第一章 その一
念の為にもう一度だけ注意しておきます。本作は断罪の日~縁~の続編となっておりますので、先に断罪の日~縁~をお読みください。
もう既に縁を読み終わっているという方は、前書きを無視して本文に入ってもらっても構いません。後は注意書きしか書きませんので。
なお、本文の冒頭には前作を思い出させるような回想シーンは入れておりません。完全な続編となっております。
なぜこのような事をしたのかも前作に書いてありますので、まずは前作である断罪の日~縁~をお読みください。
これだけ注意したので、いきなり本作を読んで内容が分からないという苦情は一切スルーします。そんな訳でいきなり本作を読んで内容を理解できない場合は自己責任で何とかしてください。
まあ、その前に断罪の日~縁~を読めば良いだけですけどね。そんな訳で、ここまで注意をしたので、注意を無視しての苦情は一切スルーしますので、先にご理解ください。
そんな訳で、断罪の日~縁~を読み終わった方はお進み下さい。まだ読んでない方は先に断罪の日~縁~をお読みください。ではでは~、真相が明かされる解答編である断罪の日~咎~をお楽しみください
カンッ! という小気味良い音と共に鈴音の頭には激痛が走った。そのためか鈴音は激痛を耐えるために布団の中で身体を丸めると激痛が走った頭を両手で押さえて、少しでも激痛を和らげようとする。
そんな鈴音の姿を見て沙希はすぐに鈴音の掛け布団を引っぺがすと揺り動かす。
「鈴音っ! いつまで寝てるのよ。大変なのよ、大変な事になってるのよっ!」
どうやら沙希は思いっきり慌てているようだが、鈴音は激痛と共に目を覚ましたのである。だからその頭は未だに真っ白だが、沙希が思いっきり揺さぶってくるので鈴音はしかたないと思いながら未だにだるい身体を起こすと枕元にあったフライパンを発見する。
あ~、これか。目を覚ます事になった原因と思われる物体を発見した鈴音はすっかり涙目になって沙希に訴えかけた。
「沙希~、お願いだから乱暴な起こし方をしないでよ~」
そんな文句を言い出す鈴音だが沙希はそんな鈴音の文句を無視して自分の言いたい事を早口で一気に口にする。
「そんな事より鈴音、大変なのよ。大変な事が起こってるのよっ!」
沙希の慌てぶりから、かなり大変な事態が起こっている事を鈴音の真っ白な頭でも少しは理解できた。それでも鈴音は今起きたばかりである。そんな状態で大変な事が起こっていると言われても何の事か分かるはずも無かった。
「沙希~、いったい何が大変だって言うのよ~」
さっきから大変と言い続けている沙希にしかたなく話を合わせる鈴音。どうやら沙希の慌てぶりから沙希の言う大変を鈴音が確認しない事には、沙希は落ち着かないのだろと鈴音は判断したようだ。
そんな鈴音の言葉を聞いて鈴音は思いっきり窓の外を指差した。窓のカーテンは全開にされて空が良く見える。そう、真っ黒な空と外が鈴音の目に飛び込んできた。そんな外を見た鈴音は再び掛け布団を引っ張り込んで横になる。
「おやすみ~」
「おやすみじゃないでしょっ!」
再び鈴音の掛け布団を引っぺがした沙希は未だに慌てている。そんな沙希に向かって鈴音は眠たそうな声で抗議するのだった。
「だって沙希~、まだ夜だよ~」
確かに外は真っ暗である。その事から鈴音が夜であると判断してもしかたない。しかも鈴音は一度寝付いており、そこから起こされたのだから時間は深夜だと鈴音は思ったのだろう。けれども沙希はそんな鈴音の前に時計を突き出してきた。
その時計はしっかりと午前七時と記されている。どうやら深夜ではなく朝なのは間違いないのだが、鈴音はもう一度外をに目を向けると夜ではないかと間違うぐらい真っ暗である。
「……今日の天気は凄い曇りなんだね」
「そんな訳無いでしょっ! いいからこっちに来て」
こうなっては実力行使しかないと判断した沙希は鈴音を引っ張り上げると、そのまま立たせて窓のところまで連れて行く。そこで沙希は外を良く見ろと言いたげな視線を送ってきたので鈴音はしかたないという感じで外に目を向けた。
