします」

『分かりました、鈴音さんもお気をつけて』

「ええ、分ってます」

 そんな会話を交わすと鈴音はすぐに無線機を戻して、再び歩き始めた。

 これで七海ちゃんが生きている事ははっきりとしたね。それに……表柱で待ってるなんて、私達を殺す気が充分だって分かるよ。なにしろ事態がここまで進んだからには、玉虫にとって私達は邪魔者以外の何者でも無いからね~。それに玉虫の切り札である七海ちゃん、玉虫が切り札と言うからには、やっぱり特別なんだね。でも……それこそが間違いであり、玉虫の切り札こそが私達の勝機になるんだよ。

 どうやら次に行われる戦いの鍵を握っているのは七海のようだ。そんな七海をどうするかで戦いの結果が変わってくる。だから鈴音は七海について考えてみる。

 う~ん、やっぱり七海ちゃんにとっても千坂さんは大事……じゃないな、この場合は……特別かな? そういう存在だったと思う。だから千坂さんは最後に冥府でも忠誠を尽くすって七海ちゃんに言ったんだ。つまり……千坂さんにとっては、それだけ七海ちゃんが大事な存在だった。一方の七海ちゃんはそこまでしてくれる千坂さんを邪険にはしないだろうな~。むしろ逆に味方に引き入れようとしたんじゃないかな? でも、千坂さんの性格から言っても、そんな誘いに乗るはずが無い。だから千坂さんを殺して、千坂さんとの因縁を断ち切ろうとした。う~ん、こう考えれば二人の会話が何を意味していたのかが分かるかな。

 そんな推論を立てる鈴音。確かに鈴音の推論どうりの会話が無線機の送信ボタンが固定される前に交わされていた会話だ。鈴音は千坂が残してくれた会話とメッセージによって、二人の関係をそこまで推理したのだ。そして鈴音の推理はいよいよ七海の心境について展開されていく。

 確かに千坂さんは死んだ……でも、それは七海ちゃんが望んだ死ではない。千坂さんは七海ちゃんの手で殺される事で、七海ちゃんは千坂さんとの因縁を断ち切る事が出来た。自分の手で殺したという自覚が千坂さんの事を忘れさせてくれたんだと思う。でも、七海ちゃんは千坂さんを殺す事が出来なかった。結果的には千坂さんは死んだけど……その死に方では七海ちゃんは絶対に因縁を断ち切れない。だからこそっ! 七海ちゃんは未だに千坂さんとの因縁を持ってる、ううん、千坂さんが意外な死に方をしたからこそ、二人の因縁は未完成のまま残ってる。完成するわけでもない、かと言って壊れる事が無い因縁。だから七海ちゃんの中にある千坂さんとの因縁を利用すれば……私達に勝機はある。

 そんな事を考えた鈴音は次には、やっぱり七海をどうやって屈服させるかを考えなければいけないと思い、そのための推理を展開させる。

 う~ん、私が千坂さんと同じ事を言っても意味は無いだろうな~。だって、私が言うより千坂さんが言った言葉の方が重いはずだから。そうなると……やっぱり探りながらの心理戦になってくるかな~。キーワードは幾つかある、そのどれかが当たりなら、七海ちゃんの心は……だから、何としても私は、そのキーワードをぶつけないといけないんだ。

 そんな推理を展開させる鈴音。そんな鈴音を夏先の温かい風が草むらの草と共に鈴音の体に当たるのと同時に鈴音は足を止めて一回だけ深呼吸する。

 どうやら鈴音もあまり考え込んでもしかたないと思ったのだろう。なにしろ、ここまで来たからには、後はやるしかないのだから。それに千坂が残してくれた物のおかげで七海に勝つ機会が出来た事は確かなのだから。後はどうやって七海にそれをぶつけるかだが、そればっかりは実際にやってみないと、どれだけの効果があるかは分からない。

 だが、鈴音は千坂が残してくれた物の中に必ず勝機に繋がる鍵があると信じているようだ。鈴音がそこまで思うには、やっぱり二人の関係が重要になってくる訳だ。鈴音はもう一度だけ深呼吸をすると次はそれについて考えてみる。

