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断罪の日 ~咎~  作者: 葵 嵐雪
第一章 異変と閉鎖
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第一章 その二

「こんばんは」

 表が暗い所為か思わずそんな挨拶をしながら駐在所に入る鈴音。その後に沙希も続くが中の様子を見て二人とも言葉を失ってしまった。なにしろ駐在所の住人である金井は無線機と思われるようなものをいじくりまわしており。幸いな事に駐在所に泊まっていた吉田も電話の前でイラ付いているかのように灰皿には吸殻が山となっているのだから。

 表がこんな状態になっているのに駐在所が活気が無くて、すっかり当てが外れたという感じで立ち尽くす鈴音達に気付いた吉田が二人に向かって話し掛けてきた。

「これはこれはお二人とも、こんな中を良く無事に辿り着けましたね。どちらにしてもこんな中を歩き回る事は感心しませんが、無事で何よりです」

 確かに警察官である吉田の立場から言わせれば鈴音達のような一般市民がこんな状況下でウロウロとする事は好ましく思えないのだろう。それと共に二人が無事にここまで辿り着いた事に吉田は安心したという表情を見せたので、あまり怒っていないのだろうと鈴音達は判断した。鈴音達も伊達に吉田を引っ張り回したりしていなかったということだろう。そんな吉田の心境が分るぐらいだから。

 そして吉田も鈴音達が意味無く、こんな状況下で外をうろつく真似などをしたのには何か理由があるのだと推測して、とりあえず鈴音達に座るように促すと鈴音達の話を聞くかのように両肘を机の上において両手を組むのだった。

「それで、こんな状況でここに来た理由からお聴きしましょうか?」

 真っ先に理由を尋ねてくる吉田に鈴音は美咲が居なくなった事を告げて、警察の力も借りて美咲を探そうと思って駐在所に来た事を話すのだった。そんな鈴音の話を聞いて吉田は頭を抱えるように再びタバコに火を付けた。

「なるほど、そういう理由でしたか。それなら我々も協力したいのですが……」

 そこで言葉を区切った吉田は金井に顔を向けると無線機が通じか尋ねる。そんな吉田の問い掛けに金井はダメだという感じで首を横に振るのだった。その事で吉田は溜息を付くと鈴音達に向かって両肩をすくめて見せた。

「こちらも今朝からこんな状態でしてね。一向に平坂署と連絡が取れないのですよ。私としても羽入家の件もありますし、こんな状況ですから人員を増やしてもらおうと応援を頼もうとしていたんですがね。今朝から電話も無線も通じない状態ですっかりお手上げ状態なんですよ」

「じゃあ、今村に居る警察官といったら?」

「そう、私と金井君だけですよ」

 沙希の問い掛けにお手上げとばかりに溜息を付く吉田。どうやら吉田としてもこんな状況は初めてであり、どうやって平坂署と連絡を付けたら良いものか結論が出ないようだ。そんな中で鈴音は金井に尋ねる。

「金井さんはこの村が出身地ですよね」

 いきなり質問されて金井は通じない無線機を軽く叩くと休憩とばかりに鈴音達と同じテーブルに付いた。そしてお茶で喉を潤してから鈴音の質問に答えてきた。

「ええ、そうですよ」

 どうやら金井の地元が来界村なのは間違いないようだ。警察官としての試験を受けるためとか研修とかで離れる事はあっても、多くの時間をこの来界村で過ごしてきた事には変わりない。だからこそ鈴音は金井に尋ねるのだった。

「今までこの村では、こんな現象が起こった事は無いんですか?」

 鈴音としては今の現象が過去にも起こっていれば現状を打破する武器となるのは確実だからこそ、そんな質問を金井にぶつけたのだが、金井は首を横に振った。

「いいえ、こんな事は初めてですよ。だから私にも何が起こっているのか、さっぱり分らなくて困ってるんです」

「そうでしたか……」

 すっかり当ての外れた鈴音は金井の答えに沈んだ言葉で返した。そんな鈴音を見て今度は沙希が金井に質問をしてきた。

「じゃあ、この現象について村で知ってる人って居ます?」

 金井も三十代後半と働き盛りの歳だ。だから昔にこんな現象が起きていても知るはずが無いと思った沙希は今の現象について知ってそうな人に尋ねるが金井はすぐに顔を横に振った。

