酒屋の娘だったはずなのに
初めての異世界転生(?)ものです。
「重版が止まらない…! 笑いも止まりませんな」
担当の編集者から送られてきたメールを見て呟く。
今や私は大人気作家だ。
これは、異世界出身の私が現代社会で大人気作家になるまでのお話。
「ルニ~ ! こっち手伝って!」
お母さんの声で目が覚めた。
急いで身支度をして外へ飛び出す。
「あ、ルニ。この樽をルイヴィスのおじいちゃんとこに届けてくれる?」
「了解!」
私の家は酒屋をしている。お店でお酒を振る舞うだけでなく、お客さんの家にお酒の樽を届けるのも酒屋の仕事だ。
それにしてもこの樽の量といったら! お酒で海が作れてしまうほどだ。
常連のルイヴィスおじいちゃんは、町内きってのお酒好きで、たくさんお酒を買ってくれる。
家の家計はこの人に支えられていると言っても過言ではない。
色々考えつつも運搬魔法で樽を運ぶ。
あっというまに目的地に着いていた。
「おじいちゃ~ん!ご注文の麦酒ですよ!」
「ああ、嬢ちゃんかい。今日も朝から偉いねぇ。こんなにたくさんの樽を運ぶなんて」
「もう! たくさん頼んだのはおじいちゃんでしょ! じゃ、お代は今月末にお願いしますね!」
「はいはい。」
おじいちゃんの家を離れて少し経った時、足先がふらつくのを感じた。
やばい。これ、魔力切れだ。
さすがにあの量を一度に運ぶのはやり過ぎたかと思いながら木の下に座り込む。
私はそのままうたた寝してしまった。
目覚めたらもうとっくに正午をまわっていた。
さすがに寝過ぎたし、魔力も元通りかと思ったが、魔力は全く回復していなかった。
え、何これ。こんなことになったの初めてだよ。どうしよう、このままじゃ動けない。
大人も呼べない。
え、私、死ぬの? まだ十四歳だよ? 魔力切れで死ぬとか冗談じゃない。
意識が途切れるのを感じた。
大人たちの声で目が覚めた。良かった。誰かが見つけて助けてくれたんだ。
周りを見渡すと、部屋は見たことのない魔道具で溢れている。
よく見ると、部屋の構造も私の知っているものじゃない。
ここどこ…。
というか視線が低い。大人ってこんなに大きかったっけ。
大人が何やら話しかけてきた。知らない言語なのに、なぜか理解できる。
……頭を打って気絶していた? 私が?
いや、魔力切れで倒れたんだと思ってたけど。
…あれ? 自分の体から魔力を感じない。周りの大人たちからも一切魔力を感じない。
どういうことなんだ。
心配して寝かせようとしてくる大人を避けながら走って他の部屋を確認しに行った。
鏡を見つけた。…銅じゃない鏡なんて初めて見た。その周りにあるものも見たことがない。
なんとかそこら辺のものによじ登り、鏡で自分の姿を確認する。
「え、誰?」
鏡に写っていたのは私とは全くといっていいほどの別人だった。
綺麗な金髪だった髪の毛は黒くなって、スカイブルーだった瞳も茶色になっている。
それになにより、鏡に写っているのはどう見ても五歳ほどの子供だった。
次回もお楽しみに。