まずは下を見てみる鈴音だが真っ暗でほとんど何も見えはしない。微かに桐生家の明かりで周囲を見る事は出来るが、少し視線を遠くに向けると真っ暗で、家の明かりがちらほらと鈴音の目に飛び込んできた。その光景はまるで夜のようだが、先程の時計は午前七時を指していたのは間違いない。
そこで今度は空に目を向ける鈴音。そこのは未だに暗い夜空があると思っていたのだが、空には鈴音の予想を超えた光景が広がっていた。まるで雲に赤錆が付いたような、赤黒い雲が分厚く空を覆っていた。
そんな雲から微かに太陽の明かりらしき物も見えるが、その光は月の光よりも弱弱しく、とても地上を照らし出せるほどの明るさは無かった。だからこそ来界村は夜のように真っ暗な闇の中にあるのだ。
そんな光景に鈴音はまだ夜では無いのかと沙希に尋ねてみたが、沙希は思いっきり首を横に振ってきた。そこで鈴音はある事を思いついたので、その事を沙希に尋ねる。
「その時計が壊れてるんじゃない」
まあ、単純だが可能性がある鈴音の疑問だが、そんな鈴音の疑問を沙希は即答で否定した。
「この時計が正確なのは間違いないわよ。疑うんだったら自分の携帯を開いてみたら」
確かに携帯電話にも時計は付いている。今の携帯電話で時計がつていない物は無いと思うほど携帯電話と時計は切っても切れない仲になっている。
沙希にそう言われて鈴音は自分の荷物を漁って携帯電話を探す。なにしろこの来界村は携帯電話が使えないほどの田舎である。だからすっかり用無しとなった携帯を鈴音は荷物の奥に仕舞い込んでいたのだ。
そんな荷物の奥からやっと携帯電話を発見した鈴音は携帯を開いてみると、そこに記されている時間は確かに午前七時を過ぎた時刻だった。
という事は……今は午前七時過ぎ? でも外は真っ暗だよね? いったいどうなっているの? まるで天気がストライキでも起こしたかのように時間と外の明るさが一致しない状況に鈴音の頭は混乱するばかりだ。
そんな鈴音に追い討ちを掛けるかのように沙希は部屋に設置してあるテレビを付けた。そしてリモコンを鈴音に投げてきたので、鈴音は慌ててリモコンをキャッチするとテレビに目を向けた。だがテレビには通常のテレビ番組が映る事無く、ザーという音と共に白い背景に黒い点が無数に点滅を繰り返していた。
そこで鈴音は手にしたリモコンでチャンネルを切り替えるが、どこのチャンネルに回してもテレビの状態は変わる事は無かった。そんな状況に鈴音は沙希に真顔で質問した。
「このテレビがお亡くなりになられたの?」
つまり鈴音はテレビが壊れたと言いたいのだろう。だが沙希はすぐに首を横に振ると今度はラジオを鈴音に渡して来たので、鈴音もラジオのスイッチを入れて周波数を合わせようとするが、どれだけやってもどこのラジオ番組が流れる事は無かった。
「……沙希、これってどういう事?」
ようやくそんな質問をしてきた鈴音に沙希は真顔で答えを返してきた。
「それがまったく分らないのよ。外はあんな状態だし、テレビもラジオも、それどころか電話すらも何処にも通じない状態なのよ」
「電話もっ!」
まさか電話までもが機能しない状態だとは思っていなかったは鈴音は驚きを隠せなかった。確かに昨日までは普通に使えていたこれらの機械だが、今になって全部が一気に故障するとは思えない。そうなると何かがあった事は確かだが、この状態でその何かを知る術は無かった。
そんな状態だからこそ沙希は慌てて鈴音を起こしたのだ。そして鈴音はようやく目が覚めて頭の回転が戻ったのか、やっとこの状況について考え始めた。
えっと、つまり……外が真っ暗で外からの情報が入ってこないって事だよね。テレビもラジオも電話すら使えないって事は来界村の外から情報が入ってこないって意味だよね。……でも……逆に言えば来界村の情報も外には伝える事が出来ないって事だよね。それはつまり……この来界村が閉鎖されたようなもの……なのかな? そんな事を考えた鈴音だが、そこで考える事を止めた。
なにしろこんな状況だという事だけで他には何も分ってはいないのだ。そんな状況でここで慌てていてもしかたないと鈴音はゆっくり立ち上がると、いつものようにゆっくり着替え始めた。そんな鈴音に沙希は苛立ちを感じたようだ。