「私も以前にこんな事があったなら知ってる人がいると思いましてね。近くに住んでいるご年配の人を叩き起こして聞いてみたんですが、その人もこんな事は初めてのようで、何も分らなかったんですよ」

「つまり……今、来界村で起こっている現象は前代未聞の出来事って事ですか」

 金井の言葉を聞いて、そんな言葉を口にする鈴音。どうやら今の現象については過去に事例の無い現象らしく、それで吉田も金井も妥協策が無いかと探っている状態らしい。

 う~ん、まさか吉田さん達も今の状況に振り回されてるなんて思ってもみなかったからな~。これからどうしようかな~。吉田達の話を聞いてすっかり困り果ててしまう鈴音。それでも何とか今の状況を脱出しない限りは、いつまで経っても美咲を探す事には専念できないのではないのかと考えてしまう。

 そして今の状況に焦りを感じているのは鈴音達だけでは無い事を鈴音はすぐに感じ取る事が出来た。なにしろ吉田は短くなったタバコを揉み消すとすぐにもう一本取り出して火を付けたからだ。どうやら吉田も今の状況に焦っているのは確かなようで落ち着かないようだ。

 そんな吉田がイラ付いたような口調で言葉を口にする。

「まったく、何が原因でこんな事になってるんでしょうね」

 どうやら吉田達も今の現象について情報はまったく持っていないようだ。だからこそ何とかして外部に連絡を取ろうと四苦八苦していたのだろうが、未だに苦労している事から打開策が見つけられないでいるのだろう。

 そんな吉田に沙希は確認するかのように尋ねた。

「やっぱり電話も無線も通じないんですか?」

 そんな沙希の問い掛けに金井は疲れたような表情で溜息を付くと答えてきた。

「ええ、最初は故障したものだと思ったんですけど。今では倉庫から古い無線機も持ち出して試したんですけど、一向に連絡が付かないんですよ。電話も無線も通じなくて、どうやって応援や増援を頼めば良いんですかね」

 すっかり愚痴になって来ている金井の言葉に沙希は簡単な相槌を打つことしか出来なかった。吉田達としてはどうにかして平坂署と連絡を取って人員を増やして今の事態に当たりたいのだが、連絡が付かない状態ではどうする事も出来ないとすっかり金井などは諦めかけて、吉田は焦るばかりだった。

 そんな吉田達を見て、ここで吉田達に頼るのは返って危険だと感じた。なにしろ吉田は焦っているし金井は諦めかけている。だからこそ、ここは頼るのではなく力を合わせて協力して事態に対応していかないと美咲の身を安全無事に見つけ出すのは不可能かもしれないと鈴音は考えていた。

 それにはまず吉田達の焦りを取り去り、冷静さを取り戻させないといけない。その事を鈴音は小声で沙希に告げると沙希は頷いてきた。どうやら沙希も鈴音の考えに同意したようだ。そこで沙希は吉田に話しかける。

「電話や無線の他に平坂署に連絡を取る方法は無いんですか? 警察独自の連絡方法とか」

 そんな事を言い出した沙希に吉田は首を横に振った。

「私も非常用の110番や最終的には消防署に繋がる非常ベルなんかを使って連絡を使って連絡を付けようとしたんですがね。どれも村の外へは繋がらなかったんですよ」

「それで何とか無線機を使えるようにしようと弄り回していたわけですね」

 沙希の言葉に頷く金井。つまり外への連絡手段が全て断たれた今となっては、無駄だと分りつつも無線機に期待を掛けて外へ連絡を付けよとしていたところに鈴音達がやって来たという訳だ。それは吉田達も完全に今の状況に混乱して翻弄されている証拠なのだから鈴音は吉田達に気付かれないように肩を落とした。