 確か……千坂さんって源三郎さんの右腕と言われるほど重要な位置に居たんだよね。そんな人が七海ちゃんにとっては特別な存在? になっていた。そうなると……そっか、源三郎さんは七海ちゃんを溺愛してた。それに……七海ちゃんを見ればすぐに分かる事だったんだ。七海ちゃんはどう見ても……年齢以上の才覚を持ってる。そんな七海ちゃんだからこそ、源三郎さんは七海ちゃんを溺愛してたし、千坂さんも七海ちゃんに忠誠を尽くすと言ってたんだ。そうなるとつまり……次の羽入家当主は……七海ちゃんか。

 確かに七海は実際の年齢とは段違いの才覚と器量を持っていた。だから沙希は七海を警戒していたし、源三郎も七海を溺愛していた。それはそうだろう、七海にそれだけの実力があると分かれば源三郎なら羽入家の次期当主に七海を選んでも不思議ではなかった。まあ、実際には七海が当主に付くまでは、七海の両親が当主になると思うけど、源三郎が次の当主を七海と決めていた事は間違いないと鈴音は推理したようだ。

 確かに、これからの事は千坂が残した言葉と七海の才覚、そして源三郎の態度を見ていれば分かる事だ。なにしろ鈴音が始めて源三郎と会った時には、羽入家の血筋が揃っている中で七海だけが源三郎の隣という、まるで他の親戚とは別の扱いを受けているようだった。それに七海の両親でさえ、七海よりも下座に座っていたほどだ。源三郎がどれだけ七海を認めていたかなんて、それを見ただけでも分かるだろう。

 そんな七海だからこそ、源三郎は一番信頼を置ける千坂を七海の傍に置いておいても不思議では無い。たぶん、これは鈴音の推理だが、源三郎が鈴音を守れという前は、千坂は七海を守れという命令を受けていてもおかしくはない。それだけ、源三郎にとっても七海は特別な存在だったのだ。

 だが一方の七海からみたらどうだろう? 七海は羽入家の次期当主という事を知って、どう思ったのだろうか? 鈴音はその事について考えてみる。

 もしかしたら……七海ちゃんは自分が羽入家の次期当主に選ばれる事を知っていたのかな。まあ、あれだけ特別扱いされれば察しが付いても不思議じゃないよね。でも……それは七海ちゃんが望んでいる物とは正反対な物だよね。だって、千坂さんが言ってたよね。七海ちゃんは自由が欲しいから人の命を奪ってきたって。だから七海ちゃんの本心は自由になる事。そうなると邪魔になるのは……そっか、羽入家が一番邪魔なんだ。だから七海ちゃんは玉虫の存在を知ると玉虫の共犯者になった。そう考えれば筋が通るかな。

 そう考えれば筋は通るし、千坂が残してくれた言葉の意味も理解できるだろう。

 そこまで考えると鈴音は考える事を止めた。これだけ考えて、状況を整理したのだから、後はぶっつけ本番でやるだけやるしかないだろう。鈴音はそうする事にした。そんな時だった。今度は無線機から沙希の声が聞こえてきた。

『鈴音、こっちも所定の位置に付いたわよ』

「了解、こっちももうすぐ付くから。そうしたらお願いね~」

『はいはい、分ってるわよ。こうなったら、私達の力を見せてあげようじゃない』

「沙希~、気合入り過ぎだよ~」

『これぐらいが丁度良いのよ。なにしろ決戦なんだから』

 沙希の言葉に鈴音の思考が少しだけ動く。う~ん、決戦か~。まあ、そう言えなくも無いけど、最後の決戦じゃないよね~。ここでは……たぶん……玉虫は倒せない。だから七海ちゃんをなんとかしないとだよね。鈴音はそう考えると沙希との会話を続ける。

「沙希、今回の目的を忘れないでよね~」

『分ってるわよ、私だって……千坂さんの死を無駄にしたくないし』

「……うん、そうだね」

 どうやら沙希も沙希なりにいろいろと考えているようだ。それならば、後は実行して挑むしかないと鈴音は意を決する。

「じゃあ、沙希。作戦通りにお願いね」

『分ってるわよ、鈴音こそ……絶対に無茶しちゃダメだよ』

「分ってるよ、でも……今回の作戦は二人が頑張ってもらわないと私がやられちゃうから、沙希も吉田さんも頑張ってくださいね」

『……他力本願』

「う~、沙希の意地悪」

『まあ、民間人を守るのが警察の役目ですから、一応鈴音さんでも、しっかりと守らせてもらいますよ』

「う~、吉田さんまで少しだけ意地悪だ~」

 そんな会話をして笑う鈴音。たぶん、無線機の向こうでは沙希も吉田も笑っている事だろう。そう思うだけで、鈴音は充分にリラックス出来たし、身体から余計な力が抜けていくのを感じる事が出来た。そんな鈴音が無線機に向かって話しかける。