「って、鈴音。なに呑気に着替えてるのよ。こんな状況になってるのよ。何かしないと」
「そんな事を言われても何をしろって言うの? 沙希こそこんな状況になって混乱してるから落ち着こうよ。こんな所で慌てふためいていても何も変わらないよ」
「……そうね」
鈴音の言葉でやっと自分が取り乱していた事に気付いた沙希は自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。そうやって少しでも平常心を取り戻そうとしたのだろう。だが深呼吸はかなりの効果を発揮したようで沙希は先程までとは打って変わって、すっかり冷静さを取り戻す事に成功していた。そんな沙希が鈴音に問い掛ける。
「とにかく、今の来界村は明らかに異常なのは間違いないわね。本来なら今日は来界村を後にする日なんだけど、どうする鈴音?」
そう、今日は鈴音達が来界村に留まる事が出来る最終日である。だから今日は家に帰らないといけないのだが、村がこんな状態になっていては気になって普通に帰る事が出来ないだろう。それどころか村がこんな状態だから普通に帰る事が出来るかどうかも分らなくなってくる。
そんな状況だからこそ沙希は鈴音にこれからの行動を聞いてきたのだが、やっと着替え終わった鈴音はいつものように呑気な答えを返して来るだけだった。
「とりあえず朝ごはんを食べようよ。このままだとお腹が空いてまともに考える事も出来ないよ」
つまりはお腹が空いたのだろう。鈴音が発したそんな言葉に沙希は呆れるのと共に自分もまだ朝食を済ませていない事に気が付いた。
沙希は鈴音よりも早く起きると外の暗さに疑問を持ちながらカーテンを開けると外が真っ暗であるのを目にした。そこで早く起きすぎたのかと思って時計を見たが、時計はすでに外が明るくなっていても問題無い時間を示していた。
そこで沙希は時計が壊れたと正確な時間を知るためにテレビを付けてみたが、どこのチャンネルも写らない。そんな状況に首を傾げた沙希は念の為にラジオを手にするが、やはり先程の鈴音と同様にどこのラジオ番組も流れて来ない。
そんな状況に沙希は異変を感じて慌てて着替えるとすぐに桐生家の主である琴菜が居ると思われるキッチンへと向かった。そこで琴菜にも今の状況を尋ねてみるが、琴菜にもワケが分からないと言った感じの返事しか返って来なかった。
そこで沙希が思いついたのが時報だ。時報なら正確な時間を知る事が出来ると沙希は電話を取るが、番号のボタンを押す前に電話の異変に気付いた。普通なら受話器を取れば何かしらの音を発するのだが、受話器からは何の音も聞こえてこない。
けれども念の為と沙希は時報の番号を押して反応を窺うが、電話からは一向に反応が返ってくる事は無かった。そんな状況に沙希は慌てて受話器を置くと、少し考えてから再び受話器を取っていろいろな番号に掛けてみるが、どことも繋がらない。
電話が壊れたのなら分る。けれどもテレビもラジオも一斉に壊れるとは考え難かった。そこで慌てた沙希は鈴音を起こすためにキッチンにあったフライパンを片手に鈴音を起こしに行ったという訳である。
確かに外がそんな状況で情報を手に入れる術が全て断たれたのである。だから沙希が慌てても不思議は無かったのだが、そんな沙希を見たからこそ鈴音は冷静に物事を見る事が出来たのだろう。
なにしろ沙希がこんなにも取り乱すのは鈴音も滅多に目にする事が無い。だからこそ鈴音は異変を感じながらも、その中で自分達がやるべき事を考えて、まずは朝食を取ろうと言い出したのだ。
なにしろ二人とも起きてからというもの何も口にしてはいない。鈴音としては村の異変も気になるが、その異変を突き止めるためにもまずはしっかりと朝食を取って状況をしっかりと把握すべきだと判断したからこそ、いつものように呑気な答えを沙希に告げたのだ。
そんな鈴音の呑気な答えに沙希もやっと自分が動揺し過ぎていた事に気付いた沙希はすっかり平常心を取り戻しており、鈴音の答えで同意すると二人で琴菜が居るキッチンへと向かった。
「おはようございます」