 なにしろ美咲を見つけるために吉田達を頼ってここまで来たのだ。その吉田達もお手上げ状態となるとどうやって美咲を見つけたら良いものか迷うばかりだ。それと同時に鈴音の中には二つの迷いが葛藤を始める。

 それは美咲を見つけ出す事を優先させるか、それとも今状況を打破して安全を確保してから美咲を探すか。どちらも目的は同じだが、どちらを優先させるかによってこれから取るべき行動が決まってくる。

 そんな迷いを抱えた鈴音に沙希は話しかけてきた。

「鈴音、どうする?」

 沙希の問い掛けに鈴音は頭をうな垂れるばかりだ。美咲を見つける手段として警察を頼りにここまで来たのだが、その警察もお手上げ状態となると鈴音達だけで美咲を見つけ出さないといけない。けれどもこんな状況下で村中を探し回るのは無理に近いだろう。なにしろ外は真っ暗だし、空には変な色の雲で多い尽くされて日光の光すら遮っている。そんな状況で殺人鬼がうろついている状態で鈴音達だけで美咲を探すのは無謀に近かった。

 そんな鈴音を見て吉田も申し訳無さそうに言葉を発するのだった。

「本来なら我々も総動員で鈴音さんに協力をしたのですが、こんな状況ですからね。状況の解明を含めて美咲ちゃんを探すなんて事は手易いんですが、増援が来ない状況では我々も動く事が出来なくて、本当に申し訳ないです」

 そう言って頭を下げる吉田に沙希は慌てて、しかたない事だとフォローするが、鈴音は吉田の言葉に何かを見つけ出したようだ。

 ちょっと待って、さっき吉田さんは増援が来ない状況では動けないって言ったよね。それって……逆に言えば増援さえあれば確実に美咲ちゃんを探してくれる人手が借りられるって事だよね。そうなれば私達だけで探すよりも確実かつ安全に美咲ちゃんを見つけ出す事が出来るよね。そんな結論を出した鈴音はすぐに次の事を考え始めた。

 そうなると次は……どうやって平坂署と連絡を取るかだよね。なにしろどんな方法でも村の外には連絡が付かないんだから……いや、ちょっと待って、何か忘れているような。少し整理してみよう、私達の目的は美咲ちゃんを見つけることで、そのためには平坂署と連絡を取らないといけない。けれども、その連絡手段は全て機能せずに吉田さん達もお手上げ状態。

 そこまで考えた鈴音はやっと自分達の間違いに気付いたようだ。そう、一番大事なのは平坂署と連絡を取ることであって、連絡を取る手段を復旧させることでは無いと言うことだ。

「あっ!」

 そこで鈴音は何かを閃いたのだろう。鈴音は声を上げるのと同時に立ち上がった。そのため全員の視線が自然と鈴音へと集まり、鈴音が口を開くのを待った。そんな鈴音が吉田に向かって問い掛けた。

「吉田さん、ここに車はあります?」

 唐突な質問に吉田は驚きながらも返事を返してきた。

「ええ、この駐在所には何台か置いてありますけど」

「なら良かった」

 鈴音は笑顔でそんな言葉を口にするが、何が良かったのかと不思議そうに顔を見合わせる沙希達。そんな沙希達に向かって鈴音ははっきりと自分の考えを話し始める。

「電話も無線も使えないなら……直接行けばいいんだよ、平坂署に、確かに時間は掛かるけど、その方が確実に村の現状を伝えられるし、増援だって一緒に来る事が出来るでしょ」

「なるほど、その手がありましたね」

 鈴音の言葉に手を叩いて感心する吉田。なにしろ吉田達は通信機器を復旧させる事ばかり考えていて直接おもむくなんて発想は出来なかったようだ。沙希としても通信手段に拘っており、まさか自分の足で直接行くなどというアイデアは思いつかなかったのだ。

 そんな鈴音の言葉を聞いた吉田はすぐに金井に車を回してくるように命じると、金井はすぐに駐在所へ飛び出して行って車庫へと向かった。

 そんな金井を見送った鈴音はこれで一安心とばかりに再び座ると安堵した表情でお茶で喉を潤す。そして沙希もやっと見つかった打開策に安堵したような表情を浮かべていた。なんにしてもこれで時間は掛かるものの美咲を探す人員が借りれる事は確実なのだから。後は美咲を見つけるだけと二人は安心していると吉田から意外な言葉が飛び出してきた。

