石の上にも3年
「ルイ君、起きて。」
ルイは朝にたたき起こされた。普段は起こされることなんて無く、9時ぐらいまで優雅に寝れていた。訓練開始日は、早朝5時に起こされた。昨日の復讐だろうか、何故かティーニアが悪魔に見えた。
「早く朝食を食べて。」
「なんでこんな早く・・」
ルイは寝ぼけ眼を擦らせながら、ベッドから起き上がった。
「おはようございます。ルイ様。」
リオさんは、朝食の準備をしていた。彼女はあくまでメイドという立場であるのに、こんな早くからティーニアに起こされていることを哀れに思った。
「おはよう。」
ルイは、席に着き朝食を取っていると訓練の内容をティーニアが話してくれた。
「今日は君がどのくらいの時間掛かるか分からないから早朝から始めさせてもらうよ。」
まず、トレーニング内容についてお話しするね。
トレーニング内容として5つを日々行っていきます。
一つ目、自然魔法の向上
二つ目、魔力精度の向上
三つ目、防御魔法の使用
四つ目、魔力知識の向上
五つ目、武術と体力の向上
基礎魔法の向上は、魔法再現力を高め、広範囲で高強度な魔法を使用できるようになる。また、自然魔法は結構簡単な魔法故に同時並行で何種類もの魔法の使用が求められるの。
トレーニング方法としては、魔法で遊ぶこと。多く使用すること。知識を得ること。
魔力精度の向上は、魔力の精度を高め、魔法の技術的根幹を向上させる。
同じ魔法を同じ魔力量で打ち合った場合魔力精度が高い方が勝つようになっているの。魔力精度を高めると魔法を細かく放つことが出来、様々な形に変えることが出来るよ。
修行として魔力を極限まで定め目の前にある針の穴ほどの的に通すこと。出来るようになってきたら、距離をどんどん伸ばしていく練習をしてもらう。これは極限の集中力と魔法をコネル必要あるからすごく難しいの。
防御魔法は、基本的に物理的なダメージ防御か魔法の防御かで大きく異なる。魔法防御で物理技を防ぐことは出来ず、物理防御で魔法を防ぐことは出来ないよ。防御を混合させることは出来るんだけど、魔法攻撃単体や物理技単体の時は、魔法力と魔法精度が攻撃魔法の倍以上を使わないと守れない。だから、魔法や体力消費が大きくなってしまうの。
この訓練は、常に防御魔法の使用を途切れさせない集中力と防御魔法の強度を鍛える必要があるの。集中力は、常時防御魔法を身にまとい続ける事で慣れることが出来るし、強度は、私やリオの魔法と物理技で攻撃を受けきる必要があるから。この訓練は、真剣にやらないと痛い目を見るからね
魔法知識は、魔法力を高めるうえで重要な分野なの。特に、自然魔法の応用をしたい場合、エクストラ魔法を使いたい場合は基礎的な知識がないと魔法を使用することは不可能だから、しっかりと知識を身に付けて、使える魔法の数を増やしていこう。
武術と体力は、戦う者にとって必要な要素なの。魔法力を下げられてしまった場合に体術と知識で魔法士を打ち負かさなくてはいけない事もあるの。そのため、10キロのマラソンや筋トレ、そして私やリオとの体術訓練を毎日行っていくから。
私がいる日のこのトレーニングは、重力魔法をかけ負荷を与えながらのトレーニングになるから。相当大変だと思うけど頑張って。
食事が終わると、ティーニアは異空間から鉄で覆われているボックスを取り出した。
「これは?」
圧倒的重厚感があり高価な装飾品やお金などを入れておくだろうボックスに少し興味が惹かれた。
「これは魔力吸収リング。 君の魔力を吸収してくれる物」
「魔力吸収?」
「まず訓練を行うにあたり、これを装着してもらうね。」
「この魔力吸収リングは私の友達が制作した特別製で、ルイ君の膨大の魔力でさえ8割に抑えることができる優れた一品なんだ。」
「へー」
絵空事で返答してしまったが、8割魔力を吸収される? ルイは、魔法の知識が乏しく全く実感が湧かなかった。