沙希の状態から琴菜も取り乱しているのではないのかと予想していた鈴音は、なるべく平常心を持っていつものように挨拶をする。あまりにも鈴音が普通に挨拶してきたので琴菜は驚いたまま挨拶を返してきた。どうやら今の事態は琴菜にとっても驚くべき事なのだろう。
それでも綾香がしっかりと朝食を作ってくれていたので、鈴音はいつものように朝食の席に着くと沙希も鈴音を見習って朝食の席に着いた。そんな二人につられれて琴菜も落ち着きを取り戻したのだろう。二人の前に朝食を並べ始めると、そんな琴菜に向かって鈴音は質問をし始めた。
「琴菜さんは、この村の出身でしたっけ?」
「いえ、死んだ夫がこの村に居たので私は幼い美咲を連れて、この村に移り住んだんですよ」
「という事は、琴菜さんもこの村に来てから数年しか経ってないって事か?」
「それがどうかしたの鈴音?」
鈴音が質問した意図を尋ねる沙希。そんな沙希に向かって鈴音は質問の意味を説明し始めた。
「もし今の事態が、この来界村特有の現象だとしたら、そんなに驚く事じゃないでしょ。昔から村に居た人なら今の現象について何か知ってるかもしれないし」
「まあ、そういった事も考えられなくも無いけど。こんな現象は聞いたことが無いし、とても村の人が知ってるとは思えないけど?」
確かに沙希の言うとおりである。もしこんな現象が存在するならどこかの研究機関や研究施設で研究されていてもおかしくは無い。それに、こんな異常とも言える現象が起きているのである。その事を報道機関を使って紹介されていてもおかしくは無いのだが、鈴音はそれは今まで私達が知らなかっただけかもしれないと反論してきた。
確かに鈴音達だって全ての物事を知り尽くしている訳ではない。こんな片田舎な村で特殊な現象を起きるような事実を二人が知らなくても何の不思議も無かった。そんな鈴音の言葉にそうかもしれないと頷く沙希。どちらにしても今までにこんな現象が存在していたかどうか、それを調べるのが一番有効な手段かもしれないと沙希は鈴音の考えに同意し、琴菜もそうかもしれないと頷くのだった。
「もしかしたら数百年に一度は起こる可能性がある活火山のような現象かもしれないし、今はそんなに慌てる事もないんじゃない」
鈴音はそんな言葉を言ってから「いただきます」と箸を手にとって朝食に手を付ける。そんな鈴音を見て沙希も考えを改める。もし鈴音の言うとおりなら慌てて調べる必要は無いと、そしてもし鈴音の言うとおりなら取るに足らない現象だという事だ。そこで沙希も落ち着いて朝食に手を付ける事にした。
そんな二人を見て琴菜もすっかり落ち着いたのだろう。再びキッチンに戻ると量の少ない朝食をお盆に乗せて再び二人の前に姿を現した。そんな琴菜を見て鈴音はもう一度質問をぶつける。
「まだ具合が悪いんですか、美咲ちゃん」
「この時間になっても起きてこないという事はそうなのかもしれないです」
どうやら琴菜も今日は美咲の様態を確認していないようだ。なにしろ外は真っ暗でテレビもラジオも使えないという状態が分ったのだ。そんな状況になれば美咲の様態を見る前に混乱してしまったのだろう。だから未だに起きてこない美咲の様態を診るついでに朝食を運ぼうという事だろう。
そんな琴菜を見送りながら二人は朝食を続ける。鈴音は平然と朝食を続けているのだが、沙希にはやはり今の状態が気に掛かってしかたないのだろう。食事をしながらも空いた口で鈴音に話し掛けてきた。
「ねえ鈴音、確かに今の状況が不可思議でないでしても、これは明らかに異変だよね。私としてはどうも不安なのよね」
そんな事を言って来た沙希に鈴音は口の中を空にすると茶碗と箸を下げて、意外な事に真面目な顔で答えてきた。
「確かに沙希の言うとおりに今の状況は変すぎるよ。何かが起きてる、そんな気がする。そしてそれがとっても悪い事だって私も不安だよ。でもさ沙希、今の私達に出来る事はしっかりと朝食を食べて今後に備える事だよ。不安なのは私も一緒だけどね、だからこそ落ち着いて冷静に物事を判断するべきだと思わない」
「まあ……そうよね」
先程はあんな事を口にしても不安なのは鈴音も同じみたいだ。確かに今の現象を追求して行けば、もしかしたら先程鈴音が言った通りかもしれない。けど……そうじゃない可能性も無いわけじゃない。