「いや~、鈴音さんのおかげでやっと連絡を付ける手段が思いつきましたよ。我々も直接行くという事はまったく考え付かなかった事ですからね。なのでお二人にも一緒に来てもらいたいのですが」

『えっ?』

 まさか吉田からそんな言葉が出てくるとは思っていなかった鈴音と沙希は同時に驚きの声を上げる。二人とも吉田と一緒に平坂に行こうとは思ってもいなかった事だからだ。そんな二人に吉田は理由を説明するかのように話し始めた。

「村の状況を説明するにしても私一人だけでは時間が掛かりすぎますし、美咲ちゃんを探す人員を借りる手続きをするためにもお二人には一緒に平坂に来てもらった方が手間が省けるというものではないですか?」

 そんな吉田の言葉に確かにそうかもしれないと納得する鈴音。けれども沙希はしっかりと吉田の心中を見抜いていた。

 今の来界村は何が起こっても不思議は無いと言ってもおかしくは無い状態だ。そんな来界村に鈴音達を放っておくよりかは自分の目の届くところに居てくれた方が吉田としても気が楽だし、鈴音達が無茶をする事は無い。だからこそ一緒に平坂に行く事を提案してきたのだ。もちろん吉田が言ったような理由も含まれているのだが、今の村を鈴音達だけで美咲を探し回らせるのも危険だと判断してもおかしくは無いと沙希は吉田の心中を見抜いていた。

 だからこそ沙希も吉田の提案を拒否するような発言はしなかった。確かに今の村は明らかに異常過ぎる。そんな中を鈴音と二人っきりで探すよりかは警察の増援と一緒に美咲を探し回りながら、この事態の原因究明に携わった方が効率が良いと判断したからだ。だからこそ沙希は吉田の提案に首を縦に振り、沙希がそうならと鈴音も同意する事にした。

「なら話は決まりましたね。どうやら金井君が車を回してきてくれたみたいだし、早速出発する事にしましょう。今の状況から見ても少しでも急いだ方が良い」

 そんな吉田の提案に二人とも首を縦に振ると、車を回してきた金井が駐在署の中に戻って来た。そんな金井に吉田はもしかしたら連絡が付くかもしれないと、ここで電話と無線の復旧を命じた。確かにその可能性があるからには金井には、ここに残ってくれた方が確実に連絡を取れる可能性がある。

 そんな吉田の命令に敬礼で答える金井。そんな金井に見送られて鈴音達は早速、駐在所の前に止められてある車へと乗り込んだ。吉田もすぐに車に乗り込んで窓を全開にすると金井に後の事は任せたと告げて、金井が返事を返したところで再び窓を閉めて車を出発させた。今だ真っ暗な村の夜道を斬り裂くように。



 さすがにこんな状況で村の中を出歩く気には誰もなれないのだろう。だから吉田は少し飛ばし気味に車を走らせる。まさかこんな状況の中を好き好んで歩き回る人なんてそうはいないだろうと吉田は思ったからこそ、警察官なのに少しだけ速度を無視して車を走らせるのだった。

 なにしろ来界村から平坂までは山を越えなければいけないので車でも、かなりの時間が掛かる。だからこそ吉田は少しだけ急ぎ気味に車を走らせているのだ。確かに真っ暗で視界は悪いが、こんな中を好んで歩き回り、交通事故になる可能性は限りなく零に近いと吉田も判断したのだろう。そんな車中で沙希は少し早めに流れる風景を見ながら黙っていると鈴音が突如として口を開いてきた。

「ねえ、これから私が言う事は二人にとっては信じられない事かもしれないけど……私はそういう可能性も考えてみるべきだと思うのよ」

 突然そんな事を言い出してきた鈴音に沙希は目を向けて、吉田はバックミラー越しに鈴音を見ると吉田から口を開いてきた。

「どんな可能性か分りませんが、とりあえずは窺いましょう」

 そんな吉田の言葉を聞いて沙希も頷いてきたので鈴音は話そうとするが、どうしてもちゅうちょしてしまうようだ。なにしろ鈴音がこれから話そうとしている事はあまりにも現実離れしているからだ。