「それじゃあ、沙希も吉田さんもお願い」

『はいはい、分ってるわよ』

『しっかりとバックアップさせてもらいますよ』

「じゃあ、私もそろそろ表柱に着きますので、後はお願いします」

 その言葉を最後に無線での会話を終わりにした。

 それから鈴音は何も考える事無く、草むらの中を進み、表柱が視界に入る位置まで来ると。今まで背負っていた重いハンマーを下ろして、霊刀を鞘から抜くと鞘を腰に差す。それから鈴音は草むらから道に出て、そこからゆっくりと表柱に向かって歩いて行く。

 歩きながらも鈴音は思うのであった。

 やるべき事は全てやった、考えるべき事は全部考えた。後は……全力で挑むだけっ! だから……勝負だよ、七海ちゃん。私の心が勝つか、七海ちゃんの心が勝つか、この勝負は……そこに掛かってる。だから……絶対に負けられない。死んでいった千坂さんのためにも、そして……七海ちゃん……七海ちゃんのためにもだよ。

 そんな事を考えていると街灯で囲まれた表柱が見えてきて、遠くに七海と玉虫が居るのを鈴音の瞳はしっかりと捉えていた。それでも、鈴音はいつもの歩調で表柱に向かって歩いて行く。

 静かなる闘志を瞳に宿しながら、鈴音は表柱が立っている広場に出ると、七海の前まで歩いていくのだった。







 はい、そんな訳で第六章はこれで終わりになります。今までに比べると随分と短いし、重複している部分もありましたね~。でも、まあ、重要な事なので重複させてもらいました。

 ……はい、ごめんなさい、建前です(泣) まあ、第六章は総合して言うと、話を整理するだけでなく、私自身の考えや理論をも書いてみた、と言える話になっていると思います。

 まあ、だからと言って、私の思想が殺人を容認している訳では無いですよ。ただ、本文でも書きましたが、人によっては罪の向こう、殺人の向こうにしか幸せを見出せない人が居るのも確かなのではないのかと、そう言いたかっただけです。

 そこから、どんな行動を取るのかは、その人次第ですけど、静音が言ったように罰は罪を犯した瞬間から始まる。罪の向こうに幸せを見出したとしても、罪を犯した瞬間から罰は始まっている。たとて幸せを手にしたとしても、その幸せの下にはさまざまな不幸がある。そして、それはいつか罰として自分自身に降りかかる。そんな考えから、あのような文章を書かせてもらいました~。

 まあ、そこら辺は自分なりの解釈をしてもらっても良いと思います。けど……罪を犯すなら覚悟をしておいてくださいね。どんな罪でも罰はすでに始まっているのですから。

 さてさて、堅い話はここまでにして、そろそろ次の話をしましょうか。

 なにしろ第六章が短かったですからね~。その分、第七章はかなりの話数を使うと思います。という事は……更新が少し伸びる、あるいはかなり伸びる。という事になります。……まあ、あれですよ、更新が遅いのはいつもの事であって、第七章は盛り上がるだけに、いつも以上に時間が掛かると思っておいてくださいな。

 そんな訳で第七章ですが、いよいよ七海との決戦になりますね~。たぶん……七海を倒すだけなら簡単なのでしょうけど、鈴音は千坂の意思を継いで七海を助ける道を選びました。それは困難な道なのでしょうね。それでも、鈴音は千坂のため、そして七海の為にその道を選びました。だからこそ、七海との決戦は激戦になる事でしょうね……たぶんね。

 そんな訳で第七章はかなりの話数を使って、一気に盛り上げて行きたいと思っております。そんな訳で、時間が掛かるでしょうが、気長に第七章をお待ちくださいな。

 という事で、そろそろ話が尽きたので、そろそろ締めますね。

 ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に評価感想もお待ちしております。

 以上、よくよくカレンダーを見てみたら、もう今年も終わりなんだよね。私も年を取ったな~、一年が早く感じるよ。そんな訳で、皆さん、良いお年を~と今年最後の挨拶をしてみた葵夢幻でした。

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