今の現象が何を意味しているかは分からないが、今の二人がやるべき事はしっかりと分っている。それはしっかりと朝食を取っていつでも動ける状況を作っておく事だ。そうする事でどんな事態が起きたとしても対応できる心構えがしっかりと築かれている。そうしとけば、どんな事が起こっても冷静に対応できるはずだからと鈴音は考えたからこそ冷静に朝食を取っているのだ。
そして沙希もそんな鈴音の本音を聞いて少し安心していた。不安なのは鈴音も一緒だ。だからこそ、いざという時に鈴音と一緒に行動できるようにするには、しっかりと食べておく必要がある。そうする事でいざという時に鈴音をしっかりと守れるんだと考えた沙希は鈴音と同じようにい朝食を再開させる。
けれどもトラブルというのは、いつでも予想外な時に起きるのが定番らしく。今正に二人の前にそのトラブルが押しかけようとしていた。
慌てた様子で飛び込んで来た琴菜はすぐに鈴音と沙希に向かって口早に言葉を告げる。
「美咲が、美咲がどこにも居ないんですっ! お二人とも知りませんか?」
あまりにも予想外な言葉に鈴音も沙希も朝食を放っておいて立ち上がる。まさか美咲も静音達と同じように突如として失踪したのではないのかという不安と、こんな状況で外に出るのは危険すぎるという不安が一気に二人の中に生まれてくる。
「沙希」
鈴音は沙希に向かって短く呼びかけると沙希も頷いて見せた。そして二人はとりあえず美咲の部屋へと向かった。美咲が部屋に居ない事は琴菜がすぐに確認できただろう。それから琴菜は家中を探したはずだ。それでも美咲を発見できなかったからこそ慌てて鈴音達の元へやってきたのだ。
だからこそ二人は真っ先に美咲の部屋に向かったのだ。もし手掛かりがあるとすれば美咲の部屋が一番可能性があるからだ。美咲はまだ幼いとはいえ、しっかりとした性格をしている。そんな美咲が黙って家を出るとは鈴音達にも想像が出来ない事だった。だから美咲が自分の意思で出て行ったのだとしたら美咲は何かしらの書置きがあってもおかしくは無い。だからこそ二人は真っ先に美咲の部屋へと入った。
電灯が照らし出した美咲の部屋は美咲が居ないだけで他には何も変わりは無かった。それだけに二人は何の異変も美咲の部屋から感じる事が出来なかったのだが、念の為にと二人は美咲の部屋を調べてみるが書置きらしき物は一切無く、美咲が今の異変に恐怖して隠れている様子も無かった。
そうなると美咲は何処に行ったのか困惑する鈴音達を琴菜は心配そうに見ている。それはそうだ。琴菜は一ヶ月ぐらい前に静馬の存在を無くしている。そのうえ美咲までもが失う結果となれば琴菜は相当精神的にまいってしまうだろう。そうならないためにも美咲を見つける必要があるのだが家の中は琴菜が探し回っても見つけられなかったのだ。そうなると残されている可能性から言って相当危険な状態になってもおかしくない状況になってくる。
それを確かめるために鈴音は美咲の部屋を飛び出すと真っ先に玄関へと向かった。もし美咲が外に出たのだとすれば靴が無いはずだ。さすがの美咲でも素足で表を歩き回る真似はしないだろう。だから玄関に靴が無ければ美咲はこの状況下で外に出た事になる。その事を確かめるために鈴音は玄関へと向かったのだ。どうか自分の予想が外れているようにと期待しながら。
今の村は明らかに変だよ。そんな中に美咲ちゃんが一人で歩き回るなんて……。確かに美咲ちゃんにとってこの村は故郷と呼べる地元かもしれないけど。七海ちゃんの話だとまた首狩り殺人が起こってるみたいだし、それにこんな状況じゃあ美咲ちゃんの身に何が起こっても不思議じゃないよ。だから美咲ちゃん……どうか家の中にいて。そんな期待をしつつ玄関に向かった鈴音はすぐに美咲の靴を確認するために玄関に明かりを付ける。
そしてすぐに靴を確認して驚愕する。それはいつも美咲が履いている靴がそこには存在しなかったからだ。それでも鈴音は下駄箱の中を確認して美咲の靴が無いか確認するが、どこを探しても美咲の靴が見つかる事が無かった。