 そんな話を現実的に考える二人に話そうとするのだ。鈴音がちゅうちょするのも分るが、自分から切り出しといていつまでも黙っている訳にはいかない鈴音は思い切って話し始める。

「姉さんのノートに崇りについて書かれていたでしょ。それに村長さんもまるで崇りを信じているかのような遺言みたいな物を残してる」

「まさか鈴音、今の現象が崇りだって言いたいの?」

 そんな事を言って来た沙希に鈴音は頷いて見せた。そんな鈴音を見た沙希は思わず頭を抱えたまさか鈴音までもがそんな事を言い出すとは思っても見なかったからだ。それは吉田も同じだが、吉田としては今起こっている、この不可解な現象は確かに自分達の常識から離れた現象であり、それが崇りという言葉で表せるのならそうかもしれないと意外にも鈴音の考えに同意的な心境を抱いていた。

 けれども吉田がその事を口にする前に沙希が鈴音に反論をぶつけた。

「鈴音、崇りなんて物がこの世にあるわけないじゃない」

 確かに沙希の言うとおりだと鈴音は思うだろう。こんな状況でなければ。けれども現状は不可解な事が多すぎる。だからこそ鈴音は今の現象を崇りという言葉で表したに過ぎない。そんな鈴音が沙希に向かって反論を返す。

「なら沙希、今の状況をしっかりとした理論で説明できる?」

「まあ、それは……出来ないけど」

 鈴音の反論に言葉を失う沙希。沙希としても今の現象が何なのかを知りたい心境なのだ。そんな沙希が今の現象について説明できるわけが無かった。そんな沙希に向かって鈴音は更に話を続ける。

「私もこんな状況にならなければ崇りなんて信じないよ。でも……天気が変なのも、電話や無線が通じないのも、テレビやラジオも写らないのも何かの原因と理由があって起こってる事なんだよ。少なくとも私達はそんな現実を目の前にしている。それだけは絶対の真実であり、決して捻じ曲げる事が出来ない事実でもあるんだよ」

「…………」

 鈴音の話を黙って聞く沙希。今の沙希に鈴音の理論を打破出来るだけの真理を持っていないからには、今は鈴音の話を黙って聞くだけしかなかった。それは沙希だけは無く吉田も同じだ。それに吉田は鈴音の話に興味を示しているのも確かだからこそ、あえて何も言わずに運転しながら鈴音の話に耳を傾けるのだった。

「確かに私にも自分の目で見た物が全て真実であり、自分の耳で聞いたことが全て真実だとは言い切れない。もしそれらが全て真実なら手品なんて芸は生まれないんだから」

「まあ、そうよね」

 つまり鈴音は自分が見た物、聞いた物が全て真実ではないと言ったのだ。それを分りやすくするために鈴音は手品という例を上げた。あれは見ている客をトリックで騙して楽しませる芸だ。だからこそ自分の目で見た物は真実では無いし、聞いた事も真実では無い。裏にトリックという隠れた真実が存在しているからだ。それを踏まえた上で鈴音は話を続けた。

「だから今の現象が誰かの意図によって人為的に起こされているとも考えられる。でも……それと同時にもう一つの事も考えられる」

「それが……崇り」

 沙希がそんな言葉を口にするが鈴音は首を横に振ってきた。つまり今の現象が崇りでは無いと鈴音は言ったのだ。では何なのかと沙希は首を傾げるばかりだ。そんな沙希に向かって鈴音は更に話を続けるのだった。

「崇りって言葉で括っちゃうと視野が狭くなっちゃうから崇りという言葉を使わないだけ。でも……姉さんの言葉を思い出したの。それは『社会の常識と真実が同一な物とは限らないのよ』って姉さんのそんな言葉を思い出したの。それで思ったんだけど……私達が置かれている状況はまさにその言葉通りなんじゃないかって事なの」

