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捨てられ錬金術師は眠らない  作者: 十森メメ
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第40話 宣戦布告。そして……

「私も、殺しますか?」


 敵はもうひとり残っていた。アルスティンさんだ。


 ただ、すでに大勢を決した戦いの中で、俺のアルスティンさんに対する断罪の気持ちは失われていた。


「アルスティンさんは魔獣化しなかったですよね?最初から戦う気がなかったってことですよね?戦意のない人とこれ以上戦うつもりはありません」

「……君に、勝てる気がしなかったからね」


 以前会った時も思ったが、この人はいつでも冷静でどこか達観したところがある。


「お父様……リゼリアばあちゃん……」

「ラヴィ様……」


 首から下を失った魔王の亡骸を前に、失ったモノの大きさを噛みしめるように涙に暮れるラヴィ。ヴァンさんが傍で彼女の背中をさすっている姿が痛々しい。


 ……どういう事情があるのかはわからない。


 不戦協定がなぜ破られたのか。その真意は俺の知るところではない。ただ少なくとも、ラヴィは父と師匠を同時に失った。そして俺は、実の兄を含めて3人殺した。


 罪の意識がないかと言われればウソになる。だがもう引き下がれない。


 俺の大事な家族に手を出したグレイルを、俺は許すつもりはない。


「アルスティンさん。帰って人類最強の錬金術師に伝えてください。貴方は必ず、この俺の手で殺す、と」

「……大きく出ましたね、ビエル君。わかりました。君は魔族側に付く、ということでよろしいのですね?」

「俺はアイツの理不尽が許せないだけですよ」


 とかくこの世は理不尽なことが多すぎる。それは転生前も転生した今も変わらない現実だった。


 ティエリが死に際言っていたことを、俺は否定するつもりがない。結局のところ、力がなければなにも変えられないんだ。


 俺はこの異世界に来てから一睡もすることなく、今日まで鍛錬に明け暮れた。女神にもらったこの【体力概念0】という転生特典は、決してはずれスキルの類ではなかった。むしろSSS級の激レア特典だった。


 おかげで強くなれた。そしてこの能力さえあれば、俺はまだまだ強くなれる。


 転生前にはなかった現実をも変えられる能力だ。今の俺がさらに鍛錬を重ねれば、あらゆる理不尽に抗い、覆すだけの力を持つことができるだろう。


「君にも親しくしていた人たちがいただろう。世話になった者たちもいただろう。これから先、ヒトと魔族は再び戦いの日々に明け暮れることになる。君にそれらの人たちを敵にまわす覚悟があるのかい?」


 結構痛いところをついてくるな、アルスティンさんは。本来、彼はティエリなんかよりよっぽど優秀な男なのかもしれない。


 ただ俺のグレイルに対する怒り、理不尽に対する怒りは本物だ。一時の情にほだされて手加減をするつもりは毛頭ない。


「立ちはだかるというのであれば、容赦するつもりはありません」

「その目……本気のようだね」

「今日は見逃してあげるけど、アルスティンさんも次にもし俺の邪魔をするようなら命の保証はしませんから」

「……私にも、立場があるからね。せいぜい君に再会しないよう、うまく立ち回らせてもらうことにするよ」


 できれば、これまで俺と関わってきた人たちには、俺の気持ちをわかってほしいと思っている。グレイルのくだらない理想なんかに騙されて、戦う羽目にならないことを願っている。


「それでは、私はグレイル様の元へ帰ります。このことはしっかり報告させていただきます」

「……アルスティンさんは、仲間が殺されたのに怒りや悲しみがないんですね」

「仲間?仲間ってなんですか?」


 どうやら彼の本質も、相当なサイコパスらしい。


「いや、いいです。もう行ってください」

「よくわかりませんが……それでは」


 そう言って、消えるようにこの場を立ち去っていったアルスティンさん。


 ……このままあの男を、すんなり帰しちゃってよかったのかな?どうもアルスティンさんは実力以上に危険なモノを内に秘めているような気がする。今更遅いけど。


「ビエル……」

「ごめんなラヴィ。君のお父さんとリゼリアばあちゃん、救えなくって……」


 ラヴィが俺の傍へと近づき、顔を上げて俺を見つめてくる。泣きすぎたのだろう。腫れぼったくなった目元が、可愛い顔を台無しにしている。


「ううん。助けてくれて、ありがとう……」

「ありがとうございます。ビエル様……」


 ヴァンさんも隣で頭を下げてくる。

 いや、たぶん俺が修行を終えたとき魔王宮へ行っていれば、こんな悲劇は起きなかったんだ。本当に、あの時選択を間違えたんだと今、とても悔やんでいる。


 ……リゼリアばあちゃん。ホント、ごめんなぁ。


 ああ……


 なんか色々思い出して急に泣きそうになってきた。リゼリアばあちゃんには本当に世話になったからなぁ。ううう……


 ばあちゃん……


「いやー間一髪じゃったわい!もう少し整ってから稼働させたかったのじゃが……まぁ、仕方あるまい!」

『……えっ?』


 いきなりの来訪者に思わず驚きの声がかぶる俺たち。そりゃそうだろう。


 なんせ生い茂った樹木の陰から、突然1人の若い裸の女性が現れたんだから。


「ゼルビアは残念じゃったが……おぬしらだけでも生き残ったことは、神に感謝せにゃならんのぉ」

「アナタ……もしかして……」


 おそらくラヴィの認識と俺の認識は一致している。


 このおねぇさんは、おそらく……


「年寄りはもう飽きとったから、新しい身体を結構前から用意しておったんじゃ。ただこの身体、まだ魔力回路が脆弱でのぉ……」

『リゼリアばあちゃん!』


 伝説の魔女は、どうやら若い身体に魂を移転させていたようだった。


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