そうなると考えられる状況は一つだけである。鈴音は玄関の扉を睨みつけるように見ながら沙希に話しかける。
「沙希」
「うん、分ってる。探しに行くんでしょ」
「もちろん、付いて来てくれる?」
「当たり前でしょ」
そんなやり取りをする鈴音と沙希。今の状況で外に出るのはあまりにも進められた事では無いが美咲が外に出た可能性が高いなら外に探しに行くしかない。そんな決断をする鈴音と沙希だった。
そして鈴音はすぐにある所へ向かう。それはもちろん……お茶の間である。そこには食べかけの朝食が残っており、もう少しで食べ終える事が出来る。鈴音はそんな残された朝食を一気に掻き込む。
こんな状況で朝食なんて食べている場合じゃないと誰もが思いがちだが、ここでしっかり食べておかないと後で動きが鈍くなる可能性があるからこそ鈴音はしっかりと朝食を掻き込んだのだ。そんな鈴音を見て、沙希も朝食を一気に掻き込む。沙希としても一刻も早く美咲を探しにいかないといけない事は分っている。けれども来界村での移動手段が徒歩に限られる事を考えるとここはしっかりと食べておかないと、後で苦しむのは自分だというのを鈴音の行動から悟ったから沙希も鈴音の真似をして一気に朝食を流し込んだ。
そうして朝食を片付けた鈴音達は一度部屋に戻ると出かける準備をする。沙希は手に格闘技用のグローブを付け始め、鈴音も自分の荷物から一振りの刀を取り出した。その刀は赤い袋に入っており、刃の付いていない刃引きした刀だ。それでも刀であり、鉄の塊である事には違いない。たとえ何かあったとしても充分に自分の身を守る事が出来るし、美咲も守る事も出来る。
鈴音はそんな刀を袋から出した状態で背負うと何時でも抜けるようにしておく。こんな状況下だ。何があってもおかしくは無い。だからこそ鈴音はいつでも使えるようにしておいたのだ。
そして準備の終わった鈴音は沙希に目を向けると沙希も準備が整ったらしく頷いてきた。そして準備の終わった二人は部屋を飛び出して玄関に向かうと、そこには琴菜が待っていた。
「外は暗いですから、これを持って行ってください」
そう言って琴菜が渡して来たのは懐中電灯だ。確かに外は夜のように真っ暗であり、村の明かりと言ったら家の明かりと数少ない街灯に限られている。そんな状況下で美咲を探すのだから懐中電灯はあった方がかなり役立つだろうと二人ともちゅうちょする事無く懐中電灯を受け取った。
そして二人はすぐに靴を履いて出かけようとするが、そこに琴菜が話し掛けてきた。
「美咲の事をくれぐれもよろしくお願いしますね。それから、お二人も決して無理はしないでください。お二人に何かあったら私は静音さんに合わせる顔がありませんから」
そんな言葉を掛けてくる琴菜。確かに琴菜が一番心配しているのは美咲の事だろう。けど美咲と同じぐらいに鈴音達の事も心配しているのだ。なにしろこんな状況下で若い娘を送り出すのだから琴菜にとっては心配でならないだろう。
それに琴菜には静音に対する負い目がある。だからこそ鈴音にだけは何も無い事を願っていたのだ。そんな琴菜に鈴音はあえて笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ、必ず美咲ちゃんと一緒に帰ってきますから。だから琴菜さんは私達が探している間に美咲ちゃんが帰って来ても怒らないであげてくださいね」
そんな言葉を掛ける鈴音。あえて心配しないでくださいと言わなかったのは鈴音なりの配慮なのだろう。ここで心配しないでと言えば琴菜は返って心配になってくるのは目に見えている。だからこそ先程のような言い回しをして琴菜に心配を掛けないようにしたのだ。
そして沙希が玄関を開けると鈴音は笑顔で琴菜に向けて言葉を放つ。
「じゃあ、行って来ますね」
「ええ、お気をつけて」
「はい」
鈴音はなるべく笑顔で返事を返すとすぐに振り向き。沙希と共に桐生家の玄関を出て、鈴音はしっかりと玄関の扉を閉めるのだった。
うわ~、本当に真っ暗だね~。桐生家を出てから少し歩いただけで桐生家の明かりが届かなくなり、鈴音達は懐中電灯に頼りながら道を歩いていた。