 そんな鈴音の言葉に沙希は考える仕草をする。どうやらすぐには鈴音の言いたい事が理解できなかったようだ。そんな沙希よりも早く吉田が口を開いてきた。

「つまり我々は日常から離された非日常的な場所に居るという事ですか」

「その可能性も考えるべきかと思います」

 吉田の言葉に同意を示した鈴音。そこで沙希もようやく鈴音が言いたい事が分ったようだ。

 つまり鈴音は今の現象は崇りでは無いが、何かしら社会の常識から外れた超常的な現象の中に自分達が居ると言ったのだ。それはもしかしたら霊的なものから宇宙人的なものまで社会の常識から外れた考えはいくらでも浮かんでくる。それらの可能性も考慮に入れるべきだと鈴音は主張してきたのだ。

 そんな鈴音の考えを理解して沙希は真っ先に尋ねる。

「それで、その中で一番可能性がある物だとしたら、どれ?」

 沙希の問い掛けに鈴音は少しだけちゅちょする。先程自分であんな事を言ってはみたものの、やっぱり鈴音にもどこか信じられない部分があるのだろう。けれども村に来てからの体験を元に考えると出てくる答えは一つだけであった。

「それはもちろん……玉虫様だよ」

 やっぱりねという顔をする沙希に、運転しながらも頷く吉田。そんな二人に向かって鈴音は話を続ける。

「村に伝わっている伝承の中で一番関連があるのは玉虫様だよ。それだけじゃない、村長さんもその遺言に……まるで玉虫様が復活するような記述を残している。だから今起こっている現象は……」

「玉虫様が復活したって事?」

 沙希がそんな事を言ってくると鈴音は頷いた。村に深く関わってくる玉虫様という存在。そして伝承の中に幾つか残っている玉虫様の崇り、更には村長が残した玉虫様が復活するために悲痛ような十本目の柱が完成に近いという記述。それらを総合して見るとやっぱり玉虫様しか鈴音達には考えられるものは存在しなかった。

 だがそうなると一つの疑問が思い浮かんでくる。吉田は運転しながらも鈴音にその疑問をぶつけてきた。

「けど、そうなりますと……玉虫様の目的は何なのでしょうね?」

 つまりは動機だ。何故玉虫様は復活されて、何でこんな現象を引き起こしているのか。そしてこれから何をしようとしているのか、そこが一番の疑問と言えるだろう。そんな吉田の問い掛けに鈴音は考えるような仕草をすると静かに口を開いて呟く。

「……復讐」

「復讐、ですか?」

 思いもかけなかった言葉に吉田はそのまま言葉を鈴音に返した。けれども鈴音が玉虫様の事を考えて、その目的を察するに復讐しか玉虫様が復活する理由が思い当たらなかった。けれども復讐というのはちゃんとした復讐すべき人物が居てこそ成り立つ物であり、当の昔に死んだ玉虫様が現在生きている誰かに復讐しようとは沙希も吉田も思いつかないことだった。

 けれども鈴音はその言葉を口にした理由がちゃんとある。だからこそ今度はそのことについて話し始めるのだった。

「沙希には昨日も話したよね。昔から伝わる伝承には改変されていたり、話を元に創作されていたりする場合があるって」

「……あぁ、昨日羽入家で妖刀について話した時の事ね」

 それは昨日、羽入家に玉虫の事について調べに行った時の事だ。その時は慌しかった羽入家の住人に代わり、七海が案内と玉虫様に関する話をしてくれた時の事だ。

 その時に鈴音は七海の話と今まで聞いた玉虫様の話を聞いて、今現在に伝わっている玉虫様の話は改変されており、本当の事は闇に葬られているのではないのかと鈴音は言いたいのだ。

「つまり玉虫様は自分から生贄になったんじゃない。強制的に生贄にさせられた。そんな玉虫様は思ったはずだよ。絶対に末孫まで祟ってやると。そう考えれば玉虫様が復活した目的も察しが付くよね」