まず魔力吸収装置の説明をするね。
魔力吸収リングによる効果は、魔力タンクを外部に接続しているようなことなんだ。吸収されることにより普段の魔力量多くを預けられることになるの。魔力吸収リングを使用することで普段使っている自分の魔力タンクに空きが出るの。そのため、魔力を過剰に生成することになっちゃうの。逆に魔力吸収リングを外した場合、魔力タンクに入りきらない魔力量となるため魔力タンクが必死に急成長をしようとするんだ。1番良い方法としては魔力吸収リングに魔力が溜まり切ったら新たなリングを用意し、今までの物を装着した状態で新たな魔力吸収リングを着ける。そうすると、魔力タンクの魔力オーバーという事が無くなり、魔力タンクに隙ができ魔力過剰とはならなくなるんだ。
ティーニアは、ルイの頭を2度ほど触りこう呟いた。
「ルイ君覚えておいて、このリングは触れた瞬間から膨大な魔力を吸い取っていくから基本的に使用者以外触れないの。」
「一応、外せないようにロックは設定してあるけど、このリングは特別性だから、ルイ君が身に付けてない時に他の人に触らせては絶対ダメだよ。」
彼女の強い口調と鋭い眼差しからルイはこれがどれほど危険なものなのか自覚した。
ルイは、緊張しながら鉄の箱の中に輝く吸収リングを右手の薬指にはめた。その瞬間、視界が真っ暗になり、激しい頭痛そして魔力酔いによる吐き気を感じ椅子に座っていることが出来ずその場に倒れこんでしまった。
なんとか、這いつくばりながら必死に声を出した。
「このリングを外して・・」
「だめよ、これが特訓なんだから。」
ルイの悲痛な叫びもティーニアには届かず、そのまま意識を失ってしまった。
数時間後ルイは目を覚ますと、倦怠感と吐き気、頭痛など体への痛みが全て襲ってきた。
寝ていた時間が幸せだったと思い、再び眠りにつきたかったが、頭痛により目を閉じるのが限界であった。
―あ、あー
部屋中にルイの悲痛な叫びが響き渡り、ティーニアが様子を見に来てくれた。
「ルイ君大丈夫? 何か持ってこようか?」
ルイはか細い声を出しながら一言答えた
「死ぬ。」
ティーニアは、ルイの寝ているベッドまで近づき、ルイの頭を優しく撫でた。
「あと数日すれば、慣れてくると思うから。」
ルイはふと母の温かさを感じ、再び眠りに入ることが出来た。
2日間は訓練も行うことが出来ず、ただベッドの中でうなだれているだけの生活を行っていた。食事もとれず唯々痩せてこけていくだけであった。
3日目はボタンを押すことで、ティーニアやリオさんが手助けをしてくれる生活を送っていた。風呂には入れなかったが、トイレに連れていってもらったり、食べ物を食べさせてくれたり何かと世話をたくさんしてもらった。
4日目ぐらいから少しずつ体を動かせるようになってきた。まだ気分も優れなく頭痛や倦怠感などは収まらない。何もやる気が起きない中で一つだけ楽しみがあった。それは、リオさんとの食事の時間だった。
「ルイ様お食事をお持ちいたしました。」
「食べさせて・」
リオさんはルイが不調だからか、元々そういう性格なのか、嫌な顔一つ見せず付き合ってくれていた。
「畏まりました。」
ルイも本調子ではなく、ほとんどリオさんと会話することができなかった。時々リオさんが話を振ってくれることに対して相槌で返事をしていた。ルイにとっては楽しい時間が過ぎていった。
10日程経ち、ルイはまだ本調子ではないが、不自由なく活動できるようになっていった。
少し残念だったのが、リオさんはもう甘えさせてくれなくなってしまった。リオさんの「アーン」を聞けないのが心残りだった。
その日の夕食の時明日からの訓練について告げられた。
「ルイ君明日から訓練を開始するから。君が倒れて寝ていた分を取り戻すから結構大変だよ。」