沙希は地面を照らして足元を注意しながら歩きながら感じていた。昨日雨でも降っていたなら美咲の足跡が残っていただろうと。けれどもここ数日は快晴が続いて雨はまったく降っておらず美咲の手掛かりになりそうなものは道には残っていなかった。
そんな沙希とは違って鈴音は道の両脇を照らし出して美咲を探す。もし美咲が裏道のようなところに入れば、その痕跡が残っていてもおかしくは無い。けれども鈴音も何も発見できないままに二人は数分歩き続ける事になった。
「やっぱり、この近くには居ないのかな?」
沙希が突然そんな事を言い出すと二人とも歩みを止めた。確かにこれだけ探せば美咲の痕跡を発見で来てもおかしくないし、光を見て美咲の方から出て来てもおかしくは無かった。それが無いという事は美咲がどこか別の場所に居るのではないのかと二人とも考え始めていたのだ。
「どうする、鈴音?」
美咲が近くに居ないとなると村中を探し回らないといけなくなる。そうなるとこんな暗い中で二人だけで探すのは非常に困難な事だ。そこで沙希は鈴音に打開策を聞いてきたのだ。そんな沙希の問い掛けに鈴音は考える仕草をするとすぐに思いついた事を口にした。
「駐在所に行こう」
「どうして?」
なんで鈴音がそんな結論を出したのか聞いてくる沙希に鈴音は説明を開始する。
「もし美咲ちゃんが自分の意思で家を出て道に迷っているなら、家に帰るか駐在所に行くはずだよ。それに駐在所ならこの現象にかんする情報も入っているだろうし、異変を感じて平坂署から増員が来てれば美咲ちゃんを探してくれる人手が借りられるかもしれないでしょ」
「なるほど、確かにこんな状況じゃあ警察に頼るのが一番かもね」
確かにこの状況なら警察に頼るのが鈴音達にとってはとても心強い事なのだろう。なにしろ鈴音達は今の現象についてなんの情報も持っていないし、その情報があるとすれば警察か羽入家ぐらいなものだろう。けれども羽入家は連続殺人犯を警戒して人手が足らないと行った状況を昨日見ている。だから今の状況で羽入家に行っても人手を借りる事は出来ないだろうし、羽入家の力を借りるのは沙希としても反対するのは目に見えている。
その点から見ても今の状況では警察からいろいろな情報を得た方が得策と言えるだろう。それに吉田が居れば更にラッキーだ。吉田は羽入家を敵対視しているためか、羽入家と警察の中間に位置している鈴音達の味方になる事が今までも何度かあった。だから吉田が居れば鈴音達の申し出を聞き入れて美咲を探す人手が借りられる可能性が高くなる。だからこそ鈴音は駐在所に行こうと言い出したのだ。
そんな鈴音の提案に沙希はすぐに同意した。なにしろ沙希としても、この状況で一番役立ってくれるのは警察と力だと感じていたからだ。
確かにこの現象が村に昔から続いている物なら羽入家を訪ねた方が効率が良いだろう。なにしろ村の歴史に関しては羽入家の方が深く関わっているのだから。
だが今起きている現象は明らかに異常すぎて、こんなものが以前にもあったとは考え辛い。だからこの情報に関しては羽入家より警察の方が情報を持っていると沙希は考えたからだ。まあ、それ以前に沙希は羽入家からそんな情報を貰って借りを作るなんて真似はしたくないという本心があった事は確実だった。
けれどもこれで二人が行く場所は決まった。それでも途中で美咲と出会う可能性があるからには二人は慎重に歩みを進めなければならなかった。なにしろ美咲を探すというのが二人の目的であるからには、それを放っておいて駐在所に急ぐというのは本末転倒である。だから二人は美咲を入念に探しながら駐在所に向かって暗い中を懐中電灯の明かりだけを頼りに歩き続けるのだった。
そうこうしている内に二人は村の中心にあるオブジェの場所に出た。ここまで来ればもうすぐで駐在所である。沙希はすぐに駐在所に向かおうとするが、鈴音はオブジェを懐中電灯で照らしてオブジェを見ていた。
足を止めてオブジェを見ている鈴音に沙希は声を掛けながら戻って来た。
「どうしたの鈴音、行くよ」
「ねえ沙希」
「んっ、どうしたの?」