 そんな鈴音の話を聞いて沙希も吉田も最悪な想像を思い浮かべる。そしてそれこそが鈴音の言いたい事だとすぐに分った。だからこそ吉田は確認するかのように鈴音に向かって尋ねた。

「つまりは……村への復讐。村人全ての殺害ですか?」

 そんな吉田の答えに鈴音は頷いて見せた。まさかとは思ってはいたが、玉虫様が村人を全て殺すために復活するなどとは到底考え付く物ではなかった。それどころか鈴音の想像力が豊か過ぎるのでは無いのかと沙希などは疑ってしまいたくなるが、今の状況から見ても、そんな鈴音の想像染みた考えを無視する事は出来ないと判断したようだ。

 だからこそ沙希はそんな鈴音の話を真剣に考えてある疑問をぶつける。

「でも……玉虫様が復活したからってどうやって村人全員を殺害するって言うの? 玉虫様がどんな超常的な力を持っていたとしても、村人全員を殺すのは無理なんじゃない」

 確かにこの来界村は田舎とはいえ、その人口は約四百人。その四百人を全て殺す事など、玉虫様がどのような力を使ったのだとしても無理では無いのかと沙希は言って来たのだが、鈴音はそんな沙希の理論を覆す材料を持っていた。

「その答えは村長さんが残してくれた遺言の中にあるよ」

「というと」

「羽入は兵、来るべき兵となって掃討する。そんな言葉を残していたよ」

 そんな鈴音の言葉に沙希は首を傾げるのだった。確かに羽入家が怪しいのは沙希にも充分すぎるほど分っている。けれども今まで村を守ってきた羽入家がいきなり手の平を返したように村人を殺害し始めるとは沙希には思えなかった。

 だからこそ沙希は顔をしかめて、吉田も同じような顔をした。二人ともまさか羽入家がそんな行動に出るとは思えないのだろう。まあ、二人とも羽入家が警察に向かって銃口を向けるのは分るが、今まで守ってきた村に向かって銃口を向けるとは二人とも思えなかったからだ。

 そんな二人の疑問に答えるかのように鈴音は話を続ける。

「もちろん、その言葉だけで判断したわけじゃないよ。沙希、七海ちゃんが言ってた羽入家の呪いについて憶えてる」

「あぁ、羽入家が村から出れないのは玉虫様が呪ってるとか、妖刀で人を傷つけては憑依してるとか、そんな話」

「そう」

 まさしく鈴音もそれを言いたかったのだろう。吉田にも昨日羽入家で七海から聞いた話をするのだった。そんな話を聞いて吉田もただの伝承だろうと言いたくなってきたが、外を見ると相変わらず不可思議な現象が続いており、鈴音の話に関わってくるのだろうと結論を鈴音に尋ねてきた。そして鈴音は自分が出した結論を口にする。

「つまり……玉虫様の力は羽入家を操る力であって、羽入家の力を使って村人を皆殺しにしようとしてるんだよ」

「まあ、確かに羽入家ほどの人手があれば可能かもしれないけど、村の人だって殺されると分ったら抵抗だってするでしょ。そんな状況で村人全てを殺す事なんて出来ないでしょ」

 そんな事を言って来た沙希に鈴音は首を横に振った。もちろん鈴音には沙希の言葉を否定するだけの理由が存在している。だからこそ鈴音ははっきりとその理由を口にするのだ。

「沙希だって昨日見たでしょ。羽入家が有している武器の数々。あれだけの武器が揃っていればそんなに人手を集めなくても、村人を虐殺する事が出来るし、村人だってあれだけの武器を前にされれば抵抗だって出来ないよ。せめて殺されないように隠れる事しか出来ないけど、むやみやたらに銃弾がばら撒かれるように発砲されればいつ殺されても不思議はないよ」

「確かにあれだけの武器を前にしては抵抗なんてものは出来ないでしょうね」

 鈴音の言葉を肯定するかのように吉田は運転しながら返事を返してきた。吉田は直接羽入家が持っている武器を見た訳ではないが、警察の情報網を通してどれだけの武器を有しているのかは粗方分っているようだ。拳銃はもちろん、ライフルからサブマシンガン、更にはロケットランチャー。それらの武器を前にして村人達が抵抗なんて事が出来るわけが無い。