自分が悪いわけではないのに訓練の量を増やされることには少し思うところがあった。だがルイは、日々の訓練は欠かさず行い、天候や気分関係なく研鑽を重ねていった。それは、早く学校へ行きたいと思う気持ちが強かったからかもしれない。
ルイは毎日の訓練をこなしティーニアとリオさんとの生活は1月が経った。変わったことと言えば、リオさんの態度が日々変化してきた。最初はルイ様と堅苦しいような呼び方だったが、最近はルイ君呼びに変わった。彼女と自分の立場が変化したかもしれない。家政婦として働いてくれている中、ルイの教師としての時間も多くを占めていた。
リオさんは、ティーニアが外出をしている日に訓練に付き合ってくれていた。特に、つまらない魔法座学の唯一の楽しみは、ドS教師の格好をしたリオさんの姿であった。
リオさんの人柄からはイメージができない格好であった。たぶんティーニアがリオさんに無理を言って着せたであろう。自分のやる気を引き出そうとしてくれるためか、彼女自身のためか真意は分からなかった。
半年経つと、魔力精度が高まり、新たな魔力吸引装置を装着しても体の負担がない程度にはなった。
リオさんは、すっかり先生らしくなり、ルイは注意されることもしばしばあった。
極めつけはルイは朝が弱くリオさんが毎日起こしてくれていた。二度寝をすると、ベッドから落とされるようになっていった。その時の表情が薄らと笑っているのが妙に怖かった。
ティーニアは仕事で出かけることも多くなってきて、リオさんと2人の時間が増えていった。最近彼女は、ドS衣装やメイド服など様々なコスプレをしていた。リオはきっとティーニアに着させられてコスプレが好きになったんだろう。
一年経つとリオやティーニアとの関係性は変わってきた。ティーニアのことはティーと愛称で呼ぶことが多くなった母と息子というより姉と年の離れた弟という関係性に近いかもしれない。リオの事は、リオさんという堅苦しい呼び名を辞めて欲しいということで、リオと気軽に呼ぶ様になった。リオとの関係性は仲の良い先生と生徒の関係性に近しいだろうか。
実力面では、リオの全力には軽くあしらわれてしまうが、魔法無しだと少しは戦えるようになってきた。ティーニアには魔法無しでも互角に戦えることはなく、350戦0勝という無様な記録を残した。ルイは自身の力がついてきたが故、相手の実力を図ることもできるようになってきた。リオの実力は今の自分では全く勝てる気がしなかった。ティーの実力は、どれほどなのか検討すらつかなかった。
二年後、ルイは毎日が億劫になっていった。これも思春期の特徴という奴だろう。彼は、支えあえる友達も同い年の話し相手すらいない環境だ。だが毎日のルーティーンだけは欠かさなかった。実力も相当上がり修行前と比べれば魔力量は5倍以上にはなっているだろう。魔法無しのティーニアと全力を出したルイと勝負ができるぐらいにはなっていた。
ティーとリオは、少し類との接し方を考える日が多くなって来た。思春期の子供に接する親の気持ちを十分思い知った。色々大変だけどこの時期は今しかないという寂しさ。ティーは年齢を重ねているからまだしも、まだ若いリオまでも少し子育ての大変さを感じていた。
三年が経った。ルイは若干14になり、子供だったルイはすっかり大人びていた。顎髭が生え声もすっかり低くなっていった。背もティーニアに近しくなるぐらいのび、170は超えた。この環境も慣れ、ティーとリオとこのままの暮らしをしていきたいと思うくらい彼女たちのことを大切に思う様になっていた。
魔力量も魔力精度も体術も知識も全て何をとっても格段に成長した。ティーニアとは圧倒的な実力差があるが、リオには5割ぐらい勝てるようになっていた。
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ちなみに、2作目は物凄く面白い作品を作っているのでお楽しみに