鈴音があまりにもオブジェに気を取られていたためか、沙希もオブジェに目を向ける。前に見た時は建設中だったが、今ではしっかりと完成しており、オブジェは紫がかった色を放ちながら村の中心にそびえ立っているのだった。
「それで鈴音。このオブジェがどうかしたの?」
「沙希、他のオブジェって何色だった?」
「えっ?」
まさか質問返しが来るとは思っていなかった沙希は戸惑いながらも記憶を辿って以前に見たことのある他のオブジェを思い出してみる。
「確か……銀色? シルバーかな」
「だよね……どうしてこれだけ紫なんだろう?」
そんな事を口にした鈴音に沙希は呆れていた。今は一刻でも早く美咲を見つけなければいけないというのに、こんなオブジェに気をとられている場合ではない事は鈴音が一番良く分かっているはずだ。だからこそ沙希は鈴音の頭を小突く。
「痛いよ~、沙希~」
そんなに強く叩いていないのに文句を言ってくる鈴音に沙希は言い返す。
「今は美咲ちゃんを見つける事が最優先でしょ。だからこんな所で油を売ってる暇が無いのは鈴音が一番良く分かってるでしょ。それなのに、まったく、なにやってんだか」
そんな事を言って溜息を付いた沙希は鈴音はすぐに謝るのと共に誤魔化しに入った。
「ごめんごめん、さあ、駐在所に向かって急ごう」
「はいはい」
呆れた返事を返した沙希の後に続いて鈴音も駐在所に向かって歩き出すが、途中で一度だけ振り返って再びオブジェを見た。
……さっき……あのオブジェから美咲ちゃんを感じたような気がしたんだけど。……って! 美咲ちゃんを感じたってどういう意味っ! そこに居るならともかく感じたって、どうしたんだろう私。もしかしてもうボケた? って、私はまだピチピチよっ!
そんな脳内一人漫才をする鈴音。けれども鈴音がオブジェから感じ取った感触は確かに美咲の気配だったと鈴音は思いなおす。まるでそこに美咲が居るみたいにオブジェに美咲の気配を感じたのだ。
もちろん、そんな場所に美咲は居ない。それはすでに確認済みだ。それなのに美咲を感じたという事は何かしらの意味が有るのかと鈴音は考えるが、そんな事に結論が出るはずは無かった。
それからオブジェの色も鈴音には気になる要因の一つでもあった。今まで見てきた全てのオブジェは銀色だったのだが、先程見たオブジェは紫だった。けれどもその紫の色にも鈴音は違和感を感じていた。まるで銀色の上に紫の絵具を塗ったかのように、そのオブジェは純粋に紫色とはいえないような感じがしたからだ。例えるなら紫の半透明な布を被せたような、そんな感じがしたからこそ鈴音はオブジェに見入っていたのだ。
けれどもそこに美咲が居ない事を確認したからには美咲を見つける事が最優先と鈴音は一旦オブジェの事を忘れる事にした。
そして辺りを細心の注意を払いながら歩く事数分。とうとう駐在所の明かりが見えてきた。これで何とかなるだろうと一安心する鈴音と沙希。けれども事態は二人が思っているよりも深刻なのを今の二人が知る由も無かった。
さてさて、いよいよ公開された断罪の日解答編ですが。タイトルは見ての通り『断罪の日 ~咎~』とさせて頂きました~。そんな訳でこれからは解答編の事を咎と呼んで行きますので、そのつもりで~。
さてさて、私の作品といったら必ずと言って良いほど後書きにいろいろな事を書いてますね。そんな訳で今回も一話ずつ、出来る限り後書きにいろいろな事を書いて行こうかと思っております。
別に後書きなんてどうでも良いという方は普通に後書きを無視して下さっても構いません。なにしろ……後書きなんて作者の自己満足の為に書いている物だからだっ!!! というのが私の持論ですので、そんな訳でこれからも自己満足の為に書いて行きますよ~。
さてさて、そんな訳で少し本編に触れてみましょう。そんな訳で縁までの雰囲気が一気に変わって、いきなり非常識な事態が訪れましたね~。でも、非常識な事はこれだけじゃないんですよね~。
まあ、今回は一章ごとに上げて行きますので、あまりもったいぶった事は書きませんが、というか、ここでもったいぶってもすでに次の話が上がってますからね~。そんな訳で気になる方は次の話にお進み下さいということで、今回は締めます。
以上、何気に眠い葵夢幻でした。