 そんな話を聞いて吉田は溜息を付くとまるで信じられないかのような口調で鈴音達に向かって話しかけてきた。

「いやはや、まさかそんな事態になっているとは思ってはいませんでしたよ」

 そんな吉田の言葉を聞いて鈴音は慌てて弁解する。

「いえ、まだそうだと決まった訳では無いですから。あくまでも私の想像であって、そういう事も考慮に入れるべきだと言いたい訳で。証拠なんて物は何も無いんですから」

「まあ、そうよね」

 鈴音の言い訳染みた言葉にすぐに同意してくる沙希。さすがにこんな話を沙希としてもすぐには信じる事が出来ないようだ。それでも沙希は認める物はしっかりと認めていた。

「でも……今の現象と照らし合わせて話の筋があっているのは確かよね。本当に羽入家がそんな事をするかは分らないけど、電話やテレビを使えなくして、まるで村を閉鎖して村人を虐殺しよういう事は考えられるわね」

 そんな事を言い出す沙希に吉田は溜息を付いた。確かに沙希が言ったとおりに話の筋は通っているが、とても信じられる話では無い。それに鈴音が言ったとおりに証拠があるわけでも無いから鈴音の推論を頭から信じる気にはなれないが、鈴音が言ったとおりに考えの一つとして頭の中に置いておくべきだろうと吉田は判断した。

 確かに鈴音の話が現実離れしている事は確かな事だ。そして鈴音達が置かれている状況が現実離れしている事も確かな事だ。そんな状況でそんな話を聞かされては頭から否定する事などは出来はしない。それどころか鈴音の話を頭から信じたくなって来てもおかしくは無い。

 けれども鈴音はあくまでも判断材料の一つとして考えるべきだと更に主張してきたので、沙希も吉田も鈴音の話を全て信じるのではなく、考察の一つとして考えるべきだと自分に言い聞かせた。

 まあ、鈴音としても自分の言った事が自分でも全て信じる事が出来ていないのだから、そんな弁解染みた事を言い出しても不思議は無いのだろう。何にしても今は平坂署に行って人手を増やすのが一番の目的だ。

 そうする事でより多くの情報が入り、美咲を発見できる可能性が一気に高くなるのだから。

 だからだろう。鈴音は話をそこで切り上げると、それ以上の事を話さなかったのは。これから重要になってくるのは事態の究明と美咲を見つけることであり、今はそのために平坂署へ急がないと行けないのだから。

 だからこそ鈴音はそれ以上は自分の考えを話さずに外に目を向けて山道に入った事で一気に流れて行く木々を見詰めていた。鈴音が話を切り上げたので吉田も黙って運転に集中し、沙希は沙希で何かを考えているようだった。

 そんな三人を乗せた車が闇の中を山道に入った事を良い事に更にスピードを上げて一気に駆け抜ける。その先に待ち受ける更なる異変をまだ知らないままに。







 さてさて、そんな訳で吉田達、警察もお手上げ状態になってましたね~。でも直接行くという発想が出来なかったのは、通信機器がそれだけ発達して身近な物になって来ているという証拠なのかもしれませんね。

 ……恐るべき進化する機械っ!!! ……はい、意味が分かりませんね。もちろん私も何の意味があって、そんな発言をしたのかは意味が分かりません。あえて言うなら……言ってみたかっただけっ!!! それだけですね。

 というか、本編は凄くシリアスに進んでるのに、ここの後書きはいつも通りですね~。まあ、咎は後に行けば行くほど話しが重くなって行く予定ですので、後書きだけはいつもの調子で行こうかと思ってます。

 ……約半年ぶりの断罪再開なのにね~(笑)

 さてさて、そんな訳で少し本編に触れてみようかと思ったんですけど……今回はあまり話が進んでないんですよね~。だからいじる場所があまり無いからパスという事で、そろそろ締めますね。

 以上、話を一気に上げている割には結構後書きで遊んでるな~とか今更思った葵夢幻でした。

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